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ライカ開発責任者に聞く「Mモノクローム」「X2」「アポ・ズミクロン50mm」


 ライカカメラ社が5月10日に発表した、モノクロ専用のデジタルM型ライカ「ライカMモノクローム」、APS-Cコンパクト機の新モデル「ライカX2」、M型ライカ用レンズ「アポ・ズミクロンM f2.0/50mm ASPH.」について、同社の開発責任者にお話を伺った。

ライカカメラ社のステファン・ダニエル氏

「モノクロ」は技術者からの提案

 発表時からそのコンセプトが広く話題を呼んでいる“モノクロ専用機”のMモノクローム。プロダクトマネージャーであるステファン・ダニエル氏によると、その製品開発のきっかけは「カラーフィルターを外したら高い解像度が得られる」という技術者からの提案だったという。

ライカMモノクローム。本体カラーはブラッククローム

 高い解像感を得られる仕組みとしては、いわゆる通常の(ベイヤー配列の)カラーフィルターを持つセンサーのようにRGBの3色から演算を行なう必要がないため、各ピクセルからダイレクトな情報を得られ、それが解像感の向上に繋がるのだという。非圧縮RAWのファイルサイズはM9と同じく1枚30MB程度。色の演算を行なわないことで画像内の輝度分布をより正確に表せるという「RAWヒストグラム」機能も利用できるようにした。ダニエル氏いわく、Mモノクロームで撮影した画像の見た目の解像感は、M9と比較して「倍ぐらい違う」という。

 Mモノクロームの撮像素子はM9およびM9-Pと同じ有効1,800万画素のCCD(コダック製、現在はトゥルーセンス・イメージング社が事業継承)。通常のセンサー構造からRGBのカラーフィルターを取り除いた分、受光層からマイクロレンズまでの距離を透明な層で埋めている。

 解像度のほかにカラーフィルターを除くメリットとしては、より多くの光量を取り込むことができる点。Mモノクロームでは、最高感度をM9およびM9-PのISO2500より高いISO10000まで選択可能とした。高感度撮影時に目立つカラーノイズが発生せず、輝度ノイズはフィルムの粒状感のように撮影画像に現れるとしていた。

 開発にあたっては、ほかのプロジェクトも存在する中で“モノクロ専用”というニッチなモデルにキャパシティを割り振ることに特に苦労したそうだ。モノクロセンサーの価格や、それに関わる開発コストが新たに発生しつつ、カラーセンサー搭載のM9/M9-Pよりも少量生産のモデルという点が“割高”な価格設定の理由だ。ちなみにカラーセンサーを搭載するM9-Pの国内価格は81万9,000円、Mモノクロームは発表時点で90万円前後と予想されていたが、84万円に決まった。

 Mモノクローム独自の新要素としては、M9にも付属するRAW現像ソフト「Photoshop Lightroom」に加え、世に出た各種モノクロフィルムのテイストを再現することもできるとするNik Softwareの「Silver Efex Pro 2」が付属する点。モノクロ作品をパソコン上で更に作り込むことができるとしている。また、調色に関する設定項目をカメラ内に用意し、「セピア」「暖色」「寒色」の3つの色合いと、それぞれ効果の強さを「強」「弱」「オフ」から選べる。

メニュー内の「色調」から調色の設定が行なえる 3種類の色合いを用意した

 また、Mモノクロームの新機能として「アジャスタブルクリッピング」がある。クリッピング機能は撮影画像のプレビュー時に白飛び・黒潰れの領域を警告する機能で、新たに警告のしきい値をハイライト・シャドーの両端から5%の範囲内で任意に設定できるようにした。

アジャスタブルクリッピングの設定項目。シャドー、ハイライトのそれぞれについて警告のしきい値設定できる ハイライト、シャドーのそれぞれ両端から1%刻みで5%まで設定可能
クリッピングのしきい値を0%/100%としたところ。赤が白飛び、青が黒潰れの警告 しきい値を5%/95%としたところ。撮影時に明るさのレンジをコントロールする助けになるという

 また、モノクロプリントサービスの受け付けもMモノクローム登場に伴うトピックだ。ネットプリントサービス「Whitewall」とライカカメラ社が提携して行なうサービスで、バライタ紙にレーザー露光したプリントをオンライン注文できるというもの。発送はドイツから行なわれる。レーザーで露光することにより、引き延ばしレンズを用いたプリントとは次元の違うシャープさを得られるという。

 モノクロプリントサービスの価格は未定だが、最大サイズの100×70cmで200ユーロほどを見込むという。「銀塩プリントは100年持つ」という既に実証済みの保存性もポイントとしていた。はじめはMモノクロームのユーザーのみに提供するが、人気が出てくれば他のカメラへの対応も検討するという。

 また、カラーセンサーのM型デジタルの今後についても伺った。ダニエル氏によると現行モデルのM9については「すぐに大きな変更を加える必要は感じていない」そうで、M9は2009年9月9日の発表から今でもよく売れている製品だという。しかし、ライカカメラ社としては常にユーザーの声を集め、改善を検討しているとしていた。

