トピック

フェリーで渡る房総への旅。“究極”の35mmで再発見する撮る喜び

Fujikawa hinano×ZEISS Otus ML 1.4/35

背景の海を開放F値で大きくぼかし、被写体を際立たせる意図で撮影。強い風を生かして髪をなびかせ、躍動感のある写真を目指した。動きのあるシーンだったが、滑らかなフォーカスリングで正確にピントを合わせられた
ニコン Z6III/ZEISS Otus ML 1.4/35/35mm/マニュアル露出(1/8000秒、F1.4)/ISO 80

コシナが展開するZEISSレンズの中でも、最高峰の光学性能を誇るシリーズが「Otus」だ。そのミラーレスマウント用として登場した「Otus ML 1.4/35」を手に、写真家のFujikawa hinano氏が房総半島へと旅に出た。中判カメラのような感動を覚えたというその描写力と、デジタル表現への先入観を覆した体験を綴ってもらった。(編集部)

Fujikawa hinano

東京都生まれ。写真家。雑誌、広告、Webメディア、ドラマや映画のスチール撮影など、さまざまな表現の場で活動。

「日常と非日常の中にある曖昧さ、そして感情を丁寧に表現したい」と考え、空気や距離感を繊細に捉えながら、その瞬間にしかない空気を写し出すことを大切にしている。

※※本記事はデジタルカメラマガジン2026年5月号との連動企画です。インタビューをもとに再構成しており、誌面では別内容を掲載しています。

ZEISS Otus ML 1.4/35
発売日:2026年4月29日(水)
マウント:キヤノンRF、ソニーE、ニコン Z
希望小売価格:400,400円

●SPECIFICATION
焦点距離:35mm
口径比:1:1.4
最小絞り:F16
レンズ構成:11群15枚
画角:63.7°
絞り羽根枚数:10枚
最短撮影距離:0.3m
フィルター:φ67mm
外形寸法:約77.4×97.7mm
質量:約737g
フード:付属
電子接点:対応(Exif、ボディー手ブレ補正対応)
※上記仕様はニコンZマウント

ファインダーを覗いた瞬間、その場の空気をすくい取る

今回のロケは、神奈川県横須賀市の久里浜港から東京湾フェリーに乗り込み、千葉県富津市の浜金谷港へと渡る、約40分の船旅から始まりました。対岸の房総半島で、カフェや学校を巡りながら過ごした1日。ZEISSは写真に携わっていれば誰しもが憧れるブランドであり、私にとっても「1度は使ってみたい」と願っていた存在でした。

35mmらしく風景と人物の両方を取り入れた。広がりを持たせながら被写体との距離感も自然。手前から奥に滑らかなボケを持ちつつ、ピント面はしっかりとした解像感で描写する
ニコン Z6III/ZEISS Otus ML 1.4/35/35mm/マニュアル露出(1/6,400秒、F1.4)/ISO 200

ファインダーを覗いた瞬間、「ZEISS Otus ML 1.4/35」を通して映し出される画の美しさに、ぐっと引き込まれました。それは中判フィルムカメラを初めて使ったときの感動に近く、EVFを通してもそう感じられるのは相当なことだと驚きました。

連なるカーテンが生み出す奥行きと、柔らかく回り込む光の雰囲気を写した。奥行きの重なりを自然に描写しつつ、光の階調も滑らかに表現。繊細なトーンの変化まで捉えられている
ニコン Z6III/ZEISS Otus ML 1.4/35/35mm/マニュアル露出(1/2,000秒、F2.8)/ISO 400

描写についてはまさに理想通り。まるでその場の空気をすくい取るような感覚で、画面全体に自然な奥行きを生み出してくれます。ピント面は繊細でディテールをしっかりと描写する一方、ボケは滑らかで美しく、決して主張し過ぎることはありません。主役を良い具合に引き立ててくれるそのバランスは、自分の目で見た景色よりもさらに一歩美しく見えるような、確かな手応えがありました。

背後の景色が額縁の中の絵のように見えてフレームごと取り入れた。遠景の木々はF1.4の柔らかく美しいボケで描写されて人物を引き立てる。奥行きを感じさせる自然な分離が見事だ
ニコン Z6III/ZEISS Otus ML 1.4/35/35mm/マニュアル露出(1/640秒、F1.4)/ISO 100

デジタルの先入観を覆す「光の捉え方」

私は普段、フィルムカメラでの撮影も多いため、デジタルカメラでの明暗差の表現や立体感には、どこか自分の中で折り合いをつけていた部分がありました。しかし、このOtusがもたらす描写は、そのイメージを良い意味で覆してくれました。

