GR写真家インタビュー
撮る目線を新たにしてくれる、自分にとっての“デトックス”カメラ(風景写真家・木村琢磨さん)
2019年12月24日 07:00
優れたレンズによる描写、APS-Cセンサーによる画質、カメラを操る楽しさを提供するデザイン、そして常に携帯できる可搬性。リコーの高性能コンパクトカメラ「GR」がたずさえるいくつかの特徴は、いわゆるGRらしさを形作る要素だ。
その一方で単なるスペックやデザインでは説明できない、GRならではの魅力をユーザーは覚える。それは一体何なのか。
GRを愛する写真家へのインタビューを通じて、GRが持つカメラとしての独自性を探ってみるのがこの企画だ。
第1回目は風景写真家の木村琢磨さんに話を聞いた。普段はPENTAXの一眼レフカメラなどで作品を撮影する木村さんにとって、愛用するRICOH GR III(以下GR III)とはどんな存在なのだろうか。(インタビューおよび作品キャプション:まつうらやすし)
木村琢磨
岡山県のフリーランスフォトグラファー。広告写真スタジオに12年勤務したのち独立。ライフワークに岡山の風景を撮影。Bi Rodやドローンを使った空撮も手がける。日本の写真スタイルに囚われることない作品を制作。デジタルカメラマガジンなどの雑誌に寄稿。
——GRといえばスナップ撮影のイメージが強いカメラです。風景写真家の木村さんがGR IIIを手にした切っ掛けや理由は何でしょうか?
それまでGRシリーズといえば、スナップカメラマンが使うカメラというイメージを持ってました。カタログの作例もスナップ作品一色で、「(風景写真を撮る)自分向きじゃないな」とスルーしてました。ただ、コンパクトカメラ自体が無くなりつつある流れに疑問も感じていたんです。
そんな時期にGR IIIの発売を知り、実機を触ったらサイズ感も良かった。前モデルから一回り小さくなっていますが、使ってみるとこの一回りが結構重要なことがわかりました。ちょっとした大きさの違いでポケットに入らなかったりすると、ミラーレスカメラと変わらなくなりますから。カメラ1台を持って手ぶらで出歩くようになるなんて、GR IIIを手にしたからだと思います。
GR IIIから手ブレ補正がついたことも大きいですね。普段から作品撮りで手ブレ補正のついたカメラを使っているので。ないと不安というか物足りないというか。
それから、ホットシューがあるのも良いですよね。コンパクトだとホットシュー無いことが多いですが、それも結構不満だったんです。ポケットに入る小型ボディではあるけれど、いつものカメラの感覚で使えるコンパクトというのもGR IIIを買った理由ですね。
——どのような時にGR IIIを使っていますか?
日常的な撮影もそうですが、普段の作品撮りのときにも使っています。一眼レフカメラやミラーレスカメラで撮ることが多いのですが、それだけだと気持ちが乗らないシーンというのがある。シャッターを切ったら本当は良いんだろうなと分かっていても、大きなカメラだとなぜか気持ちは乗らない。そういう時GR IIIだと、不思議と良い写真が撮れたりするんです。一眼レフカメラやミラーレスカメラだと、どうしてもカッチリ撮ろうとしてしまいます。でも、GR IIIだと、構え方が多少歪んでいても、GRだからいいやという「ゆるさ」が力になることもあります。
また、車での移動が多いんですが、GR IIIをポケットに入れておけば、ちょっと撮りたいなというときに大きなカメラバッグを出さず、車を止めて2〜3枚撮って直ぐに移動ということもできます。どこでもシャッターが切れるというのは大きいですよね。
背面モニターはタッチパネル式ですが、タッチシャッターに設定しています。シャッターボタンに指を置かなくて良いことで、カメラの持ち方も自由になります。ちょっと変わったアングルや俯瞰で撮る時も楽です。こうした使い方も、一眼レフカメラやミラーレスカメラより使いやすく、結果的に自由度の高い撮影をしています。
——ファインダーがないことに違和感を覚えないのですか?
自分にとってはファインダーが無いというのもポイントですね。ファインダーがあると覗いてしまうので、自分の目線であることを意識しています。でもファインダーが無いと「ここにカメラを置いて撮ったらどう写るかな」といった感覚になります。デザインの専門学校に通う学生だった頃、初めて手にしたデジタルカメラで撮り始めた時も、そうやって面白い絵を探すのが好きだったんです。そういう意味ではGR IIIは自分の中の写真の原点に戻れるようなカメラと言えるかもしれません。
——一眼レフカメラやミラーレスカメラよりカジュアルに付き合える、その結果それらとは違う作品になるということでしょうか。
気負いなく現場までカメラを持っていけて、シャッターが切れるというのは間違いなく魅力です。「何でこういうアングルで撮ったんだろう」という写真も案外残っている。それが良かったりします。
フィルムで撮影していた頃は全部スリーブで残っていたけれど、デジタルになってから失敗写真をすぐに消す人が増えたのではないでしょうか。良いものだけを残す癖がついて、悪いものは残らない。でも、それが今は良くないと思っても、2年とか3年経って見返した時に良いと思えるかもしれない。その瞬間、何かに動かされてシャッターを切ったのは間違いないんですよ。
他の人の写真を見ていると「なんでここでシャッターを切ったんだろう?」というのが沢山あるんですけれど、GR IIIを使い始めて自分の中にもそういう写真が増えてきた。これは面白いですよね。
——スマートフォンでの撮影に近い使い方にも聞こえます。とはいえスマホでは物足りない?
