ミニレポート
新ファームウェアで追加された「回折補正」を検証
(PENTAX K-3)
Reported by 大高隆(2014/7/17 09:00)
APS-Cの2,400万画素化に否定的な向きが挙げていた理由のうち、1つ目がノイズ耐性の問題であり、もう1つ大きな問題とされていたのが、回折による解像力の低下だ。
高画素化のために画素ピッチを詰めていくと、回折によって起きる「小絞りボケ」の影響を受けやすくなる。精細な描写を求めて高画素化した結果、細かいディテールを捉えることが難しくなってしまうわけだ。そのジレンマを解消するための研究を各カメラメーカーが進めており、K-3にもファームウェア1.10で「回折補正」機能として実装された。
2,400万画素・APS-C撮像素子のカメラで撮影する場合、回折の影響を無視できる限界は、計算上F8辺りで、さらに絞り込んでいくと解像力は徐々に低下する。
高解像力/高解像度を保ちながら被写界深度を稼ぐには35mmフルサイズセンサーに移行するのが有利で、APS-Cに留まるなら、画素数を1,600万画素程度に抑えるしかないというのが従来の常識だった。それを覆す可能性を秘めているのが2,400万画素のAPS-C撮像素子と回折補正の組合わせだ。
回折補正機能は、レンズを絞り込むにつれて現れる解像力変化の状況を、各レンズ毎にデータベースとしてファームウェアの中に組み込み、それを逆引きすることで、失われかけていたディテールを演算によって復元する。光学的には克服できない限界を、コンピュータの力によってデータ上の問題として解決しようというアプローチだ。
同様の機能は、「点像復元」などの名前で他社でも採用が進んでいる。ベースになっているのはイメージプロセッサ「Milbeaut」第7世代に組み込まれた演算機能だといわれる。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
能書きはとにかく。回折補正ONとOFFで開放2.8から最小絞りF22まで撮影・比較したところ、開放からF8までは補正のON/OFFのいずれも解像力に目立った違いは見られなかった。これは先に述べた計算通りだ。
さらに絞り込むと、補正なしでは解像力とコントラストが徐々に落ちていくが、回折補正ありの方はF16まで充分にシャープな描写を保つ。最小絞りF22はさすがに少し甘いが、保護紙の質感も充分に表現されており、厳しい用途でなければ合格点を与えてもいい感じだ。
デジタル写真の常識として、解像力を重視する場合には、小絞りボケを避けるために極力絞りを開けて撮影することが重要とされてきた。しかし、風景写真や商品撮影などの分野では、被写界深度を得るために、どうしても絞り込まねばならない時が多々ある。
あるいはスナップ撮影でパンフォーカスを狙う場合にも解像力の低下は気にかかる。このようなもやもやをスッキリと解消してくれるのが回折補正の威力だ。
K-3の撮像素子の素性としてF8までしか絞れなかったものが、回折補正の導入によってF16が可能になる。つまり2段ほど深い絞りが使えるようになったわけで、これは作画上の大きなメリットになる。
回折補正によって写真のシャープネスが明らかに高くなるというようなことはない。それは、解像力低下の緩和を目的とした機能だからであり、当然のことだ。
しかし仔細に見れば、F8に満たない中絞りでもわずかながら画質が向上していることがわかる。実のところ、回折現象自体は開放絞りから既に発生して像を乱している。それが打ち消されるためにシャープになるということだろう。
◇ ◇
どちらかと言えば古風な撮り方に馴染んでいる私は、絞り込んでパンフォーカスを狙うような撮り方をすることが多かったが、K-3についてここで書くようになって以来、なるべくF8を超えない絞りで撮るように心掛けている。その制約が、良くも悪くも写真の撮り方を変えてきた。
しかし、回折補正機能を得たことで、今後は被写界深度が必要ならば躊躇なく絞ることができる。つまり、改めて新しい表現の可能性が開けるわけだ。そのことをありがたく思い、素直に喜んでいる。