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良いモニターで見る写真は気持ちがいい…BenQ「SW272U」を使って心底そう感じた

写真向けのモニターから撤退するメーカーもある中、BenQは魅力的な製品を提供し、クオリティーに磨きをかけ続けている。そのラインナップ中で、色が確かな製品に与えられる称号「AQCOLOR」を冠した最新の機種が「SW272U」だ。

紹介したいポイントはたくさんあるが、分かりやすく「写真+色調補正」用途に的を絞ってSW272Uの魅力を紐解いてみたいと思う。

また、これを機に少しでもモニターの世界に興味をもってもらいたいので、筆者が現場で得た関連知識も盛り込んでみた。実践に基づくため教科書的ではないが、写真ライフの役に立ててもらえると嬉しい。

「普通紙」のようなモニターを使っていませんか?

カメラの液晶画面で写真を見ると色彩豊かなのに、パソコンで見たらそれほどでもなかった。

写真を趣味にしているとそんな経験もあるはず。

要因はいくつか考えられるが、たいていはモニターのスペック不足のため、写真(データ)のもつ色彩が発揮できないことにある。

要するに、そのモニターは「写真用途に向いていない」ということ。

デジカメのモニターと普通のパソコンのモニターの見え方の違い。デジカメの液晶画面は色の再現性が高く、濃度のあるハッキリとした色彩で表示される。同じ写真をノートパソコンで見ると、色が抜けたような浅い色彩だ

写真用のモニターを語る場合、「プリント用紙」に置き換えると実感しやすい。

写真家が作品をプリントする場合、「普通紙」を使うことはないだろう。理由はもちろん「きれいにプリントできないから」で、これは初心者でも分かること。

モニターも同様で、「普通紙」のような製品もあれば、「写真用紙」的な製品もある。写真を扱うのなら当然、「写真用紙」的なモニターが必要だ。

カメラとレンズにこだわってよい写真を撮っても、肝心のモニターが「普通紙」タイプでは宝のもち腐れ。なにより「写真がもつ真の色」を見ることができないなんて残念なことだ。

もし、お使いのモニターの色に不信感があるのなら、ツールを買って調整しようとは考えず買い替えを検討しよう。記事を読み終わることには、そのほうが幸せになると実感できるはずだ。

写真向けモニター、BenQ「SW272U」。広色域で色の精度が高く、遮光フードも付属する即戦力モデル。写真の閲覧からRAW現像やレタッチ、動画編集までオールマイティに活用できる

写真向きモニターの4つのポイント

まずは、モニター選びで押さえるべきポイントを紹介しよう。

最優先事項となるのが、「画面サイズ」と「USB Type-C接続+給電」の2つだ。

写真用途の場合モニターのサイズはとても重要で、写真を全画面で表示したときサイズが大きいと視線移動が激しくなり、全体像が把握しづらくなる。反対に小さないと、細部のチェックがしにくいというデメリットが生じてしまう。

適切なサイズを一概に決めることは難しいが、「作業机における大きさと重さ」に収まることが大前提だ。その上で、(筆者の経験上)画面の対角線と同距離程度の位置に配置すると写真の全体像が把握しやすいし、編集時も見渡しよく作業できる。

たとえば、パネルの対角線が70cm(約27インチ)なら、70cm離れた位置からモニターを眺めると丁度よいということ。

SW272Uを作業机に置くと写真のような距離感になる。パネルの対角線が70cm(約27インチ)なので、70cm離れた位置から眺めるとちょうどよい距離感だ。写真全体の見渡しがよく、作業がしやすい

