ライカレンズの美学
APO-TELYT-M F3.4/135mm
シャープだがシルキーで味わい深い描写の望遠レンズ
2017年5月30日 12:04
ライカレンズの魅力を探る本連載。今回はレンジファインダー用レンズとしてはやや異色の望遠系、APO-TELYT-M F3.4/135mmを取り上げてみたい。
現行のM型ライカ用レンズとして、もっとも焦点距離の長い望遠レンズがこのAPO-TELYT-M F3.4/135mmである。本連載で望遠系レンズを取り上げる際に毎回書いているとおり、M型ライカではレンズの焦点距離に関係なく、ファインダー倍率が常に一定のため、望遠になればなるほど視野枠が小さくなってしまいフレーミングしにくくなるという現実がある。また、ファインダー倍率が一定ということはピント精度もレンズの焦点距離に関係なく常に一定ということなので、広角レンズでは過剰なほど高精度なピントが得られるM型ライカであっても、90mm以上の望遠レンズでは徐々にピントが頼りなくなってくる。中~遠距離撮影であれば問題はないが、近距離&絞り開放気味の場合は目を「カッ!」と見開いて相当に真剣にフォーカシングする必要があった。さらに付け加えるならば、被写界深度が浅くなる望遠レンズでは、ボケ部分がアウトフォーカスしていく様子がまったく確認できないことも、レンジファインダー機で望遠レンズを使うときに感じる不満点であろう。
とまあ、レンジファインダーカメラに望遠レンズという組み合わせは使用面においていくつかの難しさがあるわけだ。しかし、そうした要素がある割にライカ用の135mmレンズは昔からかなり充実していて、常にカタログにラインナップされ続けてきたのはちょっと不思議な気もする。レンジファインダーカメラが35mm判カメラの王道かつ主流だった1950年代以前ならともかく、一眼レフが完全に主流となった1970年代以降は、レンジファインダーと望遠レンズの組み合わせは一眼レフカメラでのそれに比べて相当に難しいものであることは広く認知されていたはず。にもかかわらず、現在に至るまでライカのレンジファインダーカメラ用135mmレンズが途切れることなく製造され続けているのは、非常に興味深いことだ。
同じ135mmでも一眼レフ用に比べるとM型ライカ用は細身で携帯性がいいということもあるのだろうが、やはりライカが作ったレンズということで、他にはない描写的魅力があったからこそ、多少使いにくくてもM型用の135mmを使う人が、いつの時代にもそれなりにいたということかもしれない。
実際、APO-TELYT-M F3.4/135mmの写りは非常にいい。キチンと解像が出ていながら硬くなりすぎない描写は、昨今の解像力最優先思想のレンズにはなかなか求められない特性であり、これぞライカらしいディテールの出し方だと思う。F3.4という開放値は135mmの単焦点レンズとしては決して大口径と言えず、どちらかというと"小口径"だけど、だからこそ4群5枚という超シンプルなレンズ構成が可能になり、それによって生み出されるシャープだがシルキーな描写はとっても魅力的だ。レンズ名から分かるとおり、アポクロマート補正の光学系で色収差もよく補正されている。
レンジファインダー用望遠レンズとして難しい時代を乗り越えてきたM型用135mmレンズだが、ご存じの通りライカM(Typ240)の登場によりライブビュー撮影が可能になると、前述したレンジファインダー用望遠レンズが持つすべての難しさは一気に解決した。ライブビューのレスポンス向上やEVF(ライカは往年のアクセサリー名にならって「ビゾフレックス」と呼ぶ)の見え方が向上した最新のライカM10なら、さらに快適に撮影することができる。これも本連載で何度も書いたことだが、M型ライカでライブビューが可能になった今だからこそ望遠系を「実用的」なレンズとして再評価すべきだろう。
協力:ライカカメラジャパン