新製品レビュー
LYTRO ILLUM
後からピント位置を変更するカメラ その新しい撮影体験とは?
小山安博(2014/12/22 07:00)
米Lytroのデジタルカメラ「LYTRO ILLUM」が、国内で加賀ハイテックから発売される。「撮影した後からピント位置を変えられる」というのが最大の特徴で、前モデルから注目の高かった製品だが、新モデルのILLUMでは、よりカメラらしい使い方ができるようになった点も大きなポイントだ。
本格的なカメラデザインとスマートフォンライクな操作性
LYTROは、「ライトフィールドカメラ」という特殊なカメラを製造しているベンチャーのカメラメーカーだ。撮像素子とレンズの間に特殊なマイクロレンズアレイを配置し、通常は直進してセンサーに届く光が、さまざまな角度、方向から入射して、それを1枚の画像として撮影する。無数の方向からの光の情報が記録されているため、それを後処理で取り出すことで、自由にピント位置を後から変更できる、というのが特徴となる。
初代のLYTROは、望遠鏡のような外観で、ちょっとおもちゃ的な印象のあるカメラではあった。それが今回、2世代目のLYTRO ILLUMになって、いわゆるネオ一眼の形状となり、普通のカメラのデザインとなった。
ボディは、横から見ると本体が台形状の独特のデザイン。胸の辺りで構えた時に、ちょうど画面が見やすい位置になるので、そうした撮影を想定したものと思われる。大きめのグリップと巨大なレンズを備えているので、持ちやすく構えやすい。
レンズが大きいのは、そのスペックのため。35mm判換算で30~250mmの光学8倍ズームで、F値はF2.0。倍率も高く、F2.0通しと明るいレンズのため、レンズが大型化したのだろう。ライトフィールドの構造的な部分もありそうだ。
レンズにはフォーカスリングとズームリングが搭載されており、どちらも太く、操作性は悪くない。光学式、センサーシフト式いずれの手ブレ補正もされていないが、レンズの明るさで多少の暗所撮影でなら手ブレを押さえられる。高倍率ズームのため、使い勝手はいい。
前面には、グリップ上部にダイヤルを装備。背面にもダイヤルがあり、撮影モードによってシャッタースピードを前面ダイヤル、露出補正を背面ダイヤルで変更する、といった操作が可能。一般的なカメラでは、再生モードの画像送りやメニューでダイヤル操作ができることが多いが、基本的にはダイヤルは露出の操作をダイレクトに行なうためのもの、という位置づけだったようだ。ただ、12月11日のファームウェアアップデートで前面・背面のダイヤルでの画像送りに対応している。
背面にはさらにAF、AEL、∞、Fnの4ボタンが配置。∞(過焦点)ボタンは、ワンタッチで過焦点距離に設定してくれるボタン。要するに「後からピントを合わせる際に、後端が無限遠になるように設定してくれる」ボタンだ。こちらの詳細は後述する。
これ以外の撮影設定は、画面上のタッチパネルで行なう。
画面下部にはISO感度やシャッタースピードなどが表示される「インフォメーションバー」が表示され、画面右端に「メニューバー」が表示される。
メニューバーには再生、モード切替、連写、ホワイトバランス、セルフタイマー、グリッド表示切替、ヒストグラム切替、露出ブラケット、測光モード、設定の各アイコンが表示される。1画面にすべてのアイコンは表示されないが、メニューバーで上下に指をフリックさせるとメニューが切り替わる。
操作方法はスマートフォンに近く、アイコンをタッチするとその機能が選択でき、一部の機能では、アイコンを長押しするとサブメニューが表示され、設定を変更できる。メニューバーの左側にあるのが、LYTRO ILLUMの特徴とも言える「深度アシストバー」だ。これも後述する。
メニューバーを左から右にフリックするとバーが隠れて、深度アシストバーが広く表示される。インフォメーションバーを下にフリックすると、同時に深度アシストバーが小さくなり、メイン画面が大きくなって撮影に集中しやすくなる。フリックを多用する操作は、スマートフォンライクだ。
再生アイコンをタッチするか、画面を左から右にフリックすると再生画面になる。撮影画面と同様に下部にインフォメーションバー、右にメニューバーと深度アシストバーが表示される。メニューバーには撮影モード、グリッドビュー、ヒストグラム、削除、設定の各アイコンが表示される。
画像送りは左右のフリックか前後のダイヤルを使う。グリッドビューアイコンをタッチするか、2本指でピンチイン操作をすると、サムネイル表示になる。
