トピック

“鳥肌が立ったのは初めて”カメラグランプリ2024審査員が大賞「ソニー α9 III」を語る!

審査員47名中41名が1位に投票した本機。写真家3名にその真意を聞いた

左から阿部秀之さん、萩原れいこさん、小城崇史さん

「カメラグランプリ2024」で大賞を受賞したソニー「α9 III」。毎年4月1日から3月31日にかけて発売されたカメラの中から、写真家やカメラ誌編集者からなる選考委員により最も優れたカメラを選出する同コンテストにおいて頂点に輝いた。

全画素同時露光を可能としたグローバルシャッター方式のイメージセンサーを採用し、従来の電子シャッター撮影における課題となっていた“動体の歪み”をなきものとしたその技術は、多くの選考委員から高い支持を受けた。さらに「α9 III」は、一般の読者投票による「あなたが選ぶベストカメラ賞」との2冠を獲得。多くのカメラファンからも、その完成度の高さが評価されている。

α9 III(装着レンズはFE 24-70mm F2.8 GM II)

今回デジカメ Watch編集部では、カメラグランプリ2024で「α9 III」に1位投票した3名の選考委員を招いて、同機を高く評価した理由を聞いた。

参加いただいたのは、阿部秀之さん、小城崇史さん、萩原れいこさん。それぞれが「αシリーズ」に抱く想いも語ってもらった。

阿部秀之さん

東京生まれ。1986年からフリー。ヨーロッパ、アジア、さまざまな国で街の風情を撮る。フィルムからデジタル、光学まで幅広い知識がある。
ニッコールクラブ会報誌に「アベっちの!使った!撮った!」を連載中。
第3回(1986年)よりカメラグランプリ選考委員を歴任。カメラグランプリ大賞の選考は、徹底して優れた「新機能」を有すること。常にエポックメイキングな新機能に期待している。
自由に旅行に行けるようになり、1年の半分は北海道、沖縄、アジアの国々で過ごしている。

小城崇史さん

1962年東京生まれ。1996年より国内外のスポーツシーンを撮影し続け、Jリーグ・Bリーグのクラブオフィシャルフォトグラファーを務める一方、2021年開催の東京オリンピック・パラリンピックでは組織委員会フォトマネージャーとして活動。現在もスポーツの現場に立ち続ける一方で、作家活動においてはスポーツ・古典芸能・都市をテーマとした個展を開催。

公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員
一般社団法人日本スポーツプレス協会(AJPS)理事
筑波大学芸術専門学群非常勤講師
カメラグランプリ2024 特別選考委員

萩原れいこさん

沖縄県出身、群馬県嬬恋村在住。カメラ片手に海外を放浪した後、日本の風景写真に魅了される。隔月刊「風景写真」の若手風景写真家育成プロジェクトにより、志賀高原での写真修行を経て独立。上信越高原国立公園を拠点に、自然の営みを見つめ続けている。
個展「Heart of Nature」、「地獄」等を開催。著書は写真集「Heart of Nature」(風景写真出版)、「風景写真まるわかり教室」(玄光社)等。石の湯ロッジ写真教室講師、アカデミーX講師、嬬恋村キャベツ大使(観光大使)。

「α」との関わりは?

——それではまず、皆さんが普段どんなジャンルの撮影をしていて、αとどのように関わりを持っているか教えてください。

阿部秀之さん(以下、阿部):僕はもともとヨーロッパの風景を撮っていたんですけど、最近はアジアの風景が多くて、タイとか、ベトナムとか、日本だと沖縄、北海道を多く撮っています。街の風景やスナップですね。みなさんご存じかもしれませんが、他メーカーのカメラも使用しています。αは「α7 III」と「α7R V」の2台を持っています。何でその2台を持っているのかって? それは「ソニーを避けて通れない」から。

カメラ評論、レンズ評論も長くやっていて、カメラグランプリも第3回からずっと審査員をしているんです。審査をする以上色んなカメラを使いたいし、必然的にソニーを使わないわけにはいかない。そうなると(結果的に)ソニーに点を入れないわけにいかない。そんな状況になっているくらいソニーの進化はすごいですよ。

