トピック

ニコン Z fで楽しむ、フォクトレンダーのレトロスタイル交換レンズ

Z f/Z fcで実写 掟破り“DXレンズのフルサイズ撮影”にも挑戦

2023年を思い返すと、ニコン Z fの印象が鮮烈。レトロなデザインは時に後ろ向きに捉えられることもありますが、フイルムカメラをイメージしたスタイリングに最新の撮影性能、しかも一部では上位モデルを凌ぐ機能を持つというアプローチはとても興味深いです。

ところで、こうした佇まいのカメラには、やはり同様にクラシックスタイルのレンズを組み合わせたくなります。ニコン純正レンズにそうした選択肢が無いワケではありませんが、コシナ・フォクトレンダーのニコン Z マウント用レンズとのデザイン的な親和性の高さは見逃せません。

フォクトレンダーのZ マウントDX用レンズ3本とニコン Z f

フォクトレンダーブランドのZ マウント用レンズは現在9本がラインナップされていて、そのうち3本はDXフォーマット向け。レンズ名の焦点距離の前に“D”と付いているものです。DXフォーマット(APS-Cサイズ)の撮像面積が35mm判のおよそ半分であることから、半分を示す“Demi”のDを取ったとされています。

これらのレンズは特にオールド・ニッコール(1959〜74年頃のニッコールオート系)にインスパイアされていることが伺えますし、なにより雰囲気が魅力的。レトロテイストのDX機「Z fc」に似合うレンズではあるものの、同じテイストを持つフルサイズ機の「Z f」に組み合わせることも出来ます。そのスタイルのマッチングを見てみようというのが今回の趣旨です。

ご存知の通り、現在Z fは品薄で入手困難な状況ですし、そもそもFX機にDXレンズを使うのは画素数的にモッタイナイ印象があります。ただZ fにはボディ内手ブレ補正機構が搭載されていたり、DXレンズの隅々、さらにその外側の光線まで味わい尽くせる魔力があります。今回はニコンのZ fとZ fcに3本のレンズを組み合わせ、スタイリングと相性のチェックを行ってみました。

解説その1:FX機でのお作法

本来はDX機と組み合わせるべきレンズなので、FX機で使う場合のお作法を知っておく必要があります。というのも、純正レンズであれば自動でDXフォーマットにクロップされますが、フォクトレンダーのZ マウントレンズではこれが自動で切り替わらないため、任意で切り換える必要があるのです。今回、筆者はFnボタンにFX/DX切り換え機能を割り当てました。

注意点として、24MP機のZ fでDXクロップすると約10.6MPとなります。10.6MPでもワリと大丈夫というか普通に実用的ではありますが、心穏やかで居られない気持ちも十分に理解出来ます。例えばZ 7IIなどの45MP機であればDXクロップしても約19.5MPと、Z fcの約20.9MPに近い記録画素数が得られます。

MF、恐るるに足らず

フォクトレンダーのZ マウントレンズは、ニコンとのライセンス契約の下で開発・製造されており、電子接点によるカメラボディとの電気通信に対応しています。

電子接点を搭載

ボディによっては最新ファームウェアが必要となる場合もありますが、対応ボディではフォーカスエイド、ピーキング、ライブビュー拡大表示という3通りのサポート機能が選べ、さらにボディ内手ブレ補正の搭載機では3軸補正にも対応するなど、多少純正レンズに近い感覚で扱えます。

絞りとフォーカスだけはレンズ側をマニュアル操作する必要があり、実絞りでの絞り優先AEで撮影することが出来ます。撮影者の仕事量として、絞りをコントロールしつつMFに集中出来るのは、筆者には丁度良いバランスに感じられます。

解説その2:MFレンズならではの萌えポイント

絞りリングの絞り値には色が配されています。レンズ距離指標の下側にあるシルバーのリングには、この絞り値と対応するように色分けされたバーが配置されていて、おおよその被写界深度が分かるようになっています。

距離指標と被写界深度スケールが備わる

デジタルカメラ撮影において被写界深度は、画素ピッチや鑑賞サイズにより許容範囲がケースバイケースなのであくまでも目安になりますが、AF前提と割り切ってシンプルデザインになったレンズが多い中、MFレンズならではの撮り方を楽しめる仕組みは、まさに作り手の遊び心と言えるでしょう。“萌えポイント”のひとつです。