スマホで撮ったものを見返すと「でもこれ、スマホなんだよな」と、どうしても思ってしまう。やはり写真家の性なのか、カメラで撮りたいというのが一つありますね。
もちろん現在の写真の楽しみ方として、撮ってすぐSNSへという流れも大きな楽しみ方の一つです。スマホだとそれが流れるようにできます。でもカメラだと、一度スマホに転送するという手間が必要になりますよね。その手間があることで、被写体との向き合い方が変わるのでは? と思っています。
つまりカメラだと撮ってもすぐにSNSには上げられない。カメラ内蔵のWi-Fi機能でスマホに画像を送信して、そこからスマホでアプリを開いて……という手間がかかります。スマホではなくカメラで撮るということは、「だったら別にアップしなくてもいいか」という余裕も生んでいるような気がするのです。
撮ってすぐSNSにアップロードするというのも今の写真の楽しみ方だと思うんですよ。でも、こういうひと手間かけることで写真を熟成させるというか「寝かす楽しみ」もあるなと思っています。
——ひと手間といえば、RAWからの現像もですね。
僕は基本的にRAWで撮って現像しています。作品ということで言えば、僕の場合忠実性とかは求めて無くて、自分の目で見たものと必ずしもイコールである必要は無いと思っているんです。自分が写真に感じる可能性というのは、自分で見たもの感じたものを、言葉じゃなくて絵一枚だけで色々な人に国境を超えて伝えたりできるというところではないでしょうか。
ところでGR IIIは、シャドー寄りの絵が凄く綺麗なんですよ。例えば深い緑が凄く出しやすい。潰れているだろうと思ってもディティールが残っているので、ついついアンダー目な写真が増える。持っているダイナミックレンジそのものも広いんですけれど、その振り幅がシャドー側に寄っている印象ですかね。
裏返せばハイライト側は気を使ったほうがいい。ということで、僕の場合は空のハイライトを抑え気味に撮る目的で、GR IIIで角型のグラデーションNDを使うことも多いです。専用のワイドコンバージョンレンズGW-4にNiSiの100×150mmフィルター用ホルダーを装着して、それにグラデーションNDフィルターをつけています。
——ワイドコンバージョンレンズGW-4の使い心地は?
こんなに隅々までバキバキに写るのはワイドコンバージョンとしては珍しいのではないでしょうか。GR IIIそのもののレンズも、撮像素子の能力を上回っているような先鋭さを感じる描写ですが、ワイドコンバージョンレンズをつけても印象はそのままですね。
まあ、ポケットに入る大きさが……といいながら、GW-4+グラデーションNDフィルターという装備にしてまうと、それなりに大きくなってしまいますね。でもこれだけ描写の良い21mm相当の広角レンズを装着したカメラとしてみると、圧倒的に小さいわけです。この装備で作品を撮るのがとても楽しいのです。
——結局、木村さんとGR IIIの関係とは?
自分にとってのデトックスカメラですかね。仕事の場合はカッチリとキッチリと、絶対に撮り漏れがあってはならない。何が飛んでくるわからない状況にも対応出来る機材を用意する。写真を撮るのは好きだけれど、そればかりだと疲れるんですよね。無意識のうちに疲れが溜まってくる。そのような時に、気分転換になるカメラがGR IIIです。
もちろん、レンズ交換ができなかったりと制約はあります。遠くの景色が良いなと思っても28mmでは撮れない。良い意味で諦めがつくんです。そして28mmで物事を考え始めたりする。制約があることで、今まで自分が撮っていなかった目線が開ける。出来ないことがあることで、出来ることが見つかります。それが楽しい。
僕もそうでしたが、レンズ交換式でないとしっかりした作品が撮れない思っている人は結構多いんですよね。でもGRを使って目線が変わりました。小さく自由度が高いので、新しい目線が得られますし、今までカメラを持っていくのを諦めていたシーンとかでも、すんなり入っていける。レンズ交換式カメラとは違う用途、だけれども何を撮っても良いカメラだということも、使えばわかりますから。
提供:リコーイメージング