【新製品レビュー】カシオEXILIM EX-TR100

〜独創的なギミックが楽しい超広角モデル
Reported by 大浦タケシ

 液晶モニターと外周のフレームが回転するユニークなデジタルカメラ、カシオ「EXILIM EX-TR100」(以下EX-TR100)が7月22日に発売される。2月のCP+2011で国内発表され、その後、諸般の影響で4月発売の予定が遅れていたものである。店頭予想価格は3万4,800円前後。


変幻自在の可変フレーム機構

 何はともあれEX-TR100といえば変幻自在のボディだろう。レンズ部と液晶モニターを異なる向きに角度の変えられるスイバル機構に加え、ボディを取り囲むフレームがレンズ部を中心に回転する「可変フレーム」によってさまざまな姿に変化する。すべてをフラットにした形から、可変フレームを液晶モニターに対し左右のどちらかに90度開けばカムコーダーのようなスタイルになる。ローアングルあるいはハイアングルの撮影がしたければ液晶モニターを回転させればよい。さらにフレームとカメラ本体部を支え合うようにして自立させることもできるほか、フレームをフックのような突起にかけて撮影を行なうことも可能としている。カメラの形状を撮影シーンや好みで自由に変えられるのは、楽しくかつ実用的なギミックである。ちなみに、液晶モニターの回転角度は270度。可変フレームについては360度回転でき、90度ごとにクリックストップが付いている。

可変フレームはレンズ部を中心に360度回転する。90度ごとにクリックストップが付いており、フレームを固定する

フレームと本体部で支え合って自立させることも可能。スイバル機構によって、液晶モニターは270度回転できる

 フレームも含めボディが非常に薄く仕上がっているのも、このカメラの特徴のひとつだ。フラットにした状態は、まるでスマートフォンのようなルックスであり、実際の大きさ、厚みもほぼ同じようなものである。ハンドリングはたいへんよく、バッグの片隅やポケットなどに収納できる。ちなみに、ボディ厚は最大部で14.9mmとなる。強度の問題からと思われるが、三脚穴は備わっていない。しかしながら、このカメラの一般的な使われ方を考えれば、そのことが際立ったウィークポイントとなるようなことはないだろう。今回はISO感度比較の作例のみ撮影台の上にカメラを置いて撮影したほかは、残りすべては手持ちで撮影を行なっている。


21mm相当の超広角レンズを搭載

 搭載するレンズは、35mm判換算で焦点距離21mm相当の単焦点となる。よく考えてみれば、小型のセンサーを搭載するコンパクトデジタルでこの画角のレンズを搭載するカメラは、現行機種でまず見当たらない。近いものとしては、24mm相当からはじまるズームレンズを搭載するカメラがいくつかあるが、単焦点レンズとなると28mm相当のリコー「GR DIGITAL III」くらいだ。この画角が採用されたのは、自分撮りや記念写真などを考えてのことだろう。

35mm判換算で21mm相当の単焦点レンズを搭載。それよりも狭い画角が欲しい場合はデジタルズームの使用と、割り切った仕様となる。

 また、ズームレンズの採用が見送られたのは、ボディ厚のほか、スイバル機構のためレンズ部自体の容積が小さく屈折光学式であったとしても収めることができなかったものと思われる。その代わりとして、デジタルズームには超解像技術を応用した「プレミアムズーム」機能を搭載しているので、上手に活用するのが撮影のキモといえる。

 気になるレンズの描写については、画面中央の解像感やコントラストなどコンパクトデジタルとして不足を感じさせないものだが、周辺部にやや厳しいところが散見される。しかしながら、このカメラで高い描写特性を必要とする写真を撮ろうと思うことは少ないように思われるし、サービスサイズ程度にプリントして楽しむ分にはさほど気になるものではないだろう。

 ユニークな機能としては、LEDライト(1灯)をレンズ脇に備える。ちょっとしたマクロ撮影のときなど便利そうだ。

レンズ脇にはLEDランプを搭載する。光量はさほどでもないが、マクロ撮影のときなど重宝しそうだ。

タッチパネル式の3型液晶モニター

 操作系は、液晶モニターへのタッチ操作がメインで、ボタンといえば電源とシャッターだけと徹底したものとなる。使いはじめた当初、ちょっと「ん?」と迷うことが多かったのがシャッターボタンの位置である。カメラ上部ではなく、電源ボタンも含め、液晶モニターの脇にあるからだ。そのため、シャッターボタンを押すには、右手人指し指でなく親指となる(液晶の回転方向によって左右いずれかの親指となる)。長年右手人差し指でシャッターボタンを押してきた人間には慣れを要するとともに、押した瞬間カメラブレを抑えるのにちょっと苦労する。ただ、シャッターボタンを押す感覚は携帯電話の非常に近いものがあるので、携帯電話のカメラ機能に慣れているユーザーには、むしろ違和感なく使うことができるはずだ。

