交換レンズレビュー
AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR
開放からキレのある文句のない描写
Reported by 大浦タケシ(2015/10/5 11:39)
デジタル時代となってニッコールレンズの評価をより一層高めたものといえば、ナノクリスタルコートであることに異論を唱える者はいないだろう。
従来の反射防止コーティングを大きく超える特性を持ち、ゴーストやフレアの飛躍的な低減のみならず、よりクリアでヌケのよい描写を実現する。発売当初は高価なレンズに限られていたが、最近では比較的手頃な価格帯のものにも採用されはじめている。
そのナノクリスタルコートを最初に採用したズームレンズが「AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8G ED」と「AF-S NIKKOR 14-24mm F2.8G ED」の2本。発売開始は2007年11月なので、すでに8年が経とうとしている。(編注:ナノクリスタルコートを最初に採用したレンズは、2005年1月発売の単焦点レンズ「AF-S VR NIKKOR ED 300mm F2.8G (IF)」 )
今回、ピックアップする「AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8E ED VR」は、いうまでもなくAF-S NIKKOR 24-70mm F2.8G EDの後継モデル。ED非球面レンズをはじめとする16群20枚の新光学系のほか、シャッター速度に換算して4段分となる手ブレ補正機構、さらに高精度な絞り制御の可能な電磁絞りを搭載する。
デザインと操作性
鏡筒のシルエットは先代AF-S NIKKOR 70mm F2.8G EDと瓜二つのように思えるが、よく見ると本モデルのほうが太く、長い。実際先代モデルは83×133mm(最大径×全長)であるのに対し、本モデルは88×154.5mm(同)。フィルター径も77mmから82mmへと拡大している。
特に全長の長さの違いは大きく、個人的にもこれまで先代モデルとD810との組み合わせでは難なく収納できたカメラバッグに、作例撮影のため本モデルとD810との組み合わせを入れてみたが、うまく入らずちょっと閉口したほどである。
また、重量の違いも大きい。先代モデルは約900gであるのに対し本モデルは約1,070g。D810との組み合わせでは約2,050gにもなり、スナップ撮影のときなど益々扱いづらくなったように感じられる。
本レンズは前述のとおり、手ブレ補正機構を新たに搭載し手持ち撮影時のアドバンテージは高くなったが、むしろ三脚を使い、腰を据えてじっくり被写体と対峙する撮影などに適しているように思われる。
細かな外観上の違いとしては、手ブレ補正スイッチを新たに備えたほか、ズームリングの焦点距離表示はマウント側からレンズ先端側となり、ナノクリスタルコートが施されたレンズであることを示す「N」のロゴの下に手ブレ補正機構を搭載していることを示す「VR」の文字が入る。
操作感の違いは先代モデルの違いはほとんどないと述べてよいだろう。フォーカスリングやズームリングの操作感もほぼ同じ。フードの脱着はロック解除ボタンを押して行うのも同様だ。先代モデルから乗り換えても、重量的なものを除き操作時の違和感はさほどないものと思える。
遠景の描写は?
まずはワイド端焦点距離24mmだが、画面中央部は開放絞りからキレがあり、コントラストの高い描写である。1段絞るといずれもより増していく。周辺減光は開放で目立つが、1段絞るとほぼ解消する。
画像周辺部の描写は、開放絞りではわずかに緩さが見受けられるもの、絞りF4では大きく改善されキレが増す。
一方テレ端70mmは、画面中央部に関してはワイド端同様開放絞りからキレがあり、作例ではビルの窓の桟など鮮明に描写する。コントラストも良好で、ヌケはたいへんよい。絞り開放で積極的に撮影に臨みたくなるほどである。絞り込むことで鮮鋭度とコントラストはさらに向上し、より立体感のある描写となる。
画面周辺部に関しても絞り開放から上々の結果。色のにじみの発生もなくスッキリとした描写だ。さらに絞りF5.6以上に絞り込むと鮮鋭度はさらに向上。開放絞りではやや目立ち気味であった周辺減光も大きく改善される。
総合的にはテレ端、ワイド端とも標準ズームとして文句のない描写特性である。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
ボケ味は?
