交換レンズレビュー

Nikon AF-S NIKKOR 28mm f/1.4E ED

ボケや立体感まで素晴らしい大口径広角レンズ

ニコンからFXフォーマット(35mmフルサイズ)対応の単焦点広角レンズ「AF-S NIKKOR 28mm f/1.4E ED」が登場した。開放F値1.4という明るさに加え、非球面レンズとEDレンズ採用による高画質、高描写と、ナノクリスタルコートによるゴーストやフレアの低減が特長だ。また防塵防滴に配慮した構造で、ホコリや水滴がつきにくく、かつ拭き取りやすいフッ素コートもレンズ前玉と後玉に施されている。

発売日:2017年6月30日
実勢価格:税込24万円前後
マウント:ニコンF
最短撮影距離:0.28m
フィルター径:77mm
外形寸法:83×100.5mm
重量:約645g

焦点距離28mm相当という画角

28mmという焦点距離はとても使いやすく面白い長さである。被写体との距離の取り方や背景の入れ込み方によって、標準域の描写を演出したり反対にワイド感を出したりと自在に写りをコントロールできるからだ。“28mm”はフォトグラファーのアイディアとフットワークによって、ガラリと描写を変化させられる腕の見せ甲斐があるレンズで、オールマイティーな焦点距離と言ってもいい。

ボディはD810(以下同)

特に活躍するジャンルはスナップやポートレートで、被写体と背景との関係性を濃厚にしたり希薄にしたりと写真撮影の醍醐味が味わえる。

これに大口径で明るいF1.4という武器が加わると“ボケ”という演出が可能になるのだ。ポートレートでは背景を広く入れながら、モデルをそれから浮き立たせることができ、よりドラマチックな撮影が実現する。

ところで、現在のニッコールレンズにはAF-S NIKKOR 28mm f/1.4E ED含めて4本の28mmレンズがラインナップされている。2012年5月24日発売のAF-S NIKKOR 28mm f/1.8G、1994年9月29日発売のAI AF Nikkor 28mm f/2.8D、マニュアルフォーカスのAI Nikkor 28mm f/2.8Sである。

画質性能

AF-S NIKKOR 28mm f/1.8Gは約330gと軽量ながらF1.8と明るく、ナノクリスタルコート採用のモデル。AI AF Nikkor 28mm f/2.8Dはフィルム時代に登場したモデルで、絞りリングを備えているレンズだ。

今回登場したAF-S NIKKOR 28mm f/1.4E EDはそのラインナップの最上位モデルとなる。過去には同じ明るさのAi AF Nikkor 28mm F1.4Dが存在していたことを覚えているニコンファンも多いだろう。

ニコンFマウント対応の28mmにはどのようなライバルメーカーのレンズが存在するのだろうか。代表的なのはZEISS Otus 1.4/28、ZEISS Distagon T* 2/28だが、どちらもマニュアルフォーカスレンズとなっている。AFで明るい28mmが必要ならばAF-S NIKKOR 28mm f/1.4E ED一択だ。

AF-S NIKKOR 28mm f/1.4E EDのレンズ構成は11群14枚。EDレンズ2枚、非球面レンズ3枚を採用し、高い点像再現性と軸上色収差の補正を実現している。ニコンのお家芸「ナノクリスタルコート」も施され、逆光時のゴーストやフレアも気にすることなくコントラストの高い写真を撮影できる。

また前玉と後玉にフッ素コートを採用し、ホコリや水滴がつきにくくなっているのも特長だ。防塵防滴に配慮した設計とともに過酷な環境下での使用でも安心である。

デザインと操作性

外観はとても重厚感がある。梨地の上に低光沢の黒をまとった佇まいは、今回インプレッションに使用したD810によく似合う。EDレンズとナノクリスタルコート採用の証しが眩しい。フィルター径77mm、重量約645gというボリューム感はAPS-C機にはやや重いかな、と感じるがフルサイズ機にはピッタリの印象だ。

