交換レンズレビュー
タムロン 12-20mm F2.8
驚くべき高画質で星景撮影にうってつけの超広角ズームレンズ
2026年7月18日 12:00
8月末、タムロンからワイド側12mm、テレ側20mmの超広角ズームレンズが発売される。
開放F値はズーム全域でF2.8と明るさも十分。無限遠でのサジタルコマフレアも抑えられているため、星景写真にも最適な1本だ。
いち早くお借りすることができたので、星景写真を中心にレポートをお届けする。
軽さと機能美を備えたデザイン
外観の第一印象は「素晴らしく黒いレンズ」だ。コーティングもさることながら、鏡胴内部の艶消し処理が適切であり、12群17枚という多数のレンズで構成されていることを全く感じさせない。覗き込んでみるとしっとりと濡れているようにさえ思える。迷光の少なさやヌケの良さに関わる部分だけに、期待が膨らむ。
デザイン面でいえば、シンプルなラインの中に多数のボタン、スイッチが整然と配置され、機能的な便利さを感じさせながら上品にまとまっている。
12mmからという超広角、しかもF2.8ズームレンズであることから、サイズは大きめだ。しかしながら、重さはニコンZマウント用で585g(ソニーEマウント用570g)と軽く、レンズ単体で持ってみると驚いてしまうくらいだ。
鏡胴中ほどの円周に沿って、2つのボタンと6つのスライドスイッチが配置されている。ボタン2つはCUSTOM切り替えスイッチと合わせて、ボディ側から機能を割り当てられる。そのほかのスイッチ類はレンズ単体での動作を切り替えるものだ。
なかでもありがたいのは、MF LOCKの存在だ。その名の通り、MF時のピントを固定するものだが、常に無限遠で撮影する星景写真においては何者にも代え難い機能だ。
精密に星にピントを合わせても、ポジションを移動する時や、ヒーターやフィルターを取り付ける際などに振動でピントが動いてしまう、あるいはズームリングとピントリングを間違えて回してしまうことなどは、星景写真でよくある失敗だ。ピントを合わせたあとにロックしておけば、このような失敗を未然に防ぐことができる。
そもそもニコンの最新ボディには、ピントの保存と呼び出し機能が備わっているが、レンズ交換やバッテリー交換をすると、その保存したピント情報が失われてしまう。だからこそ、レンズ側にMFロックがあることが大変ありがたいのだ。
さらに言えば、このMFロックは機械的にではなく電子的に機能しているようだ。MFロックをオンにしてズームリングを回してみるとピント表示も動くことがわかる。現代のズームレンズといえど、ズームすれば多少の焦点移動、つまりピントの位置がずれる。これをMFロックでは補正していると思われる。
バーティノフマスクという客観的に星のピントを検出するデバイスを使って、12mmから20mmの間のいずれの位置でもピントのずれが発生していないことが確認できた。つまり、一度ピントを合わせてしまえばMFロックを解除しない限り、一晩中快適に星景撮影が楽しめるということだ。
同梱のラッピングクロスとレンズフードに感心
付属品は前後キャップとラッピングクロスだが、この付属品も素晴らしいものだった。
まず、ラッピングクロスだが全面が面ファスナーになっており、風呂敷のようにレンズを包み込むようにして使う。一般的には巾着袋のようなレンズケースが多いが、大型のレンズでは袋自体が大きくなって使わないときには邪魔になる。
そして何より、夜露に濡れがちなのが星景写真の撮影だ。濡れてしまったレンズは巾着袋には引っかかって収納しにくい。そうしたストレスがなくなることが本当にありがたい。
そしてもう一つ、嬉しかったのはレンズキャップだ。本レンズは前玉が突き出たいわゆるデメキンレンズで、かぶせ式の花形フードが付属している。かぶせ式のレンズキャップでロックできるタイプの場合、一般的にはめ込む位置が決められている。ロック機能自体はありがたいのだが、これがストレスなのだ。