テレ端、ワイド端とも合焦面から滑らか、かつナチュラルにボケが変化していくのはさすがといってよい。特にテレ端はデフォーカスが大きくなるに従い、被写体と被写体が柔らかく溶け合っていく。
二線ボケや濁りのようなものはいずれの画角でも見受けられず、また前ボケも作例などを見るかぎり暴れるようなことなどなく素直な印象である。
その開放値ゆえ大口径単焦点レンズのような大きなボケをつくるのはやや厳しいこともあるが、それを除けば標準ズームとして文句の無いボケ味である。
最短撮影距離は焦点距離35mmから50mmまでが0.38m。それ以外が0.41m。絞り羽根は9枚で円形絞りを採用する。
逆光耐性は?
撮影した作例に限っていえば、ワイド端およびテレ端ともいずれの場合もゴースト、フレアの発生をよく抑えている。
じっくりと画像をチェックするとゴーストがいくつか見受けられるものの、撮影条件を考えれば不足のない結果。さらにいずれもフレアの影響は皆無で、被写体を鮮明に再現している。これもナノクリスタルコートの成せる技だろう。
ちなみに、先代モデル同様本モデルもズームに応じて深さが変わるフードを採用する。これはフードをアウターの鏡筒に装着するもので、インナーの鏡筒が前方に繰り出すワイド側では画角に適した浅さとなり、反対にインナーの鏡筒が引っ込むテレ側では深くなるものである。ワイド端に合わせた深さを持ち、インナーの鏡筒に装着する一般的なフードよりも、遮光効果が格段に高いことはいうまでもない。
作品
絞り開放での描写。合焦面のエッジのキレはよい。コントラストも全く不足を感じさせない。ボケ味も焦点距離(30mm)を考えれば、納得できるものである。周辺減光は若干強めに現れる。
パソコンの画面で拡大して見ると、リベットの立体感に驚かされる。画面周辺部には倍率色収差のようなものは見受けられず、キレのよい描写である。
絞りはF4であるが、合焦面から滑らかにボケが始まる。前ボケはクセのようなものを感じさせず、後ボケ同様ナチュラルなボケ味といってよい。ピントの合った部分のシャープネスも十分なものである。
こちらも前ボケは暴れるようなことなどなく素直。わずかに糸巻きタイプのディストーションが見受けられるが、気にならないレベルと述べてよい。シャッタースピードは決して遅くはないが、それでも手ブレ補正の搭載はありがたい。
合焦面のシャープネスの高さは特筆すべきところだろう。カメラがローパスフィルターレスということもあるが、より立体感が増したように思える。絞りは開放から1段絞ったF4で、周辺減光は大きく改善されている。
ワイド端24mmでの撮影。近接撮影のため、シビアなピント合わせを必要とするが、標準ズームとしては開放値の明るいレンズであるため、ピントの状況も把握しやすい。なお、本レンズの描写のピークは、作例を見るかぎり絞りF8あたり。
まとめ
先代のAF-S NIKKOR 70mm F2.8G EDは、発売以来ニッコールレンズのイメージリーダー的な存在のレンズであったが、その後継となる本モデルもその資質を十二分に持ち合わせている。
ご存知の読者も多いと思うが、当初8月末を予定していた本モデルの発売は10月に延期された。メーカーの言葉を借りると「発売に向けての最終調整に時間を要している」とのことであるが、それは同社がこのレンズに対し、メーカーとしての威信をかけている証と解釈すべきものといえる。
その証拠というわけではないが、このレンズを担当した設計者の話が開発エピソード動画として公開されている。開発者の設計思想や想いをうかがい知ることができるので、ニコンニューザーなら一度視聴してはいかがだろう。このレンズをより深く理解できるようになるはずだ。
10月6日17時20分修正:ナノクリスタルコートの初採用レンズはAF-S VR NIKKOR ED 300mm F2.8G (IF)で、AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8G EDおよびAF-S NIKKOR 14-24mm F2.8G EDはズームレンズとしての初採用だったため、該当部分を修正しました。