新製品レビュー
AF・AE搭載で生まれ変わった高級フィルムコンパクト「Rollei 35AF」
2025年2月27日 07:00
「Rollei 35AF」は、2024年11月に発売されたコンパクトタイプのフィルムカメラ。今ではやや特殊になりましたが、一般的な35mmフィルムを使うコンパクトカメラです。
特筆したいのは、本モデルが1967年にローライ社から発売された「Rollei 35」の意匠を踏襲しているところ。完全マニュアルだった「Rollei 35」より1歩も2歩も進んで、AFと絞り優先AEを搭載しています。
「誰も見たことのない開放絞り値での描写」がAF搭載によって見られるのも素晴らしいところですが、今回はもう少し現実的な使い方に配慮しながらレビューをお届けしたいと思います。
ボディの質感とサイズ感
本家の「Rollei 35」の意匠を引き継いで登場したのが、今回紹介する「Rollei 35AF」。35mm判フィルムのカメラとしてはコンパクトで、レンズ横に配された2つの象徴的なダイヤル、沈胴式っぽいレンズ(後述)といった特徴がよく再現されているだけに、少なくともパッと見では、まさしくRollei 35といったデザインになっています。
ただし、1967年にローライ社から発売された「Rollei 35」とは、使用されている材質や、細部の造りこみが異なるのは当たり前のこと。AF機能が組み込まれたことも影響しているのでしょうか? ボディサイズにしても、本家「Rollei 35」の約96.5×60.5×32.2mmだったのに対し、「Rollei 35AF」は約104×75×56mmと、ひと回り大きくなっています。
各部詳細
固定搭載されているレンズは、焦点距離35mmで絞り開放F2.8の「Rollei Lens」。ドイツ製の「Rollei 35」に搭載されていたカールツアイスの「テッサー 40mm F3.5」とは異なるレンズになっています。レンズ構成の詳細は不明ですが、5枚構成ということですので、テッサータイプのレンズ構成は採用されていないようです。
本家「Rollei 35」のレンズは沈胴式が採用されていましたが、本モデルはデザインこそ似せていますが沈胴式ではありません。AFが採用されているのですから当然と言えば当然です。また、鏡筒は本家のような金属製でなく樹脂が採用されています。
カメラ正面、レンズ左側にあるダイヤルは、絞り値を設定するための重要なダイヤルです。本家「Rollei 35」にはあった絞りダイヤルロックボタンは搭載されておらず、そのため簡単にF2.8からF16まで絞り値を設定することができます。なお、同軸の内側にもう1つ設けられているダイヤルがありますが、これは撮影可能枚数を記録するためのダイヤルです。ただし、こちらは単なる「メモ」になります。ちなみに、これらのダイヤルも樹脂製です。
また、カメラ正面、レンズ右側にあるダイヤルは、シャッター速度を設定するとともに、絞り優先オート「A」と、-2~+2EVの露出補正を設定するためのダイヤルになっています。本家「Rollei 35」はマニュアル露出のみでしたが、「Rollei 35AF」は絞り優先AEが可能です。こちらのダイヤルにも同軸にもう1つダイヤルが設けられています。フィルムのタイプ(ネガかポジか、カラーかモノクロかなど)を記録するためのものですが、これもやはりカメラに作用する機能ではなく、要するに「メモ」になります。
シャッターボタンと同軸上に配置された「電源・モード切り換えスイッチ」で、「フラッシュなし撮影モード」と「自動フラッシュモード」が選択できます。また、「iso」では装填したフィルムのISO感度を手動で設定できます。
ただ、本モデル「Rollei 35AF」は、DXコードの電子接点を備えているため、DXコード付きのフィルムを使えば自動的にISO感度が設定されます。
ファインダーは外観から判断するとアルバダ式を採用しているようです。近距離撮影用の視差補正の表示もない簡素なもので、厳密な構図づくりは難しいのですが、コンパクトカメラのファインダーというのは概ねそういうもの。想像しながら撮る行為を楽しみたいところです。
