特別企画
最新フラッグシップ機に見る、一眼レフカメラの現在
ニコンD5とキヤノンEOS-1D Mark II それぞれどう進化を遂げたのか?
Reported by 北村智史(2016/3/7 14:00)
夏季オリンピックイヤーでもある今年、ニコンからD5、そしてキヤノンからEOS-1D X Mark IIが相次いで発表された。いずれも一眼レフカメラの頂点に君臨するプロ向けハイエンドモデルであり、2大メーカーのフラッグシップに位置づけられるだけに、プロ、アマ問わず、世界中のカメラファン、写真ファンからの熱い視線を集めている。
ともにAF性能や連写パフォーマンスの高さが求められることもあって、互いに似かよった点も多く、スペックを比較することで改めて気付くすごさもある。一眼レフというスタイルのカメラが、半世紀を超える歴史の果てに、どんな高みに達したのか。その進化をたしかめてみたい。
撮像素子と画像処理エンジン
EOS-1D X Mark II
撮像センサーは有効2020万画素CMOSで、最大記録画素数は5472×3648ピクセル。画像処理エンジンには先代EOS-1D XのデュアルDIGIC 5+からデュアルDIGIC 6+にスペックアップしている。
ISO感度は、常用範囲がISO100からISO51200で、EOS-1D Xと同じ。拡張範囲を含めた場合はISO50相当からISO409600相当までとなり、EOS-1D Xよりも高感度側に1段伸ばしている。
JPEGは画像サイズが4種類、画質はファインとノーマルがある。RAWは14bitロスレス圧縮のみ。M-RAWとS-RAWも選択できる。
D5
撮像センサーは有効2,082万画素CMOSで、最大記録画素数は5568×3712ピクセル。画素数アップとともに、画像処理エンジンはD4SのEXPEED 4からEXPEED 5にスペックアップした。
ISO感度は、常用範囲がISO100からISO102400で、拡張範囲を含めるとISO50相当からISO3280000相当。D4Sは常用ISO25600、拡張ISO409600までだったから、文字どおり、桁違いのハイスペックとなっている。
JPEGは画像サイズが3種類、画質はFINE、NORMAL、BASICから選べ、サイズ優先と画質優先の選択が可能となっている。RAWは12bitと14bit、非圧縮、ロスレス圧縮、圧縮の組み合わせが可能だ。M-RAWとS-RAWが追加されたが、12bitロスレス圧縮のみとなる。なお、TIFF形式での保存も可能だ。
ファインダー撮影時のAF
EOS-1D X Mark II
ファインダー撮影時の位相差AFは新開発センサーを採用した61点測距。センサーのノイズ低減や表面の反射防止処理などによって、中央1点は-3EVの低輝度でのピント合わせを可能にしている(ほかの測距点の数字は公表されていないようだ)。
測距点数はEOS-1D Xと同じだが、カバーエリアが上下方向に拡大している(左右方向はほぼ同じ)。41点に被写体捕捉能力の高いクロスセンサーを採用しており、中央部の5点はF2.8光束に対応するデュアルクロスセンサーとしている。全点がF5.6とF8の光束に対応しており、開放F4のレンズに2倍のエクステンダー(テレコンバーター)を併用してもAF撮影が可能となっている。
複数の測距点で構成されるグループを選択する「ゾーンAF」「ラージゾーンAF」が利用できる。また、1点選択時は、上下左右の4つの測距点が補助する「領域拡大AF(任意選択上下左右)」、周囲の8つの測距点が補助する「領域拡大AF(任意選択周囲)」も設定できる。全測距点を使用する「自動選択AF」時は、顔認識を併用することもできる。
D5
ファインダー撮影時の位相差AFは、やはり新開発センサーを採用した153点測距だが、任意選択可能な測距点は55点となる。残りの98点は、キヤノン式にいうところの「アシスト測距点」であり、被写体捕捉能力や動体追従性を高める役割を果たす。中央1点は-4EV、ほかの測距点も-3EVの低輝度に対応する。
カバーエリアは左右方向に伸びており、D4Sに比べて約30%広くなっている。クロスセンサーは99点、うち35点が任意に選択できる。テレコンバーターへの対応力を向上させており、F5.6からF8未満の場合は37点測距(うち任意選択可能な測距点は17点)、F8の場合は15点測距(うち任意選択可能な測距点は9点)となる。
選択した測距点を中心に複数の測距点によるグループで被写体をとらえる「グループエリアAF」を持ち、AF-S(シングルAFサーボ)モード時は顔認識もはたらく。また、選択した測距点の周囲の測距点も利用する「ダイナミックAF」は「25点」「72点」「153点」が選べる。そのほか、被写体の色情報を活用して測距点が追従する「3D-トラッキング」、顔認識もはたらく自動選択の「オートエリアAF」も選択できる。
