レンズマウント物語

第9話 フランジバックと口径

新しく生まれるレンズマウントは、少しでも口径を大きくとる傾向にある。中にはソニーのNEXシリーズのようにボディからはみ出しているようなものもある

フランジバックとは?

 ここで、レンズマウントの特性を表す2つの数字について解説しておこう。2つの数字とはフランジバックと口径のことである。

 まず、フランジバックだが、これはよく知られているようにレンズマウントの基準面、つまり交換レンズの後端とボディ側のマウントが当たる面と、撮像面(フィルム面)との距離のことである。撮像面がどこにあるかは、デジタルカメラの場合では撮像素子の保護ガラスがあったり光学的ローパスフィルターがあったりで、そのため実際に光が入射するフォトダイオード面の物理的位置とは違ってきたり、銀塩は銀塩でフィルムゲートのどの位置から測るかなど、いろいろとややこしいことはあるのだが、ここではあまり深入りしないことにしよう。

 最近のレンズ交換式のデジタルカメラではボディに撮像面マークが設けられていることが多いので、ここから測るとみてよい。

ミラーレスカメラ(ノンレフレックスカメラ)でも撮像面マークを入れているものがある。写真はNikon 1 V1

フランジバックは何で決まるか?

 35mm判のレンジファインダーカメラなどでは、このフランジバックはボディの厚みで決まっていた。と、いうことは35mmフィルムのパトローネの径プラスアルファと言うことで、ライカLマウント(28.8mm)、ライカMマウント(27.8mm)、旧コンタックスマウント(約32mm)など、30mm近辺のものが多い。

 しかし、一眼レフの場合はそうは行かない。図1は一眼レフの構造を表したものであるが、撮像面とレンズとの間には上下にスイングするミラーがあり、これが撮影時に上方に退避するように動く。このミラーの動きを邪魔しないよう、撮影レンズの後端はミラー先端の軌跡よりも前に持ってこなくてはならない。そこでフランジバックも撮像面からミラーの軌跡までの距離より長くとらなくてはならないのだ。35mm判の一眼レフではだいたい40mm〜50mm弱程度のフランジバックとなる。

図1:一眼レフではメインミラーが破線のような軌跡で上方に動くので、それより後方にはレンズを配置することができない。従って、フランジバックはLより大きくなる

 レンズの設計の自由度からみればフランジバックは短い方がよいのだが、一眼レフでフランジバックを短くするにはこのミラーを短くしなくてはならない。ところがミラーを短くするとファインダー視野の上の方が一部黒くなって像がみえなくなる「ミラー切れ」という現象が起こる。

 初期の一眼レフでは、このミラー切れがときどき問題になった。標準レンズ近辺の焦点距離で、しかも明るいレンズを装着している分には影響しないのだが、射出ひとみが遠方にある超望遠レンズで、しかもFナンバーの大きな暗いレンズだとこのミラー切れが目立つようになる。また、同じ条件でもファインダーの視野率が低ければミラー切れは目立たなくなる。

 しかし、短いフランジバックを実現するにはミラー切れ覚悟で短いミラーを使わざるを得ないかというと、必ずしもそうではない。十分に長いミラーを使いながら、できるだけフランジバックを短くするために、さまざまな試みがされてきた。最も有効なのは、ミラーが跳ね上がるときの運動軌跡をコントロールすることで、多くの一眼レフがミラーの先端が後退するような形で跳ねあげられる、いわゆる「しゃくり上げミラー」としたりしてこの問題に対処している。

図2:「しゃくり上げミラー」の例。ミラーが跳ね上がるときにミラー先端が後退するような形で動く

 ここまで書くともうお気づきと思うが、35mm判の銀塩一眼レフのレンズマウントをデジタル一眼レフに流用して、画面サイズをAPS-Cにした場合では、このミラー切れの面ではずっと有利になり、ファインダー視野率を上げる面でも楽になる。

主なレンズマウントのフランジバック

 表1に主だったレンズマウントのフランジバックを示す。単位はミリメートルである。フランジバックの値については公表されていないものも多く、また測定方法によって違いが出たりすることもあるので、この数字はあくまでもアバウトなものであることをお断りしておく。

表1:主なレンズマウントのフランジバック(単位mm)
レンジファインダー
ライカL 28.8
ライカM 27.8
コンタックス 32
ニコンS 32
35mm判一眼レフ
オリンパスOM 46
キヤノンEF 44
キヤノンFD 42
ヤシカコンタックス 45.5
コンタックスN 48
ニコンF 46.5
ミノルタMD 43.5
ミノルタα(ソニーA) 44.5
M42 45.5
ペンタックスK 45.5
エキザクタ 44.7
ライカR 47
コニカAR 40.5
アルパ 37.8
ミラーレス
ソニーE 18
富士フイルムX 17.7
Nikon 1 17
マイクロフォーサーズ 20

 今回この表を作成してみて気付いたことだが、35mm判一眼レフのフランジバックは、後年になるほど長くなる傾向にある。同じメーカーの製品でもキヤノンやミノルタ(ソニー)、ヤシカ(京セラ)のようにマウント変更時にフランジバックをそれまでのものに比べて長くしているのだ。

 これは一眼レフ用のレンズ設計技術の発展と無縁ではないだろう。一眼レフの黎明期ではまだレトロフォーカスタイプの広角レンズの設計技術が未発達で、焦点距離の短いレンズを設計するためにはぎりぎりまでフランジバックを短くする必要があった。そのためアルパやコニカにみられるように40mm前後のものもあったのだが、その後設計技術の発達によってその必要がなくなり、今度は超望遠レンズが普通に使われるようになると、むしろミラー切れの心配の方が重要になり、フランジバックを長くとるような傾向になってきたのではないだろうか?

