交換レンズレビュー
ULTRON 35mm F1.7
現代的な描写も楽しめるビンテージライン第2弾
Reported by澤村徹(2015/9/24 16:37)
※ライカMで撮影した作例を1点追加しました(10月8日)
コシナのフォクトレンダーブランドからビンテージライン第2弾として、ULTRON 35mm F1.7が発売になった。シリーズ第1弾は2013年に発売したNOKTON 50mm F1.5 Aspherical VMで、ビンテージテイストを前面に押し出した標準レンズだった。
第2弾のULTRON 35mm F1.7も、負けず劣らずビンテージテイストに満ちた仕上がりだ。外観と描写の両面で、オールドレンズファンの琴線に触れるにちがいない。
デザインと操作性
ULTRON 35mm F1.7はVMマウントを採用した広角レンズだ。M型ライカで距離計連動する一方、マウントアダプターを使ってミラーレス機でも使用できる。
鏡胴はLマウントのNOKTON 50mm F1.5をデザインモチーフにしており、くびれのある鏡胴、ピントリングの大きなローレットが特徴だ。カラーはブラックとシルバーの2色展開で、クラシックテイストを重視するならシルバーがお薦めだ。
丸型のレンズフードとメタル製フードキャップが付属する一方、オプションでメタル製スリットフードを用意する。このスリットフードもブラックとシルバーの2色展開だ。シルバーのウルトロンにシルバーのスリットフードを付けた姿は、実に新鮮な見え方だ。シルバークロームのスリットフードはサードパーティー製でもあまり見かけない。ドレスアップ的な側面では貴重な選択肢となるだろう。
本レンズは7群9枚構成で、後玉に非球面レンズを採用している。また、前玉は凹レンズになっており、オールドレンズファンであれば“凹みウルトロン”(イカレックス用のULTRON 50mm F1.8)を思い浮かべることだろう。
遠景の描写は?
実写してみると、クラシカルな外観に見合った懐古調の描写を実感できる。
絞り開放近辺は周辺光量落ちが顕著で、懐かしさをまとった絵作りだ。F2.8あたりまで絞ると周辺まで明るくなるものの、シャープネスは硬くなりすぎず、自然な解像感を保っている。最新の現行レンズでありながら、どこかオールドレンズ的なテイストを宿している。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
ボケ味は?
ボケ味は前ボケ後ボケともに滑らかで、現行レンズらしい安定感が感じられる。10枚羽根虹彩絞りのアドバンテージを実感する部分だ。本レンズは距離計連動に対応しているが、最短撮影距離は50cmでレンジファインダー機用レンズとしては短い。
これはマウントアダプター経由でミラーレス機に装着することも想定してのことだろう。開放で寄って大きなボケを稼ぐのも一興だ。
逆光耐性は?
逆光性能については、光源の有無を問わずフレアとゴーストをよく抑えている。
オプションのスリットフードを付けて撮影したところ、逆光条件でもコントラストの付き方が良く、シャドウの締まりも申し分ない。光の条件を問わず、様々なシーンで使いやすいレンズだ。
作品
F5.6まで絞り、隅々までシャープに眼鏡橋を捉える。開放近辺は若干緩さがあるものの、現行レンズだけあって絞ったときの描き方は隙がない。コントラストの強さも良い。
開放で中央の電柱にピントを合わせた。広角レンズなので開放でも被写界深度は深く、前後のボケ量はそれほどでもない。一方、周辺光量落ちは実にドラマチックで、これは特筆に値するだろう。
近接で開放撮影してみた。これくらいの距離だとボケ量もかなり豊かだ。一気にボケるというよりも、ディテールを保ちながらなだらかにボケていく。合焦部は滲みがなく、開放を積極的に使っていける。
雨後の石畳をアンダーで撮影した。コントラストの付き方が良いレンズなので、暗がりからハイライト部がキリッと立ち上がって見える。
開放時の周辺減光を利用し、水辺を薄暗く捉える。ピントは遠景に合わせているが、滲まずシャープな描き方だ。絞り値を問わず、安定感のある描写のレンズだ。
F2.8という開放寄りの撮影だが、四隅までしっかりと解像している。歪曲や色収差もほとんど感じられず、常用レンズとして安心感のある製品だ。
まとめ
クラシカルな外観のレンズが、オールドレンズ的な描写をする。それは予想の範疇と言えるだろう。ULTRON 35mm F1.7の良いところは、絵作りのさじ加減が絶妙な点だ。周辺光量落ちとナチュラルなシャープネスで懐かしさを演出する一方、コントラストや逆光性能はあくまでも現代的だ。
常用レンズとしての安定した描写力を備えつつ、古き良き時代の絵心が垣間見える。外観と描写の両面からのレトロテイスト。ビンテージラインの名は伊達ではない。