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カシオ「EX-TR100」に“可変クローズアップレンズ”を仕込む

Reported by 糸崎公朗

カシオ「EXILIM EX-TR100」はカシオ独自のスイバル式ボディに、新機軸の可変フレームを搭載したユニークなスタイルのデジタルカメラ。しかし今回は可変フレームを取り外し、さらにその機構を利用した「可変クローズアップレンズ」を組み込む改造を行なっている。

待望のスイバル式デジタルカメラの新製品

 ぼくが初めて購入したデジタルカメラは2000年7月発売のカシオ「QV-2300UX」だったが、これはレンズが回転するスイバル式ボディを採用し、マクロ撮影にも強く、マニュアル操作もしやすく、昆虫撮影には非常に便利だった。

QV-2300UX

 スイバル式ボディは、民生用デジタルカメラの元祖とも言えるカシオの「QV-10」で採用され、従来のフィルムカメラとは異なる特徴を活かした合理的なスタイルだと言える。しかし、黎明期を過ぎたデジタルカメラは、従来のフィルムカメラに擬態するかのような保守的なスタイルが主流になり、スイバル式はすっかり廃れてしまっていたのだ。

 ところが、今年の2月になってカシオから突然新型のスイバル式デジタルカメラが発表された。それが7月に発売された「EXILIM EX-TR100」なのだが、スイバル式ボディーに加えて新機軸の「可変フレーム」が装備され、より多彩な撮影スタイルが提示されている。

 おまけにライカ判換算21mm相当の単焦点超広角レンズが装備されており、これは昆虫の「広角マクロ」撮影に絶対便利に違いない! と言うことで、発売前から非常に期待していたのだった。

まずは可変フレームを取り外す

 実際にEX-TR100を購入してみると、確かに可変フレームは面白い。しかしいろいろいじった見た結果、昆虫撮影には今ひとつ邪魔であることが判明した。

EX-TR100は可変フレームを装備している

 例えば地面に止まっている虫をローアングルで撮る場合、レンズの位置が少しでも低い方が有利なのだが、そうなると可変フレームの“厚み”がどうしても邪魔に思える。またせっかくのレンズ回転式なのに、フレームが障害物と干渉してレンズの回転角が制限されてしまう場合もある。

 こそでEX-TR100本体から可変フレームを取り外すことにしたのだが、幸いにもこの両者は電気的な連動はなく、比較的簡単な作業できれいに取り外すことができた。外したパーツを無くさないように取っておくと、後で元に戻すことができる「可逆改造」になる。

さらに可変クローズアップレンズを組み込む

 可変フレームを取り去ったEX-TR100は文字通り一回り小型軽量化され、純粋なスイバル式デジタルカメラへと変身した。それでいてデジタルカメラとしての機能を何らスポイルするものではないから、むしろこっちの方が便利なように思えてしまう。

 しかしぼくの本来の目的である昆虫撮影の用途を考えると、このままでは今ひとつ物足りない。実はEX-TR100は最短撮影距離8cmで、今時のコンパクトデジカメとしては長めだと言える。ましてEX-TR100のレンズは21mm相当の超広角なのである。それが8cmまでしか寄れないのでは、小さな虫を大写しすることはできない。

 いや実は、EX-TR100は「MENU」内に「マクロモード」を搭載しているのである。しかし撮影範囲が8cm〜50cmに限定されるだけで、最短撮影距離が短縮されるわけではない。

 そこで、この欠点を解消するために、EX-TR100にクローズアップレンズを装着する改造をしてみることにした。レンズの装着法はいろいろ考えてみたが、せっかくなので可変フレームの機構を活かした「可変クローズアップレンズ」を組み込むことにした。