阿部秀之さん

小城崇史さん(以下、小城):主なジャンルはスポーツ撮影です。それ以外にも古典芸能の雅楽や、ビジネスポートレートの撮影も多いです。

αを使い始めたのは2017年。「α9」を手にしたのが最初です。その後は「α9 II」を2台持ち、「α1」も使うなどして、今は「α9 III」も購入しました。

最近だとボディは「α9 III」と「「α7R V」、レンズは「FE 16-35mm F2.8 GM II」「FE 24-70mm F2.8 GM II」「FE 70-200mm F2.8 GM OSS II」「FE 300mm F2.8 GM OSS」をメインに使っています。

小城崇史さん

萩原れいこさん(以下、萩原):私の主な撮影ジャンルは自然風景です。被写体としては、山や川、海、森なのですが、動物や鳥、昆虫など、そういった自然風景の中に息づく生き物も同時に撮影しています。

ボディは、「α7R III」から「α7R IV」、「α7R V」とRシリーズを順々に使っています。ソニーのカメラはとても使いやすいと思っていて、たとえばボタンの操作など、頭で考えたり覚えたりというよりも、感覚的に使えるようになっていると感じます。

レンズはG Masterが好きですね。風景撮影に関しては、画面周辺に至るまでの繊細さと、高解像な描写力が必要になってくるので、「FE 16-35mm F2.8 GM II」「FE 24-70mm F2.8 GM II」「FE 70-200mm F2.8 GM OSS II」をメインに使いながら、あとはマクロレンズや単焦点レンズも集めているところです。

萩原れいこさん

「α9 III」の評価ポイントについて

——それでは、皆さんが実際に「α9 III」に投票された理由を教えてください。まずは阿部さんからお願いします。

世界初(*)のグローバルシャッター搭載を評価する。グローバルシャッターを初めて採用するのは、ソニーだと思っていたが現実となった。ブラックアウトフリーで最高約120コマ/秒の高速連写の恩恵を受けられる写真家は多くはない。だが、ローリングシャッター歪みの克服は幅広いジャンルで恩恵がある。また同社製の対応フラッシュを使用することで、最高1/80,000秒までの全速同調なども大いに魅力的だ。

* レンズ交換式デジタルカメラとして。2023年11月発表時点。ソニー調べ。

カメラグランプリ2024の投票時コメント(阿部秀之さん)

阿部:カメラはかなり前から成熟産業と言われてきて、「もうすることないでしょ」と言われながらも、次から次へと色んな事を変化させてきました。例えば露出の自動化やマルチパターン測光の登場などは大きな影響がありましたし、デジタル化というのはカメラの歴史の中で最もすごいことでした。数ある発明の中でも、エポックメイキングになるものとそうじゃないもの、そのメーカーの中だけで終わるものもあれば、業界全体に広がるものもあります。

今回のグローバルシャッター方式のイメージセンサーは、今後、動体撮影に強みを持った機種や、一部のコストをかけられる機種にはどんどん採用されていくだろうなと思いました。例えば、ローリングシャッター歪みがないといった特徴は皆さんも知っているところかと思います。その他の機種で読み出し速度が速いと謳っているカメラでも、連続で撮影するとけっこう歪んでいるということがあるんです。でもその歪みが、グローバルシャッター方式にはないんですね。

たとえコストや他の課題があってもそんなのは時間の問題で、先ほども言いましたが今後グローバルシャッター方式の採用機種は増えていくでしょう。今回はエポックメイキングといえるだろうなと思いました。

カメラグランプリの審査に関しては、自分自身にとっていいカメラかどうかではありません。選考委員の1人として、カメラ業界にとって、またカメラの歴史にとって価値があるかないか、それが判断基準です。純粋にカメラが進化したと思えるものに点を入れています。昨年の「α7R V」では「4軸マルチアングル液晶モニター」はやっぱりすごいと思いました。ここのところソニーに点を入れることが本当に多い。他のメーカーにも頑張ってもらいたいですね。