ライカM9。35mmフルフレームの撮像素子を初めて搭載したM型デジタル。写真のスチールグレーのほかにブラックペイントを用意 ライカM9-P。M9をベースに前面ロゴを廃するなどの変更が加わった。写真のブラックペイントのほかにシルバークロームを用意

 2012年はフォトキナの年でもあるが、その開催を前にMモノクロームを含む新製品発表を行なった理由を伺ったところ、「これらは2012年の春夏に向けて用意していた製品で、フォトキナに回しても“鮮度が落ちる”ため9月を待たずに発表した」との回答だった。

要望に実直に取り入れた「X2」

 続いて、“Made in Germany”をアピールするAPS-Cコンパクト最新モデル「ライカX2」について、ライカカメラ社の主席日本駐在員兼DSCプロダクトマネージャーである杢中薫氏に伺った。

ライカX2。写真のシルバーのほかにブラックも用意する

 2010年に発売した「ライカX1」から今回発表のX2における最大の進化ポイントは、新センサー採用による「AFの高速化」だという。供給元は非公表だが、APS-Cサイズ・有効1,620万画素のCMOSセンサーを採用し、読み出し速度を向上。X1比の理論値で2倍強というAFの高速化を実現した。それに伴い、X1で近距離撮影時に切り替える必要があったマクロAFモードを省略。X2ではフォーカスモードの区別を「AF」「MF」の2つだけにした。

 また、薄暗いシーンでAFが遅くなりがちだったX1に対し、X2では薄暗いシーンやコントラストの低い被写体でもAFの高速化を実感できるという。

 開発にあたっては「X1に大きく手を加えず、要望に実直に対応した」とのことで、「デザイン的には好評だったが不用意に開いてしまいがちだった」という内蔵ストロボの形状変更や、本体上面にあるダイヤル類のトルクを見直すなど、細かな改善を積み重ねた。手ブレ補正の仕組みはX1と同様の電子式。シャッター音はライカM3の1/60秒をサンプリングしたというX1と同じものだ。

円筒形だったポップアップストロボの形状が変わった 外付けEVFを装着したところ

 新たに外付けEVFを用意した点については、「(EVFが)トレンドだった。ピントを確認できる安心感がある」と杢中氏。まさに海外での製品名「Electronic Viso-Flex(ビゾフレックス) viewfinder」が言い得て妙と感じるそのデザインは、ステファン・ダニエル氏によるもの。

 異なる焦点距離のモデルを追加することは、X1から採用する35mm判換算36mm相当という画角への支持と、レンズ性能に対する評判が良いことから見送られている。高級コンパクト機などの単焦点レンズによくオプション設定されるコンバージョンレンズも、光学性能にこだわるライカとしては採用できないのだという。

技術的チャレンジの「例外的」レンズ

 ライカMのスタンダードレンズをどれとするかは人それぞれだが、「ズミクロンM f2/50mm」が無視できない存在であることは間違いないだろう。現行のズミクロン50mmは1990年代に登場したモデルで、インターネット上では時折リニューアルの噂が飛び交っていた。

 ところが、そうした予想に反して発表されたのは、50mmでF2という標準的なスペックを持ちながら約70万円という破格の新レンズ「アポ・ズミクロンM f2.0/50mm ASPH.」(69万3,000円)だった。

Mモノクロームに装着したアポ・ズミクロンM f2.0/50mm ASPH. レンズ銘の向きを変更。正面から読みやすいこの向きに今後統一していくという

 同レンズは現行のズミクロン50mm(実勢価格22万5,750円前後)の後継ではなく、まったくの別物という特別な立ち位置のレンズとしている。ダニエル氏いわく「ライカが光学性能のトップを目指す姿勢をアピールするもの」で、「灯台のような、目指すところにある製品」なのだという。

 その設計期間は最も初期の段階から数えて16年になるといい、製造方法もほかのMレンズとは同列に語れないという。特殊硝材、センタリング(芯出し)、アポクロマート、アスフェリカル、フローティングなど、ライカが持つあらゆる技術を投入したそうだ。

 ダニエル氏は、開発者が初めて持参したレンズ設計案を見たときの印象を「信じられなかった」と語り、「今までの世に出た全ての写真用レンズを見ても、これほど良いものはないだろう」と自信を見せる。レンズ性能を図る指標となるMTFの試験結果も、その自信を裏付けるものだった。

アポ・ズミクロンM f2.0/50mm ASPH.のMTF曲線(ライカカメラ社テクニカルデータより引用)

 今回の新製品発表は、スタンダードレンズとしてのズミクロン50mmのリニューアルを期待した人々にとっては(主に価格面で)ショッキングな知らせだと推察するが、ダニエル氏によるとあくまで同レンズは「技術的チャレンジとも言える製品」だそうで、今後ほかのライカレンズが同様の方向に向かっていくことはないのだという。

【2012年5月23日11時40分】未定だった「Mモノクローム」および「アポ・ズミクロンM f2.0/50mm ASPH.」の価格が決定したとの連絡をライカカメラジャパンから受けたため、該当部分に追記しました。




(本誌:鈴木誠)

2012/5/23 00:00