 液晶モニターは3型約46万ドット。デジタルズーム、動画撮影、メニュー設定、撮影モード選択など、このモニターへのタッチ操作で行なう。表示などは、先般レビューした「EXILIM EX-Z3000」に準じたものだが、EX-TR100はカラフルなのも特徴。特にメニューは項目別に色分けされているので、視認性もよい。

液晶モニターは3型約46万ドットのタッチパネルタイプを採用。ボタン類はその右脇にあるシャッターボタンと電源ボタンのみとなるメニューはカラフルに色分けされている。行間が広いので、タッチ操作もしやすい

 モニターの表示に関する目新しい機能としては、液晶モニターの表示方向が設定できることだろう。これは、スイバル機構と可変フレームを持つ本モデルならではの機能で、上下左右のいずれかの向きにメニュー等の表示が固定できるほか、カメラ自体が向きを感知し自動で表示の向きを変更することも可能としている。

液晶モニターの表示方向が設定できる。上下左右のいずれかに表示が固定できるほか、自動で表示の向きを変更することも可能だ撮影時の液晶モニター表示。露出等は表示されず、非常にシンプル。+と-、およびスライダーはデジタルズーム用。動画ボタンも表示される
液晶モニターの表示方向をオートにしておくと、カメラをタテ位置にすると、表示も自動的にタテ位置となるタテ位置でのメニュー表示。タテ位置もヨコ位置と変わらない操作性となる

デジタルらしい実に挑戦的なプロダクト

 イメージセンサーには、有効1,210万画素1/2.3型裏面照射型CMOSセンサーを採用。描写は、他のEXILIM同様、原色系の彩度が高くメリハリあるもので、プリントしたとききらびやかな印象となるものである。ノイズに関しては、パソコンで50%拡大して確認してみたが、作例を見る限りISO800までなら実用といえるもの。ISO1600でも色の変化などはあまり感じられなかった。動画機能に関しては、フルHD(1,920×1,080・30fps)での撮影が楽しめる。

 撮影モードには通常の「オート」のほか「プレミアムオート」、「HDRアート」を搭載する。ともにEXILIM独自の撮影モードで、プレミアムオートはオートにくらべ、より被写体に最適化した仕上がりが得られる。露出の決定が難しいようなシーンでも、カメラ任せでのイージーな撮影が可能。通常はこのモードに設定しておいて不満を感じることはないだろう。一方、HDRアートは、イラストのような描写の得られる撮影モード。その独特の仕上がりは、撮影していて結果を見るのが待ち遠しく感じるほど。変化のある仕上がりが楽しみたいときなど重宝しそうである。

 その他としては、「モーションシャッター」という聞き慣れないモードが備わる。これは、カメラに向かって手を振ったりすると、その動きを感知して3秒後にシャッターが切れるというもの。いちいちセルフタイマーをセットする必要がなく、何度でもシャッターを切ることができるため、集合写真を撮影するときなど活躍してくれそうだ。

「モーションシャッター」が目新しい撮影モード。スライドパノラマの撮影も可能としている

 今から10年余り前のコンパクトデジタル黎明期ともいえる時代、独創的な形状のカメラが多数存在した。フィルムのためのスペースを必要とし、構造的にも制約の多かったフィルムコンパクトの呪縛を振り払わんばかりの勢いで、カメラを選ぶことが今以上に楽しかったように思う。しかし、ユーザーは意外にも保守的で、昨今では大きさこそ違えども従来のフィルムコンパクトのような四角いボディが大半を占め、かつてのような独想的なカメラはすっかり鳴りを潜めている。今回試用したEX-TR100は、そのようなマンネリ化しつつあるコンパクトデジタルのスタイリングに、一石を投じるきっかけに思えてならない。今後の進化や波及が楽しみなガジェットである。

使用メディアはSDXC/SDHC/SDカード。スロットカバーは小さく、スロットに被せるだけのごく簡単なつくりインターフェースはUSBとHDMIの2つとシンプル。こちらのカバーもミニマムサイズで、簡単なつくりだ
ストラップ取り付け部、フレームに備わるバッテリーの充電は、ACアダプターもしくはUSBパスパワーを使用。バッテリーはカメラ内部に固定されており、ユーザーが取り出したり交換することはできない

実写サンプル

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。

・HDR/HDRアート

オート / EX-TR100 / 約5.3MB / 4,000×3,000 / 1/1,000秒 / F2.8 / 0.0EV / ISO100 / WB:オート / 3.8mmHDR / EX-TR100 / 約5.8MB / 4,000×3,000 / 1/1,250秒 / F2.8 / 0.0EV / ISO100 / WB:オート / 3.8mm
HDRアート / EX-TR100 / 約5.5MB / 3,648×2,736 / 1/1,000秒 / F2.8 / 0.0EV / ISO100 / WB:オート / 3.8mm

