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PENTAX K-5 IIs【第5回】

もう1つのオートホワイトバランス「CTE」を使う

 CTEはK-7から採用されたペンタックス独自のホワイトバランスモードだ。古くからのペンタ党にとってはおなじみのものだけれども、K-5 IIsで初めてペンタックスに触れた方の中には、ホワイトバランス設定の選択肢の中に見慣れない「CTE」という言葉を見つけ、なんだこれ? と思いながらそのままになっているユーザーも多いのではないか。そこで今回はCTEについて振り返りたい。

 CTEは「Color Temperature Enhancement」の略で、直訳すれば色温度強調ということになる。ホワイトバランスを自動調整するという意味ではオートホワイトバランス(AWB)の一種だ。しかし、実際の振る舞いはAWBと大きく異なる。

 被写界に分布する色を平均するとニュートラルグレイ(中性灰色)に近くなるといわれ、話を単純化していうと、そのグレイをグレイに写すことがホワイトバランスコントロールの基準である。AWBは“被写体はグレイである”と仮定し、全体をニュートラルグレイに近づけるように自動調整する。平均的な被写体に対してはこれは巧く作用するが、画面内にキーとなる強い色がある場合、ホワイトバランスを補色方向にシフトしてその色を抑えようとするため、鮮やかに表現すべきキーカラーはくすみ、グレイに近い部分には補色がカブってくる。

 一方CTEは、色の偏りがある場合、それをさらに強調する方向にホワイトバランスを自動的にシフトさせる。つまり、AWBと全く逆の補正を行なう。夕焼け空や緑の草原というような、強い単色系の色で占められる光景をAWBは苦手とし、従来はそのような被写体を撮影する時にはホワイトバランスをマニュアルで設定するというのが常識だった。しかし、CTEにセットしておけば、そんな切替操作なしで印象に近い色(期待色)で写し出すことができるわけだ。ホワイトバランスモードにCTEを備えることは、ペンタックスが風景撮影に強いとされる一因にもなっている。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
  • 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
AWB。HD PENTAX-DA 560mm F5.6 ED AW / 1/2,000秒 / F6.3 / 0EV / ISO1000 / 絞り優先AE / 560mm
CTE。HD PENTAX-DA 560mm F5.6 ED AW / 1/2,000秒 / F6.3 / 0EV / ISO1000 / 絞り優先AE / 560mm
デイライト。HD PENTAX-DA 560mm F5.6 ED AW / 1/2,000秒 / F6.3 / 0EV / ISO1000 / 絞り優先AE / 560mm

 望遠で鴨を捉えた作例では、オートホワイトバランスを適用すると背景の水草の緑を抑えようとしてアンバー+マゼンタの補正がかかり、水草の色に冴えがなくなり、鴨の羽根の模様も分離が悪くなっている。これにCTEを適用すると、AWBとは逆の補正が働き、水草の緑/青が強調され、鴨の羽にも補色系であるグリーンが乗った結果締まりが出ている。それぞれの違いは微妙なものだが、CTEの表現からはスッキリとした印象を受ける。

CTE。DA 17-70mm F4 AL[IF]SDM / 1/640秒 / F6.3 / 0EV / ISO800 / 絞り優先AE / 70mm
AWB。DA 17-70mm F4 AL[IF]SDM / 1/640秒 / F6.3 / 0EV / ISO800 / 絞り優先AE / 70mm
デイライト。DA 17-70mm F4 AL[IF]SDM / 1/640秒 / F6.3 / 0EV / ISO800 / 絞り優先AE / 70mm

 CTEと時を同じくしてK-7以後のボディには環境光センサーが搭載され、被写体色に偏りがある場合でもAWBが影響を受けにくくなった。この例でも違いは微妙なものだが、葉の緑色の出方に関してはCTEがすっきりしており、AWBがそれに次ぐまとまりを見せる。テクニックとして定石と言われるデイライト設定は意外や黄色っぽくなってしまった。撮影は午後の陽が入る条件だったが雲の流れが速く、色温度の安定しない難しい条件だった。

 以上は成功例だが、CTEはあくまでも推論に基づいて強調を行なうに過ぎず、被写体が何であるかを把握しているわけではないので、常によい効果を上げるとは限らない。例えば赤い花のように、色域ぎりぎりで再現されている被写体がCTEによる強調をうけると、飽和してディテールを失ってしまう恐れが大きい。あるいは、無彩色が多い画面の一部を強い色が占めるような構図では、強い色を強調しようとする結果、無彩色の部分にその色相がかぶり、不自然な色合いになってしまう。

 氷川丸の舷側を背景としたウミネコの写真。CTEでの撮影だが、このような無彩色がほとんどをしめる画面構成ならば、結果はAWBとほとんど変わらない。

CTE。HD PENTAX-DA 560mm F5.6 ED AW / 1/1,600秒 / F8 / -0.3EV / ISO1000 / マニュアル / 560mm

 同じくCTEでの撮影だが、強い赤が入ってきたためにそれを強調する補正がかかり、無彩色にその影響が現れる。船体の黒は明度が低いので目立たないが、ウミネコの灰色の羽は赤に転んでしまっている。

CTE。HD PENTAX-DA 560mm F5.6 ED AW / 1/1,600秒 / F8 / -0.3EV / ISO1000 / マニュアル / 560mm

 同じ写真をAWBで書き出すと、赤の影響はあまりなくほぼニュートラルに近いバランスになる。少しくすんだ印象なのは、TAvで撮影した関係で、CTEのホワイトバランスに合わせたゲインコントロールが働いた結果だろう。

AWBでカメラ内RAW現像。HD PENTAX-DA 560mm F5.6 ED AW / 1/1,600秒 / F8 / -0.3EV / ISO1000 / マニュアル / 560mm