サムネイルでは、シングルタッチで画像選択、ダブルタッチで画像表示、上下のフリックでサムネイルの移動ができる。ピンチアウト操作デモ画像を1枚表示にできる。この辺りもスマートフォン的に操作できる。
通常のカメラと違うのは、画像の拡大表示ができない点。さらに、LYTRO ILLUMの最大の特徴である後からピントを合わせる機能が使えるのが大きな違いだ。
画像拡大できない理由はよく分からないが、ピント合わせ自体は後から行なうため、ピントの詳細な確認は必要ない、ということだろうか。画像を表示すると、まずピント合わせのための処理が行なわれ、そのファイルの拡大表示ができないのかもしれない。
後からピント合わせができる
LYTRO ILLUM、というよりこのカメラが採用しているライトフィールド技術は、無数の方向、角度から入射する光を記録して、その情報を使うことで、「後からピントを合わせる」(再フォーカス)ことが可能になる。
再フォーカスできるといっても、ピント合わせをせずにピンぼけの写真を撮っても大丈夫、というわけではない。被写体までの距離とズーム位置によって、「ピントが合う範囲」というのは物理的に決定される。
撮影ごとにその限界点(再合焦範囲)が存在しており、その範囲は、前景の限界と後景の限界の2点の範囲内にある。
例えば35mm判換算50mmのレンズ焦点距離で42cm先にある被写体にピントを合わせると、再合焦範囲はおおざっぱに言って20~120cmの間に収まる。これより近いまたは遠い距離にあるものにはピントが合わない、ということになる。同じ距離の被写体でも、ズームが100mmになると、再合焦範囲は狭くなる。
メインの被写体にピントを合わせて撮影した場合、その再合焦範囲内であれば自由に再フォーカスできる、というのがLYTRO ILLUMだ。つまり、LYTRO ILLUMで効果的に撮影するためには、この再合焦範囲を常に意識する必要がある。
それをサポートするのが「深度アシストバー」だ。再合焦範囲が青とオレンジのカラーバーで表示さる。青が近距離、オレンジが遠距離の再合焦範囲で、色の鮮やかさは距離を示している。最も鮮やかな場所にある被写体は、再フォーカスしたときに最もピントが鮮明に合う位置、ということになる。
実際に被写体に向けてAFを行なうと、カメラが被写体までの距離を測定し、再合焦範囲が示される。レンズの根元付近の目印からの距離が表示されており、ピント位置からその再合焦範囲内にあるものに再フォーカスできることが分かる。
とはいえ、この深度アシストバーは再合焦範囲を示すだけなので、実際にその被写体がどの位置にあり、周辺がどこまで範囲内にあるかは分からない。
そこでシャッターボタン付近にあるLytroボタンを半押しすると、中央の被写体までの距離が深度アシストバー上に表示される。これが再合焦範囲内、しかも鮮やかな色の場所にあれば、再フォーカス時にピントを合わせられる。
さらに、Lytroボタンを全押しすることで、画面全体に深度情報が表示される「深度オーバーレイ」表示になり、深度アシストバーが「深度ヒストグラム」に変化する。被写体に青やオレンジが重ねて表示され、構図内のすべてのものが、再合焦範囲内かどうかが一目で分かるようになる。
この時、最もピントを合わせたい場所、例えば人物の瞳などが、最も鮮やかな色になるようにフォーカスリングを調整すれば、再フォーカスで正確なピントを再現できる。
前述の過焦点ボタンを押すと、後景の限界点が無限遠にセットされる。後端が無限遠にセットされると、レンズ位置に応じて前景の限界点が計測され、再合焦範囲が決定する。近景にも被写体がある場合、再合焦範囲から外れて再フォーカスができなくなることもあるが、遠くの被写体を素早く撮影したい場合、ワンボタンでAF動作なしですぐに撮影できるというメリットもある。
原理はともかくとして、この再合焦範囲と深度という2つの概念は、従来のカメラにはなかったもので、撮影を繰り返さないと、ちょっと感覚が分かりづらい。基本的に、メインとしたい被写体が青かオレンジの範囲内にあれば、おおむね再フォーカスで問題はないが、ちょっと甘くなってしまうこともあり、「再フォーカスできるからピント合わせは適当で」という訳にもいかないようだ。
とはいえ、前後に並んだ被写体のどちらにピント合わせをするか迷ったときに1枚の写真でピント位置を変更して確認できるのは便利だし、後からいろいろと試して変更できるのは、単純に楽しい。とっさに撮影してピントが外れた、なんていう場合も、再フォーカスで救済できる可能性があって、安心して撮影できるのも良かった。