―注意―

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EX-TR100はレンズが回転するスイバル式ボディを採用し、さらに三脚やグリップ代わりにもなる「可変フレーム」を装備し、変幻自在に変化するスタイルを楽しむことができる。しかし可変フレームは便利と言えば便利、邪魔と言えば邪魔なので(笑)今回はまずこれを外すことにする 可変フレームを外すには、まずはフレーム内側にある2つのネジをドライバーで外す。しかしこれだけではフレームはびくともせず外れる気配がない
いろいろ調べるうち、フレームのプラスチック製外装パーツの両端が、両面テープで接着されていることを発見。これをゆっくり剥がすと、中から金属製のインナーフレームが現れる フレーム外装パーツを外したところ。内側にはクリックストップ用のスプリングとボッチが仕込まれているので、念のため無くさないように取っておく
インナーフレームは、白テープの下に隠れたネジでヒンジに固定されていた。テープの接着力は強力なので無理に剥がさず、ドライバーでネジ頭を探り、そのまま捻りながら外した カメラ本体からフレームを外した状態。これらの部品も保存しておくと、後で元に戻せる「可逆改造」になる
可変フレームを外したEX-TR100は、文字通り一回り小さくなり軽量化された。ただしEX-TR100は最短撮影距離が8cmで、コンパクトデジカメの超広角レンズとしては物足りない。そこでこの欠点を解消するための改造を施すことにする まず用意するのはご覧のクローズアップレンズ。これはEXILIM初代シリーズ(EX-S1等)用のサードパーティー製で、数年前安売りしていたのを買っておいたのだ
とりあえずEX-TR100のレンズに、クローズアップレンズを乗せてみる。しかしこの状態で撮影すると、画面四隅がけられてしまう。EX-TR100のレンズが21mm相当の超広角なのに対し、クローズアップレンズの外枠が厚すぎるのだ そこで、フィルター枠からレンズを取り出すことにした。ところがコストダウンのためか、レンズはアルミのフィルター枠に“カシメ止め”されており、容易に外すことができない
というわけで、ご覧のようにフィルター枠をまっぷたつに切断し、中のレンズを取り出すことに成功。道具はピラニアソーを使用した そしていろいろ思案した挙げ句、ABS板とアルミアングル材をカットし、このような形状の部品を製作した
ABS板のパーツは、クローズアップを挟んで重ねるように組み立てる 左のパーツを塗装して組み立てると、クローズアップレンズユニットが完成する
アルミアングルのパーツは、カメラ本体のフレーム基部のパーツにネジ止めする。このパーツにはネジ止め用ピッチを切った穴をそれぞれ2カ所ずつ開けている アルミアングルパーツに、クローズアップレンズユニットをネジ止めする。これで今回の改造工作は完了だ
完成した「可変クローズアップレンズ式EX-TR100」。元の可変フレームの構造を活かし、クローズアップレンズがグイーンと移動し…… ガキーンとレンズ部に装着され「マクロモード」にトランスフォーム! もちろん変形は自動ではなく手動式だ(笑)
さらに「通常撮影モード」にトランスフォームすると、こんな形態になる。クローズアップレンズはどこにいったのかというと…… 通常撮影モードの背面を見ると、使用しないクローズアップレンズユニットが裏側に回り込んでいるのがわかる。我ながら合理的な設計だ(笑)

・作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。

テスト撮影

 テスト撮影はカメラのミニチュア(他社ブランドで申し訳ないが)を地面に置き、虫に見立てて行なってみた。ご覧のようにスイバル式の特徴を活かしたローアングル撮影ができるので、大変に便利だ。

 クローズアップレンズを装着したEX-TR100の最短撮影距離は約5cmに短縮された。もうちょっと寄れても良いと思うが、あまり倍率を欲張ると応用範囲が狭くなる。クローズアップレンズを装着したこの状態では無限遠にピントが合わないが、その分AFの迷いが少なくなり、中抜けも防止できるようになった。

 EX-TR100はまた絞りが固定だったり、ストロボではなくLED内蔵だったり、いろいろ不便なところもあるが、それを補うかのような画像処理モードが搭載されているのがユニークだ。これらの性質を理解すれば、EX-TR100をより上手に使いこなすことができるだろう。

まずはクローズアップレンズ無しの「通常撮影モード」の最短撮影距離での撮影。しかしEX-TR100はAFしか装備していないので、カタログデータの8cmで撮影されているとは限らず、この撮影倍率も目安だと思っていただきたい。なかなか良い感じの大きさに写っているようだが、たいていの昆虫はこのミニチュアカメラよりさらに小さいのである。EX-TR100 / 約2.7MB / 4,000×3,000 / 1/250秒 / F2.8 / 0EV / ISO100 / プログラム / WB:オート / 3.8mm クローズアップレンズを装着した「マクロモード」で撮影するとここまでの大きさで写すことができる。しかしEX-TR100はストロボを内蔵していないため、背景が明るく飛んでしまっている。そのかわりLEDライトを内蔵しているのだが、日中シンクロの代用としては光量が弱く、タッチパネル式のオンオフ操作もやりづらい。EX-TR100 / 約2.6MB / 4,000×3,000 / 1/160秒 / F2.8 / 0EV / ISO100 / プログラム / WB:オート / 3.8mm
そこで「撮影モード」から「ベストショット」を選びその中の「HDR」で撮影してみた。背景の階調が良い感じで描写されており、なかなか使えそうだ。しかし露出の異なる画像を瞬時に合成処理する関係上、画角が一回り狭くなっている。EX-TR100 / 約2.1MB / 3,648×2,736 / 1/50秒 / F2.8 / 0EV / ISO100 / HDR / WB:オート / 3.8mm さらに「撮影モード」から「HDRアート」をセレクトすると、このような写真になる。背景のディテールがよりハッキリ描写され、見かけの被写界深度が増している。このモードはなかなか面白く、気に入ってしまった。「科学写真」には不向きなように思えるが、小松崎茂の怪獣イラストを彷彿とさせる描写は、昆虫写真と組み合わせると案外面白そうだ。EX-TR100 / 約2.7MB / 3,648×2,736 / 1/250秒 / F2.8 / 0EV / ISO100 / HDRアート / WB:オート / 3.8mm