——小城さんはいかがでしょうか。

スポーツ・乗り物など動く被写体を捉える上で今までネックとなっていた技術的課題を、ひとつひとつ丁寧に解消している様子が製品からはうかがえました。被写体歪みのない世界は、タイムマシンに乗って「今まで撮れなかった瞬間に戻ってみたい」と思うほどすばらしかったです。この製品で実現された技術が正しく評価されることで、将来的に普及機クラスの製品にも展開されることに期待します。

カメラグランプリ2024の投票時コメント(小城崇史さん)

小城:私は「α9」からソニーのカメラを使っていますが、電子シャッターでありながら動体歪みを抑えるアンチディストーションシャッターが搭載されていて、後継機の「α9 II」ではその機能がさらに強化されました。

今回、グローバルシャッターの“まったく歪みのない世界”を強く実感したのは、日比谷でテスト撮影をしていた時です。有楽町のJRの路線が見えるところで、流し撮りをしていました。「ああ、いいな」と思いながら撮影していたのですが、ふと電車の背景に映っているビルにも歪みがないことに気が付きました。今までのカメラとは全然世界が違うのだとその時に感じて鳥肌が立ちました。長いことカメラやレンズに触れてきましたが、鳥肌が立ったのは初めてです。

私はスポーツの現場にいるので、これを仲間たちが手にして様々なフィールドで撮影したら、すごい写真がいっぱい生まれてくるだろうなと思い夢を感じました。

カメラの技術は進化が止まっているんじゃないかと思う人も多い中で、それでも真面目に取り組んでいる会社があり、間違いなくイノベーションはそこにあるのだと思っています。今回は「α9 III」に投票するしかない。蓋を開けてみたら、審査員の47人中41人が1位にしていたのでびっくりしました。

阿部:「あなたが選ぶベストカメラ賞」(読者によるWeb投票で決定)でも選ばれていることに価値がある。有識者が選ぶなら当たり前かもしれないが、一般の人にも理解してもらえているっていうのがすごいですね。やはり夢を感じたんでしょうかね。もしかしたらこれですごい写真が撮れるかもしれないと。そして実際に撮れていると思います。

——萩原さんはいかがでしょうか。

フルサイズミラーレスカメラとして世界初のグローバルシャッター方式を採用し、1/80,000秒までの全速でフラッシュ同調を可能とした点が非常に先進的で、今まで成し得なかった表現を可能にした。また最高約120コマ/秒(*)やブラックアウトフリー、プリ撮影や高精度な被写体認識性能など、さまざまな機能を高い次元で実現している点を評価した。

* ソニー測定条件による。撮影条件によっては連続撮影の速度が遅くなりる。フォーカスモードがAF-Cのときは、装着するレンズによって連続撮影の速度が異なる。詳しくはソニーレンズ互換情報サポートページを参照。

カメラグランプリ2024の投票時コメント(萩原れいこさん)

萩原:グローバルシャッターについてはお話してくださったので、私がもう一つ気に入っているのは最高約120コマ/秒の連写機能ですね。

自然風景においても、例えば野鳥が急に飛び立ったり、動物が不意に現れたり、一瞬のチャンスを撮り逃さない安心感というのはすごく感じました。二度と出会えない瞬間を安心して記録し、また記憶として残すことができる。しかもそれをRAWデータとして記録できたり、ブラックアウトフリーで撮影できる点もうれしいポイントでした。

今までできなかったことが可能になって、新しい表現について考えるようになる。こういう機能があれば、こういう絵作りができるんじゃないか。カメラが新しい表現の提案をしてくれるというか、アイデアをくれているような気がします。カメラから刺激を受けて、撮影に出かけることが出来るようになるんじゃないかって思います。

阿部:すごくよくわかります。新機能が出ると「これ何に使うんだよ」という人がいるけれど、それを考えるのが写真家の役割。メーカーがその用途を指定するわけじゃない。こういう新しい機能ができましたので何かに使ってくださいよ、って話なわけで。