カメラの基本機能を押さえた撮影設定
LYTRO ILLUMのデフォルト設定では、シャッターボタン半押しにはAEL、背面のAFボタンにAFが割り当てられている。LYTRO ILLUMは、「AFで大まかなピントを合わせて、フォーカスリングで再合焦範囲を決定する」という撮影方法が基本になるので、シャッターボタン半押しでAFが動作すると都合が悪い。そのため、こうした設定になっているのだろう。
実際の撮影では、親指AFで主要被写体にピントを合わせ、深度アシストや深度オーバーレイで再合焦範囲を確認しながらフォーカスリングで調整し、シャッターボタン全押しで撮影する、という流れになる。
AFはいたって普通のコントラストAFで、最近のカメラとしてはAF速度は遅め。測距点は基本は中央のみだが、画面タッチでAF位置を自由に変更することが可能。
Pモードで撮影する場合、背面ダイヤルで露出補正、前面ダイヤルでプログラムシフトが動作する。プログラムシフトは12月11日のアップデートまで搭載されていなかった機能だが、これに対応したのは嬉しいところ。
インフォメーションバーに表示された設定のうち、四角で囲われているものは、その場所をタッチすれば、タッチパネルからも設定を変更できる。Pモードでは露出補正、シャッター速度優先モードではシャッタースピードと露出補正、といった具合だ。
撮影モードで特徴的なのが「I」(ISO感度優先モード)。同様の機能は他のカメラにもあるが、LYTRO ILLUMはそもそも撮影時に絞りを変更できず、すべて開放で撮影する。再フォーカスと同様に、絞りは後から変更するという形なので、常にF2となり、絞り優先モードが存在しない。
Iモードは、ISO感度を変更すると、シャッタースピードが自動で決定されるモードだ。なるべく低感度でギリギリのシャッタースピードで撮影したい場合に利用できる。ちなみに、絞りの変更ができないため、プログラムシフトもマニュアルモードも、シャッタースピードとISO感度の組み合わせになる。
新しいファームウェアでは、新たに測光モードが追加された。Evaluative(評価測光)、Region(部分測光)、Spot(スポット測光)の3種類で、部分測光では画面のタッチしたエリアで測光を行い、スポット測光ではさらに小さな領域で測光を行なう。
深度という概念を除けば、基本的な撮影方法は特殊なものはない。高倍率の大口径望遠ズームを備え、広角から望遠まで幅広く対応できる。手ブレ補正はないが、撮影する限りISO感度は比較的遠慮なく上がっていき、シャッタースピードを稼ぐ設定のようで、手ブレで困るというシーンは少なかった。
台形のボディは、比較的構えやすく、ボタンレイアウトにも無理はなく、操作はしやすい。ダイヤルが2つあり、ダイレクトに露出補正などが操作できるのも使いやすい。モニターはやや上向きに斜めに設置されているため、多少見下ろすように確認すると見やすい。
モニターは可動式で、モニター下部を押し込むと垂直の状態になって、眼前に掲げて撮る場合にも正対できる。この状態からモニターを後方に引っ張ると、モニターがせり出すので、そのままモニターを水平の状態まで動かすことができる。ローポジションで撮影する場合に便利な機能だ。
逆にハイポジション用に下向きにも動かせるが、これは可動範囲が狭い。ただ、視野角が上方向より下方向に広く設計されているようで、見上げてみるとけっこうよく見える。
こうして撮影した画像は、再生画面から確認できる。画像を再生すると、まずやや長めの読み込みが行なわれる。
この時点で再フォーカスが可能なように処理が行なわれており、これがすむと、再フォーカスが可能になる。画面には再生用のメニューバーやインフォメーションバーが表示され、深度アシストバーも用意されている。
Lytroボタンを全押しすると、この画像の深度ヒストグラムや震度オーバーレイも表示できる。
あとは、画像の好きな位置をタッチし、それが再合焦範囲内であればピントが合う。自由にピント合わせができるのは楽しい体験だ。
柔軟なカスタマイズやiOSとの接続も
メニューバーの設定にアクセスすると、基本的な設定に加え、「コントロール」から各種カスタマイズが可能。シャッター半押しでAF、AEL、AF+AELのいずれを行なうか設定したり、前面・後面ダイヤルの設定を入れ替えたり、フォーカスリング・ズームリングの回転方向を逆にしたりが可能。
