【新製品レビュー】富士フイルムFinePix S200EXR
Fine Pix S200EXRは、14.3倍の高倍率ズームレンズを搭載するレンズ一体型デジタルカメラであると同時に、FinePix F200EXRやFinePix F70EXRと同様、独自の撮像素子「スーパーCCDハニカムEXR」とリアルフォトエンジンEXRを搭載する。つまり、F200EXRと同様の高画質が期待できる上で、F200EXRの光学5倍ズームを大幅に超えるズームレンジでの撮影が可能になるのだ。
ちなみに、撮像素子サイズはF200EXRと同じ1/1.6型で、有効画素数もF200EXRと同じ1,200万画素(F70EXRは、1/2型で1,000万画素)。撮影モードや機能はF200EXRやF70EXRを踏襲し、新機能として背景をぼかす「ぼかしコントロール」や、高速連写した4コマを合成してノイズを低減させる「連写重ね撮り」などが目を引く。また、撮像素子こそスーパーCCDハニカムEXRだが、カメラ本体のベースは、その酷似したスタイリングから、FinePix S100FS(2008年2月発売)といってもよいだろう。
発売は9月。価格はオープンプライス。実勢価格は6万円弱といったところだ。
■一眼レフライクな操作性
グリップ部が目立つやや大柄なボディ(レンズ一体型のコンパクトデジカメとして)に、一眼レフ用交換レンズ並のサイズの14.3倍ズームレンズを搭載。その大きさや形状は、まるでデジタル一眼レフカメラのようである。事実、本体サイズの134.4×145×93.6mm(幅×奥行き×高さ)という数値は、標準ズームレンズを装着したエントリークラスのデジタル一眼レフカメラとほぼ同じである。当然、一般的なコンパクトデジカメよりも携帯性・収納性は悪いが、大きめのグリップも相まって、手にして構えた時の安定感はなかなか良好だ。また、ズームが電動式ではなく手動式なので、ズーミングの速度や、微妙な画角調節も思い通りに行なえる。
そのほかの主要な操作部もチェックしてみたい。上面の右手側に集められたボタンやダイヤルは、その形状や機能割り当てがデジタル一眼レフカメラにソックリ! だから、デジタル一眼レフカメラに慣れ親しんでいる人なら、違和感なく操作できるだろう。
記録メディアはF70EXRと同様、SDメモリーカードとSDHCメモリーカード(xDピクチャーカードは不可)。このほか、約47MBの内蔵メモリーも搭載する | 使用する電源は、充電式バッテリー「NP-140」。撮影可能枚数は、CIPA規格で約370枚。同じバッテリーを使用するS100FSが約250枚なので、それと比較するとけっこうロングライフ |
背面側にあるセレクターボタン(十字キー)や各ボタンも、特に違和感なく操作できる。ただし、通常はファンクションボタンや十字キーなどに割当てられることが多い「ホワイトバランス設定」が、左手側(側面)に配置されたボタンで設定するのには、個人的に少し違和感を覚えた。まあ、慣れの問題かもしれないが……
前述の通り、まるでデジタル一眼レフカメラのような姿をしたカメラなので、つい一眼レフカメラ並の操作フィーリングやレスポンスを期待したくなる。だが、レリーズ時の感触や音は、コンパクト機のそれである。また、記録方式が「CCD-RAW」の場合、撮影後に設定変更(露出補正以外)をしようと思ったら少し待ち時間が必要になる。こういった部分のレスポンスも、デジタル一眼レフカメラよりも少し見劣りしてしまう。
撮影メニューの「AFモード」では、AFエリアが選択できる。センター固定とオートエリアの他、エリア位置が選べる「エリア選択」も備えている。ここが、スリムタイプのF200EXRやF70EXRとは違うところ |
■3種を一度に撮影できる「フィルムシミュレーションブラケット」
S200EXRからの新機能というわけではないが、シーンポジションに加わった(モードダイヤルのSP)に「ぼかしコントロール」と「連写重ね撮り」の2モードが新鮮に感じられる部分である。
ただし「ぼかしコントロール」に関しては、被写体と背景が近かったりすると、フォーカスロック時に「!背景をぼかせません」という警告メッセージが出ることが多いし、そこをクリアしても撮影後に「!画像を確認してください」という表示が出て、ぼかし処理が失敗したことを知らされることもある。ホワイトバランスや露出補正なども手動で設定できない。