NOKTON D35mm F1.2

35mm判換算で約50mm相当の画角。絞りと撮影距離によって描写の変化が大きく、特に絞りの影響を受けやすい、いわゆる「絞りの利く」レンズです。絞り込めば最新レンズらしいキレの良さを、絞りを開ければオールドレンズのような雰囲気も楽しめます。撮影距離によってもそうした描写変化があり、光の状態によっても新たな表情を魅せてくれるので、“光線を読む”勉強にもなりそう。イメージサークルは安定しており、セオリー通りのDXクロップで撮影しました。

絞りによる描写のコントロールがとても楽しく、数cmの距離変化と1/3段の絞り変化、そしてピントリングの僅かな操作、それぞれに応じてちゃんと描写への影響があります。上手く噛み合った時の達成感と高揚感は、今回紹介するレンズの中では随一。かなりの中毒性があり、実写時はついついこのレンズを選びたくなってしまいました。


緑に埋もれ少し錆びた街灯の支柱と欄干の関係に、対象が積み重ねた歴史を感じてパチリ。枯れた雰囲気を出したかったので、カメラ内絵作り機能のクリエイティブピクチャーコントロールで「ブリーチ」を選択し適用度を下げ、やや絞り込んでシャープに。意図に対して結果が伴うととても気持ち良いです。この気分を味わうために写真を続けている気がします。今回は編集部から「作例は豊田さんの好みでお願いします」という甘美な指示があったので、趣味全開です。

Z f/NOKTON D35mm F1.2/絞り優先AE(F3.2・1/80秒・-1EV)/ISO 100/50mm相当(DX)/クリエイティブピクチャーコントロール:[08]ブリーチ

今回の撮影テーマは「何処でも撮れる」にしました。都市部であっても地方であっても、撮影は本来どこでも楽しめるハズというコンセプトです。レンズやカメラによって、いつも通る道であっても見え方が変わる、ということは良くありますので、機材を手に入れたらご近所を攻めてみて下さい。

撮影距離と絞りの組み合わせでシャープにしつつも立体的に見えるところを狙いました。標準画角のレンズではザックリF1.8前後で2m弱の撮影距離だと良い感じに撮れる事もあり、レンズの特徴を見る時に筆者が必ずチェックする条件だったりもします。

Z f/NOKTON D35mm F1.2/絞り優先AE(F1.8・1/400秒・-0.7EV)/ISO 400/50mm相当(DX)/ピクチャーコントロール:[ST]スタンダード

遠景で開放絞り。このレンズの特徴が表れる条件のひとつで、球面収差で柔らかな描写が得られています。少しネガティブな表現をすると、シャープには写っていません。しかも若干ピントをミスっていますので主題とした紅葉の滲みは期待よりも強くなってしまいました。でも、それが写真らしさがあって良いと思ったので、敢えてミスったカットを採用しました。こうした失敗から、自分なりの発見が得られると「こういう手段があったか」と楽しくなります。

Z f/NOKTON D35mm F1.2/絞り優先AE(F1.2・1/1,250秒・+1EV)/ISO 100/50mm相当(DX)/ピクチャーコントロール:[NL]ニュートラル

MACRO APO-ULTRON D35mm F2

NOKTON D35mm F1.2と表記の上では同じ画角ですが、こちらは35mm判換算52.5mm相当の画角とスペック表に記載されており、実際にこちらのほうが少し長く感じられます。名称にAPOとある通り色収差を徹底的に抑制した設計となっていて、絞り開放から繊細でクリアな描写を楽しめ、絞りや撮影条件による描写の影響は少ないです。強いて言えば周辺部の柔らかさに多少変化がある程度。NOKTONシリーズとは異なり、いわゆる「最新の高性能レンズ」的な性格があります。

ボディ内手ブレ補正を持つZ fとのマッチングは素晴らしく、近距離でも構図が安定するのが好ましいところ。またピントリングのねっとり感が特に心地良く、マクロレンズに相応しいシビアなピントコントロールができます。今回のように複数本のレンズを撮り比べると、レンズ毎のコンセプトに応じて細かく仕様が調整されていることが体感できて面白いです。