阿部秀之さんの作品――AF精度の高さに関心

——ここからは実際に皆さんが「α9 III」で撮影された作品をみていきましょう。阿部さんは電車の写真ですね。

撮影:阿部秀之
α9 III/FE 70-200mm F2.8 GM OSS II/絞り優先AE(1/3,200秒・F2.8・±0.0EV)/ISO 6400

阿部:いつもカメラの動体予測のテストなどをしている場所で撮影したものです。これまでいろんなカメラでやってきました。今回の「α9 III」でもたくさん撮りましたが、ピントの甘いコマはありませんでした。例えば連続してやってくる電車を次から次へと狙うとき、振りかぶって後ろから来る電車にカメラを向け直してもすぐにピントが合う。こういう状況だと、ピントの甘いコマがあったりするものです。

僕は鉄道写真の専門家ではないので、鉄道写真としてはうまくもないのだけど、なんてAFが速いんだろうと感心しました。今までいろんなカメラでテストしていますが、「α9 III」はなかなか大したカメラでした。しかもこの写真を撮ったのは夕方なので、感度はISO 6400でけっこう高いんだけど、画質もとても良いと思います。

小城:「α9 III」は低照度下でもAFがとっても高性能ですね。AFが暴れたり、勘違いしたりということがありません。

阿部:被写体認識は「鉄道」で撮っています。とてもよく食いついて便利に思いました。ちょっと面白いのは、こんな小さくても電車の正面にピントが行く。この写真では、横向きになってしまった左側手前の電車から、右側の後方に映っている正面向きの電車の方にピントが移動しています。あくまでも正面の形を認識していました。

——もう1枚は夕方のスナップでしょうか。

撮影:阿部秀之
α9 III/FE 50mm F1.4 GM/絞り優先AE(1/50秒・F1.4・-0.3EV)/ISO 2000

阿部:全く自分のジャンルと違う鉄道写真だけなのもおかしいかと思いまして、自分の得意なジャンルでも撮影してみました(笑)。

レンズは「FE 50mm F1.4 GM」です。絞り開放で手前の水たまりを低い位置から撮っています。しかも雨が降っていたので傘を持ちながらです。それにもかかわらずピントがいい。こういう時って後で写真を見返すと違うところにピントが合っているということがあったりしますが、「α9 III」は思った以上にAFがいいですね。

——タッチ操作なども使わずに撮影したということでしょうか?

阿部:この時は傘を持っていたのでタッチ操作もできない状態でした。しゃがんで、そんなにたくさん撮ったわけではないけど、思った通りの写真になりました。

「α9 III」は、カメラとして完成度が高いなと思います。最初はスポーツとか特別なジャンルの人が使うカメラで、僕はいらないかな、と思っていたんです。でも使ってみたら、カメラそのものとして「いいじゃないか」と感じました。例えるなら「α1」は高級機という位置づけで、「α9 III」は戦闘モードで戦うカメラっていう感じがしてきましたね。

萩原:暗くなってきた時間に高めの感度で撮ると、水たまりの部分とか、シャドウのノイズが心配になってくる場面ですよね。でも全然そんなことなく、滑らかで素敵だなと思いました。あとネオンの色合いもしっとりとしていいですね。

小城崇史さんの作品――スポーツ撮影での有用性

——続いて小城さんの作品に移りましょう。フィギュアスケートですね。

撮影:小城崇史 撮影協力・今瀬ひより/MFフィギュアスケートアカデミー
α9 III/FE 300mm F2.8 GM OSS/マニュアル露出(1/1,000秒・F2.8)/ISO 1600

小城:「α9 III」に搭載された姿勢推定技術について、被写体の骨格情報を利用したAFの実力を知りたかったんです。フィギュアスケートは選手の鎖骨が見えるからその機能を試すにはすごくよくて、撮ってみたら「あ、言っていることはほんとだった」とわかりました。

スピンしたりあっちこっち行ったりするので、フィギュアスケートは性能の低いカメラだと撮れません。「α9 III」だと意図するままにすっと撮れる。実は私がフィギュアスケートを最後に撮ったのは、浅田真央さんが引退したときなので2017年のことです。なので7年くらいは撮ってなかったのですが、やってみたらいい写真が撮れたというわけです。

萩原:スカートがなびく感じとか、髪の毛の雰囲気とかすごく素敵だなと思いました。

小城:スケーターさんからもその点は褒めていただきました。選手だって綺麗に撮ってほしいじゃないですか。すごい速度で滑っていると、顔がゆがんだり目をつぶったりとか色々あるわけです。

——コマ数が多ければ多いほど、いい瞬間が残せる?

