デジカメ Watch

【伊達淳一のレンズが欲しいッ!】
キヤノン「EF 70-200mm F4 L IS USM」

~絞り開放から安心して使える望遠ズーム
Reported by 伊達 淳一

EF 70-200mm F4L IS USM
 前回の「レンズが欲しいッ!」で、EF 70-300mm F4-5.6 IS USMを取り上げたが、その際、一緒に実写比較したEF 70-300mm F4.5-5.6 DO IS USMの周辺画質がワイド端で予想以上に低下してしまうことに気づいてしまった。EF 70-300mm F4.5-5.6 DO IS USM発売時には、フルサイズセンサー搭載のEOSデジタルはEOS-1Ds MarkIIしかなく、ボクが所有するボディもAPS-CサイズのEOS20Dか、APS-HサイズのEOS-1D MarkIIだったので、画質が低下する周辺部は写らず、実用上問題はなかったのだ。

 ところが、EOS 5Dの登場で、フルサイズの世界が一気に身近になった。ファインダー視野も広く、被写体の前後も大きくボカせる。高感度画質だってイイ。しかし、これまで写らなかったイメージサークルぎりぎりの周辺部まで写ってしまうので、これまで写りがイイ、と満足していたレンズでも、予想外に周辺画質が悪かった、なんてことも起きてしまうのだ。

 もちろん、EF 70-300mm F4.5-5.6 DO IS USMだって、APS-CサイズのEOSデジタルで使う限りは、悪いレンズではない。リアフォーカスなのでAFスピードも速く、色乗りもイイのは魅力。切れ込むようなシャープさはないが、不思議と立体感のある描写が得られるレンズだ。全長も短いのでカメラバッグへの収納性も良く、交換レンズが多いときなどは非常に重宝する。ただ、残念なことに、フルサイズのEOS 5Dでは、ワイド端で周辺部の描写が乱れてしまうのだ。安くはないレンズだけにシクシク(涙)である。


EF 70-200mm F4 L IS USMにリング式三脚座AII(W)を装着してみた
 画質面では、しっかり調整してもらったEF 70-300mm F4-5.6 IS USMで十分満足しているのだが、やはりリアルタイムMF操作ができない点が本気で撮影するときには不便。と言って、今持っているEF 70-200mm F2.8 L USMやEF 100-400mm F4.5-5.6 L IS USMだと大きく重いので、クルマでの移動ならともかく歩きで移動するときにはちょっと体力的にツラくなってきた。

 そんなときにタイミング良く発売されたのがEF 70-200mm F4 L IS USMだ。F2.8の70-200mmズームに比べると、レンズがスリムでカメラバッグへの収納性が良く、軽量なのが魅力。AFも激速ではないものの、そこそこスムーズに動くし、フルタイムMF操作の感触も抜群だ。

 ただ、EF 70-300mm F4.5-5.6 DO IS USMの後釜として導入するには、フルサイズで使用したときテレ端の画角が少しモノ足りない。1.4倍のテレコンを持っているので、どうしても望遠が必要なときはテレコンを付ければ280mm F5.6で撮影できるが、IS化によってマスターレンズの画質が低下していないかが気にかかる。テレコンを装着すると、マスターレンズのアラが倍増されてしまうからだ。また、ISユニットという余分な光学系が加わったことで、逆光性能が悪くなっていないか、という不安もある。

 とりあえずレンズを買ってみて不満なら売り飛ばす、という手もあるが、悲しいことに10万円を超えるレンズをポンと衝動買いできるほどの経済的余裕がない。そこで、まず、メーカーからレンズを借りて、その性能をテストしてから購入するかを決めることにした。


今回の比較で使用したレンズを並べてみた。EF 70-300mm F4.5-5.6 DO IS USM(右)、EF 70-200mm F4 L IS USM(中央)、EF 70-200mm F2.8 L USM(左)
 EF 70-200mm F4 L IS USMの比較対象として選んだのは、EF 70-200mm F2.8 L USMとEF 70-300mm F4.5-5.6 DO IS USM。どちらも自腹購入した私物レンズだが、EF 70-200mm F2.8 L USMは、画質に満足しているものの、レンズが大きく重いので、最近は防湿庫の肥やしになっている。さらに、EF 70-300mm F4.5-5.6 DO IS USMは、超望遠ズームとして携帯性は抜群だが、冒頭で述べたようにフルサイズで使用したときワイド側の周辺画質が不満だ。

