デジカメ Watch
連載バックナンバー
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[2004/11/29]

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[2004/11/26]

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[2004/11/26]

~モノクロ写真も得意な実用機
[2004/11/26]

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[2004/11/26]

【カラリオ 画質評価のまとめ】
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[2004/11/25]

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[2004/11/25]

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[2004/11/25]

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[2004/11/25]

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[2004/11/24]

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【今年のPIXUSシリーズ】
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[2004/11/19]


日本HP Deskjet 6840

~モノクロ写真も得意な実用機

 Deskjet 6840(DJ6840)で利用可能なインクカートリッジは、トライカラーカートリッジ、フォトカラーカートリッジ、フォトグレーカートリッジ、ブラックカートリッジの4種類。このうちトライカラーとブラックには、ランニングコストの低い増量バージョンがある。装着できるのはトライカラー用スロットがひとつ、それ以外のカートリッジ用がひとつ。

 今回のテストではブラックカートリッジ装着時の評価は行なわず、カラー印刷時はフォトカラー、モノクロ印刷時はフォトグレーを用いて印刷している。

 余談だがHPは3インクを同時装着可能なプリンタを日本以外では発売しており、カラー印刷時にグレーをコントラスト調整に利用した、階調が滑らかで色転びの少ない印刷が行なえる。画質的にはDJ6840よりも改善されるが、日本市場への投入は見送られた。

 ノズル数倍増ながらインク滴サイズは5plと据え置かれたため、シャドウに向けてのグラデーションで僅かに残る粒状性は大幅には変化していない。

 しかし、近年のHP製ドライバは元々かなり素直な特性で、派手に突出した色は出ないが落ち着いた独特の雰囲気がある色だ。粒状性に関しても問題となるレベルではなく、むしろ中明度やシャドウ部の階調の良さを好ましく感じる人も多いのではないだろうか。

 ただ非常に素直な色とは逆に、トーンカーブは印画紙を意識したS字型のハイライトとシャドウを強調した設定になっている。特にシャドウ部は潰し気味で、ネガの印画紙プリントを思わせる絵作り。本来は膨潤型用紙のためシャドウ部の階調に優れているハズなのだが、ソース画像のトーンカーブ設定によってはその階調が活かせない。もっとも、素直なトーンカーブ特性の写真を印刷するだけで、そのまま写真調のトーンカーブになるのを好むユーザーもいるだろう。このあたりはお好み次第だ。

 なおHP製ドライバは純正フォト用紙にすると、自動的に印刷クオリティが[高品質]になる。高品質モードはPhotoRETという機能を用いるモードで、データ処理解像度600dpiでプリンタに引き渡される。プリンタは内蔵ファームウェアが指示された色を再現するためのパターンに分解し、実際の印刷解像度(4800×1200dpi)のドット配列へと変換され印刷が行なわれる。

 実はこの上に[最大dpi]という印刷クオリティ設定があるが、こちらはプリンタに対して印刷解像度のドット配列を指示する。しかし、データ量が膨大になるため印刷速度は大幅に低下する。では最大dpiに設定すると画質は向上するのか? というと、ほとんど変わらない。実際にはドットの配列が微妙に異なっていると思われるが、自然画の場合は解像度は600dpiでも十分。PhotoRETでは、あらかじめインク配列の組み合わせが最適化されているため、印刷結果は同等になる。よって、テストでは最大dpiは用いず、高品質モードで行なっている。

 また自動レタッチ機能のHP digital photographyは、すべてデフォルト(赤目補正がオフ。それ以外、コントラスト、デジタルフラッシュ、スマートフォーカス、鮮明度、スムージングは補正量自動判別)とした。

テスト方法についてはこちらをご覧ください。

ポートレイト ある交差点の風景

 自動レタッチ機能が働き、陰影を強調したオリジナルのシャドウ部が明るく持ち上げられている。デジタルフラッシュと呼ぶHP製ドライバが強く働いているためだ。多少、やりすぎの感はあり、シャドウを持ち上げた結果、立体感を損ねている印象はある。また、背景も多少浮き上がって来る。しかし、うまく光が回らなかった失敗写真の自動補正はうまくやってくれそうだ。

 もちろん、忠実性という意味では疑問が残る。ただ、色補正に関してはさほど行なわれておらず、肌の色相は全機種中、もっとも素直に出た。シャドウ部の色乗りも良い。階調も多く、おおむね問題はないのだが、肌色の中明度からシャドウにかけてのグラデーションで、シアンカブリによる疑似輪郭が盛大に発生してしまった。他サンプルではそのような点は見られないことから、数少ない欠点が現れたのかもしれないが、やや残念な点ではある。