USB Type-C接続+給電は、パソコンとの接続を簡略化する上でもほしい機能だ。

モニター購入時にUSB Type-C接続や給電に対応したパソコンを所有していなくても、モニターは長く使う機器なので「将来」を見据えて必要な機能といえる。

以上が「一般的なモニター選び」のポイントとなるが、写真家が使う写真用のモニターではもう少し条件を追加したい。

それが、「色域の広さ」と「ハードウェアキャリブレーション」だ。

つまり、写真向けのモニターで考慮すべきポイントを順に並べると、以下のようになる。

  1. 画面サイズ
  2. USB Type-C接続+給電
  3. 色域の広さ
  4. ハードウェアキャリブレーション
SW272Uの主な仕様
画面サイズ27インチ
パネルIPS
バックライトLEDバックライト
解像度3,840×2,160
輝度400cd/平方m
HDRHDR10、HLG
水平/垂直視野角178°/178°
コントラスト比1,000:1
リフレッシュレート60Hz
色域sRGB:100%、Adobe RGB:99%、Display P3/DCI-P3:99%
表示色10bitカラー:10.7億色
Delta E(平均)1.5以下
表面処理反射防止
Gamma1.6~2.6、sRGB
映像入力端子HDMI×2、DisplayPort、USB Type-C
Power Delivery(USB Type-C/Thunderbolt 3)90W
ハードウェアキャリブレーション
ムラ補正技術
外形寸法(H×W×D)451.8~591.8×613.9×274mm
本体重量約8.6kg

SW272Uのスペックを例にすると、「画面サイズ」は27インチなので、前述のとおり70cm程度の距離から鑑賞するさいに適している。具体的には、一般的な大きさの机(奥行き60cm程度)に置きやすいサイズといえるだろう。

「USB Type-C接続+給電」は対応しているため、パソコンとの接続もシンプル。

USB Type -C給電対応のパソコンを使っているのなら、ケーブル1本でパソコンに電力を供給しつつ映像を映し出すことが可能だし、モニター側のUSB端子やカードリーダーも使えるようになるため、周辺機器をモニターにつないでおけばパソコンの脱着も簡単だ。

SW272UとノートパソコンをUSB Type-Cケーブルで接続。色が不確かなノートパソコンはサムネイル表示、SW272Uは写真の色を確認、などの使い方ができる。また、Type-C給電に対応したパソコンなら、ケーブル1本の接続で映像出力と充電の両方が可能だ

「色域の広さ」に関しては、sRGBだけでなくAdobe RGBの広い色域に対応しており、写真の色を確認するだけでなく、RAW現像やレタッチで色を追い込む使い方も問題なし。

「ハードウェアキャリブレーション」については馴染みがないかもしれないが、正しい色に簡単にリセットできる機能と思えばいい。

この機能は写真向けモニターにとっては重要で、筆者は「この機能があればなんとかなる」と考えるほどモニター選びに重きを置いている。

以上が、筆者がモニターを購入するさいに重視する項目だ。もちろん、BenQのSW272Uはすべてをクリア。

まだパネルの色を詳細にチェックしていないが、BenQのモニターの「素性のよさ」は現場では十数年前から話題で気になっていたので、筆者ならこの段階でSW272Uを購入候補に入れると思う。

つないだだけでこの色が出るのはすごい!

SW272UはsRGBのカバー率が100%、Adobe RGBのカバー率が99%と、両者の色をほぼ完璧に網羅し、デジカメで撮影する写真の色を余すことなく表示することができる。
ちなみに、一般的なノートパソコンや外付けモニターの場合、sRGBのカバー率が75%程度でAdobe RGBには非対応の機種が多く、写真の色を正しく表示することはできない。

キャリブレーションすれば問題ないと考える写真家もいるが、色域が狭いモニターは「出ない色」が多いため難しいだろう。

SW272Uの魅力は広い色域を有しているだけでなく、その色が正確に表示できるように出荷の段階で色調整が施されている点にある。

購入後にユーザーが行うべき色調整作業の手間が省けるだけでなく、高価なキャリブレーションツールを購入する必要もない。その上、市販のツールよりも高精度な測色器で調整されているため誤差が少ないというメリットだらけだ。

