【フォトキナ】インタビュー:OM-Dの成功をラインナップに広げるオリンパス


 OLYMPUS OM-D E-M5が好調なオリンパスは、フォトキナ2012にPENシリーズの新しいボディ(OLYMPUS PEN Lite E-PL5、OLYMPUS PEN mini E-PM2)を投入。さらに高画質・プレミアムクラスのコンパクトカメラとして、XZ-1の後継モデルSTYLUS XZ-2を発表した。今年4月にオリンパスイメージング社長に就任した小川治男氏は、発表会でマイクロフォーサーズ規格対応製品の今後について、強い自信を見せていた。

 もともとフォーサーズ規格策定にも携わっていた小川氏とのインタビューでは、製品に関するコンセプトや今後のビジョンに加え、将来の技術的な可能性にも話が及んだ。(聞き手:本田雅一)


オリンパスイメージング社長の小川治男氏

O-MD E-M5の技術を他機種に反映

--- 今回のフォトキナで他社の動向を見て、どのような感想をお持ちでしょう。

「イメージャーサイズ(イメージセンサー・サイズ)が多様化してきていると感じました。各社がそれぞれに、イメージャーの特徴を活かし、それを商品力につなげるため工夫をして、顧客に対する提案をしています。これはとてもいいことだと思います。単に高性能なカメラを作ればいい、というのではなく、きちんと利用シーンを想定しながらの商品が多いと感じました」

「低価格のコンパクトデジタルカメラには、少なからずスマートフォン普及の(売上面での)影響は出ていますから、保守的な提案だけではなく、まったく新しい使い方、遊び方を提案していかなければなりません。そうした意味で、今回のフォトキナで見てきたことは色々あります」

--- フォトキナにおけるオリンパスに対する周囲の反応は。

「今年発売したOM-Dが好調に推移しています。こちらに入ってから、OM-Dに関する質問をよく受けますね。OM-Dには新型の映像処理エンジン、センサー、EVF、高速オートフォーカスなど、様々な技術が盛り込まれています。OM-Dの好調があって、それを新しいPENに入れることができたということで、こちらにも良い影響が出ると期待しています」


OLYMPUS PEN Lite E-PL5。10月上旬発売。レンズキットの店頭予想価格は8万円前後の見込み

OLYMPUS PEN mini E-PM2。発売は10月下旬。レンズキットの店頭総価格は6万円前後の見込み

「あとはSTYLUS XZ-2ですね。ご提案としては地味なのですが、カメラとしての完成度は高いので、是非とも手に取ってどのようなカメラかを知ってほしいですね」


OLYMPUS STYLUS XZ-2。10月下旬発売。店頭予想価格は6万5,000円前後の見込み

「新製品はこのように着実に出しているのですが、派手さはないかもしれません。挑戦のタイミングと完成度を高めるプロセスは表裏一体で、順番にこなしていくものですから、OM-Dで技術的な挑戦をして、それを今は他の製品に反映させながら完成度を高めているところです」

「これまでも、E-P1/E-P2というカメラとして大きく進歩するタイミングがあり、インパクトを与えることができましたが、その後はしばらく完成度を上げることに専念しました。我々として気をつけなきゃいけないと思っているのは、数字競争にしないことです。スペックの数字ばかりを追いかけるのではなく、カメラとして新しいステージに進んだら、スペックを追わずにカメラとしての完成度を上げようということです」

--- OM-Dはイージー、かつ低価格なレンズ交換式カメラというイメージがあったミラーレス機に、新たな高付加価値モデルのジャンルを作りました。どういった点が顧客から受け入れられたのだと分析していますか?

「E-P1とOM-Dは、開発のやり方としてはよく似ています。E-P1には完成できるかどうかギリギリの技術を数多く盛り込みました。OM-Dも、まだ若いところのある技術でも、積極的に盛り込み、短い開発期間で最新技術を多数入れました。まだこの先ももちろんありますが、現状、量産機に入れることができる技術は全部入れようと。その結果、ハイパフォーマンスな一眼に仕上がっています」

「その結果、PENがアジア中心で売れていたのに対して、OM-Dはグローバルで幅広く受け入れられる製品になりました。E-P3が熟成を重ねた製品だったのに対して、半年後に登場したOM-Dは、ちょっとしたスペックの数字は同等に見えたかも知れませんが、中身はまったくの別物。防塵防滴、画質、ファインダーの見え味など、様々なところに開発者の思いが載っています。ここまでグローバルで同時に人気になるとは思わず、生産の予定数も保守的だったため、供給できずに御迷惑をおかけしましたが、ここしばらくでやっとうまく生産が回り始めています」


発売直後は品薄にもなったOLYMPUS OM-D E-M5

--- ミラーレス機の場合、もちろんレンズによる違いはありますが、画像プロセッサと処理アルゴリズム、それに購入できるセンサーなどを組み合わせれば、比較的均質な製品がどんなメーカーでも作れるようになる、と言われたことがありました。しかし、OM-Dを見ているとミラーレス機でも、かなり大きな差異化ができているように見えます。なぜでしょう?

