特別企画

望遠マクロレンズで「春」を撮る

オリンパス60mmマクロを徹底活用

OLYMPUS OM-D E-M5にM.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macroを装着。120mm相当の望遠マクロながら、携帯性のよさと比較的リーズナブルな価格が魅力だ。

 今年も花見のシーズンがやってきた。写真撮影が趣味の人なら、この季節を待ち望んでいる人も少なくないはず。桜などの春の花はうまく撮るのは簡単ではないが、ただ画面に写っているだけでも季節感のある写真になる。ごく身近でありながら、非常に奥が深い被写体といっていい。

 撮り方にはさまざまな方法が考えられるが、花そのものをきちんと写したいならマクロレンズを使うのがお勧めだ。中でも、望遠のマクロレンズは適度な距離感を保ちながら接写ができるので花の撮影に最適。そんな1本、オリンパスのミラーレス用マクロレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro」を使って、春の花マクロ撮影を実践してみよう。

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一足先に咲いた寒桜。前ボケとして近景に葉っぱを写し込んでみた。E-M5 / M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro / 約7.4MB / 4,608×3,456 / 1/60秒 / F2.8 / +1.0EV / ISO200 / WB:オート / 60mm
点光源をアウトフォーカスにすると、きれいな丸ボケが生じる。E-M5 / M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro / 約6.8MB / 4,608×3,456 / 1/13秒 / F3.5 / -0.7EV / ISO1600 / WB:オート / 60mm

機動力に優れた120mm相当の望遠マクロ

 オリンパス「M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro」は同社製マイクロフォーサーズレンズでは、初めて等倍撮影に対応した本格的なマクロレンズだ。発売は2012年10月。昔からオリンパスのマクロレンズは性能と使い勝手のバランスに定評があり、ネイチャー写真の愛好家の中でも人気は高かった。そんな接写ファンにとっては、このレンズは待望の製品だろう。

 いちばんの特長は、35mm換算で120mm相当という比較的長い焦点距離に対応しながら、鏡筒がコンパクトにまとまっていること。外径寸法は56×82mmで、重量はわずか185g。ポケットにも収まるくらいの細くて軽いレンズなので、たとえば標準ズームレンズと一緒に持ち歩いても大きな負担は感じない。

 本レンズに限らないが、同社のマイクロフォーサーズシステムは手ブレ補正をボディ側に備えることもあり、レンズ鏡筒の径が比較的細いことが特徴のひとつだ。片手の指の間にはさんで2本のレンズを同時に持てるので、レンズ交換が素早く行なえる点がありがたい。

幅の広いフォーカスリングを装備。リングの感触は滑らかで心地よい
外装は主に樹脂素材で、マウント部には金属を採用。剛性感は高い
今回の使用ボディは「OM-D E-M5」。5軸対応の強力なボディ内手ブレ補正やチルト可動式の液晶モニターを搭載。装着時のバランスは良好で、マクロ撮影用に使いやすい組み合わせだ

 機能面での注目は、レンズ鏡筒部に「フォーカスリミットスイッチ」を備えること。このスイッチを回すことで、ピントの範囲を「近接(0.19〜0.4m)」、「ノーマル(0.19m〜∞)」、「遠景(0.4m〜∞)」の3段階から選択でき、撮影シーンに応じてピントの無駄な動きを制限できる。また、スイッチを「等倍」にセットすると、AF/MFを問わずフォーカス位置を最短撮影距離の0.19mにすばやく設定できるのも便利だ。

 さらに、フォーカスリミットスイッチの横には「表示窓」があり、赤いバー表示によって現在のフォーカス位置がひと目で把握できるようになっている。この表示を確認すれば、たとえばマニュアルフォーカスでピントを合わせる際、ピントリングを逆に回してしまう手間を防げる。

ピントの範囲を3タイプから選べる「フォーカスリミットスイッチ」
現在のフォーカス位置が赤いバーで示される「表示窓」

マクロ機能付き標準ズームレンズと比較する

 続いて、標準ズームレンズと比較しながらED 60mm F2.8 Macroの接写能力をチェックしてみたい。比較用に使用したのは同社の標準ズームレンズ「ED 12-50mm F3.5-6.3 EZ」。OM-D E-M5のレンズキットに付属するレンズでもある。実は、この標準ズームはレンズ側の機能としてマクロモードを備え、最大で倍率0.36倍のクローズアップ撮影に対応する。一般的な標準ズームレンズに比べると、接写性能の高いレンズといえる。

 まずは画角の違いを見るために、カメラの位置を固定した状態でレンズを換えて撮影した。ED 12-50mm F3.5-6.3 EZはズームレンズだが、マクロモード選択時は焦点距離43mmに固定される。つまり、焦点距離43mm(86mm相当)と焦点距離60mm(120mm相当)の画角の比較だ。当然ながらED 60mm F2.8 Macroのほうが写る範囲が狭く、被写体が大きく写る。

