コラム

コスプレカメラマンの井田達也さんに「コスプレ写真界の今」を聞いた

おすすめのレンズは? 初心者がステップアップするには?

撮影:井田達也
© 長月達平・株式会社 KADOKAWA 刊/ Re:ゼロから始める異世界生活 2 製作委員会
「Re:ゼロから始める異世界生活」
エミリア 伊織もえ

コスプレ専門のカメラマンとして広く商業媒体で活躍している井田達也さんが近著「撮影依頼が止まらない! コスプレカメラマン超入門」(玄光社)を上梓した。

具体的な撮影についての解説は同書に譲るとして、日本でも数少ないプロの”コスプレカメラマン”がどのように誕生したのか? コスプレ撮影初心者向けの機材やイベントなどオススメ情報を伺った。

趣味から副業、そしてカメラマンとして独立

井田達也さん

——コスプレ撮影のきっかけを教えてください。

現在、コスプレとコスプレイヤーを中心に撮影している「コスプレカメラマン」という職業をやっております。

コスプレを知るきっかけになったのが「コミックマーケット」(コミケ)です。もともとアニメやゲームがすごく好きで、コミケに一度行ってみたいと思っていました。世界最大の同人誌即売会なのですが、皆さん自分の好きなものを二次創作という形で自己表現出来る場所なんですね。そこで出会ったのがコスプレだったんのす。

コスプレのエリアがあって、参加者は写真を撮ったり好きな作品が同じ人同士で交流したりしていました。コスプレイヤーはその格好をしているだけで、どの作品が好きなのか一目でわかるわけです。そのおかげで初対面なのに共通の話ができて盛り上がれる、作品について語れるコミュニケーションの場として感動しましたね。

それで、新しい自分の居場所を見つけられたような実感があって、スマホや旅行用に買ったデジカメで撮るのが楽しくてはまりました。でも、現地ではメイクやウィッグ・衣装など二次元を三次元で表現する拘りが伝わってくるのに、自分が写真に撮ると構図や表現が下手で魅力を引き出すことができない。自分の写真が下手だからその時に見た感動を伝えることができていない、と。それから、撮影がうまくなろうと思ってコスプレイヤーをイベントで撮ったりコスプレイヤーを誘ってスタジオで撮ってみたりとか色々趣味で撮影をしていきました。

——そのころは本業が別にあったわけですね。

当時の本業は金融系のシステムエンジニアで、全くカメラとは関係ありませんでした。趣味でコスプレ撮影をやっていくうちにSNSなどでたくさん見てもらえるようになり、企業からコスプレの撮影をしてほしいという依頼が来るようになりました。出版社からお声がけしてもらって、今でも雑誌の表紙を撮影させてもらっています。

副業として撮影していましたが、依頼が増えてきたのとエンタメなど人を楽しませたり感動させたりすることが好きな性格もあって、「自分の興味のあるジャンルで勝負してみたい」と思いきって会社を辞めて独立することにしました。それが6年前のことです。

撮影:井田達也
© 硬梨菜・不二涼介/週刊少年マガジン
『シャングリラ・フロンティア』
エムル 檜山沙耶

作品の作り手への恩返しができる

——現在の活動を教えてください。

週刊少年マガジン、ヤングガンガン、ヤングアニマル、ビッグコミックスペリオール、週刊プレイボーイなど雑誌の撮影が多いですね。それからアニメやマンガ、ゲームに関連する企業からコスプレイヤーを起用した案件での撮影依頼も増えています。池袋ハロウィンコスプレフェス(池ハロ)や東京ゲームショウなんかでもコスプレイヤーのスチル撮影の依頼がありますね。地方のイベントにも仕事で良く行きます。

撮影から派生して、企業がイベントなどでコスプレイヤーをプロモーションで起用したいというときに、「キャラクターのこと、版権のこと、こういうコスプレイヤーがいますよ、衣装や小道具の製作はここで対応しますよ、撮影もできますよ」といったトータルでマネジメントする仕事もさせてもらっています。