同じ35mm判のカメラでも、レンジファインダーカメラ(左)に比べて一眼レフカメラ(右)の方がフランジバックが長くなる

レンズマウントの口径

 レンズマウントの特性を表す重要な数字のうち、もう1つのものが口径である。これは開口部の直径だが、バヨネットマウントの場合はボディ側マウントの爪のないところ、つまり最大の直径で表記するのが普通だ。ただ、ニコンFマウントのように爪の内側の径で表記しているところもあるので、比較するときには注意が必要である。スクリューマウントの場合はM42のようにねじの「呼び径」で表すのが一般的だが、ここで42mmというのは厳密に言うとおねじの山の部分の直径を表し、実際に有効な開口の直径であるめねじの山の直径はこれよりも小さくなる。

 レンズの設計面ではこの口径は大きいほどよいのだが、口径が大きいとその分ボディやレンズが大きくなる。コンパクトに抑えるためにはあまり大きくしたくない。では、レンズマウントの口径はどれだけあれば十分なのだろうか? これは装着するレンズの最小F値(つまりどこまで明るいレンズを装着するかということ)と、フランジバックに関係する。

 これを単純化したモデルを図3に示す。いま、35mm判フルサイズの一眼レフで、レンズマウントのフランジバックが45mmであったとしよう。これに50mm F1.0のレンズまで装着できるようにするには、マウントの口径がどれだけ必要かを求めてみる。図のようにレンズから出て撮像画面の対角線方向の隅に向かう光束が、レンズマウントの口径によってけられないための条件を求めればよいので、レンズの有効径(50mm)と画面の対角線長(43.3mm)の間の値で、レンズの焦点距離(50mm)とフランジバック(45mm)の比で比例配分したものが、必要なマウント径となる。実際に計算してみると49.3mmというのがその答えだ。

図3:レンズマウントの必要口径の考え方。装着する最も明るいレンズを想定して、そこから出た光束がけられないようにマウント径を設定する

実際には……レンズマウントの口径

 この計算は予めお断りしておいたとおり、単純化したモデルによるもので、実際にはこう簡単には行かない。以下に述べるようなさまざまな条件で、この値は微妙に変わってくる。

1.図3では撮像面から焦点距離(50mm)だけ離れたところから円錐形の光束が入射するようになっているが、実際にはレンズの「射出ひとみ」から光が出てくる。この射出ひとみは焦点距離の基準位置(主点と呼んでいる)と同じ位置にあるとは限らない。特にデジタルカメラの場合は、画面周辺でも撮像面にできるだけ垂直に近い形で撮影光を入射させるために、射出ひとみが遠い位置にあるようなレンズ設計をする。その極端な例が、射出ひとみが無限遠にあるテレセントリック光学系というわけだ。この射出ひとみが遠ければ遠いほど、撮影光束がよりマウントでけられやすくなる。

2.射出ひとみの径についても、50mm F1.0では50mmであるとは限らない。レンズのFナンバーは、焦点距離を「入射ひとみ」の径で割った値であるが、レンズ構成によって射出ひとみ径と入射ひとみ径の比(ひとみ倍率)はさまざまに変化するため、同じ50mm F1.0のレンズでも入射ひとみの径は変わらないが、射出ひとみ径は変わる。この射出ひとみ径の大きなレンズの方が、よりマウントでけられやすくなる。

3.通常のレンズでは口径食があるので、画面周辺ではレンズから来る光が減少する。従ってレンズマウントでけられる光束もその分少なくなるわけだ。要するにレンズマウントでけられる前にレンズ内部でけられるような状態になる。

4.レンズマウントの口径が十分にあっても、ボディ側の他の部分で光束がけられてしまうことがある。一眼レフの場合だとミラーボックスの壁や床などがかなり内側まできていることがあるので、これが邪魔をすることがある。また、情報伝達のための電気接点やレバーなどが光束を制限する場合もある。

 と、いうわけでレンズマウントの口径が他より小さいからといって必ずしも明るいレンズが実現できないというわけではないし、十分に大きな口径であっても条件によってはケラレが発生する場合もあり得るということになる。

 しかし、大は小を兼ねるというわけで、口径は大きいにこしたことはない。そんなところから新しく生まれるレンズマウントは、少しでも口径を大きくとる傾向にある。

豊田堅二

(とよだけんじ)元カメラメーカー勤務。現在は日本大学写真学科、武蔵野美術大学で教鞭をとる傍ら、カメラ雑誌などにカメラのメカニズムに関する記事を書いている。著書に「デジタル一眼レフがわかる」(技術評論社)、「カメラの雑学図鑑」(日本実業出版社)など。