【特別企画】キヤノンEOS 7Dでショートフィルムを撮る

Reported by 野下義光

EOS 7D / EF 24mm F1.4 L II USM / 5,184×3,456 / 1/1,600秒 / F2 / 0EV / ISO100 / WB:7,400K / 24mm
サムネイルをクリックすると、EOS 7Dで撮影した静止画像を開きます。(Digital Photo Professionalで現像し、Photoshop CS3でレタッチ。撮影:野下義光)

 キヤノンが10月に発売したデジタル一眼レフカメラ「EOS 7D」は、フルHDの動画撮影機能を搭載する中級モデルだ。EOSシリーズは初となる24fpsでの動画記録にも対応したことで、映画やプロモーションビデオの関係者から注目を集めている。

 今回は、デジタル一眼レフカメラならではの大きなボケや高感度画質を活かしたショートフィルムを制作してみた。EOS 7Dから搭載した60fps記録(1,280×720ピクセル)も活用し、オーバークランクによる滑らかなスローモーションシーンも盛り込んだ。

 また、今回のショートフィルムで撮影と編集を担当した映像作家の近藤勇一氏と撮影のコーディネートを行なった写真家の野下義光氏による対談も掲載した。(編集部)

【ショートフィルム】

 

※掲載したショートフィルムは、EOS 7Dで撮影したHD動画をアップルの動画編集ソフト「Final Cut Pro 6」で編集した。撮影時のフレームレートは24(23.98)fpsだが、モデルが走っているシーンのみ60(59.94)fpsで撮影し、2.5倍のスローモーションとした(いわゆるオーバークランク)。オーバークランクシーンのフレームレート変換とリサイズには、同じくアップルの合成ソフト「Shake 4.1」を使用している。なお、撮影時のピクチャースタイルはニュートラル。編集で色調整などは行なっていない。また、掲載したFLVファイルは撮影時と同じ24(23.98)fpsとしている。

※掲載したFLVファイルは640×360ピクセル。ビットレートは約2Mbpsとした。そのため、ススキのシーンなど画面全体に大きな動きのある部分では、オリジナル映像には無かった画質の低下が見られる点をご了承いただきたい。なお、本編に使用した未加工のオリジナル動画ファイルを記事末に掲載した。

※現在サーバーに大きな負荷が掛かっているため、ショートフィルムのビットレートを700Kbpsに下げて公開しています。(12月24日13時30分)

※ショートフィルムのビットレートを当初の2Mbpsに戻しました。(12月25日12時30分)

モデル:森仁奈@プロダクションノータイトル

●劇場の大画面にも耐えうる画質

野下義光氏(以下、野下):さて、今回初めてデジタル一眼レフカメラで映像を撮影してみて、率直な感想をお聞かせください。

近藤勇一氏(以下、近藤):まず驚いたのはとにかく画質が申し分ない、というより非常に素晴らしいですね!

野下:劇場スクリーンの大画面にも耐えられますか?

近藤:十分に耐えられます

野下:普段業務で使っているビデオカメラと比較すると?

近藤:普段は業務用ビデオカメラのパナソニック「AG-HVX200」をメインに使っていますが、画質に関しては「EOS 7D」の方が勝っていますね。ビデオではなかなか得られないボケ足の美しさもさることながら、風になびく髪の毛1本1本が見事に瑞々しく解像していて驚きました。

 また、よく粘るハイライトの階調に加え、ビデオカメラ独特のノイズ感が現れないシャドー部も素晴らしいです。今回はEOS 7Dの素の画を見てもらうために敢えて後処理で色調などは弄っていませんが、後処理を前提とした素材としても破綻しにくいと思います。


野下:高感度特性はいかがでした?

近藤:これはもうビックリです。最後の夜の無人駅のシーン。地明かりのみの薄暗い状況でしたが非常に綺麗に撮れています。AG-HVX200ではこうはいきません。

野下:画質についてのマイナス面はなにかありましたか?

近藤:夕日に照らされた波打ち際に妙な色ノイズみたいなものがわずかにチラつくのが唯一気になった点です。ビデオカメラではこのようなノイズは見たことがないのですが、これって何でしょうか?

