トピック

ポートレートでより多くバリエーションが撮れる焦点距離は?

キヤノン「RF50mm F1.2 L USM」と「RF85mm F1.2 L USM DS」を比較

撮影した階段はかなり狭く、引きが1m程度しかなかった。このように自由度の低い場面でも、50mmの画角であればゆがまずにウエストアップくらいでの撮影ができる。暗い場所では白くて美しい肌が映える
キヤノン EOS R5/RF50mm F1.2 L USM/50mm/マニュアル露出(F5.6、1/160秒)/ISO 125/WB:4,700K

レンズ交換をすることなく画角をスムーズに切り替えられるズームレンズは便利だが、ポートレートカメラマンなら、収差が抑えられ解像感に優れる単焦点レンズも1本は用意しておきたい。

ポートレートの定番レンズと言われるのは50mと85mm。短い時間の中でバリエーションを撮る必要があったり、狭いスタジオでの撮影が多かったりなど、50mmと85mmのどちらが合うのか迷っているユーザーも多いのではないか。

そこで今回は「限られたシーンでもポートレートのバリエーションがたくさん撮れるレンズ」という視点でさまざまな角度から2本のレンズの比較検証を行い、適した1本を探してみたいと思う。動きのある撮影では50mmが撮りやすく、出番が多くなるだろう。85mmならではの立体感のある描写は、決めカットを量産できそうだ。

逆光を利用して開放F値で撮影。収差は抑えられつつ、かなりハレーションが入りそうな場面でも解像感を損なわず美しい。なだらかなボケがやさしさを演出
キヤノン EOS R5/RF85mm F1.2 L USM DS/85mm/マニュアル露出(F1.2、1/640秒)/ISO 125/WB:4,700K
RF50mm F1.2 L USM
■SPECIFICATION
レンズ構成:9群15枚/絞り羽根枚数:10枚/最小絞り:F16/最短撮影距離:0.4m/最大撮影倍率:0.19倍/フィルタ―径:φ77mm/外形寸法(最大径×全長):約89.8×108.0mm/質量:約950g

■キヤノンオンラインショップ価格
35万7,500円(税込)
RF85mm F1.2 L USM DS
■SPECIFICATION
レンズ構成:9群13枚/絞り羽根枚数:9枚/最小絞り:F16/最短撮影距離:0.85m/最大撮影倍率:0.12倍/フィルタ―径:φ82mm/外形寸法(最大径×全長):約103.2×117.3mm/質量:約1,195g

■キヤノンオンラインショップ価格
41万2,500円(税込)

※本企画は『デジタルカメラマガジン2024年6月号』より転載・加筆したものです。

CHECK 01:焦点距離による顔の輪郭の違い

広角であればあるほど、ゆがみの要素は強くなる。ポートレートにおいては大敵と思われがちなゆがみだが、狙う表現によっては顔の輪郭がゆがむことで動物のようなかわいらしさが出る。とは言っても、顔が大きくなってしまったり広がってしまったりするのは好ましくないので、狙いと仕上がりのバランスは考えたい。

モデルのイメージによって正解となるレンズは変わるが、顔のゆがみを排除してすっきりと捉えたいときにはやはり標準よりも中望遠レンズに分がある。


顔のアップで比較してみると、RF85mmの方がゆがみは少ない。少し上から撮って幼さなさを表現したいというならばRF50mmで寄りながら撮影しても良いだろう。肌の質感が主題になるビューティーのような表現ならRF85mm、かわいらしさを表現したいならRF50mmだ

RF50mm F1.2 L USM
RF85mm F1.2 L USM DS

CHECK 02:開放F1.2によるボケの比較

ボケの量に関してはどちらもF1.2であるため、やはり中望遠であるRF85mmが有利。ごちゃついた背景の画面整理も得意だ。しかし写っている被写体がぼけて見えなくなるので、肉眼で見ているよりも少し印象が変わる。圧縮効果も高く、背景を引き寄せながら大きくぼかすため、主題を目立たせる効果が高い。そのためインパクトのあるポートレートが撮影できる。

逆に、自然な表現を優先させる場合にはRF50mmをチョイスしたいところ。前ボケに関しても、RF85mmの方がRF50mmよりも被写界深度が浅くなるため、背景ボケ同様にRF85mmの方がぼける。モデルを引き立てるためのボケ比較という意味ではRF85mmの方に分があると言えるだろう。


