交換レンズレビュー
EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM
16年ぶりに更新された定番望遠ズーム
Reported by 礒村浩一(2015/2/18 07:00)
キヤノンEF 100-400mm F4.5-5.6 L IS II USMは中望遠となる100mmから超望遠の400mmまでをカバーする望遠ズームレンズだ。キヤノンの高画質レンズ「Lレンズシリーズ」に属しており、35mmフルサイズのカメラに対応している。旧型のEF 100-400mm F4.5-5.6L IS USMからは実に16年ぶりのモデルチェンジとなる。
キヤノンのレンズラインナップのなかでは、エクステンダー内蔵のEF 200-400mm F4L IS USMエクステンダー1.4×を除けば実質的に最も望遠となるズームレンズとして位置する。レンズ構成は蛍石1枚、スーパーUDレンズ1枚を含む16群21枚、開放絞り値は広角端でF4.5、望遠端でF5.6と可変する。
デザインと操作性
質量は約1,640g(三脚座装着時)、長さは193mm(100mm時)、最大径は94mm径、フィルター径は77mmとなる。旧型から110g程重くなったが、大きさはほぼ同等といえる。直進式から回転式ズームリングとなったことで、デザインも一新されEF 70-200mm F2.8L IS II USMと同じようなテイストのデザインとなった。
旧型からのいちばんの大きな変化は、ズーム方式が直進式から回転式へと変更されたことだ。それぞれの方式には使用する人の好みがあるが、一般的に直進式ズームは瞬間的なズーミングに適し、回転式ズームは細やかな画角設定に適するとされている。
だが、このレンズの100mmから400mmまでのズームリングの回転角は95度となっているので、回転式ズームであってもクイックに画角変化させながら撮影できる。また最短撮影距離はズーム全域において旧型の1.8mから0.98mへと大幅に短くなった。これにより、よりクローズアップした撮影が可能となったことはとてもありがたい。
レンズ内に機構を組み込んだ手ブレ補正効果は旧型の約2段分から約4段分へと大幅に改善。補正モードは3モードを搭載。通常の手ブレ補正モード1、流し撮りに適したモード2に加え、露光中のみに補正を行うモード3が新たに搭載された。これはシャッターボタン半押し状態では補正レンズをロックさせておき、露光時にのみ補正を行うというものだ。
これによりファインダー内の不必要な揺り戻しによる違和感を無くすことができる。激しい動きを繰り返すスポーツ撮影を行う際になどに効果的だ。
遠景の描写は?
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
※共通設定:EOS 5D Mark III / ISO100 / マニュアル露出
中央部ならびに周辺部においても開放絞りから高い解像力。コントラストも高くとてもクリアな画像だ。
望遠端でも中央部、周辺部ともに開放絞りから解像力が高い。F5.6ということからも撮影に多用するであろう開放絞り値での画質もとても優れており実戦的だ。
ボケ味は?
中望遠特有の遠近感とクリアな描写とが合わさり自然なぼけを活かした撮影が可能。最短距離での開放絞り撮影では人物の表情をフレームいっぱいにまで収め目元一点にのみフォーカスを合わせることもできる。また遠景においても撮影距離と絞り値の組み合わせによって立体的な画作りが可能だ。
広角端
400mmの望遠端ともなるとフォーカスを合わせた前後を大きくぼかすことができる。特に最短撮影距離における開放絞りでの撮影では、ごく狭い範囲にのみピントをが合うので印象な画像となる。それでいて描写はすこぶる良い。また遠景においては絞りによるぼけ方のコントロールを効果的に行う事ができるので、風景からポートレート撮影まで効果的に活用できる。
逆光耐性は?
太陽を直接画面内に入れた状態でもフレアおよび色収差は非常に少ない。また画面から太陽をわずかにでも外した状態であればコントラストの低下はほぼ皆無となるので、逆光での撮影でもクリアな画像を得る事ができる。
作品集
曇天の下、港に入ってくる船を400mmで撮影。船体の重厚感やワイヤーの細かい描写が圧巻。望遠レンズの圧縮効果により、背景の製鉄所の高炉が大きく写り込んでいる。
夕陽の差す雪深い林。200mmで撮影。クリアでコントラストの高い描写が雪の表面の質感までも立体的に捉える。
400mm開放絞りでのポートレート。1/125秒での手持ち撮影だが手ブレ補正が効果的に働いている。背景に木々の立つ林の中での撮影であるが、400mmの望遠によって背景を大きくぼかすことができるので、人物を浮かび上がらせることができた。
雪のなかに輝く鉄路を背景に、列車が来ないことを確認のうえ踏切内にてすばやく撮影。170mm F5という程よい焦点距離と絞り値の組み合わせにより遠近感を引き出す。夕方の限られた光での撮影により1/80秒と遅いシャッタースピードでの手持ち撮影だが、これも効果的な手ブレ補正によって手ブレを防ぐことができた。
牧場内にてまだ年若い馬の駆け回る姿を撮影。動きが速く、また寄って来ては離れる姿を追いかける撮影においても、クイックなズーミングと高速なAFによって快適に撮影ができた。EOS-1D Xとの組み合わせだが、カメラとの重量バランスもよくトータル3kgオーバーの重さだが、それをあまり意識することなく撮影することができた。
まとめ
このレンズの旧型となるEF100-400mm F4.5-5.6L IS USMはこれまでにも多く撮影に使用してきたが、16年前の発売となるとやはりデジタルカメラの高画素化に取り残されて来た感が正直拭えなかった。
100-400mmという焦点距離域は望遠撮影においてはとてもニーズのある焦点距離域であるだけに、今回のモデルチェンジはキヤノンユーザーの多くが待ち望んでいたことだろう。それだけに期待値も非常に高かったはずだが、それさえも軽々と超えてしまうほど、このレンズのポテンシャルは高い。
EFレンズ初となる新コーティング技術ASC(Air Sphere Coating)の採用や、最新の光学設計による高画質化などキヤノンの持つ技術を惜しみなく投入したレンズだと言える。
2014年から多くのメーカーが高画質な望遠レンズを投入しているが、ここにきてキヤノンの底力を見せつけられた感がある。キヤノンユーザーにとってこのレンズの登場が福音であることは間違いない。
(モデル:夏弥)