レンズマウント物語
第13話 ペンタックスKマウントレンズアダプターQ
第13話 ペンタックスKマウントレンズアダプターQ
Reported by 豊田堅二(2013/11/5 08:00)
最も多種類のレンズマウントを持つメーカー?
ペンタックスは最も多くの種類のレンズマウントを持つメーカーである……と書こうとして、「まてよ」と思いとどまった。マミヤのことが頭に浮かんだのである。この連載でも以前書いたように、マミヤ光機は35mm一眼レフで何回もレンズマウントを変えた。また中判一眼レフでは6×4.5判のシリーズ、6×7判のRB67とRZ67、更に中判のレンジファインダーカメラではニューマミヤ6やマミヤ7があり、それぞれに独自のレンズマウントを備えている。してみると、レンズマウント種類のレコードホルダーはマミヤか?
と、まあ細かい話は置いておいて、銀塩カメラの時からペンタックスは35mm判以外の一眼レフカメラも積極的に手掛けてきた。それが多種類のレンズマウントにつながっている。中判ではペンタックス645マウントとペンタックス67マウント、小型の方ではペンタックスAuto 110のマウントがあり、それぞれに何種類もの交換レンズが供給されてきている。
そのペンタックスに新たに加わった新顔のマウントが、ペンタックスQマウントである。写真のようにAuto110のマウントと比較すると画面サイズはQの方が小さいのにマウント径は大きい。これは電子マウントの接点スペースの都合もあるだろう。ちなみにAuto 110のレンズマウントは、電気的にも機械的にもボディとレンズとの連携手段を全く持たない、特異なマウントである。
ペンタックスQシリーズにKマウントレンズを装着
さて、そのペンタックスQシリーズに、Kマウントの一眼レフ用レンズを使用するための純正アダプターが用意されている。これがまたソニーのLA-EA2に負けず劣らずユニークな存在なのだ。
Kマウントはご存じの通り1975年にペンタックスがそれまでのM42マウントから脱皮する形で始めたマウントで、歴史は古い。その後マルチモードAEやオートフォーカスの導入に対応していろいろと改良を加え、現在でも現役となっているところなど、ニコンFマウントに類似したところのあるレンズマウントである。
・絞りの設定
KマウントレンズでもDAレンズ、DALレンズ、FAJレンズには絞りリングが設けられていない。ちょうどニコンのGレンズと同じように、ボディ側から絞り値を設定することを前提としているのだ。そのためにこのマウントアダプターには絞りリングが設けられている。絞りリングを設けたマウントアダプターというのもそう珍しくはないが、設定される絞り値は明確に設定できないのが普通だ。しかし、このペンタックスのアダプターの絞りリングには目盛があって、意図通りの絞り値に設定できる。ただし、目盛は絞りのFナンバーそのものではなく、開放からの絞り込み段数になっている。
なぜ実際のFナンバーが表示されないのか?これはカメラの測光方式が撮影レンズを通った光を測る、TTL方式となっていることに起因している。
現行のデジタルカメラはすべてTTL測光となっている。銀塩カメラの時代には一眼レフのみTTLで、コンパクトカメラは被写体の明るさを直接測る外光式だったのだが、コンパクトデジカメになって撮像素子の出力を直接測光データとして使うことが可能になり、すべてのカメラでTTL測光が実現された。
一眼レフのTTL測光では、普通撮影レンズが開放の状態で測光するので、レンズの開放F値が違うと被写体が同じ明るさでも測光値が異なってくる。そこで設定絞りの情報をボディに伝達したり、ボディ側から絞り値を制御したりする場合には、すべて開放から何段絞るかという情報を用いる。TTL測光による絞り制御に対応したKマウントレンズでは絞り込みレバーのストロークで機械的に絞りを制御するようになっているが、このストロークも開放からの絞り込み段数に関係することになり、それを動かす絞りリングも絞り込み段数を設定することになるのだ。
ズームレンズにおいて開放F値がズーミングで変わるときなどはちょっと不便だが、実用上はそう大きな問題はないだろう。ついでに言うとレバーのストロークは必ずしも絞り込みの段数に比例しているわけではない。ストロークと段数の関係がわからないと絞り込み段数の目盛も入れられないわけで、この目盛はメーカー純正のマウントアダプターならではのことと言えよう。
・手ブレ補正