小城:はい、真理はそこですね。スポーツカメラマンて偏屈な人も多くて、テクノロジーに頼って撮っている奴は半人前だ、という人がいまだにいるんです。でもテクノロジーには勝てないじゃないですか。約30コマ/秒でしか撮れないカメラでは、どうやっても約120コマ/秒の瞬間は撮れない。たまたま撮れたからってそれを自慢するのは違うでしょ、使えるものは何でも使おうよ、と私は思っています。私はこういうカメラは絶対必要だと思うし、進化はどんどんするべきだと思っています。

——次はフットサルをしている場面です。

撮影:小城崇史 撮影協力・フウガドールすみだ
α9 III/FE 300mm F2.8 GM OSS/マニュアル露出(1/1,000秒・F2.8)/ISO 2500

小城:すべてのシーンを約120コマ/秒で撮るととんでもない枚数になってしまうので、C5ボタンを押してその時だけコマ数を増やす(連写速度ブースト機能を使うことで連続撮影中に、一時的に連続撮影速度を変えて撮影でき、任意のカスタムボタンに割り当てることも可能)、ということをやってみました。ものすごい速度で動いているんだけど、地面から足やボールが浮いている方が、写真にも動きが出るんです。多少タイミングがずれたと思っても、コマ速が上がっていればちゃんと欲しい瞬間が撮れているんですよね。

萩原:複数の人が接近している場面でのAFはどういう状態なんですか?

小城:この場面では白いユニフォームの選手をトラッキングしているんですよ。「α9 III」のトラッキングはすごく精度が高い。人が重なったり後ろから来たり色んな動きがあるのですが、それでもしっかり追いかけてくれているので、とても優秀なAFだなと感じました。「FE 300mm F2.8 GM OSS」で撮影しています。

萩原:F2.8だと、少しのAFのズレでもすぐにわかってしまいますよね。

小城:私はあまり絞りたくないタイプなんです。背景が必ずしも美しいとは限らないので。でも開放できっちり合わせてくれるAFがあれば安心。そこがしっかりしていないと「絞ろうかな」とも思ってしまうけど、その心配がまったくない。

萩原れいこさんの作品――自然風景写真で広がる可能性

——萩原さんは鳥を撮影した作品です。このシーンは驚きました。

撮影:萩原れいこ
α9 III/FE 300mm F2.8 GM OSS/シャッター優先AE(1/2,000秒・F2.8・+1.0EV)/ISO 3200

萩原:これは自宅の庭で撮った写真です。私は野鳥撮影を専門としているわけではないので、撮る頻度も少ないし、知識もそんなに多くありません。この時はプリ撮影機能を1秒前にセッティングして飛び立つ瞬間を狙いました。するといいカットが多く撮れまして、その中から、羽根を広げて一番綺麗に見える写真をセレクトしました。

また、鳥はものすごく動きが素早くてどんどん姿勢が変わっていくので、約120コマ/秒の連写機能がないと慣れてない人にとっては無理だなって、撮影したあとに実感しました。約120コマ/秒で撮って、1枚1枚を確認してようやくすごくきれいな姿勢というのが撮れたと思います。

風景撮影をしていると、セットした構図の中にカモが泳いできたり、池の魚が泳いできたりという場面がよくあります。そういうとき、まわりの風景に合わせて動物たちがなかなかうまく配置されないなと思うことも多いんです。でもそれを高速でたくさん撮ることによって、例えばさざ波であったり、霧であったりと様々な要素が一堂に綺麗に並ぶ瞬間を撮ることが出来るんです。

——今までそういったシーンではあきらめてしまうこともあったのでしょうか?

