西宮大策写真展「hi mi tsu ki chi」

――写真展リアルタイムレポート

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 秘密基地。この言葉から、多くの人は子どもの頃、友だちと遊んだ記憶を想起するはずだ。ただ、よくよく考えると、その思い出はおぼろげで、かつて読んだ物語と一緒になっているような気もしてくる…。

 西宮さんは広告、雑誌などで活動するカメラマンだ。その仕事と平行して、コンスタントに自らの作品制作を続けている。

「居酒屋で友人と飲んでいる時、彼がポツッと『最近の子どもも秘密基地を作ってるみたいだよ』と話した。後で聞いたら、彼は覚えていないって言うんですけどね。秘密基地って言葉を聞いた時、すごく僕は気分が高揚してきて、良いテーマだなと思った。それで早速、撮り始めたんです」

 今どきの子どもたちが遊ぶ秘密基地を探す旅は、いつしか西宮さん自身の記憶にも結びついていく。

 会期は2011年1月19日~31日。開館時間は10時半~18時半、最終日は16時まで。火曜休館。入場無料。会場のペンタックスフォーラムは東京都新宿区西新宿1-25-1 新宿センタービルMB(中地下1階)。

 写真集『hi mi tsu ki chi』(小学館刊、税込価格3,500円)は2009年6月に刊行。その後、ビッグコミックスペリオールで「秘密基地」をテーマに漫画家、作家らが短編作品を連載した。それらをまとめた『短編集hi mi tsu ki chi』が2011年1月19日に出版された。価格は1,365円。

西宮大策さんは現在も新たなテーマを撮影中だ

カメラマンは記録係

 秘密基地は本当にあるのか。

 それを確かめるために、まず西宮さんはカメラを持って、公園や川原など、家の近所をぐるぐると歩き回った。

「子どもや、小学生の子を持つ親にも聞いてみました。大人からは『そんなの秘密なんだからわからないよ』って言われましたね」

 それが大方の大人の反応だろう。フツーの人は、秘密基地という言葉に心揺り動かされても、探すといった実際の行動には移らない。特に昨今のご時世だ。カメラを持って、子どもの周辺を歩くのは危ない。

「ドキドキしたいから、あまり考えないで行動したいんです。気になったものは、まず撮る。チャレンジすることで、どこまで自分がそれを好きなのかがわかるし、やることで見えてくるものがある」

 新しいテーマを見つけた時、西宮さんの中には撮りたい欲求と、それ以上に「やらなくちゃ」という思いがあるという。

「カメラマンは記録係なんですよ。時代は流れているから、その時、撮らないと残らない。ただすべてを撮ることはできないから、自分がリンクできる世界だけはとどめておきたいんです」

秘密基地が見つからない理由

 撮影エリアは東京と、東京近郊に絞った。街を探し、子どもに尋ねて歩いた。撮影期間は2006年6月から2008年12月まで。約100日をかけた。

「撮り始めた時は、勝手に自分の中で映画のセットみたいなイメージを作り上げていたんですよね」

 例えば樹木の奥に囲いがしてあったり、枝に隠れた木の上に板を敷いていたり…。

 それが実際はただダンボールが敷いてあるだけだったり、薄いマットレスのようなものが枝に乗せられているだけの、一見、捨てられたゴミにしか見えないものもあった。

「実際、秘密基地に案内された時、指し示された場所を見て、『どこが基地なの?』って。集まった子たちが、その瞬間だけ共有する秘密の場所なんですよね。その日限りで飽きて、二度と使わないことも多いので、誰かにつぶされたり、片付けられたりもしている。だから余計に見つかりにくい」

 基地を訪ねる中で、最初考えていた自分のイメージが間違っていたことに気づいた。

「小学生が、大掛かりなものを作れるわけがない。自分たちだって、そうだったんだよなって」

 ある日、友だちと秘密基地を作ろうと盛り上がる。場所を見つけ、遊びの中に入り込んでいくと、その辺に落ちているモノが絶好のアイテムになり、凄い基地が出来上がったように思えてくる。

 そんな空想を働かせて楽しんだ基地遊びの記憶が、いつしか頭の中で事実にすりかわっていく。そして今の子どもたちも、大人になった時、「僕らが作った基地はもっと凄かった」と思うのかもしれない。

あなたの秘密基地に出会える

 撮影はペンタックス67と、ペンタックス645N II。案内してくれた子どもたちを撮り、見つけた基地と、その周囲の風景を撮影していった。

「基地については、最初、自分が見た時の印象、自分が見えたままを撮ろうと考えました」

 西宮さんはこれまで一つの作品を作り上げるのに、大体2年ほどで完成させているという。撮り始めて1年ほど経った頃から、まとめる作業をし始める。

「まとめることで、自分が何をやろうとしていたのか、どういう作品にしたかったかが改めて見えてきます」

 撮影の方向性を確かめながら、足りない部分を補い、撮り進めていく。

「最初は子どものポートレートも入れてまとめましたが、そうすると散漫になってしまう。基地というモノを丁寧に出していく方が良いと判断して、写真集は基地と周囲の風景だけで構成しました」

 今回の展示は会場のスペースと、自分で焼いたプリントを見せたかったから、大四切を選んだ。基地と、周囲の風景を写した写真に、基地がある場所の地図を添えた。そこには撮影で出会った子どもたちが発した一言も記されている。

「雑誌に連載したマンガも一部、小さく展示しました。近づいて、じっくり見てほしいなと思います」

 展示された写真の中には、一見すると、どれが基地なのか、思い悩む場所もあるはず。それをじっくり見ていくと、ふっと自分の想い出の奥底にある記憶が開かれ、本当の秘密基地に出会えるだろう。

「今も、こうして外遊びをする子がちゃんといるんですね」と西宮さんに問うと、「実際は携帯ゲームを持ち込んで、遊んでいるのかもしれないけど」と笑う。現場を歩く記録係はさすがに冷静なのだ。



(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。ここ数年で、新しいギャラリーが随分と増えてきた。若手写真家の自主ギャラリー、アート志向の画廊系ギャラリーなど、そのカラーもさまざまだ。必見の写真展を見落とさないように、東京フォト散歩でギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。

2011/1/25 00:00