事実、箱から出してパソコンに接続してみたところ、驚いた。

初期状態の設定がAdobe RGBだったので、普通のモニター(sRGBタイプ)が苦手とするブルー寄りのシアンも伸びやかなグラデーションで表示されている。

未調整でこの発色は、本当にすごいと思う。

Adobe RGBの色空間で写真を表示した例。普通のモニターでは見ることができないブルー系の鮮やかさが美しい。パネルは完全な非光沢で、モニターに映し出された映像というよりも、高級なマット紙にプリントしたような深みのある質感に見える

多くの写真家がAdobe RGBの色空間で撮影しているだろうが、残念なことに「モニターが対応」していなければその色は見ることはできない。

それだけでなく、モニターのもつ狭い色の範囲に色が押し込められるため、場合によってはsRGBで撮るよりも「悲惨な色彩」になることだってあり得る。

もし、そんな状態でRAW現像やレタッチを行ったとしたら、写真の色が崩れてしまうことは理解できるだろう。

でも、SW272Uなら買ったままの状態でAdobe RGBの色が表示できるし、RAW現像やレタッチだってOK。当然、sRGBの写真だって問題ない。モニターのプリセットから「sRGB」を選べばモニターの色空間が最適化され、sRGBの写真が思いどおりに補正できるようになる。

箱から出してパソコンにつなぐだけでレタッチの仕事がこなせるくらいに高精度な色なのだから、それだけでSW272Uのすごさが理解してもらえるのではないだろうか。

Photoshop CCで編集中の状況。モニターの設定は工場出荷状態のままだが、このまま仕事用の写真として納品できるくらいに色の精度が高い。それにしても、この角度から見ても色が変化しない画面は、高品質なプリントを貼り付けたような質感と美しさがある

OSD操作がリモコンで行える快適さ

Adobe RGBとsRGBの話題が出たので、面白い機能を紹介しよう。それが、「GamutDuo」だ。

筆者のように複数の色空間で納品を求められる写真家にとってはありがたい機能で、画面を左右に分割して色空間やガンマ値の違いによる見え方が比較できるというもの。

簡単にいうなら、設定の異なる2つのモニターを並べて見比べる機能と思えばいい。

GamutDuoでAdobe RGB(画面左半分)とsRGB(右半分)の色空間を比較した例。この機能の便利さもさることながら、写真家なら「Adobe RGBの高精彩な色域」が必要な理由もよく分かる比較といえる

もっとも、本当に紹介したいのはGamutDuoではなく、OSDがリモコン操作できる「ホットキーパックG3」(以下、G3)のほうだ。

OSDとはモニターに搭載された設定画面のことで、通常はモニターの下部に並んだ複数のボタンを手探りや“勘”で操作する面倒な機能でもある。

本音をいうと、OSDをいじるのはイヤ。

筆者ですらそう感じるのだから、みなさんも絶対にそう思っているはず。

モニターの設定を行うOSD機能は、本体の下面にあるボタンで操作する。ほぼすべてのモニターにいえることだが、並んだボタンでメニューを行き来するOSDの操作は分かりやすいとはいえず、押し間違えをしやすい

ところが、G3を使えば手元のダイヤルとボタンでOSDが「リモコン操作」できる。ケーブル接続の必要がないため取り回しがしやすい点も好印象だ。

G3の使い方は直感で分かるシンプルさで、側面にある「Info」ボタンを押してOSDを表示、あとはダイヤルを回して項目を選び、ダイヤルを押して確定、という感じでサクサクと設定が進められる。

OSDを操作するリモコンのホットキーパックG3を使えば、手元のダイヤルとボタンを見ながらOSDメニュー画面を操作できる

また、G3本体の上面には3つのショートカットキーも搭載されていて、カラーモードや入力の切り替えなどの割り当ても可能。

たとえば、「1」のボタンを押せばsRGB、「2」はAdobe RGB、「3」はRec.709、というように、作業に応じて必要な色空間に変更することができる。写真用と動画用というように、複数の色空間で作業する必要があるユーザーには便利な機能だろう。