メニューバーのカスタマイズもでき、並び替えや機能の入れ替えができる。背面の4ボタンの割り当ても変更でき、ボタンを押して撮影モードを切り替えることもできる。
LYTRO ILLUMは無線LANを内蔵しており、メニューから「iOS接続」を選んで無線LANを起動できる。機能名の通り、対応OSはiOSのみで、iPhoneやiPadでアプリをダウンロードして接続する。
iOSの設定からLYTRO ILLUMに接続してアプリを起動。メニューから「カメラ」を選択するとカメラに接続され、撮影画像のサムネイルが表示される。サムネイルをタッチすると画像が表示され、再フォーカスも可能。
ただ、機能としては再フォーカスができることと、それをLytroのWebサイトにアップロードできることだけ。iOS端末に画像をダウンロードすることはできない。今後、iOSからリアルタイムプレビューして撮影を行なうリモート機能には対応する予定だという。
PCとの接続は、USB経由で行なう。付属ケーブルはマイクロUSB 3.0で、高速での画像転送が可能。マイクロUSB 3.0は、従来のマイクロUSBケーブルとも互換性があるので、マイクロUSB 2.0も速度を気にしなければ転送はできる。USB充電にも対応しており、モバイルバッテリーで充電できるのは大きなメリットだろう。
専用ソフトウェアの「Lytro Desktop」は、LYTRO内の画像を取り込み、表示、編集が可能。LYTRO ILLUMは独自のRAW形式を採用しており、再フォーカス機能もあって、今のところLytro Desktopを使う以外に方法がない。
画像を取り込むと、まず変換処理が入る。これが長い。数百枚の画像を取り込むと、全画像の変換処理に半日くらいかかる。
使用したのはCore i3 4330、メモリー14GB、Windows 8.1 64bitのマシンだが、この変換時間がよりハイスペックなマシンやMacだと高速なのか、それとも仕様なのかはちょっと分からない。
処理が終わったあとは、画像を開くと撮影したときの状態で表示されるので、画面の任意の位置をクリックすると、再合焦範囲内であればピントが合う。
Lytro Desktopでは、さらに「調整」タブから画像の補正などができる。調整の目玉はやはり「絞り」だろう。F2.0で撮影された画像の絞り値を、後から自由に変更できる。設定はF1、F2、F4、F8、F16の5段階で、スライダーですぐに設定を変更できる。
面白いのが、最新版のLytro Desktop 4.1で追加された「フォーカススプレッド」機能。これは、1枚の画像内で被写界深度を切り替えるという機能で、並んだ人たちはF16に、背景はF1にして背景をぼかす、といったことができる。
それ以外には、RAW画像の基本的な修正項目であるホワイトバランスや露出、再度、シャープネスやノイズ低減、さらにチルト機能を搭載するので、それぞれ設定できる。もちろん補正は可逆なので、いつでもオリジナル画像に戻すことができる。
補正を適用したら、エクスポート機能で出力する。1枚のJPEGファイルとして書き出すことに加え、16bit ProPhoto RGB形式のTIFF画像、Lytro形式のRAW、動画などで出力できる。JPEGやTIFFは2,450×1,634ドットの画像として出力される。7枚のTIFF画像として出力し、Photoshop CCなどでの編集に対応した形式でのエクスポートも可能。
Lytro Desktopには「動画」タブもあり、画像によって絞り値とズーム位置を変えながら動く動画が作成できる。自分での調整も可能だが、オートで生成しても悪くない動画ができあがる。
LYTRO ILLUMは、「後からピント合わせができる」「ソフトウェアを使えば絞りも後から変更できる」という2点が、今までのカメラにはなかった機能だ。カメラとしては、Android OSを採用し、タッチパネル中心の操作性や独特のデザインなど、新しい要素もあるが、第1世代に比べればトラディショナルなカメラの操作体系で違和感がない。
AFスピードや再生時の再フォーカスのための処理やLytro Desktopの読み込み時と出力時の処理スピードが遅くて気にかかるところだが、カメラとしては新しい体験を実現する製品で、一つの方向性としては面白い。ソフトウェア側のフォーカススプレッドのような独自機能も面白く、今後の展開も気になるところだ。