カメラ旅女の全国ネコ島めぐり
日本でもっとも猫が多い楽園で、1匹の黒白猫と出会う(田代島:前編)
2017年9月4日 08:00
こんにちは、小林希です。私は29歳で会社を辞めて、一眼レフカメラをかかげて約1年間の世界放浪の旅に出たあと、旅のエッセイを綴った本を出版してから、旅作家として執筆活動をしています。
一方で、旅先でずっと猫の写真を撮り続けています。日本や海外、その土地で暮らす猫と出会うことは、私にとって欠かせない旅の目的のひとつでもあります。
今回、デジカメ Watch編集部から、日本全国の「猫がいる島」の旅エッセイを綴ってほしいとご依頼いただきました。実は、私は日本の離島が大好き。数々の島旅もしていて、瀬戸内海の讃岐広島では、島民と一緒に有志でゲストハウスも立ち上げました。日本の離島には、“猫島”と呼ばれる島が数多くあり、それぞれに異なる歴史や風習があり、雰囲気も変わります。
今回、猫と島をめぐる旅のエッセイを綴るのは、まさに私がこの5年間続けてきたことで、とても嬉しいことです。ガイド的なことだけでなく、島とそこで暮らす猫のささやかなワンシーンを、それは1枚の写真からさまざまなエピソードが語られるかのように、猫をめぐる島旅の魅力を綴っていきたいと思います!
最初に向かったのは……超有名な田代島(宮城県石巻市)です。
いざ猫島へ!
仙台から在来線の仙石線に乗り、石巻駅に着いたのは午前11時14分。11時30分に駅前からミヤコーバスに乗って、港のほうへと向かいました。バスは約15分で、門脇2丁目駅に到着。運転手は、お決まりの感じで「網地島ラインに乗船される方はこちらから」と案内してくれました。それだけ、田代島へ行く人が多いのだと思います。
石巻駅の街中から港のほうへ向かうにつれ、建物は姿を消し、だだっ広い空き地が広がりました。3.11の震災からまだ復興作業は続いているのです。なんだか安穏としない気分は、空模様に投影されているみたい。いまにも雨が降りそう。そもそも、天気予報では午後から“雷雨”となっていたから、船が出航するだけありがたいのですが。
待合所で田代島行きの片道切符(1,230円)を買って、マーメイドラインに乗船しました。ゆらり、ゆらりと船はその場でたゆたって、12時ちょうどに、エンジン音を上げて出航しました。
約1時間の船旅です。甲板に出ると、風が気持ちいい。中年男性や若い女性、子供を連れた家族、おそらく中国か台湾のカップルが、こぞって首から一眼レフを下げ、曇天の白い視界に消えていく石巻の港を撮影しています。でも、彼らが“本当に撮りたいモノ”はそれではない……、と私はわかっているのです。なぜなら、私もそうだから(笑)。
13時に旅の目的地、田代島の仁戸田港に着きました。島は集落が仁戸田と大泊と2つあり、主に観光客は仁戸田に多くいるようです。一眼レフカメラをかかげた一行は銘々島内を散策し始め、“本当に撮りたいモノ”を探します。私含め、カメラ族みんなが撮りたいモノ。それは、猫。
島の人も知らない猫
田代島は、日本有数の猫がたくさん暮らす“猫島”であり、それは海外でも知られていて、島内を散策すると外国人の姿もよく見かけます。この静かな離島は、船が石巻に戻る最終便まで、にわかに賑やかになり、かつ「ハロー」「キャット!」なんていう言葉が聞こえてグローバルな雰囲気に包まれるのです。
予約していた宿“マリンライフ”が迎えに来てくれていて、1度宿へと向かいました。可愛らしい花々が咲きほこる、丁寧に手入れされた庭から玄関に入ると、「いらっしゃい!」と出迎えてくれたのは女将さん。
でもその前に、すでに庭に居着くたくさんの猫に出迎えてもらって、心はほわほわ、一気に猫の楽園へと沈んでいく気分を味わっていました。
気付けば、“雷雨”予報の空は、すっかりと晴れ渡っていました。やっぱり心模様は空に映るのかしら?
2階の部屋に通されたとき、女将さんに、「あのね、知らない猫がいま部屋のベランダに来ていて、ちょっとニャアニャア騒ぐかもしれない」と耳打ちされました。
田代島で暮らす約190匹(ある大学の生態調査結果らしい)の猫は、島民によって、「あれは、うちの猫」「あれは、どこどこさんとこの猫」「あれは、仁戸田の猫」「あれは、大泊の猫」と把握しているらしいのです。
でも、数日前から現れたというその黒白柄の猫は、「誰も見たことがない猫なんだけど……」と、島民も首を傾げているよう。
部屋に入ると、入り口の反対にある窓辺からは、仁戸田のカラフルな色の屋根が見下ろせて、前方に広がる太平洋は目線の高さにありました。部屋の窓枠は写真フレームのようで、目前のノスタルジックな世界を切り取って、印象的に映ります。
そのフレームの中に、ひょっこり現れたのは、黒白柄の猫でした。
ベランダを覗くと、黒白柄の猫と目が合いました。
ニャアニャア、ニャーー、ニャー―——ン
なき声は止まず……。
可愛らしいアーモンド型の黄色い瞳をしています。
「私、猫が好きだから、アナタがいるのは歓迎だよ」と網戸を開けて、頭をなでなで。
人恋しいのか、さらになき声は大きくなり、しまいにはゴロンと横たわり、お腹を見せて「親愛」の気持ちを示してくれるました。猫好きの心を奪い慣れている素振りは、ちょこっと憎らしいほど。
それから猫は、必死に部屋に入ろうと、網戸の隙間から手を差し込んできました。
ついてきた!
客室には入れられないけど、1人旅で思いがけず友達ができたようで、私はなんだか、嬉しくなってしまいました。
「そうだ、一緒にお散歩する?」
なんて声をかけても、もちろん(ついてくるはずないか)と思っていたのだけど……。10分後、私はその猫と一緒に仁戸田の集落を散歩することに。実際はマリンライフの玄関から出ていく私を見つけ、ベランダから屋根を伝って庭に降りてきて、ひたすらとことことついてきたのです。
こうして、田代島を舞台にした1匹の猫と旅人である私の忘られないワンシーンが、心のアルバムに刻まれることとなったのです。
(後編はこちら)