特に逆光耐性の高さは大きな強みです。肉眼では眩しいくらいのシーンでも、T*(ティースター)コーティングのおかげでフレアやゴーストに惑わされることなく、驚くほどクリアに写し出されます。また、室内撮影での暗部のグラデーションの豊かさには、フィルムに近い情緒を感じました。コントラストが強いシーンでも、このレンズはハイライトからシャドウまで光の情報を丁寧にイメージセンサーへ届けてくれる感覚があります。

明暗差の強い環境下で、光と影のグラデーションの美しさを活かしたく撮影。窓辺から差し込む光の中で、静けさと自然な表情が生まれる瞬間を捉えた
ニコン Z6III/ZEISS Otus ML 1.4/35/35mm/マニュアル露出(1/160秒、F3.2)/ISO 100
強い逆光の中でもその影響を感じさせない、細やかな描写が印象的だった。光に包まれながらもディテールが保たれ、繊細な表情や空気感まで丁寧に描き出されている
ニコン Z6III/ZEISS Otus ML 1.4/35/35mm/マニュアル露出(1/1,250秒、F4)/ISO 160

開放付近で見られる周辺減光すらも、クリアな描写の中にオールドレンズのような味わい深さを添えてくれます。このレンズを手にしたことで、デジタル表現に対する印象が大きく変わるのを感じました。

サイド光でモデルの表情やポージングを際立たせた。明暗差のある環境で印象的な光の表現を狙った。強い光でも暗部から明部まで自然につながり、見た目に近い光のバランスになった
ニコン Z6III/ZEISS Otus ML 1.4/35/35mm/マニュアル露出(1/8,000秒、F1.4)/ISO 80

35mmという柔軟さと、MFに没入できる操作感

35mmという画角は、風景と人物を同時に捉えたいときの適度な距離感に加え、引けば広角的に、寄れば望遠的に使える柔軟さがあります。さらに最短撮影距離が0.3mと短いので、テーブルフォトや人物のパーツ撮影にも対応できるのが魅力です。

旅の小休憩を表現するため、自然な食事のシーンを切り取った。0.3mまで寄れる特性を生かし、被写体に近づいて撮影。開放絞り付近で背景をぼかしつつ主役の存在感を引き立てた
ニコン Z6III/ZEISS Otus ML 1.4/35/35mm/マニュアル露出(1/320秒、F2.2)/ISO 250
あえて手にピントを合わせて表情をぼかすことで、見る側にその先を想像させる構図を意識した。ピント面は高い解像力でディテールまで描写され、ボケとの対比によって美しく仕上げられた
ニコン Z6III/ZEISS Otus ML 1.4/35/35mm/マニュアル露出(1/1,000秒、F1.6)/ISO 160

質量は約737gと決して軽くはありませんが、その重みからくる質感と安心感は格別です。この一本があれば幅広いバリエーションが撮れるため、結果的に持ち出す機材を絞り、全体の重量バランスをコントロールできると感じました。

また、フォーカスリングの「ぬるぬる」とした滑らかな動きは非常に心地よく、ピント調整にストレスを感じることはありません。電子接点を介した画面拡大やフォーカスピーキングを活用することで、マニュアルフォーカスならではの「自分で合わせる感覚」に没入しながら、安心して撮影に集中できました。AFモーターがない分、ここまで表現に妥協のない設計ができるのだと実感します。

約40万円、その価値は「体験」にある

正直なところ、このレンズには価格に見合うだけの圧倒的な描写力があります。現代のAFレンズと比べても、その表現の深みは唯一無二。連写で効率よく撮るスタイルよりも、旅やスナップの中でじっくり写真と向き合いたい人にこそ使ってほしい一本です。

実際に使ってみないと分からない価値が、このレンズには確かに存在します。「このレンズにしか撮れないものがある」と感じたら、迷わず持ち出してみてほしいですね。


Fujikawa hinano×ZEISS Otus ML 1.4/35 :PhotoGallery

ニコン Z6III/ZEISS Otus ML 1.4/35/35mm/マニュアル露出(1/400秒、F6.3)/ISO 100
ニコン Z6III/ZEISS Otus ML 1.4/35/35mm/マニュアル露出(1/320秒、F6)/ISO 320
ニコン Z6III/ZEISS Otus ML 1.4/35/35mm/マニュアル露出(1/2,000秒、F1.4)/ISO 160
ニコン Z6III/ZEISS Otus ML 1.4/35/35mm/マニュアル露出(1/2,000秒、F1.4)/ISO 100

    ・モデル:紙丸木鳩
Fujikawa hinano