萩原:そうですね。風景撮影だとじっくり撮る設定が多いので、高速連写もそんなには多く使ってきませんでした。「α9 III」を手にしてみて、今までは撮ってこなかった、新しい画作りにもチャレンジしたいなと思うようになりました。生き物の気配が感じられる、生き生きとした表現がもっと出来ると感じています。

阿部:色がきれいですね。カラー水彩画のようだ。

——次は水しぶきが印象的な作品です。これはフラッシュを使っていますか?

撮影:萩原れいこ
α9 III/FE 70-200mm F2.8 GM OSS II/絞り優先AE(1/6,400秒・F11・+1.7EV)/ISO 6400

萩原:はい、1/6,400秒のシャッタースピードで、ハイスピードシンクロで撮ってみました。感度はISO 6400なんですけど、こういう写真を撮ってみようかなという発想も、「α9 III」じゃないと浮かばなかったと思います。いざやってみると、撮影するのがすごく面白かったです。

これは滝の裏側から、水しぶきを入れながら撮っています。手前の水しぶきもそうですが、背景にふわっと霧が舞い上がっているところに光がさっと入りこんでいるんですよね。そういったバランスも見ながら、早いシャッタースピードで映しとめることができました。

約120コマ/秒で撮影しているのですが、いろんな水の造形が撮れている中から、どれが一番いいかな、素敵に見えるかな、って選ぶ作業も楽しかったです。今回は1/6,400秒なんですけど、1/80,000秒で撮ってみたいなとも思いました。例えば日中の噴水で青空をバックにしてみたり、日中の雪が降るシーンで開放F2.8でフラッシュ同調してみたり、いろんな絵が描けるなと。

阿部:いやあ綺麗ですね。こんなに細かく水しぶきが止まっているのは見たことがない。天体写真のようにも見えてきますね。高速シャッターでの撮影で、今までできなかったことができるようになる。高速シャッターとフラッシュの組み合わせで撮ったものを初めて見たので感激しました。

萩原:ここでは1/5,000秒より速くないとなかなか水は止まってくれなかったと思います。またこのシーンはフラッシュがないと、これほど粒の細かい感じも出なかったので、グローバルシャッターだからこそ撮れたのかなと思います。

カメラデザイン、操作性の話など

——阿部さんに伺います。フラッシュ全速同調のすごさとはどういったところでしょうか?

阿部:例えば同調速度がシャッタースピード1/250秒で頭打ちになっていたりすると、スポーツシーンなどで速い動きを映しとめたいといっても限界がある。でも全速同調であればそういった際の可能性が広がります。ポートレート撮影で日中シンクロをしたいといった場面でも、大口径レンズで絞りを開放にして背景をボカす、何ていう選択肢もとりやすくなるわけです。僕なんかが思いつくことには限りがあるけど、可能性は無限なんです。

写真なんて、ムービーのようにたくさん撮影した中から良い部分を抜き取るのがいいんだという話があるけど、まさしくそうだと思う。ソニーはそれを作り上げているんです。高速でもフラッシュを同調させて、しかもそれを連写で行える。今までは考えられなかったような、もっとすごい世界がきっとあるのだと思います。

——操作性について、グリップまわりが変わっていますがどうでしたか?

阿部:ものすごい良くなったんじゃないですか。とてもしっくりくる。グリップはほんの数mmの差で全然違うんで、しかもいろんな手の大きさの人がいますからね。今回のグリップは今までのソニーαの中で一番いいんじゃないかですかね。エンジニアがものすごい努力されているんだろうなと感じます。

萩原:女性の指でも4本しっくりきますね。ここのつかみ心地はすごい快適です。

小城:すごくバランスがよくなりました。大きいレンズは「α9 III」としか組み合わせたくないという気持ちになります。

——C5ボタンがボディの前面についています。今まで前面にはなかったけど使ってみてどうでしたか?