複数の設定を切り替えて使っていると「現在の状態」が分からなくなることもあったが、そんなときはG3の「Info」ボタンを押せばOK。OSDが表示され、現在の設定が確認できる。
モニター下面のボタンに手を伸ばさずに済むので、この機能はとても使いやすかった。

G3本体。丸い形状ながら傾斜があるため、手前が分かりやすい点もよく考えられている

ちなみに、G3のダイヤルは初期状態で「輝度」に設定されていて、クルクル回すとモニターの明るさが変えられる。モニターの初期状態は筆者の環境では少し明るかったので、G3のダイヤルを回して輝度を10%だけ下げてみたところ、期待どおりの見え方に調整できた。

SW272Uは工場出荷の段階で色の精度が高く、これだけで環境に合わせた調整が施せる。実にありがたいことだ。

参考までに、輝度を調整するときは「モニターに映した白」と「紙(プリント用紙)の白」の露出が合うようにすると、その環境に適した明るさにしやすい。

写真における4K解像度のメリット

27インチの4K解像度はドットバイドットで鑑賞できるギリギリのサイズのため、写真の微細な質感が「目に見える」というよりは「感じる」的な細かさになる。

写真においてこの感覚は意外と大切で、漠然と眺めているときでも質感の違いに気付きやすい。

4K解像度のメリットとしては、ピクセル数がフルHDの4倍あるため、同じ写真を表示した場合「4倍広い範囲」が映せる点もある。つまり、編集時に「作業箇所の周囲」を見ながら処理が行えるということ。

たとえば等倍(100%)表示が必要なノイズ低減やシャープネス調整を行う場合、フルHDモニターでは「写真のごく一部」しか確認できないが、4Kモニターなら「4倍広い範囲」が見渡せる。周囲の状況に合わせた調整が行えると適量が判断しやすくなるし、とても快適だ。

左が4K解像度で写真を等倍表示して編集している状態。右は同じ写真をフルHDで等倍表示して編集中している状態。等倍表示をすると、フルHDモニターは写真の一部を覗くような窮屈な見え方になるが、4K解像度のモニターは周囲を確認しながら作業しやすくなる

SW272Uを使っていてラクに感じたまさにこの点で、フルHD環境では等倍表示すると周囲が見渡せず、縮小表示するとピクセルが補完されて細部の状態が分からない、というジレンマやストレスから解放された。

また、ピントやブレの見え方に関して付け加えると、同サイズのフルHDモニターよりも1ピクセルのサイズが小さくなるため、エッジがより滑らかな印象だ。

ピントが合っている写真の場合、SW272Uで表示するとフルHDよりもスッキリとしたクリアな描写に見える、という感じ。微細な質感も描写できているため、そのように感じるのだろう。

率直な感想としては、視力が一段階よくなったような見え方といえる。

左はSW272U(4K解像度)、フルHDモニターの画面を同じ距離(28cm)から撮影したもの。画像をクリックして等倍表示するとよく分かるが、SW272Uは1ピクセルのサイズが非常に小さいため、繊細な質感が描写されている。対してフルHDモニターは1ピクセルが点として見えているため、クッキリ感がもの足りない

ほかにも、4Kの解像度は編集ソフトでパネルをたくさん並べて作業できるというメリットもあるし、複数のソフトを起動して作業するにも便利だろう。

このように、写真において4Kのメリットはさまざまあるので、これからモニターを購入するのなら「4K解像度」を視野に入れるようにしたい。

初心者だからこそ「ハードウェアキャリブレーション」が必要

SW272Uは「買ったままでもプロが仕事に使える」レベルの色域と色の再現性をもっている。

しかしながら、モニターは経年で変化するため、いつまでも出荷時の色校正が維持できるとは限らない。

そこで、必要になるのがキャリブレーション(モニターの色調整)だ。

キャリブレーション作業中の状況。パソコンに接続した色測定用のセンサーをモニター表面に設置して色を測り、ソフトの指示どおりに調整を施していく

キャリブレーションにはソフトウェアとハードウェアによる2種類の方法があり、SW272Uは後者のタイプに対応している。

それぞれの違いを簡単に説明すると、ソフトウェアキャリブレーションはツールがあればどんなモニターでも色調整できる方法で、一般的なモニターはこの方法を用いることになる。

