【新製品レビュー】PENTAX K-5 IIs

~“ローパスフィルターレス”の実力を探る
Reported by 中村文夫

 「PENTAX K-5 IIs」は、「PENTAX K-5 II」をローパスフィルターレスにしたモデル。ローパスフィルターレスというと、手法は違えどニコン「D800E」が思い浮かぶが、実はペンタックスはすでに中判デジタルカメラ「645D」でローパスフィルターレスを実現しているし、実は「PENTAX Q」シリーズもローパスフィルターレス。ペンタックスとしては、3台目のローパスフィルターレス機なのだ。

PENTAX K-5 IIs。発売は10月19日。ボディのみの実勢価格は12万4,800円前後

 ローパスフィルターレスは、モアレや偽色が出やすい反面、高い解像度が得られるメリットがある。そのため高精細な写真が好まれると同時にモアレや偽色が目立ちにくい風景写真の分野で需要が高い。

 なかでも大型センサー(44×33mm)を搭載した645Dは、この分野で絶大な人気を誇るが値段の高さ がネック。これに対しPENTAX K-5 IIsの実販価格は、645Dの1/6程度。低予算でローパスフィルターレスの描写が味わえるカメラとして注目が集まっている。そこで今回は“ローパスフィルターレス”にスポットライトを当て、深く掘り下げることにしたい。

K-5 IIs v.s. K-5 II

 最初に紹介する作例は、ローパスフィルターありのPENTAX K-5 IIとの比較である。画面を拡大するまでもなく、PENTAX K-5 IIsの画像は非常にシャープで、タンポポの綿毛の1本1本が鮮明に再現されている。これに対しPENTAX K-5 IIは柔らかな印象。PENTAX K-5 IIsと比較しているので、鮮明さに欠けるように思えてしまうが、決してPENTAX K-5 IIの画がソフトなのではない。PENTAX K-5 IIsがシャープすぎるだけなのだ。

PENTAX K-5 IIs(右)とPENTAX K-5 II(左)

 またPENTAX K-5 IIシリーズにはシャープさを強調するファインシャープネスとEXシャープネスが搭載されているが、これをオンにしても、PENTAX K-5 IIはPENTAX K-5 IIsに敵わない。PENTAX K-5 IIsのローパスフィルターレスの威力は想像以上だ。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
  • 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。

※共通データ:smc PENTAX-DA 35mm F2.8 Macro Limited / F5 / 1/60秒 / 絞り優先AE / +0.3EV / ISO200 / WB:オート / カスタムイメージナチュラル

ファインシャープネスオフ(等倍切り出し。クリックでオリジナル表示)

PENTAX K-5 IIsPENTAX K-5 II

ファインシャープネスオン(等倍切り出し。クリックでオリジナル表示)

PENTAX K-5 IIsPENTAX K-5 II

EXファインシャープネスオン(等倍切り出し。クリックでオリジナル表示)

PENTAX K-5 IIsPENTAX K-5 II

モアレはどの程度出るのか?

 次はモアレと偽色について。正直に言うと、この作例を撮るのに意外と苦労した。規則正しいパターンの被写体を用意すれば簡単にモアレを撮れるだろうと高をくくり、最初は網戸を撮ってみたが、モアレも偽色もまったく現れない。そこで布地ならと、目の粗いナイロン、冬用スーツと、だんだん目の詰まった生地に変えていったところ、何とかスーツ裏地のキュプラでわかりやすい画が撮れた。

ネームタッグの右側、布がしわになった部分にモアレが現れた。カタログなどに使う商品写真だったら問題になるだろう。(等倍切り出し。クリックでオリジナル表示)PENTAX K-5 IIs / smc PENTAX-F Macro 50mm F2.8 / 1/250秒 / 絞り優先AE / / ISO400 / WB:オート / カスタムイメージナチュラル

 撮る人によって被写体や撮影条件は違うし、許容レベルも異なるので一概には言えないが、私の率直な感想は、通常の撮影なら目くじらを立てる必要はないということ。高解像度とこの程度のモアレや偽色の出やすさのどちらを取ると聞かれたら、私は高解像度を選ぶだろう。

クラシックレンズを試す

 「タクマーのようなクラシックレンズを組み合わせたらレンズ自体がローパスフィルターのような役目を果たし、意外と面白い画が撮れるかも知れません」。以前ペンタックスの技術者と交わした雑談の中で、こんな話が出た。それ以来、ずっと気になっていたが、遂に自分の目で確かめることができた。

Auto Takumar 35mm F2.3

 最初に紹介するのは、ペンタックスが1958年に発売したペンタックス初のレトロフォーカス広角レンズ。ペンタックス社史には国産初の一眼レフ用レトロフォーカスレンズとある。