ライブビュー
EOS-1D X Mark II
ライブビュー時は、撮像面位相差検出によるデュアルピクセルCMOS AFを搭載。画面の80×80%の範囲で高速なピント合わせを可能としている。また、-3EVの低輝度でも合焦が可能だ。
ピント合わせはワンショットAF(シングルAF)のみ。「顔+追尾優先AF」と「ライブ1点AF」の2つのモードを備える(自動選択となる「ライブ多点」、ミラーダウンして位相差AFを行ない、合焦後にライブビューに復帰する「クイックAF」は省略されている)。「ライブ1点AF」時は、モニター画面に触れることで測距点の移動が可能だ。
ライブビュー時は自動的に電子先幕シャッターが作動する。シャッター先幕の走行ショックによる微細なブレを排除できる。
D5
ライブビュー時のAFはコントラスト検出のみ。AF-S(シングルAFサーボ)、AF-F(常時AFサーボ)が利用できる。「ワイドエリアAF」「ノーマルエリアAF」「顔認識AF」「ターゲット追尾AF」から選択できる。
モニター画面に触れることで測距点の移動が可能なほか、触れた部分を基準にホワイトバランスを合わせる「スポットホワイトバランス」機能もある。
電子先幕シャッターを使用するには、レリーズモード(ドライブモード)を「ミラーアップ撮影」に切り替える必要がある。少々手数は多いが、機構ブレを排除できるのは大きなメリットだ。
連写
EOS-1D X Mark II
連写スピードは、先代の12コマ/秒からさらにスピードアップしてAF追従で14コマ/秒となった。また、ライブビュー時は、ピントは固定となるものの16コマ/秒を達成している。
シャッターユニットは、16コマ/秒連写に対応した新型を採用。チャージ用のモーターやメカも一体化した構造とすることで信頼性も向上させている。
ミラー駆動を従来のバネからモーターに変更。ミラーのアップダウン時の終端直前に減速制御を行なって衝突エネルギーを低減。メインミラーとサブミラーにバウンド防止機構、ストッパー機構などを併用することで、ミラーのバウンドを抑制。次のコマの撮影のための測距動作に素早く移行できるようにしている。
また、蛍光灯や水銀灯などの人口光源でも安定した結果が得られるフリッカーレス撮影機能を備えており、室内でのスポーツ撮影などで有利となる。ただし、連写スピードが低下したり、コマ間隔がばらつくことがあるのは理解しておく必要がある。
記録メディア
EOS-1D X Mark II
EOS-1D XがCFのデュアルスロットだったのに対し、Mark IIではCFast 2.0とCF(UDMAモード7)のデュアルスロットを採用する。
CFastは、読み出し515MB/秒、書き込み440MB/秒(サンディスクExtreme PRO 128GBモデルの場合)という、高速タイプのCFの3倍ほどにもなるスピードを実現しているので、高速連写や動画を多用するヘビーユーザーには魅力的なはずだ。ただし、現状ではかなり高価なので、比較的価格のこなれたCFと併用するのがベターだろう。
連写可能な枚数は、JPEGは無制限。RAWはCFastで170枚、CFでは73枚。EOS-1D XはJPEGで100枚、RAWで35枚までだったので、かなりの進化といえる。
D5
XQD×2とCF(UDMAモード7)×2に対応する2種類のボディを選択できる。また、サービス窓口などでスロット部の交換に対応する(有償)。
XQDは、読み出し440MB/秒、書き込み400MB/秒(レキサー プロフェッショナル 2933× 128GBモデルの場合)の高速転送が可能な記録メディアで、スピードとしてはCFastを下まわるものの、実売価格は半分ほど。スピードを抑えた廉価版のレキサー プロフェッショナル1400× 64GBモデルでも読み出し210MB/秒、書き込み185MB/秒と高速タイプのCFをしのぐ。
連写可能な枚数は、XQDでもCFでもJPEG、RAW(14bitロスレス圧縮)ともに200枚。先代のD4Sは、JPEGで200枚、RAW(14bitロスレス圧縮)で102枚だった。
光学ファインダー
EOS-1D X Mark II
視野率は上下左右とも100%で、倍率は0.76倍。アイポイントは接眼レンズ中心から20mmとスペックは高い。フォーカシングスクリーンも交換式だ。が、ファインダーの見やすさは目との相性もからんでくるので、スペックだけで判断するのは難しい。
