デジカメ Watch
連載バックナンバー
~キヤノンが圧倒した今年の単機能プリンタ
[2004/11/30]

【ランニングコストと速度の比較】
[2004/11/29]

~実用プリンタ1台でフォトもカバーしたいユーザーに
[2004/11/26]

~スペックを超えた表現能力を持つL判専用機
[2004/11/26]

~モノクロ写真も得意な実用機
[2004/11/26]

~プリントエンジンを一新、ランニングコストも改善
[2004/11/26]

【カラリオ 画質評価のまとめ】
“オンリーワン"の魅力は今年も
[2004/11/25]

~高い基礎体力を誇る素直な発色の染料インク機
[2004/11/25]

~より自然な描写になった顔料インク機
[2004/11/25]

~ソフトウェアの変更で大幅改善されたプリントシステム
[2004/11/25]

~6色機からの買替え対象になる4色機
[2004/11/24]

~実用的でお買い得な6色インク機
[2004/11/24]

~ついに8色化されたA4機のフラッグシップ
[2004/11/24]

~色材を変更してもなお高い完成度
[2004/11/19]

【今年のPIXUSシリーズ】
~新筐体&新インクでA4機を一新
[2004/11/19]


【今年のカラリオシリーズ】

~ソフトウェアの変更で大幅改善されたプリントシステム

 今年のエプソンは昨年から今年にかけて大ヒットを記録した複合機のPM-A850の路線を拡大し、カラリオスキャナの持つフィルムスキャン機能を取り込む形で“デジタルフォトのための複合機”路線を突っ走っている。年々、出荷が伸びている個人向けインクジェット複合機への移行を、大胆に複合機にリソースを割り振ったラインナップでさらに加速させようというのが狙いだろう。

 そのためか、今年のエプソンは単機能プリンタをあまり大きくは変更していない。PX-G920、PM-G820などA4主力機のハードウェアは昨年と同じ構成。全く新規のハードウェアとなると、長らく新製品が投入されてこなかったA3ノビ対応フォトインクジェットプリンタのPX-G5000ぐらいだ。PX-G5000は、PX-G900/G920で使われている技術をA3ノビにまで展開した製品である。

 では今年のモデルは昨年比で、何も変わっていないのだろうか?


画像処理をリファイン。光沢顔料系がメリハリのある絵作りに

 エプソンの主要単機能機のハードウェアに関する変更は、今年は残念ながらない。従って、昨年の時点ですでに不利だった印刷速度に関し(PIXUS iP8600が高速化したことで)さらに差が付いてしまった。

 しかし昨年から導入された耐久性の高い新インクシステムの導入後、1年を経て新色設計のドライバを実装し、画像処理を含めたシステムトータルとしては大きく改善された。中でもコンベンショナルなCMYK印刷ではなく、レッドとブルーを含めた6色で色再現を行なう光沢顔料PX-Gインクを採用する機種での改善幅が大きい。

 PX-Gインクはそれまでのインクジェットプリンタとは異なる思想で作られており、CMYそれぞれの濃度を敢えて下げ、それによって狭くなった色再現域をRとBで補うという手法を採った。1.5pl(ピコリットル)の極小インク滴との組み合わせで薄いインクを廃止し、様々な色を表現する上で、重ね打ちするインクの数を揃えようとしたためだ。

 顔料系インクは色材が用紙の上に堆積するため、インクを重ねる数が増えると堆積する色材の厚みが増える。フォトインクは、薄い色を重ねて濃度表現を行なうため階調や色相ごとに打ち込み量の差が激しく、写真のような光沢感を演出できない。エプソンは別途追加した透明な光沢用インク、グロスオプティマイザーを併用することで、光沢顔料印刷の技術を完成させた。

 しかし印刷の基本であるCMYKのセオリーを踏襲していないため、色再現域の傾向もそれまでのインクジェットプリンタとは異なる。結果的にRGBデータ上では鮮やかで高濃度なのに、印刷すると“軽すぎる”色調になるケースがあるなど、完成度を高めるのにはやや時間がかかったようだ。また同じく耐久性を向上させるために新たに投入された染料のPM-Gインク採用機も、色材の変更でやや色調などが変化し、それを整える時間が不足していたように見えた。

 ところが今年は画像処理をリファインし、光沢顔料の色再現域を活かしたメリハリのある絵を実現。染料系のPM-G820にしても、階調性や捻れた位置関係にある色間のグラデーションから不自然さが消え、全般に完成度が向上している。ハードウェアが変わらなかったことで、ソフトウェア面からの画質改善アプローチを煮詰める時間があったからだろう。


新カラーマッピング技術のEPSON NATURAL PHOTO COLOR 3

 光沢顔料系の色が大きく変化し、濃度の高い深みのある色まで再現できるようになったのは、EPSON NATURAL PHOTO COLOR 3という新しいカラーマッピング技術を採用したためだ。

 EPSON NATURAL PHOTO COLORとは本来、sRGB画像にはない緑や青を美しく再現するため、プリンタの色再現域の広い部分を使って不自然さを失わない程度に記憶色再現を行なう処理のこと。EPSON NATURAL PHOTO COLOR 3では、RGBとCMYKの色再現範囲の違いに着目し、sRGBデータを印刷時にどのように色を表現するのかを再検討している。

