何気ない風景をダイナミックに変える「絶景写真術」

飛び交う「蛍」の撮影を写真家・田中達也が伝授!

背景にピントを合わせて“作品”に

竹林を飛び交うヒメボタルを90枚連続撮影し、レタッチ段階で比較明合成し完成作品としている。キヤノンEOS 60D/EF24mmF1.4L II USM/24mm(36mm相当)/マニュアル露出(F1.4、30秒)/ISO1600/WB:オート/比較明合成/5/29 23:33(曇り)

夏の風物詩の1つ「蛍」。この夏撮影にチャレンジしてみたいと考えている人もいるでしょう。蛍の撮影は難しいと思われがちですが、いくつかのポイントを抑えれば美しく撮影できます。このページでは、写真家の田中達也さんが蛍を作品として撮影するテクニックを紹介します。(編集部)

星のように舞うヒメボタル

ピントは蛍ではなく風景に合わせて構図を決める

蛍は写すだけなら初心者でもそれほど難しくない。三脚を使用してISO800〜1600前後の高感度に設定すれば、オートでも撮影できる。しかし、夏の風物詩として作品化するにはなかなか奥深さのある対象である。

蛍は種類によって飛ぶ時期や生息条件が異なり、撮影地から蛍が飛ぶ時間帯など事前に情報を収集することが重要だ。また蛍は飛び交うエリアやルートが比較的はっきりしているので現場でよく観察し狙いを定めることもポイントになる。現場で最初に行うのが場所の選定、そしてピント合わせである。

ピントは蛍に合わせるのではなく景色に合わせることで風景としての趣が高まる。夕暮れから現場に入ればピントも合わせやすい。またレンズの距離メモリを使っておよその距離合わせでも対応は可能である。上の写真はヒメボタルを90枚撮影し、蛍の写り方を見ながら比較明合成したもの。

ライトアップしてピント位置を探ることは蛍の生息環境を乱し、他の撮影者の迷惑にもなるのでやめておこう。

ピントと露出はマニュアルで撮影する

すべての準備が整ったら後はシャッターを押せばよいのだが、ここでもっとも注意しなければならないことが、AFからMFに切り替えることだ。AFのままでは周りが暗すぎて合わせたピントがエラーとなる。MFに切り替えたら不用意に動かさないようにテープで固定するなど用心しよう。

連続撮影するならばオート撮影で探った露出値(絞り、シャッター速度)をマニュアル露出に置き換えると蛍の明るさや光の色合いが一定する。

光跡を描くゲンジボタル

小川を乱舞するゲンジボタル、橋から両岸を入れシンメトリックに望遠ズームで狙う。キヤノンEOS 5D Mark II/EF70-200mm F2.8L IS USM/マニュアル露出(F5.6、13秒)/ISO800/WB:オート/比較明合成/6/7 20:11(晴れ)
薄暮からの撮影はマイナス補正で撮影する

夕暮れから薄暮の時間帯は露出選びも難しい。とくに薄明の終わり頃は一気に暗くなり、撮り始めの設定のままではアンダー露出になりやすい。そこで絞り優先AEなどのオート撮影では設定時に-1〜-1.5EV補正することがコツである。

うっすら景色が写る程度のアンダー目の描写が適している。構図は状況に合わせて縦横撮り分けるが、星空を入れ雰囲気を醸し出すならば縦位置構図がよい。曇り空なら横位置で空が目立ちすぎない割合を選ぶとまとめやすい。

広角から標準のピント位置は2〜3m付近がベスト

ゲンジボタルは水生昆虫なので水辺近くを乱舞する。構図に水辺が入っていると環境描写としても最適で風情は高まる。水辺は天候に左右されないので画面構成には最適な光景だ。迷いやすいのがピント位置の選択だ。

広角から標準ならば2〜3m付近に合わせれば風景的に落ち着いた描写が得られる。望遠系ならば構図前方に目立つポイント的な箇所があれば、そこをピント位置として選択するとよい。いずれも絞りは開放気味で撮影するため前後はぼけやすい。

こんなカットも!
夕暮れ時に撮影した竹林の脇を飛ぶゲンジボタル。背景の空は未だ明るいが星が写っている。この時間帯の撮影は景色もよく見えるが、露出条件が刻々と変化するため絞り優先AEの連続撮影がおすすめだ。絞り優先AE(F4、13秒)、ISO1250で撮影