 この結果を見る限り、自動レタッチ機能はオンのままでも、元画像の肌色を大きく損ねてしまうことはないようだ。規定値設定でデジタルフラッシュをオフにしておけば、たいていの場合はうまく処理してくれるだろう。

 まず強烈な空の色に驚く。空以外の部分はオリジナルの色相に忠実で余分な補正が加わることはないが、シャドウを強調してコントラストを強く出すのはポートレイトの印刷結果と同じ。

 ただ高濃度部の階調や立体描写は優秀で、素性の良さは感じる。自動レタッチ機能をすべてオフにすると、色は強調されないがシャドウの強調は残るため、本機のドライバ自身がこうしたメリハリ重視のチューニングになっているのだろう。米国の書籍や雑誌などのカラー印刷では見慣れた絵作りと言えば、イメージが沸く読者もいるだろうか。

絵はがき モノクロ写真

 完全なニュートラルトーン。純黒調の絵はグレーインクを用いる本機ならではの美点と言えよう。テストはプレミアムプラスフォト用紙で行なったが、フォトマット紙でも同様に良好なモノクロプリントが得られる。耐水性や独特の雰囲気を楽しむなら、マット紙への印刷をオススメしたい。

 グレーインクのみしか使われないため、温黒調や冷黒調にしたいといったユーザーには対応できないが、色転びの全くないモノクロ印刷は、実際に作品作りに挑戦してみるとなかなか楽しめるはずだ。

 トーンカーブがS字を描いているため、ハイライトとシャドウの潰れは感じる。たとえば黒く描かれた小島は、そなりに階調が残っており、PIXUS iP8600などではそれが再現されるが、本機では一部分を除いて黒く潰れている。それを写真調で良いと評価するか、それともトーンカーブはユーザー自身が調整すべきと考えるかは使い手側の意識次第だろう。

 本機のややクセの強いトーンカーブが気に入ったならば、純黒調の階調性が高いモノクロ写真を印刷するためのプリンタとして購入するのも悪くないかもしれない。

 先鋭度が高くコントラスト感があり、色相のブレも見られない。色滲みも皆無。パリっとした仕上がりだ。しかし彩度の高さもスゴイ。右下の朱色寄りのハガキも真っ赤になっている。元々、彩度の高い絵柄ではあるが、さらに強調される。一方、純度の高い青は色がシフトするようで抑え気味の色だ。

 ただ暗部の色ノリは非常に良い。他の多孔型用紙を用いた染料インク機が、シャドウ部の彩度を抑えざるを得ないのに対して、膨潤型の本機はこの手の描写が得意。影になっている絵はがきの花びらも、RGBディスプレイと同じように鮮やかに描く。

風景 人物

 パリッとコントラストが高く、エプソンのPX-G900とも似た林や芝生の描写と色。しかし空の色はより青く、自動レタッチ機能がうまく働いていることがわかる。林の木々は立体感も強く感じる。

 L判へのプリントはA4よりも鑑賞距離が短くなり、粒状性はより目立ちやすいものだ。林や芝生のような空間周波数の高いエリアは問題なしだが、空のグラデーションではやや描写の粗い部分も見られる。とはいえ、階調そのものは滑らかなので、印象そのものは悪くない。

 コントラストと明るさを落とした元画像を、本機の自動レタッチ機能がどこまで修正してくれるかだが、補正量を自動に設定した時の修正は多少控えめ。しかし、絵としてのバランスを考えると、この程度の補正に留めた方が“当たり”は出やすそうだ。

 HP製ドライバの場合、各種自動レタッチ機能は機能のオン/オフ、それに補正量をマニュアル設定することもできるため、これで足りないようならば、デジタルフラッシュやコントラスト強調を強める事も可能だ。印刷前、画面上で補正結果をプレビューすることも可能なため用紙も無駄にはならない。

 ただ目の回りのシャドウ部が強調され、多少、目が窪んだような絵になった。シャドウ部の黒ドットも目立ち描写は粗め。肌色の印象や自動補正の傾向は好ましいだけに、その点は残念。

【お詫びと訂正】記事初出時、作例画像のリンク先を誤っておりました。お詫びして訂正させていただきます。



URL
  インクジェットプリンター 2004年冬モデルレビュー
  http://dc.watch.impress.co.jp/static/2004/printer/ijp2004.htm


( 本田 雅一 )
2004/11/26 00:37
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