ED 12-50mm F3.5-6.3 EZで撮影。E-M5 / 約6.6MB / 4,608×3,456 / 1/100秒 / F8 / 0.0EV / ISO200 / WB:晴天 / 43mm
ED 60mm F2.8 Macroで同じ位置から撮影。E-M5 / 約6.5MB / 4,608×3,456 / 1/50秒 / F8 / 0.0EV / ISO200 / WB:晴天 / 60mm

 次に、最大撮影倍率の違いを見るために、それぞれのレンズの最短撮影距離で撮影してみた。スペック上の数値はED 12-50mm F3.5-6.3 EZが0.36倍で、ED 60mm F2.8 Macroが1倍(等倍)だ。

ED 12-50mm F3.5-6.3 EZの最短撮影距離(20cm)で撮影。E-M5 / 約6.9MB / 4,608×3,456 / 1/20秒 / F6 / 0.0EV / ISO200 / WB:カスタム / 43mm
ED 60mm F2.8 Macroの最短撮影距離(19cm)で撮影。E-M5 / 約6.7MB / 4,608×3,456 / 1/6秒 / F6.3 / 0.0EV / ISO200 / WB:カスタム / 60mm

 最大撮影倍率でのワーキングディスタンスについては、「ED 12-50mm F3.5-6.3 EZ」が約6.5cm(実測値)、ED 60mm F2.8 Macroは約8.2cmとなる。ワーキングディスタンスはあまり短すぎるとレンズの影が写りこむ場合があるが、約8.2cmあればその心配は少ない。

ED 12-50mm F3.5-6.3 EZの最大撮影倍率(マクロモード時0.36倍)でのワーキングディスタンスは約6.5cm
ED 60mm F2.8 Macroの等倍撮影でのワーキングディスタンスは約8.2cm

 被写体に接近すればするほど日常的な視線とは違った写真となり、画としては面白くなるが、その反面、ピンぼけや手ブレ、被写体ブレの危険性はますます高くなる。特に、等倍や等倍付近での撮影では、被写界深度が極めて浅くなるため、撮影には慎重さが必要だ。かすかな風によって被写体が動いたり、ピントを合わせた後でカメラ位置を少しでも動かすと、狙った位置からピントがズレてしまう。AFではなく、MF(マニュアルフォーカス)に切り替えたほうが撮影しやすいことも多いので、AF/MFを適宜切り替えながら撮るのがお勧めだ。

色やフォルムの面白さを発見できるのは、超マクロ撮影ならでは楽しみだ。E-M5 / M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro / 約6.5MB / 4,608×3,456 / 1/200秒 / F2.8 / 0.0EV / ISO200 / WB:晴天 / 60mm
接写では、できるだけ形が整った花を探すことと、背景をシンプルに整理することが大切だ。E-M5 / M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro / 約7.3MB / 4,608×3,456 / 1/160秒 / F11 / 0.0EV / ISO200 / WB:オート / 60mm
マニュアルフォーカスを使ってピントを固定し、カメラを前後に動かしながら、最適なピント位置を探して撮るのが便利だ。E-M5 / M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro / 約6.9MB / 4,608×3,456 / 1/125秒 / F4 / 0.0EV / ISO200 / WB:オート / 60mm

前ボケや後ボケを生かしてメインの花を強調する

 次は、絞り値によるボケの違いを標準ズームレンズと比較しながら確認してみよう。下の写真は、赤い花の大きさがほぼ同じになる位置にカメラをセットした上で、絞り値を変えながら撮影したものだ。

標準ズームレンズ(ED 12-50mm F3.5-6.3 EZ)で撮影
F6
F8
F11
F16
F22
マクロレンズ(ED 60mm F2.8 Macro)で撮影
F2.8
F4
F5.6
F8
F11
F16
F22

 これも当然の結果だが、開放F値がより明るく、焦点距離がより長いED 60mm F2.8 Macroのほうがボケ量は多い。特に開放F値からF5.6あたりまでのスムーズなボケは、本レンズの大きな魅力だ。背景はとろけるように滑らかな描写となり、ピントを合わせた部分はくっきりと際立つ。もちろん、どんな写真でも常に背景がボケたほうがいいとうわけではないが、標準ズームでは得られない表現力だ。狙いに応じて絞りを切り替えながら撮影しよう。

梅や桜の撮影では、木の枝の処理が構図の見栄えを左右する重要なポイントのひとつ。このカットでは、背景の枝をボカして目立たなくした。E-M5 / M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro / 約6.7MB / 4,608×3,456 / 1/800秒 / F2.8 / 0.0EV / ISO200 / WB:オート / 60mm
正面だけでなく、花の後ろ姿にも注意しながら構図を探そう。E-M5 / M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro / 約7.0MB / 4,608×3,456 / 1/125秒 / F4 / 0.0EV / ISO200 / WB:オート / 60mm
レンズのすぐ前に花びらを配置した上で、奥にある花にピントを合わせると、前ボケによって色フィルターのような効果が生まれる。E-M5 / M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro / 約7.2MB / 4,608×3,456 / 1/800秒 / F2.8 / +0.7EV / ISO200 / WB:オート / 60mm
手前の菜の花にピントを合わせて、背景の桜はボカしてみた。色の組み合わせにも注意しながらアングルを探そう。E-M5 / M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro / 約6.8MB / 4,608×3,456 / 1/640秒 / F2.8 / +0.3EV / ISO200 / WB:オート / 60mm
背景にある池に光が反射したことで、大きな丸ボケが生じた。E-M5 / M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro / 約6.1MB / 4,608×3,456 / 1/800秒 / F3.5 / 0.0EV / ISO200 / WB:オート / 60mm