・感度
ISO100 / EX-TR100 / 約2.2MB / 4,000×3,000 / 1/25秒 / F2.8 / +0.7EV / WB:オート / 3.8mmISO200 / EX-TR100 / 約2.3MB / 4,000×3,000 / 1/60秒 / F2.8 / +0.7EV / WB:オート / 3.8mm
ISO400 / EX-TR100 / 約2.0MB / 4,000×3,000 / 1/125秒 / F2.8 / +0.7EV / WB:オート / 3.8mmISO800 / EX-TR100 / 約2.1MB / 4,000×3,000 / 1/250秒 / F2.8 / +0.7EV / WB:オート / 3.8mm
ISO1600 / EX-TR100 / 約2.3MB / 4,000×3,000 / 1/400秒 / F2.8 / +0.7EV / WB:オート / 3.8mmISO3200 / EX-TR100 / 約1.7MB / 4,000×3,000 / 1/800秒 / F2.8 / +0.7EV / WB:オート / 3.8mm

・歪曲収差
EX-TR100 / 約2.9MB / 4,000×3,000 / 1/160秒 / F2.8 / 0.0EV / ISO100 / WB:日陰 / 3.8mm

・画角
EX-TR100 / 約2.8MB / 4,000×3,000 / 1/1,250秒 / F2.8 / 0.0EV / ISO100 / WB:オート / 3.8mmデジタルズーム / EX-TR100 / 約2.2MB / 4,000×3,000 / 1/800秒 / F2.8 / 0.0EV / ISO100 / WB:オート / 3.8mm

・プレミアムズーム
プレミアムズーム(広角端) / EX-TR100 / 約3.7MB / 3,648×2,736 / 1/800秒 / F2.8 / 0.0EV / ISO100 / WB:オート / 3.8mmプレミアムズーム(望遠端) / EX-TR100 / 約2.6MB / 3,648×2,736 / 1/640秒 / F2.8 / 0.0EV / ISO100 / WB:オート / 3.8mm

・作例
EX-TR100 / 約3.8MB / 4,000×3,000 / 1/800秒 / F2.8 / 0.0EV / ISO100 / WB:オート / 3.8mmEX-TR100 / 約3.0MB / 3,000×4,000 / 1/320秒 / F2.8 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 3.8mm
EX-TR100 / 約4.2MB / 4,000×3,000 / 1/1,250秒 / F2.8 / 0.0EV / ISO100 / WB:オート / 3.8mmEX-TR100 / 約3.7MB / 3,000×4,000 / 1/400秒 / F2.8 / -1.0EV / ISO100 / WB:オート / 3.8mm
EX-TR100 / 約3.1MB / 4,000×3,000 / 1/1,000秒 / F2.8 / 0.0EV / ISO100 / WB:オート / 3.8mmEX-TR100 / 約4.1MB / 4,000×3,000 / 1/800秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 3.8mm
EX-TR100 / 約3.2MB / 4,000×3,000 / 1/640秒 / F2.8 / 0.0EV / ISO100 / WB:オート / 3.8mmEX-TR100 / 約4.1MB / 3,000×4,000 / 1/400秒 / F2.8 / 0.0EV / ISO100 / WB:オート / 3.8mm
EX-TR100 / 約2.3MB / 3,000×4,000 / 1/3,200秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 3.8mmEX-TR100 / 約3.4MB / 4,000×3,000 / 1/2,000秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 3.8mm
EX-TR100 / 約3.2MB / 3,648×2,736 / 1/1,250秒 / F2.8 / 0.0EV / ISO100 / WB:オート / 3.8mm / HDRアートEX-TR100 / 約5.8MB / 2,736×3,648 / 1/800秒 / F2.8 / 0.0EV / ISO100 / WB:オート / 3.8mm / HDRアート
EX-TR100 / 約5.6MB / 2,736×3,648 / 1/200秒 / F2.8 / 0.0EV / ISO100 / WB:オート / 3.8mm / HDRアートEX-TR100 / 約5.5MB / 3,648×2,736 / 1/800秒 / F2.8 / 0.0EV / ISO100 / WB:オート / 3.8mm / HDRアート

・動画
  • 動画作例のサムネイルをクリックすると、未編集の撮影動画をダウンロードします。再生についてのお問い合わせは受けかねます。ご了承ください。
約78.3MB / EX-TR100 / 1,920×1,080 / H.264
約31.2MB / EX-TR100 / 30.2MB / 1,920×1,080 / H.264




大浦タケシ
(おおうら・たけし)1965年宮崎県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、二輪雑誌編集部、デザイン企画会社を経てフリーに。コマーシャル撮影の現場でデジタルカメラに接した経験を活かし主に写真雑誌等の記事を執筆する。プライベートでは写真を見ることも好きでギャラリー巡りは大切な日課となっている。カメラグランプリ選考委員。

2011/7/12 00:00