おもしろ写真工房

「レンズのないカメラ」を試す!

絞りだけでも写真は写るのか?

 ちょっと前の話だが、ネットで「レンズのないカメラ」の記事をみかけたことがあった。そのカメラの仕組みはよくわからないが、レンズなしの絞りだけで撮影する実験をしてみた。さらに自作の絞りを使った撮影にもチャレンジ。

これが「レンズのないカメラ」で撮影した写真。ピンぼけとはちょっと違う描写になった。

 レンズレスカメラの研究をしているのはベル研究所だ。理屈は全然分からないが、“レンズなしで写る”という部分に引っかかった私は、とりあえず一眼レフのレンズを外し、レンズなしで撮影をしてみた。結果、像は全然写らないですね(笑)。でもたとえばディスプレイに黄色を映して撮影すれば、黄色く写るし、赤い画面を表示すれば赤く写る。まあ、ぼわっと色は感知するにしてもセンサーに光が到達するまでに光が混じってしまって、きちんとした像にはならないということなんでしょう。

 だとしたら、センサーまで光を導いてやったらどうなるだろう? たとえば黒いストローを束ねてセンサーまで突っ込むとか、あるいはグラスファイバーを突っ込むとか。そうしたら多少イメージの記録ができるかもしれない。ただしそんなことをしたらセンサーを傷つけてしまったりしそうで、あまり気乗りのしない実験ではある。

 あとはレンズを外した穴を小さくする方法だ。ピンホールにすればはっきり写ることはわかっているが、はっきり写らなくても構わなければ、“ただの穴”でもイメージは写るはず。いったいどれくらいの穴であれば写るのだろうか?

 とりあえず身近な穴を空ける道具と言えば穴あきパンチがある。黒い紙にパンチで穴を空けてみて試してみた。それが下のような写真。いちおう写ってますね。おめでとうございます。

穴あきパンチであけた3mmの穴で撮影。見ればおわかりの通り、客船の廊下で撮影した。上部に写っているのは天井の配管。ニコンD600
3mmホールカメラ。ショーウインドウのマネキン。街角の灯りがガラスで反射して、丸いボケになっている。ニコンD600
3mmホールカメラ。見ればおわかりの通り、夕暮れ時の海を撮影。ニコンD600
―注意―
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一穴パンチ。左が3mm、右が6mmの穴を空けるための製品。この他スクリューポンチなども使えそう。
穴をカメラに付けるための部品。左上:52mmのフィルター。レンズ保護用のものやUVフィルターなど。右上:ニコンの接写リング。この製品は現在発売されていない、各カメラ向けのリバースアダプターリングを使うといい。下:黒い紙に3mm径の穴を空けたもの。
フィルターに穴の空いた黒い紙を取り付け、接写リング(リバースアダプターリング)と合体させる。
カメラに取り付けたところ。マウントへの取り付けにリバースアダプターリングを使うのがポイント。サードパーティー製のものが安く売られている。絞りは固定なので、シャッタースピードで露出をコントロールする。

 でももう少し小さい方がはっきりするかな。しかしはっきりを求め過ぎても面白くない。せっかくただの「ホールカメラ」なんだから「ピンホールカメラ」にしてしまってももったいない。

 別に「ピンホールカメラ」に恨みはないんだけど、デジタルでのピンホールカメラにはあまり魅力を感じていない。ピンホールカメラは印画紙を使ったりというアナログな部分と組み合わせることによって、より魅力的になるという気がする。それに以前試した時に、センサーのゴミがかなり目立ち、ちょっと引いてしまったのだ。ピンホールカメラというのは絞りをすごく絞ったのと同じ状態なので、通常は目立たないようなセンサー上の小さなホコリを顕在化させてしまうのだ。

 このホールカメラでは穴の大きさがポイントになるが、簡単に穴の大きさを変える方法としてカメラの絞りを使ってみることにした。用意したのは「虹彩絞りユニット/muk i30mm」(エムユーケイ カメラサービス横浜関内)という製品。これは絞りだけが販売されてるんだけど、絞り羽根の枚数が多くて(12枚)、きれいな円形になるというのがポイント。何に使うための製品かよくわからないけど、こういう実験目的だといろいろ遊べそう。