 花の撮影では、背景のボケだけでなく、近景に前ボケを写し込むことも効果的だ。ED 60mm F2.8 Macroは適度に焦点距離が長いので、レンズのすぐ前に葉っぱや花びらが入るカメラ位置を選択するだけで、ふんわりとした前ボケが生じる。花だけではもの足りない場合、味付けとして前ボケを加えるといいだろう。

前ボケによって画面に奥行きを与えた。E-M5 / M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro / 約6.8MB / 4,608×3,456 / 1/400秒 / F2.8 / +1.3EV / ISO200 / WB:晴天 / 60mm
薄いピンクとグリーンの前ボケを加えて、華やかなイメージにしてみた。E-M5 / M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro / 約7.7MB / 4,608×3,456 / 1/80秒 / F2.8 / +0.3EV / ISO400 / WB:オート / 60mm

光にこだわって花マクロ撮影を楽しもう

 被写体に当たる光の状態を見極めることも、花のマクロ撮影では大切なポイントだ。被写体の正面から光が当たった「順光」では色鮮やかでストレートな写真になり、被写体の後ろから光が当たった「逆光」や「半逆光」では陰影が強調されて立体感が引き立つ。シーンごとに光線状態を意識しながら、最適なカメラアングルを選択しよう。

逆光気味の太陽光線によって透き通るような花びらを表現した。E-M5 / M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro / 約7.5MB / 4,608×3,456 / 1/250秒 / F9 / 0.0EV / ISO200 / WB:晴天 / 60mm
完全な逆光の構図を選択。シルエットとして花の形が際立つ。E-M5 / M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro / 約7.0MB / 4,608×3,456 / 1/640秒 / F8 / +0.3EV / ISO400 / WB:オート / 60mm
斜めから太陽光が当たった「斜光」の状態。カメラに取り付けたストロボを発光させ、暗部の明るさを補っている。E-M5 / M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro / 約5.8MB / 4,608×3,456 / 1/200秒 / F4 / 0.0EV / ISO200 / WB:オート / 60mm
このカットもストロボ発光で撮影したもの。露出はマニュアルで設定して背景は暗めにした。E-M5 / M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro / 約7.0MB / 4,608×3,456 / 1/200秒 / F3.5 / 0.0EV / ISO200 / WB:オート / 60mm
イルミネーションの光を利用しながら、ISO1600で手持ち撮影。E-M5 / M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro / 約7.3MB / 4,608×3,456 / 1/20秒 / F3.5 / +0.7EV / ISO1600 / WB:オート / 60mm
このレンズで最も形がきれいな丸ボケを表現できるのは「F3.5」だ。開放F値のF2.8では口径食の影響で周辺部の丸ボケの形がやや崩れる。E-M5 / M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro / 約6.7MB / 4,608×3,456 / 1/40秒 / F3.5 / -0.3EV / ISO1600 / WB:カスタム / 60mm

風景の一部を切り取る感覚でフレーミングする

 実をいうと、今回の記事を書くまでは、これまでに私は桜のマクロ撮影に熱心に取り組んだ経験はあまりなかった。撮るよりも桜を見ながら飲む機会のほうが多かった気がする。しかし、そんな遅咲きデビューの私が今では夢中になって日々桜を追いかけている。

 撮れば撮るほど、さらにああしたいこうしたいという欲求が生まれ、撮っても撮っても飽きない被写体だと感じるようになった。歳を重ねたことによる心境の変化だろうか。いや、携帯性と取り回しに優れ、なおかつ描写力も絶品なマクロレンズED 60mm F2.8 Macroに出会ったことも、私が花マクロにハマった理由として大きいと思う。

 最後に、花マクロ以外の写真も掲載しておこう。ED 60mm F2.8 Macroは花のマクロ撮影に最適だが、それ以外の用途にも役立つレンズだ。中級者や上級者はもちろん、ビギナーを含めた老若男女にお勧めできる。

鋭い眼光に大胆に迫ってみた。E-M5 / M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro / 約7.6MB / 4,608×3,456 / 1/160秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO200 / WB:オート / 60mm
明るい開放F値を生かしてボケのあるスナップを楽しめる。E-M5 / M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro / 約6.2MB / 4,608×3,456 / 1/800秒 / F2.8 / -1.3EV / ISO200 / WB:日陰 / 60mm

(協力:オリンパスイメージング株式会社)

永山昌克

早稲田大学教育学部卒業後、スタジオ撮影助手を経て、フリーランスのフォトグラファー。得意分野は老若男女のポートレート撮影。趣味は中国語。カメラやRAW現像に関する著書多数。