 RGBディスプレイは明度の高い領域で高い彩度が出るが、インクによる印刷では明るい部分においてインクの打ち込み数が減るため高彩度が出にくい。もっとも高彩度となるのは中明度付近となる。

 この事情は通常のCMYKプリンタでも、光沢顔料系プリンタでも同じだが、インク構成の違いから明度ごとの色再現範囲が異なり、従来と同様のマッピング手法ではプリンタ本来の演色能力を生かせていなかったようだ。そこでEPSON NATURAL PHOTO COLOR 3は、RGBデータにおける高彩度領域を、CMYKプリンタが得意とする領域に再マッピングする。この際、知覚的に不自然さがないように全体の絵作りを合わせ込み、新しいエプソンの絵を作った(顔料機だけでなく、染料機にも採用されている)。

 ただしEPSON NATURAL PHOTO COLOR 3は、従来の“エプソン色”とは大きく異なるため、ドライバによる色補正など、従来プリンタと互換性のあるモードでは使われない。ドライバによる色補正の[自然な色合い]設定は、昨年の機種と同じEPSON NATURAL PHOTO COLOR 2となる。

 EPSON NATURAL PHOTO COLOR 3となるのは、オートフォトファイン!6(APF6)を有効にした場合のみ。このモードでは自動レタッチが行なわれるため、元データとの忠実性は失われる。そのことを利用し、新しい絵作りと自動レタッチ機能のマッチングを取っているのである。

 ちなみに、エプソンは今年のコンシューマ向けモデルから、APF6を各種印刷用紙へのデフォルト出力設定にしている。つまり、特に詳細設定で変更しない限り、必ず自動レタッチ処理が行なわれてしまい、オリジナルの写真データが持つ雰囲気がどれだけ残るかは保証されない。


PX-G920
 この点に関しては賛否両論もあるだろうが、一般的な銀塩写真のワークフローでは撮影者の意図を反映したプリントは行なわれない(ネガプリントの場合)。自動的に見栄えの良い写真とするための補正が行なわれる。エンドユーザーがそうしたワークフローに慣れている事を考慮すれば、自動レタッチ機能がデフォルトオンの方が、好ましい結果を得られやすいとの判断だろう。もちろん、APF6自身の処理精度も向上しているものと思われる。

 その一方、従来と同じ絵作りやカラーマッチングの道筋は残されており、ポジフィルムで写真を撮る場合のような、最終の仕上げを意識した撮影を好むユーザーはオプション設定を自分で変更する場合が多いと思われる。

 実はこの点に関しては対策が取られており、ドライバによる色補正の設定ドロップダウンメニューに[Adobe RGB]という項目が追加されている。この設定はもちろん、Adobe RGBデータを持つ画像を変換なしに流し込むと、それに近い色で演色してくれるモード。ICCプロファイルを用いるよりも簡単に広いガマットの画像を扱えるようになった。

 画質を評価する上では、これらエプソンの新しい絵作りが、写真印刷においてどのような結果をもたらすかが注目される。

 ただし、この新しいドライバは従来の製品では利用できない。たとえばG900はG920とハードウェアやインクは同じだが、従来と同じ機能範囲のドライバのみが提供される。Windowsのプリンタセットアップでドライバを手動で組み込み、出力ポートにG900のUSB Printポートを割り当てれば、そのまま動くかもしれないが、当然ながら動作の保証は行なわれない。セットとしての保証を行なうためだろうが、従来機ユーザーにとってはやや歯がゆいところかもしれない。


初級者から上級者まで幅広い便利さを提供するEPSON Creative Suite

 今年のエプソン製単機能プリンタはハードウェアの変更点がない分、ソフトウェアの充実が光る。EPSON Creative Suiteは、いくつかのプリンタ向けユーティリティを統合した画像管理のためのソフトウェアだ。従来のPhoto Quickerと同様の機能もユーザーインターフェイスなどに変更が加えられた上で、この中に取り込まれている(名称はキヤノン製ユーティリティと同じEasy Photo Printと変更されている)。

 EPSON Creative SuiteにはCDラベルプリントや動画から切り出した連続写真のプリント機能など様々なものが組み込まれているが、デジタルカメラユーザーにとりわけ便利なのが、EPSON ProLab Printだ。

 ProLab Printは明るさ/濃度や彩度、コントラスト、シャープネスといったパラメータを変化させながらサムネイルを出力し、好みの色調をサムネイルから選択。番号を指定するだけで望んだ色調の写真を得られる機能。濃度や彩度はRGBを均等にシフトさせる設定と赤、緑、青、黄色の4軸を指定する設定を選択できる。

 これまでトライアンドエラーで得てきた、好みの色調への調整を最短距離で行なえるProLab Printは、初級者から上級者まで幅広いデジタルカメラユーザー層にお勧めの機能だ。



URL
  インクジェットプリンター 2004年冬モデルレビュー
  http://dc.watch.impress.co.jp/static/2004/printer/ijp2004.htm


( 本田 雅一 )
2004/11/25 00:02
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