ただし、手作業で調整するためスキルが必要となり、安定した精度を出すことが難しい。

また、パソコンのグラフィックボードでR、G、B値の出力を制限して色を整えるため、階調が減少して濃淡の再現性が落ちるなどのデメリットもある。

対してハードウェアキャリブレーションは、指定した色温度や明るさになるようにモニター自身が色を調整するため、手作業の必要がなく誰でも簡単・高精度な調整が可能だ。

グラフィックボードに出力制限がかからず、階調の減少が生じない(グラデーションが滑らか)点もメリットといえる。

ハードウェアキャリブレーションは対応のモニターが必要で、そのモニターは例外なく高性能なため上級者向けというイメージがあるかもしれないが、実際はソフトウェアキャリブレーションよりも簡単で正確なので、初心者にこそ必要な機能といえるだろう。

キャリブレーションの種類と特徴
キャリブレーションタイプメリットデメリット
ソフトウェア市販のツールを使ってどんなモニターでも色調整できる手作業でR、G、Bや明るさを調整するため、精度を出すことが難しい
ハードウェア誰でも安定した色合わせが行える。階調が崩れない対応しているモニターが必要

SW272Uでハードウェアキャリブレーションを行うには、専用のソフト「Palette Master Ultimate」を使用すればOK。ただし、色を測定するセンサーは別途用意しなければならない。

キャリブレーション未経験者、または設定に悩んでいる方のために、調整のコツについても簡単に触れておくと、調整で重要な項目は「輝度」「色温度」「ガンマ」の3か所。これらには決まった値はなく、各自が“適切”と考える数値を指定しなければならないため、考え方を理解していないと難しさを感じやすい。

Palette Master Ultimateの設定画面。「ルミナンス」にモニターの輝度、「ホワイトポイント」に色温度、「ガンマ」にガンマ値を入力すると、モニターはその状態に調整される

モニターの色温度は「5,000K」という考える写真家も多いが、これは印刷業界に関わる場合のこと。一般の写真家は5,000Kにこだわる必要はなく、基本的には自由に決めてかまわない。

一例としては、プリンターを所有しているのなら「プリントを見る光(照明)」の色温度に合わせるとよいだろう。これで、プリントとモニターの色が近くなる。

プリントをしないのなら、「6,500K」が妥当だ。6,500KはsRGB準拠の色温度のため、世の中の多くのモニターと色が合いやすくなる。

難しいのは輝度の決め方で、筆者の経験、およびモニターに造詣の深い同業者の例を参考にすると、直射日光を遮り天井の照明を照らした室内なら、「100カンデラ(cd/平方m)」前後が選ばれることが多い。

ガンマ値は、基本的に「2.2」を選べばOK。

以上を前提に筆者の用いている設定値はというと、色温度は「5,500K」、輝度は「95カンデラ」、ガンマ値は「2.2」となっている。

色温度の根拠は印刷所(5,000K)と一般的な6,500Kの中間、輝度はプリント用紙の白と近い見え方に追い込んだ結果、ガンマ値は無条件に「2.2」を選択、となる。

ちなみに、作業机の環境光(プリントを見る照明)は「5,500K」の評価用を使っている。

これがキャリブレーションの基本的な考え方なので、将来キャリブレーションが必要になったとき、この考え方を思い出してほしい。

気になるキャリブレーションの結果はというと、工場出荷状態から輝度を下げた状態のほうが色を視認しやすく感じた。したがって、前後の比較は割愛。

これに関しては、使用した市販のキャリブレーションツールよりも出荷時に使用している測定器の精度が高いためと思われる。

一般的な写真家なら、下手にキャリブレーションをしなくても、当面はそのまま使ってかまわないだろうというのが筆者の考えだ。

キャリブレーションが成功すると、設定した値と調整後の誤差など詳細なレポートが確認できる

写真家が確認しておきたい4つの特性

SW272Uのスペックにおいて、写真家が気にしておきたいポイントもチェックしてみよう。それが、「IPSパネル」「10bit表示」「ムラ補正」「平均Delta E」だ。