ということで、ぼかしコントロールを初めて搭載したF70EXRと同様、本格的なボケ効果を得る機能というよりは、あまり深く考えず気軽に楽しみたい機能と言えるだろう。これらの撮影モード以外では、1回のレリーズで「PROVIA」、「Velvia」、「ASTIA」の3種類のリバーサルフィルムの仕上がりが自動で撮影できる「フィルムシミュレーション」も、新鮮かつ便利に感じられた機能である。
モードダイヤル上の見慣れない「FSB」の文字が、「フィルムシミュレーションブラケティング」を表す。3種類のフィルムシミュレーションが1回のシャッターで連続的に撮影できる。これは便利! ボク自身、このモードの使用頻度はかなり高かった | モードダイヤルを「SP」に設定して、16種のシーンポジションの中から「ぼかしコントロール」を選択。そして、コマンドダイヤルを使用して、ぼかしの強度を3段階から選択する |
■低輝度シーンで有効なEXR「高感度低ノイズ優先」
スーパーCCDハニカムEXRといえば、「高解像度優先」、「高感度低ノイズ優先」、「ダイナミックレンジ優先」。この3つの「EXR優先モード」は、いずれも画質に関係してくるモードである。その中でも、最も注目度が高いのが、コンパクトデジカメの宿命「高感度ノイズ」が改善される「高感度低ノイズ優先モード」だろう。
「高感度低ノイズ優先」を選択すると、最大記録画素が1,200万画素(L)から600万画素(M)に制限されるが、それでもA4や六切サイズでプリントするには十分な画素数。そして、これまでは画質的にキツかったISO800やISO1600の高感度撮影でも、低ノイズで質感描写に優れた描写が得られるので(多くのコンパクトデジカメと比べて)、薄暗い場所での撮影では、この「高感度低ノイズ優先モード」を積極的に活用していきたい。またほかのEXR機と同じく、撮影シーンを自動認識して3つのモードから最適画質を自動設定する「EXR AUTO」も選択できる。
まず、モードダイヤルを赤で表示された「EXR」に合わせる。そして、背面にあるMENU/OKボタンを押して撮影メニューを呼び出し、EXRモードの項目から使用モードを選択する |
また、1,200万画素の通常の撮影モードでも、絵柄によってはISO400くらいでも十分に低ノイズで質感描写も良好。色再現に関しても、適度に鮮やかでクリアな再現が得られた。元々、FinePixシリーズの色再現には定評があるが、今回のS200EXRでもその事を実感した。撮影条件(被写体の色や光線の状態)が良ければ、通常の「PROVIA」モードでも鮮やかな色再現が可能だ。14.3倍の高倍率ズームの描写性能も良好で、とかくアマくなりがちな超望遠域も、シャープで均質(周辺部でも乱れが目立たない)な描写を得ることができた。
■まとめ
現在、多くのレンズ交換式デジタルカメラが発売されていて、自分の用途や好みや予算に応じて、自由に選ぶことができる。また、かつては「デジタル一眼レフカメラは高価な製品」という印象だったが、現在はかなり安価な製品も増えてきた……とはいえ、一眼レフカメラを買ったことがない人にとっては、それでも「まだ高い!」と感じるかもしれない。例えば、ボディ本体は6万円くらいでも、レンズに超望遠域までカバーする高倍率ズームレンズを選ぶとさらに6万円くらい必要になる。これまで3〜4万円くらいのコンパクトデジカメしか買ったことがない人にとっては、10万円を超える買い物は高く感じるに違いない。
そう考えると、6万円前後で買える「Fine PixS200EXR」は、結構魅力的な選択肢に感じられる。高画質設計で超望遠域までカバーする14.3倍の高倍率ズームレンズを搭載しながら、デジタル一眼レフカメラの半分くらいの予算で買えるのだから。
もちろん、デジタル一眼レフカメラに敵わない部分もある。「ぼかしコントロール」のようなデジタル処理機能は搭載するが、撮像素子サイズとレンズの実焦点距離の関係で、本格的なボケ効果はあまり期待できない。また、AF駆動や連写のレスポンスなども、デジタル一眼レフカメラほどではない。だが、ズーム操作がマニュアル式(電動式ではない)で微妙な調節が可能だったり、AFモードやブラケティング機能が多彩だったりと、デジタル一眼レフカメラ並の機能が駆使できるのは大きな魅力といえる。
また、形状やサイズは一眼レフと大差なくても、ボディ本体で「820g」という重量は、一眼レフボディ+高倍率ズームと比べると軽い(一般的に100g台くらいの差)。さらに個人差はあるだろうが、実際に手にすると数値以上に軽く感じられるのだ。そういった部分の軽快さも、S200EXRの魅力と言えるだろう。
■作例
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像を別ウィンドウで表示します。
●画角