新しいピクチャーコントロールのディープトーンモノクロームで撮影していましたが、日陰の条件でコントラストを出したかったので、従来からあるピクチャーコントロールのモノクロームで現像しなおしました。敢えて少しパースを付け画面上部が被写体深度外になるように撮っています。結像性能が高いことと光学的な精度が非常に高いレンズなので、そうした小さな工夫がちゃんと写真に反映されるシビアさがあり、レンズに技術を試されるようで撮る時には背筋が伸びる思いがします。

Z f/MACRO APO-ULTRON D35mm F2/絞り優先AE(F4.5・1/80秒・-1EV)/ISO 100/52.5mm相当(DX)/ピクチャーコントロール:[MC]モノクローム+フィルター効果Green

開放絞りから素晴らしいシャープネスで応えてくれるレンズで、NOKTONシリーズとはコンセプトに明確な差があります。質感描写を楽しみたい時にはMACRO APO-ULTRONがオススメです。ちなみにフルサイズ用のZ マウントレンズにはAPO-LANTHARがあり、さらに性能と精度が高いレンズとなっていて撮影が非常にシビア。まるでスポーツ競技か測定機を扱う時のように真剣になってしまうレンズという印象もありますが、MACRO APO-ULTRONは性能バランスが丁度良く、「ちょっとスポーティ」くらいの気持ちで遊べるのが良いところでしょう。

Z f/MACRO APO-ULTRON D35mm F2/絞り優先AE(F2・1/200秒)/ISO 100/52.5mm相当(DX)/ピクチャーコントロール:[DM]ディープトーンモノクローム

ほぼ至近端でも高い性能は変わらず。周辺部でも色ズレなどは皆無で「APO」印は伊達ではありません。NOKTONと比べるとピントに若干シビアな面があり、それに応じてピントリングもやや重め。慎重なピント合わせが求められるレンズに相応しい使用感に仕上げられているので、フォクトレンダーレンズの作り込みにはいつも感心させられます。

Z f/MACRO APO-ULTRON D35mm F2/絞り優先AE(F2.5・1/60秒・+2EV)/ISO 450/52.5mm相当(DX)/ピクチャーコントロール:[FL]フラット

NOKTON D23mm F1.2 Aspherical

35mm判換算で約35mm相当の画角となる。接写も得意で、最短撮影距離は約0.18m。レンズフード先端から約10cm程度まで被写体に近寄ることが出来、接写時にはDXクロップ無しでもケラレが気にならないくらいのイメージサークルがある。

描写特性は、基本的に絞り値に依らずシャープで現代的な描写性能だが、近距離かつ絞り開放時には柔らかな描写となるので、撮影条件によっては「こんな表情があったのか」という発見があり、使いこなしの楽しさがある。

Z fでの作例は全てDXクロップせず、撮影範囲をFX(35mmフルフレーム)に設定しつつ、ケラレが目立たないように撮影してみた。この状態では23mm画角らしいワイドマクロ感が出てくるが、こうしたレンズ特性に合わせて撮影や構図を工夫することも発見があって楽しいし、作画の狙いと特性が上手く合致した際はとても気持ち良い。


このレンズは近距離側でイメージサークルが広くなることを利用して、DX用レンズですが敢えてフルフレームで撮影しています。観察すると四隅はケラれていますが、視線がダリアに集中するように画作り含めて工夫したので、そこまでケラレは気にならないかと思います。

DX機との組み合わせでは「寄れるレンズ」くらいの印象ですが、FXで撮ると23mmらしいワイド感も活かせて、印象的な撮影が出来ました。

Z f/NOKTON D23mm F1.2 Aspherical/絞り優先AE(F2・1/125秒・+1.3EV)/ISO 100/FXフォーマット撮影/クリエイティブピクチャーコントロール:[03]ポップ

水路の滝をパチリ。至近側で柔らかさが出てくるレンズという特徴を活かしつつ、水流も勘案してシャッター速度も微妙にブレる辺りを選択しました。撮影時にはフラットモノクロームを選択し、モノクロプリントで周辺を焼き込んだようにケラレを利用しようと試みましたが、少しやり過ぎな気がしたことと、仕事を忘れて似たイメージを量産させてしまいそうだったので、自戒を込めてフラットで現像しなおしました。

