交換レンズレビュー
SIGMA 18-300mm F3.5-6.3 DC MACRO OS HSM
高倍率と高い描写性を両立!
Reported by 礒村浩一(2014/12/10 07:00)
SIGMA 18-300mm F3.5-6.3 DC MACRO OS HSMは、APS-Cセンサー搭載機専用のズームレンズである。今回撮影に使用したキヤノンEOS 70Dとの組み合わせでは35mm判換算28.8mmから480mm相当の焦点域となる。実に16.6倍のズーム比を持つ高倍率ズームレンズだ。
レンズ交換を行う事無く広角域から超望遠域までを撮影できる高倍率ズームレンズはとても便利で、また携行する機材の量を抑えられる点からもとても人気がある。しかし、その高倍率なズーム比を実現するのと引き換えに光学性能を高く維持する事は難しく、これまでは画質は多少なりとも妥協した製品であることが多かったのも事実だ。
しかし本レンズは、高倍率ズームレンズでありながら、光学性能こだわった製品として企画されたという。それを実現するためにレンズ構成は蛍石と同等の性質を持つFLDガラスレンズ4枚、特殊低分散SLDガラスレンズ1枚を採用した13群17枚の構成となっている。
デザインと操作性
質量は585g。最大径は79mm(フィルター径72mm)、長さは101.5mmと一般的な標準ズームレンズとさほど変わらない重さと大きさだ。
外装デザインは最近のシグマレンズが採用するシンプルかつ高級感が感じられるContemporaryラインのデザイン。ズームリングはゴム製で幅広く掴みやすい。ピントリングにもゴムの滑り止めパターンが用意されており回しやすい。ただしMF時の回転は極めて軽く、細やかなピント位置決めには私としてはもう少し重い方が好みだ。
鏡筒は2段式に伸びる。鏡筒には各焦点距離における最大撮影倍率が表示されている。最短撮影距離は39cm。最大倍率は1:3となりマクロ撮影も可能。
フードにも細かなパターンとゴムのリングが設けられておりデザインの向上と滑り止め効果を持たせている。
FOCUS切り替えスイッチはスイッチのスライドによってAF時に白、MF時に黒の表示が表れ一目で状況を識別できるようになっている。ズームロックは鏡筒をいちばん縮めた18mm時にのみ使用可。ロック位置にスライドするとFOCUS切り替えスイッチと同じく、スライドした隙間に白の表示が表れる。
遠景の描写は?
まず広角端だが中心部は開放絞りから非常に解像力が高く、F5.6~8が画質のピークとなる。しかしF16まで絞っても回折の影響は極めて少ない。
周辺部は開放絞りからF5.6程度まで収差による緩みが若干見られるがF8より絞ると大きく改善される。F16まで絞っても回折の影響はごく僅かだ。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
望遠端は中心部は開放絞りから解像力が高くF11で画質がピークになる。F16まで絞っても回折の影響は少ない。
周辺部は開放絞りでは若干だが緩さが認められるが、やはりF11で画質が一番よくなるようだ。いずれにしても高倍率ズームレンズとしては格別の画質といえる。
ボケ味は?
広角端は実焦点距離18mmなのでアウトフォーカス部が大きくボケることはないが、F3.5の開放絞りで近距離の撮影であればピントの合う箇所の前後はボケとして表現することができる。
若干滲むようなぼけとなる傾向だ。F5.6に絞ると被写界深度が深まるのでボケとしては目立たなくなるが、背景として馴染んだ描写となる。
望遠端では開放絞り値F6.3と少し暗めの絞り値となるが、超望遠域となる300mmであればピントを合わせた前後は大きくボケる。マクロ撮影となる最短撮影距離ではピント位置の前後はとても柔らかいぼけだ。
また少し離れた位置の撮影でも主となる被写体を浮かび上がらせた撮影が可能。絞りをF8まで絞り込むと描写も安定し、前後のボケも大きすぎずに穏やかな画作りとなる。
逆光耐性は?
広角端18mmにて、あえて太陽を画面内に入れて撮影したがフレアも色収差も極めて少ない。木のシャドー部も締まっておりコントラストも高い。逆光での描写力の高さに驚く。積極的に逆光で撮影したくなるレンズだ。
作品集
広角端18mmで撮影。秋晴れの空のもと、銀杏の葉が日に照らされ金色に輝く。コントラストも解像力も十分に高く細やかな葉一枚いちまいまで分離している。画面周辺部になると若干の緩みも見受けられるが、高倍率ズームレンズとは思えないレベル。
18mmでの撮影。広角ならではの遠近感を活かしてのポートレート撮影。描写は少し柔らかめ。人物との輝度差のある明るい背景だが逆光による滲みもない。
中望遠域95mmにてのポートレート撮影。ピントを合わせた目元の睫毛なども良く解像されている。レンズ交換することなく広角から望遠まで瞬時に焦点距離を変化させることが出来るのが高倍率ズームレンズの便利なところ。
沈み行く太陽を直接画面に入れて撮影。光源を直接画面内に入れて撮影してもフレアが出にくいので安心してこのような構図を取ることができる。ススキの穂の細やかな毛がクリアに描写されている。
望遠端300mmで紅葉をクローズアップ撮影。比較的近距離での撮影のため、背景がおおきくぼけた印象的な写真となった。葉っぱの葉脈もくっきりと描写されており、高倍率ズームの便利さと高画質が両立していることがわかる。
まとめ
これまでにも高倍率ズームレンズは各メーカーから多く発売されてきた。しかし多くのモデルは利便さを前面に出したレンズ設計であり、光学性能は二の次と言わざるを得ないものも少なくなかった。それだけ高倍率ズームレンズの設計は難しいということだ。
しかし、本レンズは光学性能を犠牲にすることなく16.6倍という高倍率を実現している。開放F値は3.5~6.3と決して明るいとは言えないが、多くの撮影においては十分な光量を得ることができる値と言えるだろう。
これらの要素をしっかりと理解しておくことで、このレンズ1本で様々な被写体およびシーンにおいて高品位な撮影ができるのは非常にありがたい。これまで高倍率ズームレンズを画質の面から敬遠していた人でも、このレンズならば積極的に使用したくなるだろう。
(モデル:稲葉マリ、撮影協力:フラワーショップ&スクールゆりの木)