広角端 FinePix S200EXR / 約4.5MB / 4,000×3,000 / 1/280秒 / F6.4 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 7.1mm | 望遠端 FinePix S200EXR / 約4.4MB / 4,000×3,000 / 1/340秒 / F5.3 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 101.5mm |
●歪曲収差
広角端が30.5mm相当と控えめなせいか、広角特有のタル型の歪曲収差はあまり目立たない。望遠端の歪曲収差もほとんど気にならないレベル。わずかに色収差が見られるようだが、それもあまり気にならない。全体的にみて、広角から超望遠域まで安定した描写で「優秀な高倍率ズームだな」という印象を受けた。
広角端 FinePix S200EXR / 約3.7MB / 4,000×3,000 / 1/18秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 7.1mm | 望遠端 FinePix S200EXR / 約3.6MB / 4,000×3,000 / 1/9秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO100 / WB:日陰 / 101.5mm |
●ISO感度
EXRモードの「高感度低ノイズ優先」で撮ったISO800やISO1600は、画素数が600万画素と控えめなこともあり、期待通りの低ノイズ&質感描写を得ることができた。
また、フル画素(1200万画素)の通常モードでも、ISO400くらいまではノイズもさほど気にならず感質感描写も良好。だが、ISO800くらいになると、ノイズ感はともかく、細部の描写が大雑把に見えてくる。ちなみに、色再現に関しては、ISO3200まで上げると少し渋くなるが、それ以下の感度では良好な色再現になっている。
・通常撮影
※共通データ:FinePix S200EXR / 4,000×3,000 / F4 / -0.3EV / WB:日陰 / 8.7mm
ISO100 | ISO200 | ISO400 |
ISO800 | ISO1600 | ISO3200 |
・高感度低ノイズ優先(EXR優先モード)
FinePix S200EXR / 約2.7MB / 2,816×2,112 / 1/105秒 / F4 / -0.3EV / ISO800 / WB:日陰 / 8.7mm | FinePix S200EXR / 約2.7MB / 2,816×2,112 / 1/125秒 / F5 / -0.3EV / ISO1600 / WB:日陰 / 8.7mm |
暗がりの中に浮かび上がる青と赤のライトの光が、無機質な屋根のフレームを美しく演出してくれる。肉眼でも「暗いな」と感じるくらいで、しかもライトの光もそう強くない。そういう状況での手持ち撮影だったので、躊躇せずEXRモード内の「高感度低ノイズ優先」を選択。そして、ISO1600に設定して1/80秒というシャッター速度を得て撮影した。
FinePix S200EXR / 約2.7MB / 2,816×2,112 / 1/80秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO1600 / WB:オート / 7.1mm |
●ダイナミックレンジ優先モード
大きく写る日陰の青い傘と、背後の明るい部分(木立や別の傘)の明暗差に注目してみた。日陰の青い傘を見ると、ダイナミックレンジ100%のカットだけ微妙に暗めな感じだが、背後の明るい部分の階調が白飛びぎみになっている。その明るい部分に注目すれば(特に傘の部分)、200%と400%のダイナミックレンジの広がり具合がよくわかると思う。
階調再現に関しては、かなり厳しい撮影条件。地面部分の薄暗い照明も再現したいが、空の階調も出したいところだ。まず、100%と最大の800%で撮り比べる(ほかの撮影モードだと400%が最大)。ダイナミックレンジ100%だと、地面部分の照明に露出を合わせると、空の下部が飛び気味になってしまう。800%だとしっかり描写されている。
ダイナミックレンジ100% FinePix S200EXR / 約2.4MB / 2,816×2,112 / 1/85秒 / F2.9 / 0EV / ISO800 / WB:日陰 / 8.1mm | ダイナミックレンジ800% FinePix S200EXR / 約2.3MB / 2,816×2,112 / 1/20秒 / F2.9 / 0EV / ISO200 / WB:日陰 / 8.1mm |