 そんなわけで、ボクがEF 70-200mm F4 L IS USMに期待しているのは、高画質と携帯性の両立。少なくとも携帯性については、鏡胴の長さはあるが径が細く、カメラバッグへの収納性も○。重さもこのクラスのズームレンズとしては軽量なので合格だ。問題は絞り開放の描写や逆光性能、そして、1.4倍のテレコン装着時のテレ端の画質だ。


 結論から先に言えば、EF 70-200mm F4 L IS USMは、絞り開放からシャープで期待以上の写りで、APS-Cサイズではもちろんのこと、フルサイズのEOS 5Dでも絞り開放から安心して使えるレンズだ。EF 70-200mm F2.8 L USMは、絞り開放では少し甘さが残るが、EF 70-200mm F4 L IS USMならそんな配慮は無用。ISなしのEF 70-200mm F4 L USMもシャープな写りで定評の高いレンズだったが、ISユニットが入って従来と同等以上の写りというのは驚きだ。

 また、マスターレンズがこれだけ高画質だと、1.4倍のテレコンを装着しても描写性能はあまり低下しない。EF 70-300mm F4.5-5.6 DO IS USMのテレ端の描写と比較すると、わずかにコントラストが低めだが、気になるような像の乱れもなく、十分常用に耐える写りだ。前回のEF 70-300mm F4-5.6 IS USM同様、縦位置撮影でのチェックも行なってみたが、まったく問題はなく、非常にキリッと整った描写を見せてくれた。


 ところで、従来のEF 70-200mm F4 L USMは、レンズの後玉が平面になっているためか、夜景撮影で街灯など強烈な点光源が画面内にあると、かなり明確なゴーストが発生しやすかった。だが、EF 70-200mm F4 L IS USMは、ISユニットという光学系が増えているにもかかわらず、逆光には強くなっている。さすがに夜景撮影では、街灯など強烈な光源の対角線上に淡いゴーストが発生し、ISユニットの動作にともないゴーストの位置も変わるが、背景が暗くなければ気づかないような小さく淡いゴーストだ。

 夕暮れ時の逆光に光る海をバックにカモメを撮影してみたが、まぶしくてファインダー像が見づらくなるほど強烈な逆光にもかかわらず、ゴーストやフレアはほとんど目立たず、シャドー部が黒浮きしてしまうこともなかった。ただ、ワイド寄りで画面内に強い光源がある場合は、多少ゴーストやフレアが目立つケースもあり、パーフェクトな逆光性能とまではいかない。それでも望遠ズームとしてはかなり逆光に強く、EF 70-200mm F2.8 L USMよりも逆光には強かった(逆光性能を重視して、あえてISなしの70-200mm F2.8でがんばっていただけに、ちょっとだけショックだ)。

 絞り開放では周辺光量低下はわずかに生じるものの、この程度の光量落ちなら十分許容範囲だし、EF 70-200mm F2.8 L USMの絞り開放に比べれば少ないほうだ。ボケ味は特別良くも悪くもないが、コントラストが高いレンズだけに中途半端にボカすとちょっとうるさい感じになりやすい。口径食もわずかにあるが、まあ、レンズの大きさが大きさなので、ある程度の妥協は必要だろう。絞り開放からキレが良く、逆光にも強い、というのが、このレンズを使ってみての素直な感想だ。


 さて、レンズの返却期限が迫ってきて、このレンズを買うべきか、それとも物欲を抑えてグッとガマンすべきか、決断すべき時がきた。冷静に考えてみると、EF 70-300mm F4-5.6 IS USMと比べ、EF 70-200mm F4 L USMはテレ端の開放F値がわずか1絞り明るいだけだし、テレ端の焦点距離は200mm止まりだ。それでいて実売価格差は倍近くもあるし、キヤノン純正の1.4倍テレコンや三脚座も購入するとなると、かなり高価な買い物になる。果たしてそれだけ投資する価値がこのレンズにあるかと聞かれると、ちょっと微妙だ。EF 70-300mm F4-5.6 IS USMも結構バカにならない写りだからだ。

 ただ、冒頭で述べたようにEF 70-300mm F4-5.6 IS USMは、リアルタイムMF操作に対応していないのが最大の不満、AFスピードもちょっと遅めだ。MF操作性やAFスピードを重視すると、やはりEF 70-200mm F4 L USMも捨てがたい。というわけで、結局、EF 70-300mm F4.5-5.6 DO IS USMを下取りに出して、EF 70-200mm F4 L IS USMを購入。最初は気張ってフルサイズの5Dで撮影に出かけることが多かったが、最近はAPS-CサイズのEOS Kiss Digital Xと組み合わせることが多くなっている。ちょっと値段は高いものの、買ってからの満足度は高いレンズだ。

