気になるデジカメ長期リアルタイムレポート

PENTAX K-3【第4回】

UHS-I対応で強化された連写性能を検証

 以前、当時のペンタックスフォーラム(現リコーイメージングスクウェア新宿)を訪れた際、「例えばK-5の後継機種が出るとして、改良すべき点についてどのような要望があるか?」と立ち話で聞かれた事がある。

 その時には「まずUHS-I対応スロットの搭載」、「その次に、できればそれをダブルスロットにすること」と答えた。K-30を使った経験からUHS-Iの書き込み速度がもたらす動作の軽快さがK-5にも導入されればよいなと考えており、そして、ペンタックスのデジタル一眼レフがプロカメラマンにも受け容れられるためには、ダブルスロットである事も必要と考えたからだ。

 それに対しては、「K-5の他の部分を変えないままUHS-Iのスロットをただ押し込んだとしても、素子からの読み出しや映像エンジンの処理速度が追いつかず、UHS-Iが必要な速度は出ないので意味がないそうです。UHS-Iを採用するなら、カメラの土台から引っくり返して作り直す必要があります。簡単には行きませんけど、やるべき時期にあるのはたしかでしょう」というニュアンスの反応が返って来た。

 同じようなやり取りは他のユーザーともあったはずで、高速化とダブルスロットの搭載に対する要望は高かったのだろう。それに応える形で、K-5のあとを承けたK-5 II/K-5 IIsには間に合わなかったが、K-3ではプラットフォームが一新され、ついにUHS-I対応のデュアルスロットが搭載されたというわけだ。

 デュアルスロットへの書き込みルールは「順次」、「複製」、「Raw/jpeg分離」の3種類から選ぶようになっている。「順次」は撮影した写真をカード1に書き込み、一杯になったらカード2に切換える。高速性に優れ、カード2枚分の容量を中断なく撮影可能なのがメリットだ。「複製」は同じファイルを2枚のカードに書き込む設定で、バックアップとしての意味がある。「Raw/jpeg分離」はカード1にRAW、カード2にJPEGを書き込む設定で、カード2としてEye-Fiなどの無線LAN機能を持つSDカードを使う事を想定している。今回のテストは高速連写能力を試すことが目的なので、カードスロットへの記録設定は第一の「順次」、つまり高速カード×2に順次記録で行なう。

カードスロット設定メニュー。アイコン表示なので少し取っ付きにくいが、上から「順次」、「複製」、「Raw/jpeg分離」となる。

 メディアは市販のSDHCカードとしては最高速に位置するサンディスク「Extreme Pro 95MB edition」の16GBを使った。記録モードはJPEG 最高画質(スーパーファイン)とし、撮影モードはTAv、AFモードはAF-C(コマ速度優先)、ドライブモードはC:8.3fpsにセットする。テストのために途中幾つかの違うセッティングも試したが、掲載する作例についてはこの部分の設定は変わらない。

今回のセッティング

 高速連写テストというと列車を被写体にしたテストがよく行なわれているが、AFのテストという意味では、被写体のサイズが大きい上に速度変化もあまりないので、正直なところ難しい条件ではない。少し悩んだのだが、今回は主にUHS-I対応スロット導入による速写性の向上を試す事を意図して、あえて“お決まり”のテストをやる事で、K-3の能力がライバルと比較してどの程度のものであるかという点を見ていただこうと決めた。

 とはいえ、そのままではあまりにも面白くないので、少しハードルを高くするために、最高速度120km/hという非常に速いスピードで走行している列車を選んだ。

レンズはDA★ 60-250mm F4 ED [IF] SDMを使う。AFターゲットは右に1個ずらしたAFポイントにセットして、列車の前面を捉えるように、ファインダーで追尾しながら撮影した。なお。このテスト撮影を行なった時点でのファームウェアはVer1.00である事を、お断りしておく。(執筆時点ではVer1.01が公開されており、若干の性能向上があるかもしれない)

※以下のサムネイルは連写した写真の四角の部分を等倍で切り出したものです。

 結果を見ると最後の3コマだけ追従が遅れ、ピントが外れているが、原因はおそらく、列車が駅構内に進入して陰に入り、急激に明るさが変わったためだろう。それ以外のコマはまずまずの精度で追従している。

 テストに使ったDA★ 60-250mm F4 ED [IF] SDMは、開放F4では球面収差由来のごく軽いにじみが発生し、ピントを外したり露出がオーバーになるともやっとした写りになってしまうが、この結果をみると、自動露出の精度も含め充分によい写りと言えるだろう。この日のテストでは合計900枚以上を様々な条件で撮影したが、列車の速度に振り切られて明らかなピンぼけになってしまうような事は皆無だった。

 K-3のJPEG連写枚数は8.3fps(毎秒8.3コマ)のコマ速度の時、ISO100で最大60コマと公称されているが、この日のテストでは、最もコマ数が多かったシークエンスでも58コマ止まりで、その公称値を確認するには至らなかった。