AFはレスポンスも良好で、高速かつほぼ無音で高い精度で合焦した。ピントリングの幅も十分に確保されており、シビアなマニュアルフォーカシング時でも安心の指がかりである。フォーカス切替スイッチもしっかりとした節度感があり、不用意に動くことはない高さと位置は実に頼もしい。

付属する花形フードも同様で確実な節度感とともにロックされる。仕上げはレンズ鏡筒と同じとなり高級感が漂う。

作品

飲み屋街にある標識をほぼ最短撮影距離で撮ったカット。28mmという広角ながら思い切り被写体に寄ったことと、F1.4の絞り開放でシャッターを切ったことで背景との分離がよくわかる。自然でスムーズなボケが美しい。やや色収差が出ているが簡単に補正ができるレベルだ。

D810 / 1/400秒 / F1.4 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / 28mm

ビルの谷間にあった駄菓子屋の店先にあった「ガチャガチャ」をF8で。壁の直線もキレイに真っ直ぐに出ており申し分ない。ガチャガチャ自体の質感はもとより景品や賞の詳細(ハンドスピナーが!)、壁のザラザラとした立体感や淡い色合いまで素晴らしい写りである。

D810 / 1/25秒 / F8 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / 28mm

28mmとはいえ、絞り開放のF1.4ではシビアなピント合わせが必要だ。AF-S NIKKOR 28mm f/1.4E EDなら安心してAFに頼ることができた。柄杓の接合部にピントを合わせてシャッターを切ったが、合焦部分からシルキーにボケていく描写が堪らない。特に水面上の波紋の優しい感じが気に入った。

D810 / 1/1,250秒 / F1.4 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / 28mm

船溜まりを高層マンションを入れ込んで撮影。中央部から周辺部まで、近景の船舶から遠景のマンション窓枠までよく解像している。絞りを変えて数カット撮影したが、F8あたりが解像度のピークだと感じた。この場所はニコン本社にほど近いがブラブラ撮影のし甲斐があるエリアである。

D810 / 1/80秒 / F8 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / 28mm

絞り開放での周辺光量落ちは2段ほど絞ると改善する。ここではF1.4であえて撮影し、グリーン上のモデルを引き立てるように周辺光量落ちを利用してみた。ニコンはこのレンズを「三次元的ハイファイ」とは謳っていないが、立体感溢れる描写はそれを彷彿とさせる。

D810 / 1/4,000秒 / F1.4 / 0EV / ISO64 / マニュアル露出 / 28mm

モデルと正対して瞳にフォーカスしてシャッターを切った。F1.4だと28mmでも前髪がこんなにボケるのである。絞り開放なのでややソフトな精細感となっているが、モデルのスキントーンを見ると好ましい写りだ。

D810 / 1/800秒 / F1.4 / 0EV / ISO64 / マニュアル露出 / 28mm

最短撮影距離の0.28m付近で撮影。さすがにこれだけモデルに接近すると顔がデフォルメされて写るが、ポートレートとして成り立たなくはない。瞳に映るカメラを構えた自分にフォーカスしてシャッターを切った。

D810 / 1/160秒 / F2 / 0EV / ISO64 / マニュアル露出 / 28mm

多摩川の砂利道はこのようなポートレートを撮影するのによく使うが、28mmなら周囲の様子を入れつつ情緒のあるモデル撮影が楽しめていい。F1.4開放での周辺光量落ちもトンネル効果のようになってモデルを引き立ててくれた。それにしてもこのレンズの自然で上品なボケ味は素晴らしい。

D810 / 1/4,000秒 / F1.4 / 0EV / ISO64 / マニュアル露出 / 28mm

先のカットの場所でモデルに立ち上がってもらい、チョイ絞りでシャッターを切った。開放時よりグッとコントラストが上がって精細感が増した描写がわかるはずだ。接近したので背景の入り方が変わったところも注目して欲しい。28mmはワーキングディスタンスを変えるだけで写りが大胆に変わってくる。

