交換レンズレビュー

BORG 50mm F2.8

撮影用として現代に蘇った引き伸ばしレンズ

 今回は、トミーテックがこのほど発売した“引き伸ばしレンズ”の「BORG 50mm F2.8(2850)」を紹介する――と言っても、引き伸ばし機で使うのでは無く、撮影レンズとしてのレポートだ。

BORG 50mm F2.8は6月7日に発売した。直販価格は税込2万8,800円

 引き伸ばしレンズは、引き伸ばし機に装着して銀塩プリントを作る際に使用するレンズだが、昨今はマウントアダプターを使ってカメラに取り付け、撮影レンズとして活用している人も少なくない

 そうした中BORG 50mm F2.8は、はじめから撮影レンズとして使うことを考慮して生まれた“引き伸ばしレンズ”となっているのがおもしろい。トミーテックによると、引き伸ばし用レンズの光学設計を活かしつつ、実写テストをしながらパーツのチューニングを施しているという。

幅広で回しやすい絞りリングを採用
絞り羽根は6枚(F16にしたところ)
引き伸ばしレンズなのでマウントはL39

 引き伸ばしレンズはピント調節機構は持たないため、同社の「M42ヘリコイド」と組み合わせて使用する。無限遠が出るのはミラーレスカメラに限られるが、35mmフルサイズまで対応している。

 本レンズは指でつまめるほどの大きさで、フルサイズ対応の一般的な交換レンズから見ると極めて小型(フィルター径37.5mm!)。ヘリコイド類を含めてもこの小ささは魅力的だ。外装は総金属で高級感がある。レンズや金物など素材も含めて日本製とのことだ。

最大径×全長は45×36.6mmと小型。重量は89g

 カメラとの接続は複数のマウント変換が必要で、やや複雑になっている。

レンズ以外に必要なアイテム。すべてトミーテック製で、左上から「カメラマウントDXマイクロフォーサーズ用(5012)」、「M42P1→M49.8AD(7843)」、「M42ヘリコイドS(7840)」、「M42P1→M39AD(7844)」

 基本的にはボディに対して、「各社用カメラマウント」、「M42P1→M49.8AD(7843)」、「M42ヘリコイドS(7840)」、「M42P1→M39AD(7844)」と繋げて、最後に「BORG 50mm F2.8(2850)」を装着する。

このような順で装着する
M42ヘリコイドとマウントアダプターをすべて装着したところ

 今回はパナソニック「LUMIX DMC-GH3」で試用するため、カメラマウントは、「カメラマウントDXマイクロフォーサーズ用(5012)」を使った。

DMC-GH3に装着したところ

 レンズ構成は4群6枚。鏡胴の大部分は絞りリングになっており、1段刻みのクリックストップがある。しっかりした滑り止めのパターンがあり回しやすい。絞り羽根は6枚。円形絞りでは無く、少しでも絞ると点光源のボケは6角形になる。

 M42ヘリコイドの回転リングも滑らかで使いやすい。精密なピント合わせには拡大表示やピーキング機能を使うと良いだろう。

より小型の「LUMIX DMC-GM1」に装着したところ

 ◇           ◇

 今回はマイクロフォーサーズ機なので、35mm判換算の焦点距離は100mm相当の中望遠レンズとなる。

 さっそく試写してみたところ、開放F2.8とF4以降ではがらりと性格を変えるおもしろいレンズだった。開放では、軽くソフトフィルターを掛けたかのようなオールドレンズチックな描写が楽しめる。女性ポートレートなどにも向くであろう柔らかい写りだ。

 一方F4より絞ると俄然コントラストが高まり、高解像力を有するとされる引き伸ばしレンズの面目躍如といったところとなる。コントラストのピークはF5.6(F4でもさほど変わらないが)、F8からは回折ボケが見られる。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
・中央部
以下のサムネイルは四角の部分を等倍で切り出したものです。
F2.8
F4
F5.6
F8
F11
F16
・周辺部
以下のサムネイルは四角の部分を等倍で切り出したものです。
F4
F4
F5.6
F8
F11
F16
共通設定:DMC-GH3 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / 50mm

 マイクロフォーサーズのイメージサークルで見る限り、周辺部での流れは見当たらない。また、開放ではややパープルフリンジのような色付きも見られるが、F4以降では消え、軸上色収差、倍率色収差も見当たらず優秀な解像力のレンズと言えそうだ。

 また、開放でも周辺減光はほとんど見られない。メーカーによるとフルサイズで使用した場合はF2.8で周辺減光が目立つ場合があるという。鉄格子の作例を見ても目立つような歪曲は見られない。

 ボケの描写に関してはF1.4といった大口径レンズのようなトロトロのボケというわけには行かないが、それなりに自然なボケ味となっている。ボケが綺麗なのはやはり開放の時で、特に前ボケが美しく感じた。

 なお、開放であれば玉ボケも容易に作れる。玉ボケの内部は均一で、いわゆる“タマネギボケ”(玉ボケに同心円状のリングが現れること)にはならない。

F2.8

DMC-GH3 / 1/800秒 / F2.8 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 50mm
DMC-GH3 / 1/1,600秒 / F2.8 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 50mm
DMC-GH3 / 1/6秒 / F2.8 / -1EV / ISO200 / 絞り優先AE / 50mm

 本レンズのウィークポイントを挙げるとすれば、逆光性能だろう。レンズは“フルコート”を謳っているが、太陽が画面に入る構図では盛大なゴースト・フレアが出る。ただ今回の試写でゴーストやフレアが出たのは下記の作例のみ。通常使ってるぶんには問題は無いと思う。

DMC-GH3 / 1/640秒 / F2.8 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 50mm

 ところで今回の組み合わせでの最短撮影距離は、レンズ前約58cmと近接撮影は苦手となる。これはレンズそのもののせいというより、無限遠を出すためにレンズとマウントの距離を短く構成しているためだ。

最短撮影距離

DMC-GH3 / 1/4,000秒 / F2.8 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 50mm
DMC-GH3 / 1/4,000秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / 50mm

 しかし、このM42ヘリコイドシステムには接写が行えるオプションが用意されている。同社の「M42延長筒SS」や、より厚みのある「M42ヘリコイド」または「M42ヘリコイドL」を使用することで、大幅に最短撮影距離が縮まるという(この場合無限遠には合焦しない)。こうした発展が楽しめるのも、このシステムのおもしろいところだ。

 レンズに加えて、ヘリコイドやマウントアダプターなどで約2万6,000円ほどかかる。開放F2.8の50mmレンズということを考えると割高にも感じるが、中古品と違いレンズは3年保証ということなので、引き伸ばしレンズをじっくり楽しんでみたい人は検討してみてはいかがだろうか。

F4

DMC-GH3 / 1/250秒 / F4 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 50mm
DMC-GH3 / 1/3,200秒 / F4 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 50mm
DMC-GH3 / 1/200秒 / F4 / 0EV / ISO400 / 絞り優先AE / 50mm
DMC-GH3 / 1/125秒 / F4 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 50mm

F5.6

DMC-GH3 / 1/1,000秒 / F5.6 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 50mm
DMC-GH3 / 1/2,000秒 / F5.6 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 50mm
DMC-GH3 / 1/640秒 / F5.6 / +1EV / ISO200 / 絞り優先AE / 50mm
DMC-GH3 / 1/2,000秒 / F5.6 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 50mm
DMC-GH3 / 1/320秒 / F5.6 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 50mm

本誌:武石修