 しかし、AF-Cで撮影する限り、AF作動のためのミラー停止時間が必要なので、実際のコマ速度は8.3fpsよりも低くなる。(作例ではおよそ7fpsで作動している)結果的に、撮像素子からの読み出しとカードへの書き込みに余裕が生まれ、バッファ・フルまでの連続撮影可能コマ数は60コマより増える。つまり、K-3でJPEG撮影の連写を行なう場合、しかるべきUHS-Iの高速カードをさえ使っていれば、バッファ・フルが原因でシャッターチャンスを逃すようなことは、まず起こらないだろう。

 ◇           ◇

 本題のカードスロットの話からはそれてしまうが、K-3はAFの動作設定も細かくチューニングできるようになったので、その辺りのことも少し触れておきたい。

 まずAFターゲットの設定については「ゾーンセレクト」ないしは「セレクトエリア 拡大(S)」の設定が使いやすかった。両者の違いは、「ゾーンセレクト」が9点を一組のゾーンとして選択し、カメラがその9点の中から最適な測距点を自動選択して追尾する。一方、「セレクトエリア 拡大(S)」の方は、基本的には撮影者が選択したひとつの測距点でAFを行ない、合焦後にその測距点が被写体を見失った場合には、周囲の8点を使って追従を維持する。

「ゾーンセレクト」を選択した場合の測距点移動画面。(右下の緑枠でハイライトされた部分)選択するエリアは十字キーで移動できるが、9個の測距点のどれが使われるかはカメラ任せになる。
「セレクトエリア 拡大(S)」では選択された1点(中央の赤点)で被写体を追尾し、周辺のピンク色の8点がそれを補佐する。

 ファインダー内でAF測距点を被写体に合わせて追うのが楽なのは「ゾーンセレクト」の方だけれども、列車が遠方にあって9点の測距点のうちいくつかが車体からはみ出してしまうような条件で、フォーカスが背景や手前の軌道に抜けてしまう傾向が認められた。

 9点のエリアで捉えればいいやという感覚が追い写しを雑にさせてしまう面もあるようで(私の技術の問題だけど)、今回の結果から言えば「セレクトエリア 拡大(S)」で撮ったシークエンスの方が、結果が良かった。

 K-3のAF測距点はK-5系の11点から27点に増えたが、測距点の分布が密になっただけで、AFでカバーできるエリアが広がったわけではない。その点についての批判もあるのはたしかだが、ことこのようなテストに限っていえば、測距点が密になったことで、被写体上のディテールのない部分を主測距点が捉えてしまったとしても、他の測距点で近傍のディテールを捉えて追従できる可能性は高くなっている。それは1つのメリットとして挙げておくべきだろう。

 もう1点。K-3では連写CモードでのAFの作動も好みに合わせて設定できる。ここで考えたのは、AF-Cで連射中のCモードの動作をどのようにするかだ。設定はフォーカス優先/オート/コマ速度優先の3種類で、フォーカス優先にした時にどの程度コマ速度が落ちるかに興味を持って試してみたところ、コマ速度が落ちる以上にAF精度が甘くなるという傾向が認められた。

AF-C動作:カスタム設定一覧画面
AF-C動作:スタート時の動作
AF-C動作:連写中の動作

 以前サポートに聞いたところによれば、ペンタックスのいう「フォーカス優先」というのは「より高い精度のAFを試みるモード」ということで、合焦しなければシャッターが落ちないという意味ではないそうだ。

 AF作動に必要な時間は若干長くなるが、かといって、全コマがシャープに写る事が保証されるわけではない。むしろ、今回のような高速で動く被写体の場合には、「コマ速度優先」のほうが、ある程度のところで次々撮影しながら追尾していくので、結果的にうまく追従できるということのようだ。

 ただし、動きが遅い被写体ならフォーカス優先の方がよいときもあるはずで、その辺りは使い込んでいく中で少しずつ覚えていくしかないのだろう。

 ◇           ◇

 K-3はAPS-Cの2,400万画素機としては後発で、それ自体は目立つスペックではない。また、最高時8.3fpsというコマ速度も、それを越える性能のカメラはいくつもある。しかし2,400万画素のフル解像度でJPEG圧縮品質も落とさぬまま、60コマ以上の連続撮影が可能な機材は、おそらくK-3だけだろう。

 フルサイズ機まで視野に入れれば、より画素数が高い、あるいはより高速連写に優れたライバルはあるものの、その2つを両立させたカメラは、やはり見当たらない。

 K-3は高画質・高画素数をあきらめる事なく、速写性も高度なバランスで兼ね備えるカメラとして、クラスを越えてアピールする存在であると言ってよいだろう。

大高隆

1964年東京生まれ。美大をでた後、メディアアート/サブカル系から、果ては堅い背広のおじさんまで広くカバーする職業写真屋となる。最近は、1000年存続した村の力の源を研究する「千年村」運動に随行写真家として加わり、動画などもこなす。日本生活学会、日本荒れ地学会正会員

http://dannnao.net/