「マイクロフォーサーズを始めた時、ミラーレスは誰でも作れる、参入障壁が少ない、あっというまに海外に持って行かれると言われていました。しかし、だからこそオートフォーカスや自動露出のアルゴリズムや画質、ユーザーインターフェイスやファインダーへの情報の見せ方などで差を出しやすいのだと考えています。センサーや映像処理エンジンの世代が同じなら、同じような結果になるはずですからね。しかし、そこには歴然とした差があります」

--- OM-Dの場合、デザインや質感といった面も大いに評価されたように見受けられます

「個人が自分のために買う道具なのですから、“持ち物としての価値感”を感じてもらえる仕上げやデザインにすることは、とても大切だと考えています。OM-Dでは単純な質感の向上といったことだけでなく、カメラそのもの性格や位置付けをデザインで表現することにこだわりました」

「フィルムカメラ時代のOMは重厚なプロの道具という風合いを持っていましたが、OM-Dはこれから発展していく若々しさ、荒削りでもあらゆる要素が盛り込まれた荒々しさを表現したデザインにしようと考えたんです。そこで出てきたのが、“17歳のデザイン”なんですね。OM-Dがこれから育っていくスタート地点として、まだ若さを感じる見た目にしたかった」

--- OMというとOM-2が代表的ですが、中高校生向けに作られたOM-10という製品がありましたよね。フォルムはOM-2と似ているのに、どこか若々しさを感じさせました。17歳というよりも、13〜15歳ぐらいのイメージ。一方、OM-2は20代前半でしょうか。その後の発展とともに落ち着きを増して40代へとつながっていく。OM-DはOM-10より少し洗練され、大人びた都会っ子でしょうか?

「まさにそういう話なんですよ。シンプルで機能的なボディ・デザインだけど、そこに現代的要素を盛り込み、細かなディテールで若さを出していまう。デザイン担当者だけでなく、技術開発を行ったメンバーと一緒に作り上げました。ここをスタート地点に、徐々に育てていこうと思います。次は23歳ぐらいでしょうか」

「アナログっぽい、感性に訴えるような要素を感じさせることも意識しています。愛機、名機といった言葉が製品に対して使われるのは車、カメラ、楽器だけです。これらには共通する世界観があります。まず、プロもアマチュアも同じ道具を使います。それでいながら、プロとアマチュアでは大きな差が出る。人が介在し、使いこなすことで結果が残るところが共通した部分だと思います。そんな人が介在して、生まれてくる結果に使い手が関わる部分をどのように製品に残していくか。その部分をすごく大事にしました。OM-Dでは、そうした部分をうまく引き出せていると思います」

--- レンズも含めて雰囲気全体をデザインしているのは、そうした風合いを大切にしているということですね。

「ええ、シルバーとブラックを両方用意した上で、細かいディテールを敢えて変えているのも、ひとそれぞれの感性に合うもものを提供したいという気持ちからです。デザインに対する要求が高い人にも満足できるように。ただし、必ずしも大まじめばかりではなく、たとえばボディーキャップレンズ……私たちはパンケーキレンズではなく、もっと薄いクッキーレンズと呼んでいますが、こういう遊びもレンズを使っての遊び感覚として取り入れています」


E-PL5/E-PM2と同時に発表されたボディーキャップレンズBCL-1580


ミラーレスの進化はまだ続く

--- OM-Dはワールドワイドでミラーレス機が認知されるきっかけになったと仰っていましたが、このことがPENにも良い影響を与えているのでしょうか?

「確実に変化を感じています。利用者には様々なクラスタの方がいます。プロフェッショナル志向の人、常にカメラを持ち出して、素早く手軽に写真を撮りたい人。E-5は前者でPENは後者ですよね。ここにエンスージャスト向けのOM-Dが加わることで、カメラエンスージャストがマイクロフォーサーズシステムへの認識を変え始めています。PENは女性向け、あるいはコンパクトデジタルカメラからのステップアップという位置に留まらず、一眼レフカメラに近い存在感を示すようになりました。特にプロの方々から、モデルなど被写体に対して威圧感を出さずに、自然な表情のオフショットが撮影できるなどの利点をもたらしています」

--- 今後のミラーレス機の発展を考えるとき、どんな可能性を感じてらっしゃいますか? たとえばOM-DのEVFはフレームレートと解像度の両面で大きく進歩して、EVF搭載カメラの可能性を広げたとは思いますが、まだまだ進化の余地はありそうです。

「なんとか発売に漕ぎ着けるだけの品質は出せましたが、まだまだファインダーの質、性能、機能ともに足りないと思っています。点数でいえば及第点にはあと一歩でしょう。しかし、光学ファインダーにはない特徴がEVFにはあります。OM-Dのファインダーについて、コントラストが低いという意見をいただいたことがありますが、一方で目が疲れないという声もあります。光学ファインダーは、みなさんが思っているよりも暗いものですから、撮影シーンによってはEVFの方がかなり楽です」