●フィルムシミュレーションブラケット
抜けるようなクリアな秋空に、一筋の飛行機雲が映えて見える。そのシーンを「FSB」で撮影した……が、色や階調の違いはそれほど極端ではなかった。「PROVIA」は肉眼の印象に近い仕上がりだ。「Velvia」の青は、鮮やかだが明度が少し高い。だから、少し軽い印象を受ける。マイナス側に補正すれば、もっとインパクトのある色になるだろう。「ASTIA」は全体的にあっさりとした色再現になり、ライトな感覚に仕上がっている。
※共通データ:FinePix S200EXR / 約3.0MB / 4,000×3,000 / 1/220秒 / F6.4 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 14mm
フィルムシミュレーション:PROVIA | フィルムシミュレーション:Velvia | フィルムシミュレーション:ASTIA |
●ぼかしコントロール
ぼかしの強度は1〜3の中から選択できるが、被写体や撮影条件によっては、その設定が反映されない(強度が弱くなる)こともある。ここでは強度「2」で撮影できた。それなりのボケ効果は得られたが、背景の一部が処理しきれてなかったり、被写体と背景との輪郭がやや不自然に見える部分も見受けられる。
FinePix S200EXR / 約2.5MB / 2,816×2,112 / 1/25秒 / F4.4 / 0EV / ISO800 / WB:オート / 44.6mm |
●高感度2枚撮り
1回のレリーズで、ストロボ非発光と発光の2パターンが連続で撮れる「高感度2枚撮り」。ストロボを使わない描写がいいか? 使った描写の方がいいか? その判断がつきにくい場合に重宝する。
ストロボ非発光 FinePix S200EXR / 約2.5MB / 2,816×2,112 / 1/60秒 / F3.2 / 0EV / ISO800 / WB:オート / 12.8mm | ストロボ発光 FinePix S200EXR / 約2.5MB / 2,816×2,112 / 1/60秒 / F3.2 / 0EV / ISO800 / WB:オート / 12.8mm |
●夕焼けモード
少しだけ色づいた夕焼け雲を、シーンモードの「夕焼け」で撮影してみた。通常のモードで撮影したカットと比べると、全体的に赤みが強い色調になり、露出レベルも暗めに調整されている。本格的に焼けた夕焼けなら、さらにドラマチックな描写になるだろう。
夕焼けモード FinePix S200EXR / 約3.6MB / 4,000×3,000 / 1/1700秒 / F8 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 31.3mm | 通常モード FinePix S200EXR / 約3.6MB / 4,000×3,000 / 1/750秒 / F8 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 31.3mm |
●自由作例
FinePix S200EXR / 約4.1MB / 4,000×3,000 / 1/100秒 / F4 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 7.1mm | FinePix S200EXR / 約3.7MB / 4,000×3,000 / 1/100秒 / F4 / +1EV / ISO400 / WB:オート / 7.1mm(スーパーマクロ) |
FinePix S200EXR / 約2.4MB / 2,816×2,112 / 1/110秒 / F3.7 / 0EV / ISO400 / WB:オート / 22.2mm(高感度低ノイズ優先) | FinePix S200EXR / 約2.5MB / 2112x2816 / 1/75秒 / F3 / 0EV / ISO800 / WB:オート / 8.4mm(高感度低ノイズ優先) |
FinePix S200EXR / 約2.7MB / 2,816×2,112 / 1/7秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO1600 / WB:オート / 7.1mm(高感度低ノイズ優先) |
2009/9/29 00:00