※プライバシー保護の観点から、画像に一部修正を加えてあります。

※EOS 5Dで撮影


焦点距離別実写比較テスト

・EF 70-200mm F4 L IS USM


70mm F4 70mm F5.6 70mm F8

135mm F4 135mm F5.6 135mm F8

200mm F4 200mm F5.6 200mm F8

・EF 70-200mm F4 L IS USM+EF 1.4XII


98mm F5.6 98mm F8

185mm F5.6 185mm F8

280mm F5.6 280mm F8

・EF 70-200mm F2.8 L USM


70mm F2.8 70mm F4 70mm F5.6

70mm F8

135mm F2.8 135mm F4 135mm F5.6

135mm F8

200mm F2.8 200mm F4 200mm F5.6

200mm F8

・EF 70-200mm F2.8 L USM+EF 1.4XII


98mm F4 98mm F5.6 98mm F8

185mm F4 185mm F5.6 185mm F8

280mm F4 280mm F5.6 280mm F8

・EF 70-300mm F4.5-5.6 DO IS USM


70mm F4.5 70mm F5.6 70mm F8

135mm F5 135mm F5.6 135mm F8

200mm F5.6 200mm F8

300mm F5.6 300mm F8

縦位置撮影テスト

EF 70-200mm F4 L IS USM

※サムネイルをクリックするとオリジナル画像(4,368×2,912ピクセル)を開きます。
※EOS 5Dで撮影


135mm F4 135mm F5.6 135mm F8

70mm F4 70mm F5.6 70mm F8

200mm F4 200mm F5.6 200mm F8

・EF 70-200mm F4 L IS USM+EF 1.4XII


98mm F5.6 98mm F8

185mm F5.6 185mm F8

280mm F5.6 280mm F8

ボケ味比較

※EOS 5Dで撮影

・EF 70-200mm F4 L IS USM


70mm F4 70mm F5.6 70mm F8

135mm F4 135mm F5.6 135mm F8

200mm F4 200mm F5.6 200mm F8

70mm F2.8 70mm F4

・EF 70-200mm F2.8 L USM


70mm F5.6 70mm F8

135mm F2.8 135mm F4

135mm F5.6 135mm F8

200mm F2.8 200mm F4

200mm F5.6 200mm F8

実写作例

※EOS 5DとEOS Kiss Digital Xで撮影

凡例 作例下の撮影データは、機種名/記録解像度/撮影モード/露出時間/絞り値/露出補正値/ISO感度/ホワイトバランス/実焦点距離を表します


EOS Kiss Digital X / 3,888×2,592 / 絞り優先AE / 1/1,000秒 / F5.6 / 0EV / ISO200 / WB:太陽光 / 200mm EOS Kiss Digital X / 3,888×2,592 / 絞り優先AE / 1/4,000秒 / F4 / 0EV / ISO800 / WB:太陽光 / 70mm

EOS Kiss Digital X / 3,888×2,592 / マニュアル / 1/250秒 / F4 / ISO800 / WB:太陽光 / 183mm EOS Kiss Digital X / 3,888×2,592 / 絞り優先AE / 1/500秒 / F5.6 / 0EV / ISO200 / WB:太陽光 / 200mm

EOS Kiss Digital X / 3,888×2,592 / 絞り優先AE / 1/500秒 / F5.6 / 0EV / ISO1600 / WB:オート / 70mm
※【お詫びと訂正】記事初出時、「市川動植物園で撮影」と表記しましたが、江戸川区自然動物園の誤りでした。お詫びして訂正させていただきます。
EOS Kiss Digital X / 3,888×2,592 / マニュアル / 1/400秒 / F4.5 / ISO800 / WB:太陽光 / 173mm
※市川動植物園で撮影

EOS 5D / 4,368×2,912 / 絞り優先AE / 1/125秒 / F4 / -0.3EV / ISO400 / WB:オート / 200mm EOS 5D / 4,368×2,912 / 絞り優先AE / 1/250秒 / F4 / -0.3EV / ISO400 / WB:オート / 189mm