Z f/NOKTON D23mm F1.2 Aspherical/絞り優先AE(F1.6・1/320秒)/ISO 100/FXフォーマット撮影/ピクチャーコントロール:[FL]フラット

好物の花が良い光線条件下にあったので思わずパチリ。至近側かつ開放絞りで柔らかさを出しつつ、ケラレを焼き込みとして利用し、視線が対象に集中するように構成してみました。

ピント位置がシビアだったので、撮影時はクリエイティブピクチャーコントロール03のデニムで輪郭を見やすくして撮影し、現像でディープトーンモノクロームを適用しました。注意点として、ディープトーンモノクロームは青系の感度が著しく低く、今回の条件では花びらのトーンがボヤケてしまいます。しかし。シャドートーンの表現が今回の条件では美しく意図に合っていたため、ぜひともディープトーンモノクロームを使いたい気持ちがありました。そこで、フィルター効果Greenで少しバランスをとったところ狙いどおりとなりました。

自己満足ポイントは、カメラの画作りやレンズの収差やケラレなど、今回の機材の特徴をフルに活用でき、大きな達成感があったこと。Z fの強力な手ブレ補正にも助けられました。

Z f/NOKTON D23mm F1.2 Aspherical/絞り優先AE(F1.2・1/800秒・-0.3EV)/ISO 100/FXフォーマット撮影/ピクチャーコントロール:[DM]ディープトーンモノクローム+フィルター効果Green
解説その3:DXレンズをFX撮影するとどうなる?

APS-C用レンズをフルサイズ機に装着するなど、小さなフォーマット用のレンズを大きなフォーマットのカメラに取り付けると、周辺部が黒くケラレてしまうことが多いです。この時に見える丸い像をイメージサークルと呼びます。イメージサークルの大きさは常に一定ではなく、各レンズの設計や撮影時の絞り値・ピント位置によって変化します。そのため、NOKTON D23mm F1.2 Asphericalのようなレンズでは、使い方次第でケラレを作画効果として取り入れることも可能。ただ、DXレンズにおけるDXフォーマットのイメージサークル外はメーカーの保証“外”でもあるので、理解した上で楽しみましょう。

イメージサークル不足のケラレがはっきり見える例
Z f/NOKTON D35mm F1.2/絞り優先AE(F2・1/1,250秒)/ISO 100/FXフォーマット撮影

番外編:Z fcにも好し

番外編というか、メーカーが想定する本来の使い方をした場合のマッチングも紹介します。Z fcはDXフォーマット機ということもあり、Z fと比べてコンパクトで可愛らしいですね。筆者の好みだけで言えば、Z fでも実現して欲しかったFM2(フィルム一眼レフカメラ)に近いサイズ感で、良いなと思います。

Z fcシルバーと組み合わせた

今回の3本のレンズとのマッチングは申し分無く、コンパクトなレンズとコンパクトなボディの組み合わせが美しいです。お手頃価格ゆえ、ボディがガチガチに高級仕立てでないところも、軽やかかつ楽しげで良いところ。アクセサリー的に(落合憲弘カメラマンの言葉を借りるなら「ステキなネックレス」として)Z fcを持つのもアリでは? と、つい思ってしまいました。

ちなみにNX StudioでRAW現像すれば、Z fで採用された最新のピクチャーコントロールをZ fcでも楽しめるので要チェックです。

NOKTON D23mm F1.2 Aspherical

Z fcはバッテリー・メディア込で約450gしかないので、本レンズと組み合わせても約700gに収まり、天候を気にせず持ち歩けるサイズなのが嬉しいです。色々なものにレンズを向けて、ピントを合わせる。ピントは合って良し、合わなくても好し。レトロなスタイルのカメラとMFレンズの組み合わせに、写真学生の時の気持ちを思い出しました。


撮影条件的には少しシビアでフリンジが出やすい条件ですが、キレイに描写されています。いわゆる「味わい」だけではなく、基本的な光学性能がシッカリしていることが分かります。ボケ感にはやや特徴的なところもありますが、コンパクトなレンズとしては素直な表現でしょう。