EXシャープネスで撮影。ピントが合っている画面中央部の葉は非常にシャープだが、距離が近い右側はボケが強調され、不自然に見える。もともとボケ味の良くないレンズではシャープさを強調し過ぎない方が良さそうだ。PENTAX K-5 IIs / F2.3 / 1/2000秒 / 絞り優先AE / +0.3EV / ISO80 / WB:オート / カスタムイメージ:鮮やか砂の一粒一粒が、とても鮮明に写っている。ファインシャープネスはオンだがボケ味はそれほど悪くない。PENTAX K-5 IIs / F4 / 1/640秒 / 絞り優先AE / +1EV / ISO100 / WB:オート / カスタムイメージ:ナチュラル / ファインシャープネス:オン

smc PENTAX 35mm F2

 1975年に発売されたKマウント初期の大口径広角レンズ。2枚の球面レンズを組み合わせて非球面レンズと同じ効果を得ている。

Auto Takumarと同じ被写体を撮影。こちらの方がボケ味が柔らかでコントラストが高め。PENTAX K-5 IIs / F4 / 1/500秒 / マニュアル露出 / ISO100 / WB:オート / カスタムイメージ:ナチュラル / ファインシャープネス:オン解像度が高いレンズだとファインシャープネスをオンにしなくても、かなりシャープに写る。PENTAX K-5 IIs / F4 / 1/30秒 / マニュアル露出 / ISO80 / WB:オート / カスタムイメージ:鮮やか

Super Takumar50mm F1.4

 1965年発売の大口径標準レンズ。トリウムを含んだ硝材を用いたアトムレンズとして有名。

画面中央の雪の結晶を描いた部分に色収差が発生している。ファインシャープネスをオンにしたら、かえってこの部分が目立ってしまった。PENTAX K-5 IIs / F1.4 / 1/320秒 / 絞り優先AE / ISO80 / WB:オート / カスタムイメージ:鮮やか / ファインシャープネス:オン拡大すると花びらが傷んでいるのがよく分かる。場合によってはシャープすぎるのも考えものだ。PENTAX K-5 IIs / F1.4 / 1/320秒 / 絞り優先AE / ISO80 / WB:オート / カスタムイメージ:鮮やか

smc PENTAX A★85mm F1.4

 A★(スター)レンズは、84年に登場した高品位レンズ。なかでも85mmF1.4はシャープな描写と豊かな表現力で人気が高い。

赤い葉の質感描写が美しい。やはり解像度の高いレンズとだと良い結果が出る。PENTAX K-5 IIs / F1.4 / 1/320秒 / 絞り優先AE / ISO80 / WB:オート / カスタムイメージ:鮮やかこのようにメタリックな被写体はローパスフィルターレス向き。画素数が増えたような印象を受ける。PENTAX K-5 IIs / F5.6 / 1/125秒 / 絞り優先AE / ISO200 / WB:オート / カスタムイメージ:ナチュラル

smc PENTAX-FA 43mm F1.9 Limited

 解像度より見た目の美しさを重視したリミテッドシリーズ第一弾として1997年に登場した標準レンズ。

絞り開放だと柔らかな描写。この場合、ローパスフィルターレスの効果は、それほど顕著ではない。PENTAX K-5 IIs / F2 / 1/1250秒 / 絞り優先AE / ISO80 / WB:オート / カスタムイメージ:ナチュラル

smc PENTAX-Shift 28mm F3.5

 アオリ機構を内蔵した特殊レンズ。高層ビルなどを下から見上げて撮影しても台形に歪まず正しい形で撮影できる。

ライズ(レンズを上方に移動)して撮影。この場合、センサーに斜めから光が差し込むたことになる。*istDなど初期のボディでは、周辺部で像の流れが目立ったが、かなり改善されている。PENTAX K-5 IIs / F8 / 1/500秒 / マニュアル露出 / ISO100 / WB:オート / カスタムイメージ:ナチュラル

まとめ

 あたり前の話だが、もともと解像力の高いレンズをPENTAX K-5 IIsに組み合わせると、よりシャープさが増し、非常に良い結果が出る。またボケにクセのあるレンズだと、そのクセが強調され汚いボケになりやすい。

 さらにファインシャープネスやEXファインシャープネスは、撮影条件次第で良い効果が出たり、逆効果になることも。いわば諸刃の剣で、特にクラシックレンズの場合、多用は禁物である。それほど多くのレンズを試したわけではないが、いずれにしてもPENTAX K-5 IIsはレンズを選ぶボディと言えるだろう。別の言い方をすれば、PENTAX K-5 IIsは研究し甲斐のあるカメラである。

DAレンズの作例

2012年11月14日追記:記事を見た写真家の那和秀峻さんから、左下の写真に輝度モアレが発生しているとのアドバイスをを頂いた。右側の門柱頂部を拡大してみると明るい部分の周辺に輝度モアレによるフリンジが発生している。モアレを故意に発生させることに気を取られ、記事執筆時は見落としていたが、実はこんなに分かりやすい作例が撮れていたとは。いずれにしてもモアレについては、まだまだ経験を積む必要がある。


PENTAX K-5 IIs / smc PENTAX-DA* 16-50mm F2.8 ED AL [IF] SDM / F4 / 1/400秒 / 絞り優先AE / ISO80 / WB:オート / カスタムイメージ鮮やか / ファインシャープネスオンPENTAX K-5 IIs / smc PENTAX-DA 35mm F2.8 Macro LimitedF5.6 / 1/160秒 / 絞り優先AE / ISO80 / WB:オート / カスタムイメージ鮮やか / EXファインシャープネスオン






中村文夫
(なかむら ふみお)1959年生まれ。学習院大学法学部卒業。カメラメーカー勤務を経て1996年にフォトグラファーとして独立。カメラ専門誌のハウツーやメカニズム記事の執筆を中心に、写真教室など、幅広い分野で活躍中。クラシックカメラに関する造詣も深く、所有するカメラは300台を超える。

2012/11/13 00:00