特別企画
自力で戻せるマウント改造に挑戦!
ニコンDfにライカRレンズを装着
Reported by澤村徹(2014/3/12 08:00)
クラシカルデザインのニコンDfは、オールドレンズがよく似合う。しかしながら、ニコンFマウントはフランジバックが46.5mmと長いため、マウントアダプター経由で装着可能なレンズが限られてしまう。端的に言うと、マウントアダプター経由では中判レンズぐらいしか装着できない。
その一方で、オールドレンズ好きのニコンユーザーの間では、マウント改造という手法が定着している。オールドレンズのマウント部分をニコンFマウントに改造するわけだ。従来は専門業者に依頼してマウント改造してもらっていたが、近年、“セルフ改造パーツ”に人気が集まっている。マウント部分を自分で交換し、オールドレンズのニコンFマウント化が可能だ。本稿はこのセルフ改造パーツを使ったマウント改造の流れと、改造後の使用感についてレポートする。
- ボディ:ニコンDf
- レンズ:ライツ ズミクロンR 50mm F2 タイプI
- 改造パーツ:Leitax Special Leica-Nikon bayonet for the older Leica-R lenses with 1 cam.
今回はLeitax社のセルフ改造パーツを使い、ライカRレンズをニコンFマウント化して、ニコンDfで撮影するのが目的だ。Leitax社はスペインの会社で、様々なマウントのセルフ改造パーツを開発販売している。セルフ改造パーツの先駆的な存在で、最近はLeitax製品の類似品を国内でも見かけるようになった。Leitax製品はオフィシャルサイトから通信販売で購入可能だ。海外通販となるが、支払いはPaypalが使えるのでリスクは少ないだろう。
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さて、今回はライカRレンズをニコンFマウントに改造するわけだが、なぜ改造が必要なのか、その理由をはじめに理解しておこう。ライカRマウントのフランジバックは47.0mm、ニコンFマウントは46.5mmだ。その差は0.5mmとなる。厚さ0.5mmのマウントアダプターがあれば無改造でニコンDfにライカRレンズを付けられるのだが、わずか0.5mm厚のマウントアダプターを製造するのは、構造的にも耐久性の面でも不可能に近い。そこでライカRレンズから既存のマウントパーツを取り外し、0.5mmだけ厚みをプラスしたニコンFマウントパーツを装着するわけだ。このマウントパーツの交換を自力で行なえるのが、セルフ改造パーツのメリットである。
今回改造用に用意したレンズは、ズミクロンR 50mm F2 タイプIだ。2カムを採用した初期型ズミクロンである。ライカRレンズは、1カム、2カム、3カム、Rカムといった複数のバリエーションがあり、レンズ構造に合ったセルフ改造パーツを用意する必要がある。大ざっぱにいうと、Leitaxのセルフ改造パーツはカム付きのまま作業できるタイプと、カムを外して作業するタイプがある。2カムのライカRレンズはカムを外すことができるが、その作業をショートカットしたいので、あえてカム付きのまま作業できる「Special Leica-Nikon bayonet for the older Leica-R lenses with 1cam.」を選んでみた。Leitax社のホームページにライカRレンズの種類ごとに必要なパーツと改造手順が載っているので、詳しくはそちらを参照してほしい。
では、いよいよ改造の流れを見ていこう。改造作業は精密機器用のドライバー1本で行なえる。特定部位を削るような大がかりな作業は不要だ。ライカRレンズの後玉周辺には、リアシェードを呼ばれる黒いパーツがある。まずはこのリアシェードを取り外す。次にマウント部のネジをゆるめ、マウントパーツを取り外そう。
このとき注意したいのが、小さなベアリングボールの存在だ。このベアリングボールは絞りリングの動作に欠かせないパーツなのだが、マウントパーツを取り外すと、その裏側にくっついていることが多い。ベアリングボールを紛失しないように、ゆっくりとマウントパーツを取り外そう。その後、ベアリングボールはレンズ側の所定の穴に設置する。このとき古いグリスを拭き取り、新しいグリスを塗っておくと安心だろう。なお、今回購入したLeitaxのセルフ改造パーツには、予備のベアリングボールが付属していた。
仕上げはLeitaxのマウントパーツをレンズ後端にかぶせ、しっかりとネジ止めする。これで改造完了だ。筆者はレンズやカメラのメンテナンス技術に精通していないが、それでも10〜15分程度で改造できた。ネジ山をつぶさないこと、ベアリングボールをなくさないこと。この2点さえ注意すれば、改造がはじめてという人でもスムーズに作業できるだろう。セルフ改造パーツは可逆改造なので、オリジナルのライカRマウントに戻すこともできる。この点もセルフ改造パーツが人気の理由だろう。
ニコンDfへの取り付けは、非Aiニッコールレンズ相当と考えればよい。Dfのマウント部のツメを倒し、マウント改造したレンズを装着する。カメラのメニュー画面からレンズ情報手動設定を呼び出し、焦点距離と開放絞り値を入力。露出計連動方式は非Aiに設定しておくのが順当だろう。この状態で他社製レンズでも絞り優先AEが利用でき、実絞りで撮影が可能だ。ミラーレス機などでマウントアダプターを使ったオールドレンズ撮影に慣れている人なら、いつも通りというわけだ。
マウント改造レンズの使用感について述べていこう。まず、マウントパーツを交換しているので、無限遠がちゃんと出るのか気になるところだ。結論から言うと、今回組み合わせた個体に関しては若干オーバーインフだった。光学ファインダー上ではほぼわからないのだが、ライブビューで拡大表示すると、レンズの無限遠位置でわずかにオーバーインフとなる。F5.6あたりまで絞ればおおむねピントがくるものの、光学ファインダー上で確認が難しいというのが歯痒いところだ。なお、マウント改造したズミクロンは、改造する前はレイクォール製のマウントアダプターでEOSに装着することが多かった。この組み合わせではほぼジャストで無限遠が出ていたことを付記しておく。
改造して一番気になった点は、絞りリングの動きだ。改造前は軽快なクリック感があったのだが、改造後は動きがかなり重くなってしまった。また、絞りリングをまわしたとき、開放F2およびF16を行きすぎてしまう点も気になった。改造工程で標準搭載のリアシェードを取り外したが、実はこのリアシェード、絞りリングのストッパーも兼ねている。リアシェードを外したままなので、両端の絞り値を超えて絞りリングがまわってしまうのだ。運用でカバーできる程度のことだが、マウントパーツの交換により、絞りリングの挙動が変化する点は留意しておこう。加えて、リアシェードを取り外すと、当然ながらフレアの発生やコントラストの低下といった画質面での影響が出てくる。幸い、今回試写した範囲では極端な画質低下は感じられなかったものの、影響はゼロではない。これも改造にともなう変化のひとつだ。
Leitaxのセルフ改造パーツは、ドライバー1本で手軽にマウント交換できる。改造後はフルサイズ機のDfに付けてもミラー干渉することなく、「ニコンボディでライカRレンズ」という当初の目的を達成することができた。しかしながら、マウントアダプターがレンズをオリジナル状態でマウント変換できるのに対し、セルフ改造パーツはレンズのコンディションが変ってしまう。元々レンズの一部分であるマウントパーツを交換するため、改造後は操作感に少なからず影響が出る。マウント改造する際は、この点を理解しておいた方がよいだろう。むろん、セルフ改造は可逆改造なので、改造後の状態に満足できない場合は元に戻すことができる。この元に戻せるという安心感こそ、セルフ改造パーツのアドバンテージと言えるだろう。