Z fc/NOKTON D23mm F1.2 Aspherical/絞り優先AE(F1.4・1/800秒・+1EV)/ISO 100/35mm相当/ピクチャーコントロール:[NL]ニュートラル

撮影当初は背景がクリアだったので、開放から半段程度絞った状態でベンチにピントを合わせていましたが、タイミング良く背景に写り込みがありました。奥をゆく人物にピントを合わせるか、手前のベンチにピントを合わせるか、こういったシーンでは悩ましいところ。どのパターンも撮ったのだけど、自分はこの雰囲気に惹かれて撮影しているのだ、と初心を思い出し、咄嗟に開放絞りかつベンチから微妙に前ピンにしてパチリ。MFレンズはこうした時に直感的に対応出来るのが良いところです。

Z fc/NOKTON D23mm F1.2 Aspherical/絞り優先AE(F1.2・1/1,250秒・+0.3EV)/ISO 100/35mm相当/ピクチャーコントロール:[DM]ディープトーンモノクローム+フィルター効果Green

NOKTON35mmF1.2とは異なる性格で、遠景の開放近辺でもピント位置はとてもシャープ。レンズの特徴を出す為にほぼ開放で撮影しましたが、気分的にも周辺までシャープに写すことを望んでいなかったため、この結果に満足しました。

この様に、同じNOKTONのラインでも性格が違うのが楽しいところです。

Z fc/NOKTON D23mm F1.2 Aspherical/絞り優先AE(F1.3・1/4,000秒)/ISO 100/35mm相当/ピクチャーコントロール:[FM]フラットモノクローム

NOKTON D35mm F1.2

NOKTON D23mm F1.2と同様にボディとセットで約700gというのが素晴らしいですね。見た目は一番好みだったので、それだけでも気分が良いです。

撮影条件によって多くの表情を楽しませてくれるレンズなので発見が多く、被写体や環境への興味が尽きません。いつもの道でも新しい場所のように感じられることが、このレンズの最大の魅力かも知れません。


影のエッジをシャープに表現したかったので、少し絞り込み、ピントも壁とモップのギリギリを狙って撮影。レンズの特徴を踏まえつつ、絞りの選択を行い、狙い通りに表現出来た時は気分が良いし、なにより写真が少し上達したような気持ちになる。「職業カメラマンが何言ってるの?」と思うかも知れませんが、とても大事な感覚です。それだけ狙い通りに撮ることは難しい。達成感というご褒美があるから楽しく写真出来ています。

Z fc/NOKTON D35mm F1.2/絞り優先AE(F4.5・1/1,000秒)/ISO 100/50mm相当/ピクチャーコントロール:[NL]ニュートラル

水面に浮かぶ落ち葉がキレイで思わずパチリ。日陰部分の美しさと差し込んだ光に反射する水滴に惹かれたのでやや奥目にMFしています。AFで撮影する場合、昨今のカメラはAFポイントの明度を重視して測光するので、AF位置の変更や構図の微妙な変化、光線状態の変化にAEが敏感に反応してしまい、都度露出補正する必要がありますが、MFだと始めに決めた露出でピントを自由に設定出来るので、AFより撮影が楽なシーンも多々あります。

Z fc/NOKTON D35mm F1.2/絞り優先AE(F3.2・1/640秒・-0.7EV)/ISO 100/50mm相当/ピクチャーコントロール:[NL]ニュートラル

クリエイティブピクチャーコントロール07のサイレンスで適用度と彩度を思いっきり下げた設定が、本レンズとの相性が良いように感じました。逆光シーンだったのでフレアの量をコントロールするためにF2.8で撮影しています。画面右下に逆光によるゴーストが少し出ていて、よく観察すると画面全体に薄っすらとフレアの影響があることが分かります。最新レンズではクリアに撮れて気持ち良い一方で、情緒といった部分では味気無い場合があります。NOKTON D35mmでは、ある程度状況をコントロール出来るので、撮影する楽しさや表現の面白さが味わえます。