「IPSパネル」とは、上下左右の視野角が広い液晶パネルのこと。写真用のモニターとしては必須の条件ともいえる。

SW272Uの視野角は上下左右178度もあり、実質、画面が見えるならどの角度から眺めても色が変化しにくい特性をもっている。

もっとも、IPSパネルのメリットは「真横から見えるからすごい」というわけではなく、画面と正対していなくても「確実に正しい色で確認できる」という安心感にある。

そのありがたさを感じるのは姿勢を崩したときで、作業中にラフな姿勢でモニターを斜めから眺めても色の変化が生じない。長時間に及ぶ作業において、これはとても快適なことだ。

SW272Uの視野角をチェック。撮影の関係で多少の輝度の差が出ているが、肉眼で見る限りモニターに正対した見え方と、斜めからの見え方に違いは感じられなかった。モニターの前に座って作業する限り、動ける範囲ならどこから見ても同じ色と考えてよいだろう

この快適さは、ノートパソコンユーザーにこそ恩恵が大きいだろう。

ノートパソコンは視野角が狭いモニターも多く、わずかな角度に違いで写真の色やコントラストが変わってしまう。その都度モニターの角度を調整し、「見やすい色」に合わせ直す必要があるのだが、SW272Uを外部モニターにすればそんな面倒ともサヨナラだ。

2つ目の「10bit表示」は、モニターが表現できる色数のこと。SW272Uは約10.7億色もの色が扱える。普通のモニターは8bitで約1677万色表示なので、SW272Uはその64倍もの色が表現できるということ。

8bitと10bitの違いは肉眼では見分けられないかもしれないが、よく見ると10bit表示はバンディング(階調の段差)が均されていて、写真を眺めたときに「気持ちよさ」を感じる大きな要因ともなっている。

10bit表示のSW272Uの画面(左)と、8bit表示のフルHDモニター(右)の画面を撮影した例。違いが見えるように作った意地の悪い画像だが、クリックして等倍表示すると分かるとおり、SW272Uはグラデーションが滑らかな描写になっている。対して8bitモニターでは、色数が足りずに色の境目が生じ段付きのある描写だ。画像は16bitデータでどちらも同じ処理を施しているため、データ上は問題ない

「ムラ補正」は文字どおり、パネル全面の色ムラを軽減して、均一な色と明るさで表示する技術のこと。

SW272Uはパネルの色ムラがよく抑えられていて、画面全体に白やグレーの単一色を表示しても色ムラを感じることがない。モニターの輝度を最大から最小まで変化させても色ムラが生じることはなかったので、環境に合わせて暗め/明るめに調整したとしても問題ないだろう。

均一で安定した色みは、写真を真っ白なプリント用紙に印刷したようなスッキリ感がある。

画面全体を色ムラが視認しやすい「白」で表示。SW272Uはパネル面が均一な色と明るさに調整されているため、フラットな白で表示されている

「Delta E」とは色の差のこと。基準の色と表示された色にどの程度のズレがあるのかを0から100の数値で表示していて、値が小さいほど色が揃っている状態(=正確)となる。

数値の基準を決めるのは難しいが、Delta Eが2以下になると、肉眼で色の違いがほとんど分からないレベルといわれている。

SW272Uは平均Delta Eが1.5以下。基準の色と表示上の色を並べても違いが分からないくらいに正確な色で表示できるスペックだ。

そもそもSW272Uは、色に関するプロフェッショナル向けとなるAQCOLORシリーズのモニターでもあるので、このジャンルでは最高位に属する機種と考えてよいだろう。少なくとも筆者の仕事環境としては、文句のつけようがない。

余談だが、Delta Eは経年で変化するため、モニターの「劣化の度合い」を知る目安にもできる。筆者は平均Delta Eが2を超えると少し不安になり、3を超えるとメインの機材から外すか、買い替えを検討する、という感じで活用している。

SW272Uはハードウェアキャリブレーションの結果としてDelta Eの数値を確認することができる。試用したモニターは平均Delta Eの値が「0.66」と非常に高品位な状態
AQCOLORとは?