虹彩絞りユニット/muk i30mm」(エムユーケイ カメラサービス横浜関内)。いろんなサイズの製品が販売されている。
横にあるツマミをスライドさせると、無段階で穴の大きさを変更することが可能。

 ただ、この絞りをボディに付けただけではホコリが侵入してしまうので、一応ガラスのフィルターの上に装着する。それにしてもレンズなしで絞りだけで撮影するというのは男らしくていいな。なんか念写しているようでもある。このレンズなしの絞りだけで撮影する方法というのは写真の歴史の中であったのだろうか? なければ勝手に「アイリスカメラ」(虹彩写真機)と名付けてみたいんだけど、どんなもんでしょうか?

穴の大きさを5mmにして撮影。まあボケてはいるけど5mmの穴でも写るんですね。ピンホールと違ってシャッタースピードも速くできます(笑)。
穴の大きさ2mmで撮影。もう少し像が見えてきました。なんか描写自体はきれいだと思います。
この絞りの最小径である1mmで撮影。このぐらいがちょうどいいかな。1mmぐらいの穴が空いているもの(シート状の金属、樹脂、紙など)を利用すれば、絞りなしでもこのホールカメラを楽しめますね。
普通にレンズを使って撮影。ニコンのフルサイズ機(D600)で撮影した場合このホールカメラでの画角はだいたい55mmのレンズで撮ったのと同じぐらいになりました。
左上:52mmのフィルターの枠。右上:ドーナッツ型にサークルカッターで切ったポリプロピレンシート。下:虹彩絞りユニット/muk i30mm
フィルターにドーナッツ型のシートを留め、そこに虹彩絞りユニットを両面テープで張り付けた。カメラへの取り付けはリバースアダプターリングを使う。

宙玉で丸くボカしたい

 絞りの実験をしたついでに、もう1つ試したかった実験をしてみた。それは宙玉(そらたま)にきれいな円の絞りを付けて撮影してみること。宙玉というのは、ひじょうに近いところにピントを合わせるので、玉の周囲のバックは必ずけっこうボケることになる。

 その時に画面内に光る部分があれば丸いボケになるが、そこには絞りの形が反映されるので、絞り羽根の数が少ないとカクカクしたボケになってしまう。絞りを開ければいいのだが、あまり開けすぎると玉の輪郭もボケてしまうのだ。

 そこで丸い穴のワッシャーを使って撮影をしてみた。ワッシャーを使ったのは丈夫できれいな穴だからだ。

絞り羽根7枚の円形絞りなのだが、完全な円ではないため、多少丸ボケがカクカクしてしまう。OLYMPUS PEN Lite E-PL3 / ZUIKO DIGITAL 35mm F3.5 Macro
8mmのワッシャーを使った自家製絞り。描写は美しいがボケは丸ではなくラグビーボールのような形になった。なぜ? もう少し穴を小さくすべきか。
同じく8mm径の自家製絞りにて。無数に重なるラグビーボール型のラインがきれい。
ワッシャーを使った自家製絞り。マジックで塗って黒くしてある。両面テープを使って張り付けたんだけど、良い子は真似しないでね。もちろんレンズの玉に直接付けたわけではないけど。
自家製絞りの先に宙玉を取り付けた。OLYMPUS PEN E-P5、M.ZUIKO DIGITAL 17mm F1.8。宙玉についてはこちらを参照のこと。

 宙玉を使った撮影では、絞り値で球の輪郭のくっきり度も変わってくるので、穴の大きさはけっこう重要なのだ。ただこれでちょうどいいサイズを突き詰めれば、あとはワッシャーを使った固定絞りでの撮影でもいいかもしれない。

 それから、ただの円形ではなく、クラフトパンチやレースのシールなどを使っていろんな形状の絞りも作ってみた。これは想定外の描写になった。特にレースの穴で撮影した写真の奇妙な描写には何か可能性を感じる。