本レンズでは、内側のネジが4方に開閉するようになっているため、花形フード装備でありながら、レンズキャップの取り付け方向に制約が出ない。どの方向からキャップをしてもしっかりと固定されるのだ。
クロスもキャップもあまり注目されることのない付属品だが、小さくても使い勝手が気になるとそのストレスが積み重なってゆくものだ。地味な取り組みと言えるが、タムロンの開発姿勢に賛辞を送りたい。
フィルターホルダー
デメキンレンズということで、当然レンズ前面によくあるねじ込み式フィルターは装着できない。そこで本レンズでは、リアにシートフィルター用のホルダーを装備している。
ゼラチンやアセテートなどの薄手のフィルターをカットして使う形式だ。
樹脂製ながらレンズヒーターとの相性も良し
本レンズの特徴である軽さは特筆ものだが、鏡胴外皮が樹脂製であることもその要因だろう。その一方で、星景写真では気になる点が浮かぶ。
星景写真を撮るうえでいつも障害になるのは、夜露でレンズが曇ることだ。一般に夜露が降りるのは秋から冬と言われているが、そんなことはない。年中だ。筆者はこの数年、夜露によるレンズの曇りを観測・研究しているが、条件さえ揃えば季節に関係なく起きる。
そこで必ず、星景撮影時にはレンズヒーターを使っているが、気になる点というのは、樹脂製外皮を通して熱がレンズに伝わるかという点だ。
そこで、ヒーターの熱が伝わる様子をサーモグラフで撮影してみたのが以下の写真だ。結果、レンズ第1面中心部まで熱が伝わるのにおよそ30分を要した。ヒーターの熱量にもよるが、全金属製の鏡胴の場合は15分程度なので、熱はしっかり伝わるものの時間はかかってしまうという結果だ。
しかし、伝わるのであれば問題ない。いつもより早めに電源を入れる、熱量の多いヒーターに変える、事前にレンズを温めておく。以上のうちいずれかの対策で十分に夜露によるレンズの曇りを防止できる。
作例:地上風景
夕暮れ時、古い郵便ポストが佇んでいる。ここではボケを見てほしい。解像力の高いレンズでは、ボケが二線ボケとなりガサついた描写になりがちだ。しかし、本レンズではご覧の通り、柔らかいガウスボケとなっていて自然でスムーズな描写だ。
もちろんピント面はシャープであるが、突然ボケが立ち上がるタイプではなく、ピント面からスムーズに解像感が失われボケにつながってゆくタイプである。12mmという超短焦点でありながら、穏やかでスムーズなボケ表現が特徴だ。
夜明けの漁港。写真レンズ全般において、視野全体で解像力が最良となるのはF5.6からF8だ。ここではF5.6とした。
直射光があたっておらず、全体にコントラストの低い被写体であるにも関わらず、漁船や車のディテールを克明に描写した。
奥の丘の樹木はシャドーの中になるが、シャドー部においても高周波の解像感は損なわれていない。レンズ設計のみならず、コーティングや鏡胴の迷光防止処理がよく効いているからだ。
作例:星景
以降、星景写真を素材に解説してゆくが、一点注意して見ていただきたい点がある。
星景写真では多くの場合、赤道儀を使用する。星の動きを追跡するデバイスだ。長時間露光において、赤道儀を使用すると星は点として写るが、地上の風景は露光時間分ブレて写ってしまうことになる。よって、地上風景の解像感は損なわれることになる。
この点を意識して作例を見てほしい。撮影データに示したが、「赤道儀使用」となっているのは上記の状態、「三脚」としているのは赤道儀を使用せず、三脚のみを使用したので、地上の風景はブレず、星がブレている状態だ。
左上、崖の上に灯台があり、灯台の灯りが空を照らしている。崖や岩を照らしているのは、近辺の街灯であり水銀灯だ。赤道儀を使用していないので、地上風景はブレていない。露光時間も星景写真としては短く5秒としたので、星もブレていないショットである。
ここでは光の当たった崖の描写を見てほしい。絞り開放でありながら、素晴らしい解像力を示している。しかも画面周辺部である。前出のF5.6での描写と遜色のない描写だ。
このショットでは、感度を下げF5.6とした。露光時間は15分。スタートレイルである。もちろん三脚のみの使用だ。