 次の例では、コンクリート打ちっぱなしのガレージに駐車していた青いminiを写したのだが、車体の青が強調された結果、コンクリート壁に青みが浮き、入口のレンガタイルのレンガ色も冴えない色になってしまっている。ニュートラルに近い色、あるいはキーカラーよりも彩度の低い補色系の色は、このような影響を受けるようだ。

CTE。DA 17-70mm F4 AL[IF]SDM / 1/25秒 / F11 / 0EV / ISO400 / 絞り優先AE / 58mm
AWB(カメラ内現像)。DA 17-70mm F4 AL[IF]SDM / 1/25秒 / F11 / 0EV / ISO400 / 絞り優先AE / 58mm

 同じショットにカメラ内RAW現像でAWBを適用して再出力した写真を見ると、コンクリートの青カブリはなくなっているが、車体色の冴えがなく、印象はやや弱い。この例ではCTEの効果は功罪相半ばするというところだろうか。

 もう1つ例を挙げると。夕陽に照らされた木陰に停まっていたスクーターの写真では、車体色が夕陽と同系の暖色系であり、かつグレイに近い色があまりないため、夕陽の赤みが強調されてもそれが嫌味にならず、自然に馴染んでいる。これはCTEの効果がよいほうに現れたといえるだろう。

CTE。DA 17-70mm F4 AL[IF]SDM / 1/250秒 / F5 / -0.7EV / ISO800 / 絞り優先AE / 58mm
AWB。DA 17-70mm F4 AL[IF]SDM / 1/250秒 / F5 / -0.7EV / ISO800 / 絞り優先AE / 58mm

 最近のよく躾けられたAWBと較べると少々じゃじゃ馬ぶりの目立つCTEだが、撮影した写真の色彩強調がキツすぎたとしても、そのショットをRAWファイルでも記録しておけば、カメラ内RAW現像やPC上のRAW展開ソフトウェア(PENTAX Digital Camera Utility4など)で設定を変えて再出力することもできるので、怖れる必要はない。ペンタックスのシステムは、普段JPEGで撮影しているユーザーにも、いざという時に素早くRAW記録に切換えることができるように配慮されている。それを利用してRAWファイルを保存しておくといいだろう。

記録モードそのものを素早く変更するにはRAW/Fxボタンを使う。RAW/FxボタンにはデフォルトでRAW+(JPEG+RAW同時記録)への切替が割り当てられており、ワンプッシュでJPEG撮影からRAW+JPEG同時記録に切換えることができる。
デフォルトでは撮影モード設定がJPEG/RAW/RAW+のいずれにあっても、RAW/Fxボタンを押せばRAW+に切り替わり、もう1度押せば元に戻る。この設定も好みに合わせ変更できる。
もう1つの方法はバッファデータのRAWファイル保存だ。JPEG撮影では最後の1ショットのデータがバッファに保持され、再生中右上に「AE-L RAW→SDカード」というようなアイコンが表示される。ここでAE-Lボタンを押せば、ラストショットのデータを、改めてRAWファイルとして保存することができる。
保存したRAWファイルは、RAW記録で撮影したファイルとまったく同様に、カメラ内RAW現像機能や、PC上のRAWコンバーターで処理できる。仕上がりに満足できなかったり、あとから追い込みたい時はRAWファイルを保存しておこう。バッファデータは電源が切れるか、次の撮影を行なうと消去される。それまでの間は保存可能だ。

 CTEについて説明する時に、夕陽などの「強い色を強調する」と説明され、そのように理解されていることが多いようだが、CTEのよさはAWBではくすんでしまうような微妙な色彩の印象を高め、いわゆる期待色に近づけてくれることだ。油絵の技法でいう、下塗りで全面に一色敷くというような感覚で。しかもそれは“オート”で行なわれる。

 AWBの制御がグレイをグレイに、全体をそれなりに仕上げる“再現”のための制御であるのに対し、CTEが行なう制御は青をより青く、赤をより赤くという、いわば“表現”のためのオートなのだ。未だ完成された技術と言えない面もあるが、AWBとCTEそれぞれの利点を理解して活用していくことが大切だと、改めて感じた。

DA 17-70mm F4 AL[IF]SDM / 1/800秒 / F9 / -0.3EV / ISO400 / 絞り優先AE / CTE / 23mm
DA 17-70mm F4 AL[IF]SDM / 1/800秒 / F11 / -0.7EV / ISO400 / 絞り優先AE / CTE / 63mm
DA 17-70mm F4 AL[IF]SDM / 1/400秒 / F16 / -0.3EV / ISO800 / 絞り優先AE / CTE / 48mm
DA 17-70mm F4 AL[IF]SDM / 1/50秒 / F13 / 0EV / ISO400 / 絞り優先AE / CTE / 33mm
FA 31mm F1.8 AL Limited / 1/40秒 / F8 / -0.7EV / ISO800 / 絞り優先AE / CTE / 31mm
DA 17-70mm F4 AL[IF]SDM / 1/250秒 / F9 / 0EV / ISO400 / 絞り優先AE / CTE / 36mm
DA 17-70mm F4 AL[IF]SDM / 1/500秒 / F11 / -0.7EV / ISO400 / 絞り優先AE / CTE / 70mm
DA 17-70mm F4 AL[IF]SDM / 1/400秒 / F11 / -0.3EV / ISO400 / 絞り優先AE / CTE / 70mm

大高隆

1964年東京生まれ。美大をでた後、メディアアート/サブカル系から、果ては堅い背広のおじさんまで広くカバーする職業写真屋となる。最近は、1000年存続した村の力の源を研究する「千年村」運動に随行写真家として加わり、動画などもこなす。日本生活学会、日本荒れ地学会正会員

http://dannnao.net/