100円ショップで買ったクラフトパンチ。花の形(デイジー)と星型の穴を空けることができる。この他にもさまざまな種類がある。
スクラップブッキングなどに使うレースシール。今回はこの穴の部分を利用することにした。
いろんな形の絞りを作ってみた。左上:カッターを使ってフリーハンドでカットした。右上:レースシールを使って。下:クラフトパンチのデイジー柄で。
カッターを使ってカットした絞りを使って。こんな描写になるとは想像していなかった。この流れるような感じは凄いですね。
同じくカッターでカットした絞りにて。玉の外側だけでなく、外側にも影響が出ているのがわかる。
クラフトパンチのデイジー柄にて。けっこう大きく模様が出てますね。柄の大きさは16mm。
デイジー柄の絞りを使って。イルミネーションを写したものだけど、光源がたくさんあるとこんなふうに重なって見えるというわけだ。
レース柄の絞り。この描写、本当に見たことがないな。見たことがないということにおいては可能性を感じるが、あまり突き詰めてみたいとは思わない(笑)。
レース柄絞りを使った写真の部分拡大。玉の内側にも外側にもかなりはっきり柄が写ってますね。

いろんな形のボケを作ってみる

 最後は星型やハート型の絞りを作って、普通のレンズに取り付ける方法の紹介。こういうやり方は以前から知られているが、自分でやってみようとは思っていなかった。はっきり言えば写真の中にハート型のボケを入れるなどという軟弱なことをやりたいと思わなかったからだ。

 でもやってみたらけっこう楽しい!。食わず嫌いはイカンな。やっぱりなぜこんなふうになるんだろう? という不思議さがあるし、きれいにボケさせるためにはそれなりに試行錯誤も必要だからだ。まあ、今後ハートボケおじさんとして突き進んでいくことにはならないと思うけど、これももう少しテストをしてみたいなという気にはなった。

 この工作の不思議なことに1つは、レンズの前にこのような絞りを付けて、なぜ写りこんでしまわないのとかいうことだ。やってみてわかったのは、確かに絞りが写ってしまう場合もあるが、写り込まないようにするためには、絞りをなるべくレンズに近づけること。また広角系よりも望遠系の方が写り込みにくい。そして穴は大きいほうが写り込みにくいといったことだ。

 しかし、この大きさは絞り値に相当するので、被写界深度や描写に影響を与える。という感じで、その組み合わせ方というのはなかなか難しいのだ。

 ただ黒い紙に穴を空けるだけであれば、簡単に工作可能なのでぜひ試してみてほしい。最適な穴のサイズなどはレンズによっても変わってくるので、とりあえずはフリーハンドでカットしてみればいいと思います。

ステップダウンリング(52mm→40.5mm)とフリーハンドでハート型に切った紙を張ったポリプロピレンシート。両面テープを使ってステップダウンリングの裏側にハート型を張り付ける。
レンズに装着した状態。レンズのフィルター径が62mmだったので62mm→52mmのステップダウンリングを使って、ハート型の絞りを取り付けた。
手前の赤ちゃんにピントを合わせると、バックの光がハート型にボケる。この赤ちゃんはなんか恋の悩みがあるんだろうねえ。
これはフリーハンドで星型に切った絞りを使った。けっこうはっきりと星型の模様ができた。
バックのイルミネーションの方にピントを合わせるとこんな感じ。光源があるか反射しているか、何か光るものがボケていると、絞りの形のボケができあがるということ。
これは12枚羽根の円形絞りを使って撮影した。丸ボケが少し欠けているが、やはり穴が大きいとこういうふうに欠けるということか。
12枚羽根の絞りを絞った状態。丸ボケのサイズが小さくなり、周囲もけっこう暗くなった。

上原ゼンジ

(うえはらぜんじ)実験写真家。レンズを自作したり、さまざまな写真技法を試しながら、写真の可能性を追求している。著作に「Circular Cosmos―まあるい宇宙」(桜花出版)、「写真がもっと楽しくなる デジタル一眼レフ フィルター撮影の教科書」(共著、インプレスジャパン)、「こんな撮り方もあったんだ! アイディア写真術」(インプレスジャパン)、「写真の色補正・加工に強くなる レタッチ&カラーマネージメント知っておきたい97の知識と技」(技術評論社)などがある。
上原ゼンジ写真実験室