実写作品

 今回の実写作品は、クローズアップレンズを装着した「マクロモード」で、なおかつ「HDRアート」で撮影した写真のみでまとめてみた。

 ぼくはこれはで、最近のデジカメに搭載されているいわゆる「アートフィルター」的なエフェクトにほとんど興味がなかった。というのも写真家の他に「美術家」を名乗のるぼくの立場としては、お仕着せの画像処理を使うことにどうしても抵抗があったのだ。

 しかし今回、EX-TR100に搭載されたHDRアートと昆虫写真を組み合わせたところ、なかなか面白い作品になった。アートフィルターは時代の趨勢なので、それに素直に従うこともまた「新たな表現」だと言えるかもしれない。

 写真はすべて、8月に行われた昆虫写真系サイトのオフ会の際に撮影した。ぼくは昆虫写真のプロでもあるのだが、ネット上ではプロもアマチュアも分け隔て無く、同好の士として情報交換できるのが面白い。

 オフ会の当日はそれぞれ気合いの入った一眼レフシステムを持ち寄って、ぼくだけ小さなEX-TR100で撮っていたので不思議な眼で見られたが(笑)その独特の描写にみんな驚いていた。というわけで、デジカメWatch読者のみなさんにも、その作品をぜひご覧いただければと思う。

ササの葉に隠れていたクビキリギス。まだ幼虫なので羽が短い。背景の雲の描写が美しく、HDRアートならではの効果が出ている。EX-TR100 / 約1.9MB / 3,648×2,736 / 1/1,000秒 / F2.8 / 0EV / ISO100 / HDRアート / WB:オート / 3.8mm バッタを捕らえたコガネグモ。ドラマチックなHDRアートの描写により、吸血鬼のイメージがより強調された感じだ(笑)。EX-TR100 / 約2.2MB / 3,648×2,736 / 1/1,000秒 / F2.8 / 0EV / ISO100 / HDRアート / WB:オート / 3.8mm
コノシメトンボをあおり気味のアングルで撮影。普通のデジカメなら苦しい体勢になるが、スイバル式のEX-TR100なら楽に撮影できる。EX-TR100 / 約1.6MB / 3,648×2,736 / 1/1,250秒 / F2.8 / 0EV / ISO100 / HDRアート / WB:オート / 3.8mm 死んだクマバチが地面に落ちていた。年2回発生し、冬越しした個体は今ごろが寿命なのかも知れない。地面を傾けてドラマチックなイメージを強調してみた。EX-TR100 / 約3.1MB / 3,648×2,736 / 1/40秒 / F2.8 / 0EV / ISO100 / HDRアート / WB:オート / 3.8mm
トンネル入り口の地面に止まっていたルリタテハというチョウの一種。何度も飛び立っては、同じ位置にまた降り立つという行動を繰り返していた。EX-TR100 / 約2.9MB / 3,648×2,736 / 1/80秒 / F2.8 / 0EV / ISO200 / HDRアート / WB:オート / 3.8mm 見晴らしの良い山腹に、サツマノミダマシと言うクモの一種が巣を張っていた。クモの体が少しダブって写っているのは、風で揺れていたから。HDRアートが瞬時に複数の画像を撮影し合成していることが分かる。EX-TR100 / 約1.7MB / 3,648×2,736 / 1/4,000秒 / F2.8 / 0EV / ISO100 / HDRアート / WB:オート / 3.8mm
森の中で見つけたシロスジカミキリ。鋭い顎を使い、産卵のための穴を幹に開けている。日本最大級のカミキリムシで、まさに怪獣のような存在感だ。EX-TR100 / 約3.3MB / 3,648×2,736 / 1/40秒 / F2.8 / 0EV / ISO800 / HDRアート / WB:オート / 3.8mm 繊細な体つきのアオイトトンボ。オスの体色はその名の通り青いが、メスはご覧の通りのメタリックブラウンで、森の中でひっそりと輝きを放っている。EX-TR100 / 約2.4MB / 3,648×2,736 / 1/60秒 / F2.8 / 0EV / ISO500 / HDRアート / WB:オート / 3.8mm
ジョロウグモの巣の向こうに見えるのは、養老孟司さんが館長を務める「虫テックワールド」。虫の楽しさを伝えるアトラクションやイベントがいっぱいで、夏休みの子供達で賑わっていた。EX-TR100 / 約1.7MB / 3,648×2,736 / 1/640秒 / F2.8 / 0EV / ISO100 / HDRアート / WB:オート / 3.8mm





糸崎公朗
1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。「非人称芸術」というコンセプトのもと、独自の写真技法により作品制作する。主な受賞にキリンアートアワード1999優秀賞、2000年度コニカ ミノルタフォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン)など。ホームページはhttp://itozaki.fc2web.com/ Twitterはhttp://twitter.com/#!/itozaki

2011/9/16 00:03