小城:とてもよく使っています。

阿部:ちょっと必要な時に、押している時だけ使うのにとってもいい位置。不用意に当たらないようになっていて考えて作っているなと。

萩原:押し間違えがないですよね。中指のすぐ隣に来ている。これから愛用しそうなボタンですね。

——小城さんはスポーツ撮影の現場でソニー純正のトランスミッターを使っていると伺いました。

小城:はい、「PDT-FP1」というポータブルトランスミッターを使っています。例えばテザー撮影といえば、割と昔からありましたよね。大きなパソコンとカメラをつないだりと、スタジオ撮影では当たり前にやっている人も多かったけれど、スポーツカメラマンの現場でもそれをやりたかった。

「PDT-FP1」はこういう小さい端末です。最近はスマートフォンの性能が高まっていることもあり、画像の転送に大きなパソコンを使う必要がなくなっているということだと思います。

LANやUSB Type-C、HDMIなどの端子があり、動画も送れるそうです。そういうことが出来るっていうのが、現場にとってはとても大きなこと。

実際に使ってみると、電池に関してだけ若干課題が残りましたが、そのほかに関してはとても使い勝手が良かったです。Android端末なので、Google フォトなどの共有環境を作ってしまえば、サーバーを経なくても画像がポンポンと送れる。そしたら後はよろしくねと。

他社のカメラでも使える汎用性があります。ソニーがスマートフォン事業もやっているからできることなのでしょう。

阿部:スマホもやって、イメージセンサーもあって、そのうちゲームとかも交えてどんどんシームレスにいろんな展開があるかもね。ソニーの車で、自動運転で帰宅しながら写真を仕上げて、何ていうこともできるようになっているかもしれない(笑)。

「αシステム」に思うこと

——ここ最近の、αシステムで何か思うことはありますでしょうか。

阿部:ソニーが最初に「α100」を出して、それからレフ機の時代が終わりミラーレスカメラの時代になって……。最初はレンズがないって言っていたのに、今ではいつの間にかEマウントレンズが本当に充実しちゃって。「FE 300mm F2.8 GM OSS」を今作れるソニーが本当にすごいと思う。

ソニーのレンズって種類が多いだけじゃなくて軽いんです。II型になった時に、従来機より明らかに良くなっている。よく映るだけじゃなくて軽くなっている。レンズも上手にいいものを作るようになったと思います。ソニーはユーザーの声を聴く耳があるんですよ。

小城:「FE 300mm F2.8 GM OSS」はレンズ賞で今回2位だったけど、このレンズはもう革命だと思っています。このスペックはこれまでであれば質量が2.5㎏くらいのレンズになっている。それが約1.5㎏くらいに収まっているんです。やればできるんだ、というのがすごく新鮮でした。

それで実際使ってみたら、毎日持ち運べるレベルだということがわかった。スポーツだけじゃなくて街中でも色々と使えるでしょう。そうすると今まで見えなかった画角が見えてくるのだと思います。またこれ以上に焦点距離の長いレンズでも、この「FE 300mm F2.8 GM OSS」と似たようなコンセプトで作って軽量化が実現すれば、やはりそこに写真の革命が起きるのではないかと思っています。今まで撮れなかったものが撮れるという現実が、いろんな人に広まっていくのではないかと期待しています。

FE 300mm F2.8 GM OSS

萩原:お2人がおっしゃった軽量化というのは、私も本当にすごいなと思っています。さらにいうと、軽量化しながら画質も上がっていますよね。風景を撮影している人が気になる周辺の描写力が、すごくよくなっています。逆光耐性もよく、なおかつ軽い。

風景撮影の現場では、広角、標準、望遠、マクロなどいろんなレンズをザックに詰めて持つので、なるべく荷物は軽くしたい。その意味でも、機材の軽量化は本当にうれしいですね。

ボディに関しても、「α7R V」から採用された4軸マルチアングル液晶モニターなど、常に新しいことに果敢にチャレンジしていると思います。ソニーの新しいカメラやレンズが出るといつもワクワクするんです。次はどんな製品がでてくるのか楽しみにしています。

デジカメ Watch編集部