BenQの製品の中で、カラーマネージメントに対応したプロ向けのモニターがAQCOLORシリーズ。正確な色調整が行えるハードウェアキャリブレーション機能を搭載し、広色域で正確な色再現性が特徴。出荷時に一台ごとの厳密な色調整やムラ補正などを施しているため、プロの現場に即対応できるだけでなく、初心者も「パソコンにつなげるだけ」でプロフェッショナルな環境で写真ライフが送れるようになる。

本当に「良い」モニターと出会えた

写真とは関連が薄いので簡単な紹介に留めるが、動画配信で使われるHDR10やHLGに対応しているため「効果をプレビューしながら編集」できる点も、動画制作者にはメリットだろう。

動画用の色空間(Display P3やDCI-P3)のカバー率も99%と広いため、動画に対しても精度の高い色調整が施せる。

また、本体には周辺機器接続用のUSB3.1端子だけでなく、SDカードリーダーも搭載している。筆者はUSB端子にデータ保存用のHDDと無線マウスのレシーバーを接続し、ノートパソコンをUSB Type-Cで接続したときに、それらが即座に使えるようにしていた。

ケーブル1本を抜き差しするだけで、映像出力、充電、周辺機器の接続と解除が行えるので、ノートパソコンを持ち歩くユーザーにも便利だ。

SW272UのUSB端子にHDDやレシーバーを接続しておけば、ノートパソコンをUSB Type-Cケーブルで接続するだけで周辺機器が使えるようになる

気になった点としては、電源や映像入力端子が奥にあるため、モニターをスタンドに設置した状態でアクセスが難しかったこと。

最初に接続すればめったにアクセスする機能ではないので普段の使い勝手に支障はないが、筆者はすべてを組み立ててから最後に映像ケーブル(USB Type-C)をつなごうとしたため、再度分解して接続する手間が生じてしまった。

SW272Uを買ったら、「スタンドに乗せる前」に映像と電源ケーブルをつなぐようにしたい。

SW272Uの背面を下部から写したもの。組み立てるとHDMIやUSB Type-Cなどの映像入力端子(上部)はアクセスしづらい位置にあるので注意したい。モニターの下面には、イヤホン端子、USB3.1端子、SDカードリーダーが搭載されている

SW272Uはすごくいい。

買ったままでも使える色の正確性も好印象だし、スタンドのベースが薄くてレザーパッドになっているため、モニターの真下にカメラやキーボードなどが置ける点も使いやすい。狭い作業机では、これはとても重要なことだ。

それに、OSD操作用のリモコンや、専用の遮光フードが付属している点もポイントが高い。

スタンドのベース部分はカメラのグリップのようなしぼ加工が施され、高級感が漂うとともに、ものを置いたときのすべり止めの役割も果たす。ベース部が薄い平面だと、カメラや小物の置き場になるため非常に便利

以上が、1週間ほどSW272Uを試用した感想だ。

今のモニターを買い替える時期が来たときは、間違いなく購入候補に挙がるモニターだと思う。

筆者おススメの環境は、SW272U+ミニPCの組み合わせ。手のひらサイズのミニPCは、SW272Uの下やベース部に置けば邪魔にならない。ノートパソコンに外付けモニターをつなげた作業環境は意外と「配置に困る」ので、パソコンを持ち歩かないのなら、コンパクトでコスパのよいミニPCを検討してみるとよいだろう
桐生彩希