Z fc/NOKTON D35mm F1.2/絞り優先AE(F2.8・1/160秒)/ISO 220/50mm相当/クリエイティブピクチャーコントロール:[07]サイレンス

MACRO APO-ULTRON D35mm F2

DX機にはボディ内手ブレ補正が無いので、スナップ運用での接写撮影は少しだけハードルが高く感じられます。そのせいか、Z fとの組み合わせと比べて“引き”の写真が多くなってしまいました。描写の違いや、ボディとの組み合わせによる特性が、無意識に「気になる対象」の判定に作用して、撮る写真に変化を与えているように見えます。こうした発見もまた、レンズに存在感があってこそです。


ピント位置のキレの良さはもちろん、明らかにクリアで抜けの良い描写が本レンズの特徴です。写りの特徴によって撮る対象を選ぶ気分も変わるところが、機材選びの楽しさでもあります。

単焦点MFレンズには、AFズームレンズのような対応力は期待出来ませんが、その一方で被写体との出会いを楽しむ、言わば「一期一会」の要素があり、撮影の記憶をより明瞭にしていると考えています。

Z fc/MACRO APO-ULTRON D35mm F2/絞り優先AE(F2.8・1/800秒・+1EV)/ISO 100/52.5mm相当/クリエイティブピクチャーコントロール:[CV07]サイレンス

何故か人工芝のカケラが落ちていたのでパチリ。F2.8で撮ったとは思えないピントの薄さから、このレンズが如何に高い結像性能を持っているか?が分かります。にも関わらず、300g弱の重さしかないことに驚かされます。

正直に言えば、このレンズを常用するなら、今回紹介したボディではなくボディ内手ブレ補正と高解像度センサーを併せ持つZ 7 IIが最適だと筆者は思います。

Z fc/MACRO APO-ULTRON D35mm F2/絞り優先AE(F2.8・1/160秒・+1.33EV)/ISO 220/52.5mm相当/ピクチャーコントロール:[NL]ニュートラル

NOKTON D35mmでウロウロしていた時にこの路地裏と出会い、急いでレンズを付け替え撮影しました。緻密な描写性によって、まるで現場の空気まで写し撮っているような印象があります。同じ焦点距離のレンズであっても、どう表現したいか?によって、レンズ選択を変える楽しみがあり、レンズ沼の深さを思い知ります。

少しふざけてみましたが、レンズによって気分が変わることは紛れもない事実なので、写真道楽の道を歩むと決めた以上は、敢えて深い沼に挑まなければならない時もあります。

Z fc/MACRO APO-ULTRON D35mm F2/絞り優先AE(F2.5・1/160秒・-1.33EV)/ISO 280/52.5mm相当/クリエイティブピクチャーコントロール:[CV07]サイレンス

まとめ

コシナ・フォクトレンダーレンズに触れてみると、操作部の感触にそれぞれ理由があることが分かります。絞りリングはコリコリと心地良く、明瞭な操作感ですが、クリックとクリックの間の中間絞りでも意図を持って選択出来るようになっています。このチューニングが絶妙なのです。

ピントリングの操作感は、レンズの性格によって操作トルクの設定に幅がありました。マクロレンズなどのシビアなフォーカスコントロールが必要なレンズでは、重めの操作感で慎重な操作に応えてくれるので、かゆいところに手が届く感があります。

写真は対象に興味を持つことで始まります。小さな「おっ」というシンプルな欲求に対して、操作が追いつくかどうかは別として、意のままに操作し意識を被写体に集中出来ます。

その結果がたとえ失敗だったとしても、マニュアル操作であれば責任の所在と原因が明らかなので、筆者の場合はそれが心地良いですし、失敗から学ぶことも多いので、時には積極的に失敗しに行くことも大切でしょう。

カメラに選択肢の多くを委ねると撮影時の記憶は薄れてしまうけれど、自分で判断しながらマニュアル操作した場合は、1枚1枚の印象が濃い体験になります。結果だけではなく、撮影に至るまでの過程もまた写真の醍醐味です。

1981年広島県生まれ。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープの写真に感銘を受け写真家を志す。日本大学芸術学部写真学科卒業後スタジオマンを経てデジタル一眼レフ等の開発に携わり、その後フリーランスに。黒白写真が好き。