過去には『フォトテクニックデジタル』(玄光社)で連載もしていて、それが今回の書籍の出版に繋がっています。

コスプレが大半ですが、それ以外はグラビアの撮影をしています。コスプレ撮影とグラビア撮影は考え方が全然違うので、そこも面白いところです。

最初からこれほどの仕事があったわけではないですが、趣味からグラデーション的に広がっていった感じですね。

——なぜコスプレを撮り続けているのでしょうか。

人物撮影が好きだというのがまず前提としてあります。相手とのコミュニケーションがすごく好きなんですね。それとコスプレというジャンルも好きです。みんな何かしらのオタクなので、好きなものをリスペクトしながら盛り上げていこうという気持ちが強いところに共感します。

もうひとつは、自分がこれまで見させてもらった作品のクリエイターさんへの感謝ですね。恩返しというとおこがましいのですが、自分が好きな作品に関われるところがやりがいとして大きいんです。

撮影:井田達也
© つくしあきひと/竹書房
「メイドインアビス」
ボンドルド TOMOZO

意外にバストアップの需要が高い

——コスプレ写真の最近のトレンドは?

数年前に見られたトレンドは広角レンズでした。16-35mmなどで腕や足をすごく長く見せるといった躍動感がある写真が多かったと思います。それがちょっと落ち着きつつあるイメージです。

今コスプレイヤーから求められることが多くなったのが、自撮りに近いものなんですね。コスプレイヤー自身がスマホで撮影できるようになって自撮りの投稿も増えてきました。これがメインストリームになりつつあると思います。

スマホで自撮りだと広角レンズで距離感近めの形になるので、カメラマンとして別のアプローチで焦点距離が長いレンズで寄って撮影するカットを多めに意識しています。

こうした変化はコスプレのクオリティが高くなっているのも理由でしょう。例えば、ウィッグのセットにしろメイクにしろ顔回りの細かい部分までかなり作り込んでいます。その結果、近くに寄っても絵になる写真が増えてきました。

コスプレイヤーが求めているものをさらに高いクオリティで写真にしたいとなると、バストアップを選択することが多くなりました。照明やカメラをしっかりしたもので撮らないと表現できない部分もあると思うので、同じバストアップでもスマホのインカメラとは異なったものになると思います。

とはいえ全身ショットもコスプレではキャラクターの魅力が伝わる定番の構図ですから、どちらが正しいということでは無くて、柔軟に考えてもらうと良いと思います。どちらかというと、世の中のトレンドというよりは僕の中のトレンドと言った方が近いかも知れませんね。

撮影:井田達也
© 1997 ビーパパス・さいとうちほ/小学館・少革委員会・テレビ東京
「少女革命ウテナ」
天上ウテナ うさぉ

——コスプレイヤーの変化はどうでしょうか?

コスプレイヤーの二極化を感じます。一方はイベントなどリアルの場で直接会ったり撮影をしたりして楽しむ層。コスプレによるパフォーマンスやオフラインの場を重視する人たちです。

もう一方はほぼSNSのみでの活動しているタイプのコスプレイヤーですね。そういう方は家でたくさん写真を撮ってオンラインでの反応を楽しんでいる。こうしたSNSだけで活動しているコスプレイヤーが増えているのを感じます。

どちらも、コスプレの認知度が上がるにつれて表現する場所が増え、敷居が下がってカジュアルになりつつあるなと感じています。気軽にコスプレを楽しもうという方が増えているのかなと思いました。

よく誤解されている部分ですが、SNSなどで有名だったりコンパニオンとしても活動しているコスプレイヤーは全体の1%とか本当に少数です。大半は普段は社会人をしていて休日に友人らとコスプレを楽しむといった趣味の層です。SNSではフォロワー数がすごく多い人が目立ちますが、コスプレイヤーの実際の業界はちょっと違うんですね。

50mmの単焦点レンズで入門を

——最近のカメラマンの変化は?