ファインダー接眼部の横にはインジゲーターライトが備えられています。緑色のライトはAF用で、シャッターを半押しして点灯ならAF完了の合図、点滅の場合は被写体との距離が近すぎる警告になります。
橙色のライトはフラッシュ撮影用で、点灯ならフラッシュのチャージが完了した合図、点滅の場合はまだチャージが完了していない状態を示します。
AFや絞り優先AEだけでなく、フラッシュを内蔵しているのも、本家「Rollei 35」と異なるところですね。
本家「Rollei 35」はメカニカルカメラですので、露出計のメーターやフィルムカウンターなどはアナログ表示でしたが、「Rollei 35AF」はシャッターボタン横に搭載された「OLEDディスプレイ」に集約されて表示されます。撮影者が切り換えることなく「フィルムカウンター」、「撮影モード」、「露出」などが、必要な時に適宜アイコン表示されるようになっています。
ただし、手動であっても「ISO感度」は「モード切り換えスイッチ」を「iso」にしたときに表示されるようになっています。また、フィルムカウンターはフィルムを巻き上げた後に数秒間だけ撮影枚数が表示されますが、それ以外にもシャッターボタンを半押しすることで表示させることができます。
本家「Rollei 35」では「レンズ解除スイッチ」(沈胴式レンズを採用していたので)だった位置のボタンは、「Rollei 35AF」で「セルフタイマーボタン」になっています。シャッターを半押ししてピントを合わせた後に、このボタンを押すことで10秒のカウントダウンの後にシャッターが切れます。「Rollei 35」にはなかった、現代的な機能ですね。
使用するバッテリーは「CR2」です。フィルムのコンパクトカメラでよく採用されるタイプの電池で、カメラ背面に備えられた電池室に規定通りプラスマイナスを合わせて装填しましょう。
レザーハンドストラップが同梱します。「Rollei 35AF」の高級感を損なうことのない立派な造りで、小さいだけにウッカリ落としかねないカメラの落下事故を防いでくれます。
レンズをキズやホコリなどから守ってくれるレンズキャップも同梱されていますが……、これがポロリと脱落しやすく、ちょっと困ってしまうことがありました。サイズに合わせた最適なレンズキャップを別に探すと言うのもアリかも知れません。
フィルムの装填
フィルムを装填する際には、一般的なフィルムカメラの裏蓋開閉式と異なり、底蓋をスライドして取り外す方式が採用されています。本家「Rollei 35」と同じではありますが、その作法がわりと特殊ですので紹介してみます。
裏蓋を引き出すためには、まずカメラの底部にある「裏蓋開閉スイッチ」をスライドして、ロックを解除します。
ロックを解除したらスライドさせることで裏蓋を外します。よく考えられているなあと思うのは、ハンドストラップは裏蓋側に付いているので、裏蓋を外した後も手首にかけるなどして保持できるところ。一般的なカメラでは裏蓋側に装備されている「フィルム圧板」ですが、底蓋式の本モデルでは本体側に備えられています。
パトローネの軸にある凸部をフィルム室に追い込んで装填したら、フィルム先端部を引き出して(引き出しすぎないように注意)、フィルムの穴が2~3個ほどはみ出るように、3つの矢印があるスリットに差し込み、「フィルム圧板」を閉じます。
その状態のまま、カメラの電源スイッチを「通常撮影モード」に入れてシャッターボタンを押し、さらに「フィルム巻き上げレバー」をしっかり回し、フィルムがスプールに確実に巻き取られていることを確認します。確認できれば底蓋を元に戻し「裏蓋開閉スイッチ」をロックしますが、底蓋が正しく収まっていないと、光線漏れでフィルムが感光してしまったり、カメラが破損してしまったりすることもあるので注意が必要です。
裏蓋を(正確に)閉じたら、シャッターボタンを半押しして「フィルムカウンター」を表示させますが、そのときの表示はデフォルトで「-2」になっていると思います。そこから「フィルム巻き上げレバー」を2回巻き上げてカウンターを「0」にするのですが、下の写真のように、かなり奥までレバーを回し込む必要があるので、これも注意が必要です。前述の裏蓋を閉じる前の給装や、通常撮影時の給装も同じで、思ったよりも回転角度が広く、そして重いため、しつこいようですが注意してください。
