気になるデジカメ長期リアルタイムレポート
PENTAX K-5 IIs【第3回】
レンズの描写力を引き出すローパスフィルターレス
(2013/4/26 00:00)
ニコンのD800Eを皮切りにPENTAX K-5 IIsが続き、それ以降「実は弊社のカメラも一部、昨年から光学ローパスフィルターレスでした」というカミングアウトも見られるなど、ローパスレス素子の採用は現在のトレンドといってよいだろう。当初、ローパスレスの特徴は“抜群に高いシャープネス”というニュアンスで紹介され、耳目もその向きに集まった。しかし、約半年使ってみた現在では、ローパスレス素子の採用がもたらしたものは、むしろ“フィルムに近い写り”だと考えている。
“フィルムに近い写り”の意味するところを、言葉だけで伝えるのは無理がある。そこで、今回はまったく異なる個性を持つ2本のレンズの実写をあげ、それぞれの描写をK-5 IIsがどのように表現するのかを見て頂こうと考えた。選ばれた2本とは、まずフォクトレンダーの「NOKTON 58mm F1.4 SL ZK」。そして、ペンタックスの「DA 40mm F2.8 Limited」だ。
はじめに両レンズの概略をおさらいしておくとしよう。NOKTON 58mmは本来、大口径標準レンズとして設計されたものだが、非点収差やコマ収差を抑えるために球面収差を多めに残した設計の結果、開放に近い絞りではハイライトに光のにじみを伴う柔らかい描写が持ち味で、上品なソフトフォーカスレンズとしての性格も併せ持つ。
35mm一眼レフ用標準レンズとしては長目の58mmという焦点距離を採用した結果、APS-C機に対してはフルフレーム換算87mmに相当する中望遠レンズになる。最短撮影距離45cmと接写能力も高く、K-5 IIsで使えば大口径F1.4ソフトフォーカス中望遠マクロ……という全部のせ的なスペックと、ローパスレスの鮮鋭描写の組み合わせが楽しめる。
対するDA 40mm F2.8 Limitedは、シャープな描写が得られるレンズ構成として定評のあるテッサータイプの光学系を持つ。
40mmという焦点距離は一眼レフ用テッサーとして標準的な設定。本来35mmフルサイズに対して準広角であるはずのところ、APS-C専用レンズであるため換算画角60mm相当の準望遠レンズになる。画角としては“無意識にながめる”時の視野に近く、スナップ用にもいいが、どちらかと言えば、シャープな描写を活かした風景撮影向きのレンズだ。
実写作例に入る前にお断りしておかなければならないが、今回の作例はカメラ本来の描写力を見て頂くためにRAW記録で撮影している。デジカメWatchではカメラのJPEG圧縮も性能の1つと考え、カメラでJPEG撮影された作例の掲載を基本としている。しかし、それでは撮像素子の能力を充分に見て頂けないおそれがあったので、今回はRAWで撮らせていただくようお願いした。
RAWファイルの形式はDNGではなくPEFファイルを選び、比較用としてローパス付きの先代「K-5」でも同じ被写体を撮影した。現像には私が常用しているPhase Oneの「Capture One Pro 7」を採用し、現像時の調整は露出やWBのわずかなばらつきを抑えるにとどめ、描写に大きく影響するトーンカーブ、クラリティ(マイクロシャープネス)などはデフォルト。ノイズリダクションはほぼゼロに設定し、シャープネスは各カメラのデフォルト設定を適用した。
◆ ◆ ◆
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
それではまず NOKTON 58mmから見ていこう。作例として小さな花瓶に生けた花を接写した。大きさは高さ15cm、差し渡し8cmほどで、レンズの至近限界近くの接写になる。
・K-5 IIsで撮影
※共通設定:NOKTON 58mm F1.4 SL ZK / 3,264×4,928 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / 58mm
・K-5で撮影
※共通設定:NOKTON 58mm F1.4 SL ZK / 3,264×4,928 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / 58mm
*この写真(F11)のみ、おそらく近隣の自動車の通過振動に共振したらしく、左側の一番大きな花だけブレている。作例として支障ない範囲と判断して掲載するが、勝手ながらその件はご容赦ください。
K-5 IIsとK-5のデータを比較すると、素のK-5の方はアウトフォーカスに移行する領域で急激にディテールが失われ、かつピントが合っている領域の描写がいわゆる“線の太い”感じになってしまっている。対するK-5 IIsで撮影した写真は、奥行きのボケの中の立体感もよく保たれ、シャープなピントを得ている領域では解像線が細く、葉の表面や茎の細かい毛先を繊細に描写しているのが読み取れるだろうか。
続いてDA 40mmで試してみよう。ここでは“鷹の眼”とあだ名されるテッサータイプの持つ解像力がいかに引出されるかを見るため、屋外風景をパンフォーカスで狙ってみた。フォーカシングはAFに任せ、左右中央のベンチの上に位置する暗がり部分の直上の枝にAFターゲットをあわせた。
・K-5 IIsで撮影
※共通設定:DA 40mm F2.8 Limited / 4,928×3,264 / 0EV / ISO400 / 絞り優先AE / 40mm
・K-5で撮影
※共通設定:DA 40mm F2.8 Limited / 4,928×3,264 / 0EV / ISO400 / 絞り優先AE / 40mm
開放F2.8ではやや甘いがこれは無限遠近くのAFの難しさもあり、それでも素のK-5の同絞りと較べればかなり良好な描写ではある。F4あたりから収差は気にならなくなり、F16より小絞りでは回折の影響で若干解像力が下がる。しかし、K-5 IIsでのF22とK-5での最良絞り(F8~F11)のデータを比較しても若干前者の方がシャープに見えるほどで、実用上は開放以外どの絞りを選んでも解像力に不足を感じることはないだろう。
こうして基本的に同じセンサーのローパス有り/無しを積む2機種で比較してみると、テッサータイプの実力を引出すにはローパスレス素子との組み合せがふさわしいことを強く感じさせられる。
従来の撮像素子では、信号から画像データを生成する際に、ローパスフィルター由来の解像損失を抑えるため強めのシャープ処理が必須だった。ローパスレス撮像素子ではその処理がずっと軽いもので済むため、微細な光学的ディテールが潰されてしまう事もなく、レンズが捉えた光学像をそのまま写真に収める事が可能になる。つまり、従来デジタル写真につきものとされていた“デジタル臭さ”とは、言い換えれば“ローパス臭さ”だったというわけだ。
ペンタックスのデジタル一眼レフカメラは初代の「*ist D」の頃からフィルムに近い写りを追求し、ユーザーにもそこが評価され、根強く支持されて来た。“よりフィルムに近い、写真らしい写り”を求める流れの上では、自然なトーンが得られるローパスレス素子の採用はペンタックスにとって必然だったのだろう。その思想が結実したプロダクトとしてのK-5 IIsを評価するとき、シャープネス/先鋭性だけではなく、そこからもたらされるフィルムに近い描写力にも改めて注目すべきだろう。