視野外下部と右側の情報表示には有機ELを採用。視野内下部には撮影モードや測光モード、ホワイトバランスなども表示される。水準器は2軸式。測距点表示は、EOS-1D Xの透過型液晶からスーパーインポーズに変更。連写中の視認性を向上させている。
操作性
どちらも背面モニターはタッチパネルに。かといって、ボタン、ダイヤル類は少なくなっていない。従来の操作性を維持しつつ、さらに現代的な操作を模索しているようだ。
EOS-1D X Mark II
基本的な操作系はEOS-1D Xと同じだが、ファインダー接眼部右脇の「ライブビュー撮影/動画撮影」ボタンの外周に、静止画のライブビューと動画モードの切り替えレバーが新設されている。液晶モニターにタッチパネルが内蔵されたという違いもあるが、EOS-1D Xと併用してもややこしい思いをする心配は少なそうだ。
バッテリー
EOS-1D X Mark II
新型のLP-E19で、容量が2,450mAhから2,700mAhにアップした。撮影可能枚数は、ファインダー撮影時は1,210枚、ライブビュー撮影時で260枚と発表されている。また、従来モデルに使われていたLP-E4NやLP-E4も使用可能だ。
D5
D4Sと同じEN-EL18a。容量は2,500mAh。ファインダー撮影時の撮影可能枚数は3,780枚。ライブビュー撮影時の数字は公表されていない。こと電池の持ちに関しては、ニコンが1歩も2歩も先んじているといえる。
動画
EOS-1D X Mark II
通常の4Kよりも横幅がわずかに大きいデジタルシネマ規格の4,096×2,160解像度で、59.94fpsというフレームレートでの撮影が可能。撮像画面上の26.9×14.2mmの範囲をドット・バイ・ドットで記録する。フルHD(1920×1080解像度)では、119.9fpsでの撮影が可能だ。
ライブビュー撮影時と同様、撮像面位相差検出による高速AFを実現するデュアルピクセルCMOS AFを搭載。タッチ操作による測距点選択、被写体の動きに追従する「動画サーボAF」なども備えている。
撮像センサーの熱をヒートパイプを使ってボディ外装に逃がす工夫を盛り込むなどしているのもおもしろい。プロ用映像機器の老舗でもあるだけに、非常に高いパフォーマンスが期待できる。
D5
4K動画は3,840×2,160解像度で30pという標準的なスペック。「DXベースの動画フォーマット」に近い範囲をドット・バイ・ドットで読み出すため、解像感の高い映像が得られるという。また、ISO3280000相当の超高感度も利用できるので、微光下での動物などの撮影には有利となる。フルHD(1920×1080)動画は60p記録に対応。「FXベース」「DXベース」「1920×1080クロップ」の3タイプの撮像範囲を選択できる。
まとめ
興味深いのは、EOS-1D X Mark IIもD5も、そろって2,000万画素クラスの撮像センサーを搭載してきたうえに、ミラーをモーター駆動に変更しているし、どちらも4K動画でタッチ操作も盛り込んできた。4K動画からの静止画切り出しなんていう機能もちゃっかり搭載。ハイエンドのプロ仕様一眼レフ、というテーマが同じだけに、キヤノンもニコンも似たようなことを考えるのだなぁ、と思う。
それにしても、ハイエンドモデルだけあって、スペックがものすごい。フィルム時代にキヤノンがEOS-1V HSで10コマ/秒連写を実現したときに、もうこれでめいっぱいなんじゃないか、もうこれで十分だろう、と思ったものだが、気がつけば12コマ/秒だの14コマ/秒になってしまっている。しかも、AFが、それもおそらく、フィルム時代とは比べものにならない高精度で追従するのだから素晴らしい。
が、実のところ、ここまでのスペックを求めているのは限られた人たちであり、だからこそ、キヤノンもニコンも、ハイエンドモデルを夏季オリンピックの年に発売するのを定例行事のようにしているのであって、普通のカメラファン、写真ファンにとっては、その半分のスピードでも十分に足りてしまう。
だからといって、無用のスペック競走をしているわけでは、けしてない。ハイエンドモデルのために開発された機能や機構は、いずれ下のクラスのカメラにも応用されるべきものであり、すべてではないにせよ、実際に下位のモデルの進化を助けてきた。
つまるところ、ハイエンドモデルの開発に注ぎ込まれるエネルギーは、ハイエンドユーザーの希望をかなえるためだけでなく、メーカー自体がステップアップするために必要不可欠なのである。
ハイエンド機のスペックを、自分にとって過剰なものと切り捨てるのは簡単だが、それらがどんな形でミドルクラスやエントリークラスに反映されていくのかを考えながらカタログを眺めまわすのも楽しいことなのである。