作品をしっかり作り込んで撮る人、イベント撮影がメインの人、コスプレイヤーのファンとして活動してる人、特定の作品が好きな人などいろいろなジャンルがあると思います。ただ僕が撮影を始めたのが9年前ですが、撮影している人はそこまで変化はないという感じですね。若い方は結構増えてきていますね。

コスプレを撮るカメラマンの人口は微増でしょうか。使っている機材は高級化しているというのはありますね。続けているうちに機材を足してグレードアップしているのだと思います。オンラインで機材が買いやすくなったのも理由としてあるでしょう。

——井田さんはミラーレスから入ったそうですね。

はい。ミラーレス世代というんでしょうか。一番最初はガラケーで撮影をしていました。その後は、旅行用に持っていたソニーのAPS-C機を使っていました。

そして、本格的にコミケで撮った後に決心して初代α7を買いました。世界初のフルサイズミラーレスという技術的な部分に惹かれました。それ以来ソニーのα7シリーズを使っています。ソニーのプロサポートにも入らせてもらって、現在はα7 IVがメインです。

また最近ではキヤノンのEOS R5も使っています。肌の発色が良いのでグラビアを撮る際はこちらを使っています。自分の成長のためにと、別メーカーのカメラにも挑戦しました。

——現在使用しているレンズは?

FE 16-35mm F2.8 GM II、FE 50mm F1.2 GM、FE 70-200mm F2.8 GM OSS II、FE 100mm F2.8 STF GM OSS、FE 35mm F1.4 GM、FE 14mm F1.8 GM、FE 28mm F2とフィッシュアイコンバーター、ほかにも2、3本あります。

中でもよく使うのはFE 16-35mm F2.8 GM IIで、迫力ある写真を撮る場合には重宝します。FE 70-200mm F2.8 GM OSS IIも軽くて使いやすい。先ほどのバストアップでは出番が多いですね。50mm F1.2も良いレンズで、ここぞとばかりに使いますね。

撮影:井田達也
「崩壊:スターレイル」
丹恒 ウィル

——初心者にオススメのレンズはありますか?

最初に買ったのがFE 55mm F1.8 ZAというソニーのレンズですが、これが本当に素晴らしくてα7とこのレンズだけでイベントに行ってました。絞りを開放にしても解像度がすごいんです。被写体が引き立つ描写力があって、素人でもビックリするレベルでした。

単焦点レンズなので、引きで撮ったり寄りで撮ったりしているうちに”足”が使えるようになります。これが結構大事にしているところで、これに慣れると色々なバリエーションを作れるようになります。ズームレンズだとどうしてもその場で撮影者が動かなくなってしまう。被写体との距離も含めて自分の足で調整する必要があったのは、成長になったと思っています。

それでオススメなのがFE 50mm F1.8です。上記のレンズと違ってある程度安価ですから。50mm付近は標準画角なので、色々な構図の作り方も身につきますね。カメラマンが自分の個性を出すためにも動いていろいろ撮れるようになることは大切だと思います。

——撮影に使っているアクセサリー類は?

SMDVのSpeedbox-Flipというソフトボックスが便利ですね。ガチャンとすぐに展開できる。従来のソフトボックスは開閉に時間がかかり、開いたままで移動をすると人や物にぶつかる危険があったのですが、これは一発で開閉できる。イベント撮影では安全面も含めてオススメですね。やはりオフストロボにすると写真に立体感が出るので、光源を動かすことは重要ですね。

ライトスタンドはSIRUIのDKシリーズで、カーボンの作りがしっかりしているものを使っています。スタンドの持ち込みがNGのイベントではストロボを手持ちで撮ることもあります。

LEDライトもストロボとは違ったメリットがあるので使用しています。例えば、コスプレイヤーがスマホで自撮りするときもその光が使える。仕事のときも、オフショットを撮るスタッフがそのまま動画を撮れます。ストロボも使っていますが、こういう部分はLEDのメリットでしょう。

——自然光よりもライトを使った方が良いでしょうか?