EOS 5D / 4,368×2,912 / 絞り優先AE / 1/160秒 / F4 / -0.7EV / ISO640 / WB:オート / 200mm EOS 5D / 4,368×2,912 / 絞り優先AE / 1/250秒 / F4 / 0EV / ISO640 / WB:オート / 200mm

EOS 5D / 4,368×2,912 / 絞り優先AE / 2秒 / F5 / 0EV / ISO100 / WB:タングステン / 150mm EOS 5D / 4,368×2,912 / 絞り優先AE / 1.3秒 / F5 / 0EV / ISO100 / WB:タングステン / 127mm

EOS 5D / 4,368×2,912 / 絞り優先AE / 1/1,250秒 / F4 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 165mm EOS 5D / 4,368×2,912 / 絞り優先AE / 1/1,600秒 / F4 / 0EV / ISO100 / WB:太陽光 / 200mm

EOS Kiss Digital X / 3,888×2,592 / 絞り優先AE / 1/1,600秒 / F4 / 0EV / ISO400 / WB:オート / 200mm EOS 5D / 4,368×2,912 / 絞り優先AE / 1/640秒 / F4 / 0.3EV / ISO100 / WB:オート / 200mm

EOS 5D / 4,368×2,912 / 絞り優先AE / 1/8,000秒 / F5.6 / -1.7EV / ISO100 / WB:太陽光 / 81mm EOS 5D / 4,368×2,912 / 絞り優先AE / 1/250秒 / F8 / -0.3EV / ISO200 / WB:オート / 176mm

EOS 5D / 4,368×2,912 / 絞り優先AE / 1/640秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO200 / WB:オート / 70mm EOS 5D / 4,368×2,912 / 絞り優先AE / 1/2,500秒 / F4 / 0EV / ISO200 / WB:オート / 70mm

EOS 5D / 4,368×2,912 / 絞り優先AE / 1/160秒 / F4 / 0EV / ISO100 / WB:太陽光 / 81mm EOS 5D / 4,368×2,912 / 絞り優先AE / 1/8,000秒 / F4 / -1EV / ISO160 / WB:オート / 200mm

EOS 5D / 4,368×2,912 / 絞り優先AE / 1/640秒 / F4.5 / 0EV / ISO160 / WB:オート / 200mm EOS 5D / 4,368×2,912 / 絞り優先AE / 1/2,000秒 / F5 / 0EV / ISO800 / WB:オート / 200mm

EOS 5D / 4,368×2,912 / 絞り優先AE / 1/5秒 / F4 / -1EV / ISO640 / WB:オート / 192mm EOS 5D / 4,368×2,912 / 絞り優先AE / 1/8秒 / F4 / 0EV / ISO640 / WB:オート / 116mm

実写作例(EF 1.4XII併用)

※EOS 5Dで撮影

凡例 作例下の撮影データは、機種名/記録解像度/撮影モード/露出時間/絞り値/露出補正値/ISO感度/ホワイトバランス/実焦点距離を表します


EOS 5D / 4,368×2,912 / 絞り優先AE / 1/640秒 / F5.6 / -0.7EV / ISO100 / WB:太陽光 / 189mm EOS 5D / 4,368×2,912 / 絞り優先AE / 1/125秒 / F10 / 0EV / ISO100 / WB:くもり / 169mm

EOS 5D / 4,368×2,912 / 絞り優先AE / 1/160秒 / F6.3 / 0EV / ISO250 / WB:オート / 254mm EOS 5D / 4,368×2,912 / 絞り優先AE / 1/800秒 / F6.3 / 0EV / ISO250 / WB:オート / 280mm

EOS 5D / 4,368×2,912 / 絞り優先AE / 1/400秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / WB:太陽光 / 280mm EOS 5D / 4,368×2,912 / 絞り優先AE / 1/320秒 / F7.1 / 0EV / ISO100 / WB:太陽光 / 280mm
  製品情報
  http://cweb.canon.jp/ef/lineup/tele_zoom/ef70_200_f4l_is/index.html

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URL
  キヤノン
  http://canon.jp/



伊達 淳一
1962年生まれ。千葉大学工学部画像工学科卒業。写真、ビデオカメラ、パソコン誌でカメラマンとして活動する一方、その専門知識を活かし、ライターとしても活躍。黎明期からデジタルカメラを専門にし、カメラマンよりもライター業が多くなる。自らも身銭を切ってデジカメを数多く購入しているヒトバシラーだ。

2007/03/14 01:23
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