蛍撮影の設定POINT

蛍の灯す明るさは種類や飛び方によって違い、ISO感度とF値で適正露出を導く。ゲンジボタルはISO800でF4〜5.6、ヒメボタルはISO1600でF1.4〜2.8が目安。その場合のシャッター速度は周辺環境の写り具合で加減する

蛍写真も星の光跡と同様、「撮影」と「合成(レタッチ)」の2つの工程で仕上げる

蛍の撮影は1枚撮りのほか、数十枚撮影したものを比較明合成する方法がある。手法的には星の撮影と同じだが、大きく異なるのは一定の動きの星に対して蛍は飛び方も光の様子も異なることだ。また撮影地の環境や発生状況によって光をキャッチできる数や動きが違ってくる。

撮影はいつどこで蛍が見られるか、情報収集とロケハンが大きなカギを握る。実際の撮影では、蛍の種類や現場の環境(周囲の明るさなど)によって露出条件が異なるため、何度か試写をして最適な露出を求めよう。

撮影のポイント

光り方は「ヒメボタル」と「ゲンジ・ヘイケ」タイプの2つ

蛍の光の種類はフラッシュ点滅するヒメボタルのタイプと、点灯と消灯を数秒単位で繰り返すゲンジボタルやヘイケホタルなどのタイプに大別される。

同じシャッター速度でもヒメボタルは「点」に、ゲンジやヘイケは「線」のように写る。どちらの場合も、長秒露出が必要だ。群れをなして乱舞するシーンに出会えたら1枚撮りでも十分だが、巡り会うチャンスは限られている。飛ぶ数が少ない場合は連続撮影して後から比較明合成をし、作品に導くのである。

地域によって発光時間や発生時間は異なるが、5月下旬〜7月頃の日没後1時間後〜22時頃までに発生し、20時頃にピークを迎えるケースが多い。

ヒメボタルは陸生で、「森の蛍」とも呼ばれる。フラッシュ点滅し、星のように写せる。発光は0.7〜1秒程度の間隔だ
河川に生息するゲンジボタルは2〜4秒間隔で点灯と消灯を繰り返す。長秒で写真を撮ると線のように写る
ピントはMFで合わせておく

夕方から薄暮の時間から飛び始める種類は、薄暗いとはいえ景色が見えるので構図もピントも比較的合わせやすい。ところが夜から夜中に発生する種類の場合、星景と同様、ピントも構図もわかりづらい。

月明かりの明るい夜はよいが、新月で真っ暗な場合は事前におよその焦点距離をMFでセットしておこう。ライトを使った照射は蛍にダメージを与えるため厳禁だ。

比較明合成の手順

STEP 1:合成前に不要カットを排除する

蛍の光跡はたとえ100枚連続撮影してもひとつとして同じものはなく、ランダムである。そのため連続撮影した中には全く蛍が写り込んでいないものがあったり、車のライトや人影など不必要なものが写り込んでしまうことがある。

比較明合成を始める前は、蛍の配置をイメージして、不要なカットを排除する作業がとても大切だ。迷惑光が入るアクシデントは撮影にはつきものなので、撮影ポイントの選択には十分配慮したい。

1枚撮りだと蛍の数は少ない。1枚1枚の蛍の分布や光り方を見ながらバランスよく組み合わせていく作業が発生することが、星の比較明合成と異なるところだ
STEP 2:仕上がりをイメージして合成する

比較明合成では背景に対して蛍の光をどの程度入れるかがポイントになるので、目的は蛍の光に集約されることになる。ひとつの画面に写っている蛍の光によって合成枚数も違ってくるわけだ。1枚で完成する場合もあれば、数枚〜数十枚重ねる場合もある。

闇雲に合成すると画面が蛍の光で埋め尽くされてしまうので、仕上がりをイメージしながら合成していこう。うっすらと見える背景に対して最適な蛍の光が風情を醸し出すことも覚えておきたい。

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この記事は、インプレス刊の書籍「何気ない風景をダイナミックに変える 絶景写真術」から抜粋・再構成しました。「空」「水」「山と樹」「大地」の4つをテーマに、美しい風景をさらに魅力的な写真へと変化させるテクニックが満載です。

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田中達也

医療ソーシャルワーカーを経て自然写真家として独立。身近な自然から風景・オーロラと幅広いジャンルを手がけ、繊細で力強い作風を特徴とする。オーロラと風景を組み合わせた一連の作品は海外からも高い評価を得ている。最新著書に「星の絶景を撮る」(玄光社刊)。

http://www.tatsuya-t.com/