これは答えがありまして、ストロボとコスプレの相性というのはとても良いんですよ。コスプレというのはウィッグとか衣装などに原色に近い非日常の色が使われているわけです。すると顔に色被りが発生していく。そういった時にストロボの方がバチッと顔だけに当てたりとコントロールがしやすいんです。屋外でも日中シンクロを使うとHDRっぽくなって、普段の背景とは違って見えるため非日常感が出やすく効果的です。

自然光でももちろん綺麗に撮れます。作品にもよりますが、例えばキャラクターの日常シーンなど和やかな印象で撮りたかったら自然光で撮ったほうがいい。でも、コスプレってキャラクター物なので色をしっかり出したり、カチッとシャープな形で出したほうが映えることが多いです。

撮影:井田達也
© CFM
初音ミク 椿なぎさ

大きなイベントで場に慣れる

——初心者はどのようにステップアップすると良いですか?

まず自分から動かないと活路は無いということ。今回の書籍のタイトルが「撮影依頼が止まらない」なんですが、これはコスプレイヤーから撮影依頼が来るという話では無くて、「自分から撮影を依頼するのが止まらない」と意味なんです。

たくさん撮影していくことで、SNSなんかでも写真が認められていくと思います。そうして掲載した写真を見てくれた同じ感性のコスプレイヤーを探すというのはすごく大事なことなんですよ。自分が撮りたいものを明確にしていれば撮影が楽しくなるし、撮影の回数もどんどん増えていくから趣味としても充実する。撮影依頼を止めるな、カメラを止めるなみたいな感じですね(笑)。

——初心者がコスプレ撮影をしたいと思ったときにはどんなシーンがオススメですか?

アコスタという池袋のサンシャインシティでコスプレのイベントがあるのですが、初心者向けにイベントでの撮り方のセミナーもやっています。そういうところに参加するのもいいですし、まずは何かのイベントに参加するのが最初の行動かなと思います。

大きなイベントだとコミケの他にもワンダーフェスティバルというフィギュアのイベントやアニメジャパン、東京ゲームショウ、池ハロなどはコスプレエリアがあります。またコミケほどではなくても、月に1~2回は必ずイベントがどこかであるんですね。特にコスプレエリアがあるイベントが最初は行きやすいと思います。

撮影:井田達也
© ARC SYSTEM WORKS
「GUILTY GEAR」
ソル=バッドガイ ken

アコスタは色々なところで展開していて、福岡、大阪、東北でもやっています。カメラマンだと2,000~3,000円で参加できます。アコスタはコスプレイヤーと一緒に行かなくても並んで撮影できます。

なので、コスプレエリアがあるイベントで撮影に慣れて、池ハロなど街でやっているイベントに行く、さらに仲良くなったコスプレイヤーたちとスタジオに行きましょうという流れで個撮をする、というステップがわかりやすいと思います。

撮影依頼をする上では、自分の作品をしっかり見せられるようにポートフォリオを準備しておくことも大切です。

コスプレの世界には共同作業の魅力がある

——最後に一言お願いします。

コスプレ撮影は、コスプレイヤーとカメラマンで一緒に作品を作れるのがすごく良いところです。コスプレって自分の好きな作品なので、このシチュエーションでこう撮ってくださいというのが明確に提案できる機会が多いわけです。

それだけに、題材の作品を知らないとコミュニケーションができません。それだと、ただ撮るだけになってしまいます。カメラマンも作品をある程度調べたり、好きになる努力をするというのは大切だと思います。そういう中で知らなかった新しい作品のファンになることもあるわけで、それもまた魅力のひとつではないでしょうか。

そんなことも含めて、カメラマンも「一緒にやっていく」という意識が生まれやすいのがこの撮影ジャンルです。お互いの共通認識の上で作品を作っていくのはコスプレ撮影の大きな魅力です。ぜひコスプレ撮影の世界に足を踏み入れて、この楽しさを知ってほしいと思います。

撮影:井田達也
「ブルーアーカイブ」
砂狼シロコ(ライディング) あまねるみ

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。