「しかし、ピントの山をファインダー像全体を確認しながら把握したり、撮影像の空気感といいますか、雰囲気を確認するという意味ではまだ光学ファインダーには敵いません。光学ファインダーのカメラから持ち替えた時、自然に撮影できる感覚を盛り込みたいと考えましたが、そこまではOM-Dでは到達できませんでした」

---- 改善の方向は見えてきていますか? たとえばEVF像のイメージが、実際の風景と比べた時に違和感を感じる場合もあります。もう少しトーンカーブの見え方が自然になったり、あるいは撮影できるはずの画像の色がきちんと確認できるよう、色再現性を高めたりといったことも期待したいですね。

「たとえばミラーレス機が登場した当初は、レリーズラグが大きいと言われることもありましたが、レリーズのレスポンスはものすごく速くなっています。このあたりの改良も、これは使えるぞと思った要因だと思います。同じようにEVFも改良が進むでしょう」

「ただし、EVFの表示を人間の感性に合わせる部分が、まだこれからの研究課題です。光学ファインダーに近いEVFを開発するのではなく、EVFにしかできない高品位なファインダーとは何か。その完成形は頭の中にあります」

「カラーマッチングに関しては、撮影後の写真を再生させる際、回りの環境に影響されることなく色などを確認できるという面で優位ですから取り組みたいとは思います。次のOM-Dを作る際に、EVFでまったく新しい体験レベルを達成する、というのは、とても大きなサブジェクトとしてありますね」

「他にも撮影時のブラックアウトを防ぐなどの問題解決をしなければなりませんし、プロセッサの速度やイメージャーの読み出し速度を向上させるなどによって、ミラーレス機はまだまだ大きな進化を図れると思います」


フォトキナ2012でのオリンパスブース

--- 画質面ではどうでしょう? 今回のフォトキナはライカ判フルサイズセンサーを搭載した製品が多く出展されましたが、一方でマイクロフォーサーズはフォーマットこそ小さいものの、画素数をもっと積極的に増やせばローパスなしの撮影に支障がなくなりそうですよね?

「画質面に関して、まずはダイナミックレンジの拡大に手を尽くしたいと思っています。解像力は画素数向上とともに上がってきていますが、ダイナミックレンジはまだまだ足りません。たとえば、(フォトキナ会場になっているケルンなら)大聖堂の中からステンドグラスを見上げて撮影する際、フィルムならばスポット測光を上手に使ってステンドグラスと建物の雰囲気を両方、ダイナミックレンジに収めることもできるでしょう。しかし、デジタルではとても難しい。広いダイナミックレンジに対して、撮影者が意のままに1枚の写真に収める。そうしたことができるようにしたいと考えています」

「一方、ローパスなしの撮影は、仰るとおりに視野に入ってきます。どのぐらいの画素数からという数字はここでは挙げませんが、画素ピッチが小さくなればローパスフィルターは必然的になくなります。しかし、光の回折具合で画の風合いが大きく変わったりするでしょうから、どう撮影すればどんな結果が得られるといった関係を把握している、光学理論の判る人でなければ、使いこなしが難しくなるかもしれないですね。一方で、出力画素数に関しては、1,600万画素ぐらいあれば十分だと思います」

--- そうした意味では、2〜3ミクロンぐらいの画素ピッチでローパスレス。出力画素数はセンサー画素そのままではなく、デモザイクのアルゴリズムをマルチタップ参照で少ない画素に出力するなどの手法で、出力画素は2,000万画素ぐらいに抑えるといった手法も考えられるのでは?

「より多くの画素があれば、そうしたこともできますね。単純にイメージャーの画素数を上げて、出力画素も上げてではなく、ローパスレスを目指した上で、画素の多さをどのように使って画質につなげるか、といった新しい考え方が増えてくるかもしれません。イメージャーのメーカーと一緒になって、共同で新しい価値を開発していきたいと思います」

--- 最後にスマートフォンの流行について、デジタルカメラ市場への影響について意見をお願いします。

「ミラーレス機、特にPENシリーズは、ユーザー層もスマートフォンの利用者と重なっており、意外に親和性が高いと捉えています。対象ユーザー層が同じなんですよ。では、スマートフォンのカメラ画質が上がり、それでPENシリーズが売れなくなる傾向があるかというと、まったくそんなことはありません。安いコンパクト機は影響ありますが、むしろ、スマートフォンを使ってInstagramなどで写真を登録する人は、ミラーレス機を買いたいと思っている方が多いんです」

「ですから、スマートフォンと敵対して、どうやって負けないようにするか、ではなく、スマートフォンと仲良くやって、より高い連動性を追求していきたいと思います。そうした連動に関しては、今後にご期待いただければと思います」




(本田雅一)

2012/9/24 18:14