ペンタックスQシリーズには、ボディ内手ブレ補正が組み込まれているが、このマウントアダプター装着時にも手ブレ補正の機能が働くようになっている。レンズの画角が35mm判相当でQやQ10では5.5倍、Q7では4.6倍となってブレの影響が大きくなるので、この機能はありがたい。しかし、ボディ内手ブレ補正がうまく働くには撮影レンズの焦点距離情報が必須である。同じようにカメラが動いても焦点距離が違うとそれに応じて被写体像の動きかたも違うわけで、補正量も違ってくるのだ。
そこで、このマウントアダプターを装着した場合には必ずレンズの焦点距離を手動で入力するようになっている。これはマウントアダプターとレンズを装着したままでも、カメラの電源を入れるたびに入力のメニューが立ち上がる。まあ、レンズが変わっていない場合はOKボタンを押すだけでよいのだが、ちょっとわずらわしい感じがしないでもない。
・レンズシャッター
なんといってもこのマウントアダプターの最大の特徴は、レンズシャッターを内蔵しているところだろう。ペンタックスQシリーズは、他の多くのミラーレスカメラと違ってボディにフォーカルプレンシャッターを持たない。専用の交換レンズの中で01 STANDARD PRIME、02 STANDARD ZOOM、06 TELEPHOTO ZOOMの「高性能レンズシリーズ」はレンズ内にレンズシャッターを内蔵しており、コンパクトデジカメと同じような形でレンズシャッターによる露出を行なっている。その他の「ユニークレンズシリーズ」にはレンズシャッターが内蔵されておらず、その場合はボディ側で素子シャッター(ローリングシャッター)が働くようになっているのだ。
一眼レフ用のKマウントのレンズには当然レンズシャッターは内蔵されていない。従って本来は「ユニークレンズシリーズ」と同様にローリングシャッターを使わざるを得ないことになるのだが、ローリングシャッターには動体撮影時の歪みとストロボ同調速度の問題がある。画面の端から端まで順に露光していくので画面上の位置によって露出のタイミングが少しずつずれ、これが動体の歪みなどにつながるのだ。
これは撮影時の撮像素子の読み出し速度を速くすればその分軽減するのであるが、ペンタックスQシリーズでは読み出し速度があまり速くないようだ。このことはローリングシャッター使用時のストロボ同調速度が1/13秒である点からもわかる。Kマウントのレンズを使うユーザーにはこの動体の歪みなどは容認できないだろうという判断から、マウントアダプターにレンズシャッターを内蔵したのだろうと推測される。
この内蔵レンズシャッターは、5枚羽根で1/1,000秒の高速も可能な本格的なものだ。ただ、当然ながらレンズ系の後方に羽根が位置する、いわゆるビハインド・ザ・レンズシャッターとなるので、組み合わせるレンズによっては画面周辺での光量不足が生じる可能性がある。今回の試用では特にそのような問題は認められなかった。
試用結果
PENTAX Q10のボディにKマウントアダプターQ、それにいくつかのKマウントレンズをリコーイメージングから拝借できたので、試用してみた。
改めて感じたのは画角の差だ。Q10は1/2.3型の画面サイズなので、画角は35mm判で5.5倍の焦点距離のレンズと同じになる。この差はけっこう衝撃的だ。なにしろ35mm判フルサイズでは超広角、APS-Cサイズでは広角となる21mmのレンズが115.5mmの望遠レンズになってしまうのだから。
一方でこのことは超望遠レンズが手軽に得られることを意味する。300mmのレンズを装着すれば、35mm判では1,650mmに相当する画角が得られ、これは月や太陽を撮影するのに手頃なレンズということになるのだ。周知のように月も太陽も、その像のおおよその直径は撮影レンズの焦点距離に1/100を乗じた値になる。300mmのレンズならば3mmの直径になるわけで、35mm判の36×24mmの画面ではまだテニスボール程度の大きさのものが、1/2.3型では画面いっぱいに写ってくれる。
ただ、画質面では注意が必要だ。このような場合、本来有効な画面の中心部のみを切りだすことになるので画質面で有利になると思いがちだが、反面像の拡大率が大きくなるので、収差も拡大されることになる。特に色収差については35mm判やAPS-Cでは目立たないレベルであっても、1/2.3型では目につくようなこともあるので、そのことを念頭に置く必要があるだろう。
取材協力:リコーイメージング