ピントは星に合わせているが、F5.6ではこの画角に対してほぼパンフォーカスとなるので、手前の堤防から奥の岩場、そして星空にまでピントはあっている。細かなディテールまで克明な描写でパンフォーカスによる情報量の多さが魅力的だ。
前のショットとほぼ同ポジションでの撮影。残念ながら街灯が消えてしまったので、ライティング条件は変わってしまっている。こちらは赤道儀を使用し、星を追尾したので星は点として写り、地上風景はブレている。
だが、拡大画像を見ると奥の岩場はさほど解像感が失われておらずシャープな印象だ。これは、岩の明暗の周波数が低い点、そして岩の脈理の方向が赤道儀によって像が移動してゆく方向と合致しているためだ。つまり、赤道儀を使っても、被写体によっては地上のブレが気にならないということだ。
一方、手前の砂利は周波数が高いこと、アウトフォーカスの部分であることからシャープ感は失われているが、距離感からすれば自然なことに見える。
もう一点見てほしいのは星空のフレーミングだが、さそり座から夏の大三角を含めはくちょう座まで、夏の星座を一気に写し取っている。まさに、夜空を見上げたその時の気分を写していると言える。ちなみに12mmでは対角線画角約122°だ。
次に、より波打ち際に近いポジションに撮影場所を移した。本レンズのヌケの良さは天の川中心部のディテールをコントラストよく捉えていて美しく、気持ちがいい。
拡大部分は画面左上、最も隅の部分まで含んでいる。最周辺まで、星が点像として写っていることに注目してほしい。本レンズの最も大きな魅力だ。
さらに強拡大すれば厳密には若干のコマ収差が見て取れるが些少であるといえるうえ、サジタルコマフレアはほぼ発生していない。サジタルコマフレアが発生すると視野が同心方向に回転しているように見え、気持ちの良い視界にならないのだ。
そもそも、視野周辺部では像面湾曲、コマ収差、非点収差が複合して発生する。しかも超短焦点大口径ズームレンズで、よくぞここまで点像再現を実現したものだと感心してしまう。
ほぼ同カットで恐縮だが、20mmでの描写も見ておきたい。縦位置としたので、大きく岩場の風景を配置できているが、露光時間を10秒としたので赤道儀使用にもかかわらず、岩場はシャープに写っている。
拡大では、中心部やや左、メシエ8(干潟星雲)を中心に夏の天の川の見どころを切り出した。本レンズの解像力の高さから、メシエ8の中心星、天の川暗黒帯のディテール、メシエ7、メシエ24など散開星団の星々がきれいに分離されて写っている。通常の20mmクラスのレンズではここまで分解できない描写のものが多いものだ。
また、これだけ海に近い位置取りだと、レンズも波飛沫を被ることになる。しかし、防汚コートが効いているためか、描写に影響することなくクリアだ。撮影後に確認しても波飛沫の跡は認められなかった。
夜明け前、下弦の月も高くなってきた。肉眼的には東の空の赤みは見えず、少し夜空のコントラストが低下してきた時間帯だ。天文薄明という。
中央の岩から立ち上がっているのは飛行機雲だ。上空に寒気がいることがわかる。飛行機雲の右側がやや霞んでいるのは立ち上がった海霧が薄雲を作っているからだ。左側はクリアな状態だ。この後は朝霧につながってゆく。こうした空気感を写し止めることができるのも、ヌケの良さのおかげだ。
月の下側を拡大してみるとほんの小さなゴーストが見て取れる。レンズである以上、強い光源があれば必ず発生するものだが、本レンズではゴーストがいくつも連なることがなく、非常にゴーストの少ないレンズであることが確認できた。
まとめ
以上、12-20mm F2.8のレポートを終えるが、非常に描写性能が高く、かつ軽く、アウトドアをアクティブに動き回るのに最適だ。
機能面についてもMFロックが秀逸で、便利かつ撮影結果の歩留まりを確実なものにしてくれる。
比較的高価格帯のレンズではあるが、星景・夜景を含めた風景写真ユーザーなら必ずやその使い勝手と描写に満足する1本である。


