AFや自動露出、DXコードへの対応など、いろいろと便利になった「Rollei 35AF」ではありますが、フィルム装填の面倒な作法は従来と大して変わりありません。しかし、ここまでくれば撮影状態が完了し、普通に楽しんで撮影することができます。慣れてしまえばどうと言うこともありませんし、案外こうした作法が楽しくなってきたりもします。
フィルムの巻き戻し
フィルムの巻き戻しについても、あらかじめ紹介しておきたいと思います。
撮影が終了しフィルムを巻き戻すときは、まずファインダー接眼部横にある「巻き戻しノブ」を上方向に回転させます。回転させると「!」マークが見えるようになるので分かりやすいです。
次に、カメラ底部の「巻き戻しクランク」を引き出し、抵抗感がなくなるまで矢印方向にクランクを回します。かなりトルクは重めなうえに、途中で軽くなったように感じることもありますが、完全に巻き戻せるまでには結構かかりますので注意が必要です。
巻き戻しが完了したら、「裏蓋開閉スイッチ」をスライドしてロックを解除し、底蓋を外したうえでフィルムを取り出します。フィルムが完全に巻き戻っていない状態で裏蓋を外してしまうと、パトローネに戻っていない部分が感光してしまうので、初めての場合はしつこいくらいに確認することをオススメします。
作例
本家「Rollei 35」とは異なるレンズが搭載されており、さすが新設計のレンズだけあって解像性能は優秀なものです。ただ、良く言えば現代的で安定しているとなりますが、悪く言えばオールドレンズらしい味がないということでもあり、そこに一抹の寂しさを感じないでもありません。しかし、当時に比べればフィルムの粒状性なども遥かに向上しているので、レンズの性能向上は必然と言えるでしょう。
そして、目測でしかピントを設定できない元祖「Rollei 35」と異なり、AFによって開放絞り値でもピントを合わせられるようになったのが「Rollei 35AF」の醍醐味と言えると思います。ただし、近接撮影でのピント合わせ(最短撮影距離70cm)はやや苦手で、近距離になったことによる視差を考慮する必要があり、ここらへんはややナレとコツを要します。
先に「現代的な」性能をもったレンズと評しましたが、意図的かどうかは不明なものの、逆光時にはほどよくフレアが回って、ある意味好ましいオールドレンズらしさを醸し出してくれます。測光方式が中央部重点測光ですので、中央付近に強い光源があると思いっきりアンダーになるところも懐かしさを感じます。露出補正やマニュアル露出を駆使して、意図した表現を創出したくなります。
シャッター半押しでAFを起動するときに「ジーッ!」と、比較的けたたましい動作音がするのは、AF機能内蔵のコンパクトカメラに共通するところ。半押ししてからAFが作動するまでわずかに長いタイムラグがあるので、慌てずに合焦マーク(緑色ランプの点灯)を待つように心がけたいところです。
元祖「Rollei 35」の重量が約370gと、金属部材を多用しているアドバンテージはありながらもコンパクトカメラとしては重めだったところ、サイズ感はひと回り大きくなっているものの重量約242gに収まっている本モデル「Rollei 35AF」は、やっぱりスナップ撮影のカメラとしての魅力が大いにあります。AFで絞り優先AEを搭載と言うところも、マニュアルが可能とは言えとても便利で、ついつい気軽に頼ってしまうと言うものです。
まとめ
現代によみがえった「Rollei 35AF」は、現代的な新設計のAFレンズを搭載し、便利に使える絞り優先AEを搭載しているなど、誰でも不自由なく写真が撮れる現代的なコンパクトカメラとして登場しました。
特に、誰も見ることができなかった、「Rollei 35」の開放絞り値での描写を、なんなく写せるようになったというのは革新的ではないかと思います。本家「Rollei 35」にあったお作法とは、また別のお作法が必要になるのは事実ですが、それにしてもそれらは現代的な範疇に収まっており、むしろ楽しさを感じられることと思います。
フィルム撮影の環境はますます厳しさを増している昨今ですが、こうした自由度の高いカメラが発売されると言うのであれば、思っているよりももっと長くフィルム撮影が楽しめると言うものではないでしょうか?!