D810 / 1/1,000秒 / F2.5 / 0EV / ISO64 / マニュアル露出 / 28mm

AF-S NIKKOR 28mm f/1.4E EDは実によく写る。開けてややソフトな味わいを楽しむのもよし、絞って緻密でパキッとした描写を実感するのもいい。色再現もややコッテリ目に振られており、メリハリのある絵作りという印象だ。

D810 / 1/125秒 / F8 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / 28mm

ナノクリスタルコートのおかげで、逆光にも滅法強い印象だ。モデルの向かって右頬部分に太陽を入れて撮影しているのだが、特に問題になるフレアやゴースト、色づきの発生がない。コントラストの低下も少なく、安心して逆光時でも使えるレンズに仕上がっている。

D810 / 1/500秒 / F4 / 0EV / ISO64 / マニュアル露出 / 28mm

「本を読むのが好き」というモデルに、多摩川沿いのブロックに腰掛けてもらって音読をお願いした。絞り開放で彼女の睫毛にフォーカスし、その澄んだ声を聞きながらD810のシャッターを切った。薄曇りの淡いトーンがAF-S NIKKOR 28mm f/1.4E EDによって記録された。色合いと立体感がとてもいい。

D810 / 1/4,000秒 / F1.4 / 0EV / ISO64 / マニュアル露出 / 28mm

川沿いの雑木林をモデルと進む。光がいいところで振り返ってもらってワンショット。グリーンの優しいボケと木漏れ日の玉ボケがとても美しい。ニコンD810との重量バランスもよく、テンポ良く撮影が進んだ。

D810 / 1/250秒 / F1.4 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / 28mm

AF-S NIKKOR 28mm f/1.4E EDは前ボケ、後ボケともクセがなくスムーズだ。レンズによってはどちらかに特長があったり暴れたりすることがあるが、このレンズは両方ともシルキーかつ優しい。

D810 / 1/640秒 / F1.4 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / 28mm

絞り開放でモデルを上方から。F1.4ならではのボケ感と立体感で印象的なカットが撮れた。28mmでのポートレートは適度なデフォルメと背景の入れ方がコツだ。AF-S NIKKOR 28mm f/1.4E EDの立体感描写は本当にいい。気に入った。

D810 / 1/500秒 / F1.4 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / 28mm

ロケも終盤、芝生に寝転んで読書をするモデル。28mmならではの背景を入れての撮影だ。広角でこれだけボケてくれればポートレートシーンでの起用も増えるに違いない。カメラバッグのスペースを明ける準備はできた?

D810 / 1/2,000秒 / F1.4 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / 28mm

まとめ

AF-S NIKKOR 28mm f/1.4E ED の明るさはとても強力な武器だ。ボケをポートレートで活かせるのはもちろん、夜間および天体撮影、ドキュメンタリーや報道撮影にも向く。

実際に使ってみるとスムーズでシルキーなボケ感と、高い描写力との両立がとても心地よい写りであった。これなら今後登場する、より高画素なモデルでも余裕で対応できるだろう。

28mmの最上位モデルとして絞り開放から安定した描写なのに加え、防塵防滴に配慮した設計、フッ素コートと機能面も抜かりがない。

まさにプロフェッショナルがチョイスするレンズと言えよう。より上の画質を求めるニコンユーザーにはオススメの28mmレンズとなっている。なお電磁絞りのEタイプレンズのため、過去のボディでは対応しないモデルがある点に注意して欲しい。

モデル:佐藤望美

三井公一

1966年神奈川県生まれ。新聞、雑誌カメラマンを経てフリーランスフォトグラファーに。雑誌、広告、Web、ストックフォト、ムービー、執筆、セミナー、コンサルティングなどで活躍中。有限会社サスラウ、Sasurau, Inc.代表。著書にはiPhoneで撮影した写真集「iPhonegrapherー写真を撮り、歩き続けるための80の言葉(雷鳥社)」、「iPhone フォトグラフィックメソッド(翔泳社)」がある。