RF50mmはRF85mmに比べて背景のぼけた被写体のディテールが目立つのが気になる。RF85mmは圧縮効果が高いのと同時に、Defocus Smoothing コーティングが搭載されているので、ボケ自体の輪郭が柔らかくなだらかにとろける。

同位置から撮影
RF50mm F1.2 L USM
RF85mm F1.2 L USM DS

RF85mmの方が豊潤な前ボケが生み出せる。顔のアップを撮影する場合には、瞳への視線誘導などに有利だ。

顔のサイズを合わせて撮影
RF50mm F1.2 L USM
RF85mm F1.2 L USM DS

CHECK 03:圧縮効果による背景の見え方

背景の見え方は画角によって大きく変化する。標準レンズであるRF50mmはより肉眼に近い印象で背景が入ってくる。ボケの質感も肉眼に近いので違和感がない。奥行きの距離感も自然だ。RF85mmは背景がグッと手前に引き寄せられることで映画のように意図的な表現になる。

どちらが優れているというわけではなくて、狙う表現によって使い分けたいところだが、より背景のコントロールがしやすく背景を生かしたバリエーションが撮れるという点では、RF50mmの方が扱いやすいと考える。


RF50mmの方は、モデルまでの距離と奥の木までの距離が肉眼で見たときと同じ印象。RF85mmの方は奥の生垣や木が迫っている。

RF50mm F1.2 L USM
RF85mm F1.2 L USM DS

CHECK 04:俯瞰で撮影したときのモデルのボディサイズ

グラビア撮影などでよく撮影するのがモデルに仰向けになってもらうポーズ。モデルの体つきのスタイルをどのように表現するかが鍵となる。

モデルの上から俯瞰で撮ることになるのだが、腰のくびれや足の美しさを見せることが多く、脚立を使うにしても撮影距離があまり取れないのでRF85mmでの俯瞰撮影はあまり向いていない。俯瞰での撮影では必然的にRF50mmをチョイスすることが多くなる。


RF50mmの方はモデルの腰下までがフレームに入ってくる。RF85mmだとバストアップまでとなる。グラビアで好まれるのはRF50mmの画角の方だ。

RF50mm F1.2 L USM
RF85mm F1.2 L USM DS

まとめ:背景処理と寄り引きでバリエーションが増えるのは「RF50mm F1.2 L USM」!

限られた時間と撮影場所でバリエーションを量産しなくてはいけないシーンではRF50mmが断然有利だ。例えば撮影会の会場や、ワークショップなどのシーン。背景を探しながら動いて撮影しても、撮影距離が近いためモデルとのコミュニケーションが取りやすいし、背景の情報が残りながらぼけてくれるので、寄り引きのみならず、モデルの後ろに抜ける被写体を変えるだけで複数のイメージが撮影できる。

ただ、どうしてもここ一番の印象深い1枚が欲しいときには肉眼ではなかなか得られないようなインパクトがあるRF85mmの出番となる。

もし、ポートレートカメラマンが1本目の単焦点レンズが欲しいということであれば、RF50mmをまずはそろえて、さまざまな表現方法を身につけてからインパクト用としてRF85mmを購入する流れが良いだろう。

実際に私の場合も、屋外でのファッション撮影も、ハウススタジオでのグラビア撮影もこの2本を使い分けている。

ギャラリー

印象的な影を利用した。反対側の道路から距離をとって撮影。50mmの画角は肉眼に近く、モデルの周囲に要素を入れながらスナップ的な表現も可能だ
キヤノン EOS R5/RF50mm F1.2 L USM/50mm/マニュアル露出(F1.2、1/2,500秒)/ISO 100/WB:4,700K
公園でナチュラルに動く様子を狙った。85mmのボケが立体感を作り、モデルを風景から浮き立ててくれる。余分な要素を排除する画面整理が楽だ
キヤノン EOS R5/RF85mm F1.2 L USM DS/85mm/マニュアル露出(F1.2、1/800秒)/ISO 100/WB:4,700K

モデル:三橋くん

清田大介

(きよただいすけ)写真家。APA(公益社団法人 日本広告写真家協会)正会員。「清田写真スタジオ」経営。商業撮影、雑誌寄稿、セミナー開催。国内外のコンテスト受賞多数。東京カメラ部10選2020。