野下:(映像を見て)たぶんこれは偽色かもしれませんね。3CCDのビデオカメラには原理的に発生しないものです。

近藤:なるほど。どおりで今まで見たことないわけですね。


●動画の操作面では工夫が必要

野下:操作性についてはいかがでした? 現場ではけっこう苦労していた様子でしたが。

近藤:いやぁ辛かったです(笑)。不慣れを差し引いても、動画を撮る操作性の面は業務用映像を撮影するレベルではないですね。

野下:例えば?

近藤:やはりピントに関してです。まずレンズのピントリングの回転角が浅すぎます。カメラに向かって歩いてくるカットにおいて、一応動画では定番手法のピント送りを試そうとした時のことです。あらかじめいくつかの立ち位置とそれに対応したピント位置をレンズにマーキングして臨んだのですが、キャストの移動は10数メートルなのに対して、レンズのマーキング間隔はわずか数mm。

 それに加えて液晶モニターの質がピントを確認するには非常に厳しいときています。被写界深度が浅いのが魅力なのに(笑)。これでは微妙なピント送りは無理です。別途外部モニターを接続したり、減速ギアなどを用いて微妙なピント送りができるようにしないと業務目的で映像作品を撮るのは厳しいですね。

野下:なるほど。そういえばスチルのプロ機材店で、デジタル一眼レフカメラで動画を撮りやすくするための、微妙なピント送りを可能としたり液晶モニターをルーペで拡大したり、全体のホールディングを向上させたりするアイテムが発売され始めていましたよ。

近藤:実際それを使ったことがないので何とも言えませんが、いずれにしてもEOS 7Dと純正レンズの素の状態では操作性には無理を感じます。


●ロケーションが活かせる立体感がある

野下:ピントといえば被写界深度やボケはいかがでしたか?

近藤:非常に適度なボケと被写界深度ですね。そのお陰でより立体感が出てロケーションの空間が活かせます。今回で言えば、特にススキのシーンは適度なボケが奥行き感を出してくれました。AG-HVX200だと必要以上に被写界深度が深くなってあのようなイメージは撮り辛いです。

野下:さらにもっと浅い被写界深度と大きなボケが得られる機種もありますが、いかがですか?

近藤:ドラマや映画などストーリーを見せたい場合にはEOS 7Dぐらいがちょうどいいと思います。これ以上被写界深度が浅いと、例えば登場人物が複数いた場合、グループ全体として見せたいのに1人だけにピントが合ってしまい、意図しない意味を生みかねません。ただ、イメージ映像であればより大きなボケは表現の幅をさらに広げてくれると思います。


●また使いたくなる魅力的な画質

野下:今後もEOS 7Dを活用できそうですか?

近藤:条件と状況次第ですね。純粋に画質性能だけ見れば、桁違いの予算となる劇場映画用機器に匹敵します。ただし、業務レベルの確実性や信頼性を必要とするには、例えば外部モニターや操作性を補助する機器、それにアシスタントなど相応の規模は必要でしょう。

野下:今後もまたデジタル一眼レフカメラによる映像作品作りを試してみたいですか?

近藤:機会があればまた是非! 未開発の側面にむしろ冒険心をくすぐられます。それだけ魅力的な画質です。

サムネイルをクリックすると、本編で使用したカット(一部)のオリジナルファイルをダウンロードします。
EOS 7D / 1,920×1,080ピクセル / 24(23.98)fps / 32秒 / 178MB / H.264形式

 

※現在サーバーに大きな負荷が掛かっているため、オリジナル画像の公開を一時中止しています。(12月14日13時30分)

※オリジナル画像の公開を再開しました。(12月25日12時30分)



野下義光
(のしたよしみつ)熊本県生まれ、千葉県育ち。国立木更津工業高等専門学校機械工学科卒業後、エンジニアとして大手コンピューター会社に5年勤務。その後、夢を捨てきれず写真界へ身を投じる。現在ジュニアアイドルを中心にWeb、DVDジャケ写などで活躍中。フルデジタルの写真集も多数手がけている。趣味はネットオークション(笑)

2009/12/24 12:54