カーク「L-ブラケット」

~三脚で快適な縦位置撮影ができるシュープレート

 三脚で横位置と縦位置を切替えるのは、水平を取り直す必要がありなかなか面倒である。カメラを90度回転させなければならないからだ。

EOS 5D Mark IIに装着したL-ブラケット「BL-5DII」を使用しているところ。安定した縦位置撮影ができる

 そんな時に便利なのが「L型ブラケット」と呼ばれるアクセサリーだ。文字通りL字形のクイックシュー用プレートだ。これを使うとカメラの側面にもシューが生まれるため、雲台を操作せずに即座に縦位置にセットできる。水平もそのままでOKだ。また、縦位置撮影時に三脚の左右の重心が中央に来るので、より安定して保持できるメリットもある。

 L型ブラケットは海外のメーカーを中心にいくつかのブランドが出しているが、今回は米カーク エンタープライゼス(KIRK Enterprises)製の「L-ブラケット」を試してみた。国内では、「スタジオJin」が正規販売店となっている。

 また、L-ブラケットと組み合わせて便利に使える三脚やストラップなどのアクセサリーも併せて紹介する。

しっかりした造りでカメラに密着

 L型ブラケットは、基本的に各ボディ専用の形状に加工してあるのが一般的だ。今回はキヤノン「EOS 5D Mark II」用のL-ブラケット「BL-5DII」(1万7,640円)をお借りして試用した。スタジオJinでは、これ以外にも各社のボディ専用のL-ブラケットをラインナップしている。

BL-5DII
底面の両サイドには曲線の部分がありカメラと密着する

 素材は航空機にも使われているという6061アルミニウムで、ブラケット自体は削り出しの一体形成だ。重量は実測で107gと見た目よりも軽量に感じる。ブラケットの底面は、カメラボディに合わせて曲線を使った仕上げになっている。また、底面を中心に肉盗みを行なって軽量化しているようだ。ただ強度に優れるとされる6000番台のアルミとあってか、両手でひねってもたわみは感じられない。表面の加工も滑らかだ。

EOS 5D Mark IIに装着したところ

 カメラへの取り付けは三脚穴で行ない、ネジは付属のヘキサゴンレンチで回す。装着するとカメラにぴったり密着する。注目したいのは、カメラの側面と接する部分に突起が出ていること。これによって、縦位置時にカメラを支えるようになっている。

 装着した状態でも側面の端子類は全て利用できる。キヤノン純正の有線リモコンはコネクタがL型だが、ブラケット側は一部を残した切り欠きで対応している。ブラケットには、底面と側面にシュープレートが形成してある。このシュープレートはアルカスタイルではあるが、スタジオJinによると特にレバーリリースタイプのクランプとは微妙な差が生じる場合があるためカーク製クイックシューとの使用を勧めている。

側面は端子カバーが開くようにできている
底面には三脚穴も装備。軽量化のため穴が空いているが剛性はある側面の突起が縦位置でのボディを支える
専用設計だけあって、ボディともぴったり合う実測重量は107gだった

 なお手元にあった他社のクイックシューで筆者が試したところ、リアリー・ライト・スタッフ(Really Right Stuff)とベンロ(Benro)のクイックシュー(いずれも回転ノブ固定式)では問題なく固定できた。

クイックシューに装着したところ。この三脚は後述する「ハスキー三脚カークモデル」だ
(参考)一般的な縦位置での撮影はこのようになる
L-ブラケットを使用すれば、縦位置時でもカメラの重心を三脚の中央に置ける

 今回はクランプ幅2.5インチのカーク製クイックシュー「QRC-2.5」で使ってみたが、ノブ固定式であっても思いのほか迅速にロックとリリースができた。シュープレートを横にスライドさせて着脱するには固定ノブを1/4回転させるだけで良く、1回転させれば上方向に取外すことができた。

BL-5DIIには底部にストラップ穴があるので、このようにカメラを縦に吊り下げることもできる

ハスキー三脚カークモデルも

 ところで、スタジオJinではハスキー三脚にカーク製のクイックシューを最初から装着したオリジナルモデル「HUSKYヘッド一体型三脚カーク Model」もラインナップしている。

HUSKYヘッド一体型三脚カーク Modelの3段モデル。写真のストラップは改造品で実際とは異なる。また、オプションの「HUSKY専用グリップ」を装着している

 「クイックシューだけ別に買って、自分でハスキー三脚に付けたのと何が違うの?」ということになるが、ハスキー三脚の雲台に付いている滑り止めの“コルク”を貼っておらず、また物理的にクランプが回転しない加工がされている点が市販のハスキー三脚と大きく異なる。価格は3段モデルが6万5,100円、4段モデルが7万2,975円。

ハスキー三脚の雲台に付いている滑り止めの“コルク”を貼っておらず、物理的
にクランプが回転しない加工がされている点が市販のハスキー三脚と大きく異な
る。

雲台にカーク製クイックシュー「QRC-2.5」が装着されている。滑り止めのコルク無しで、直接雲台とクイックシューが接触しているのがポイントだ

 コルクを介してクイックシューを装着するよりも、金属の雲台正面に直接クイックシューが接した方がブレがより少なくなるというスタジオJinのアイデアによるものだ。

 ハスキー三脚のメーカーにスタジオJinが直接発注しているもので、最初からコルクは貼らず、工場の段階でカークのクイックシュー用に回転防止ピンを埋め込むための穴を加工する。改造扱いではないため、現在のメーカーであるトヨ商事の保証やメンテナンスを受けることができるとのこと。

雲台には回転防止のピンが装備されている。クイックシューの背面には、ピンに対応する穴があり90度単位で回転できる(3方向のみ)

 なおハスキーの雲台に貼ってあるコルクは、「かなり強固に接着してあり、剥がすのは容易ではない」(スタジオJin)とのことだ。

(参考)市販のハスキー三脚は雲台にコルクが貼ってある

 ハスキー三脚については改めて述べるまでも無いと思うが、特に雲台(3Dヘッド)の動きとパンおよびチルトをロックしたときにほとんどフレーミングにズレが出ない点に定評がある。

L-ブラケットのまま着脱できるストラップ

 L-ブラケットを装着したカメラなどをそのまま提げられるカーク製のカメラストラップ「Newセキュリティーストラップ」(SS-1)もスタジオJinでは扱っている。価格は9,660円。シューはアルカスタイル。

Newセキュリティーストラップ(SS-1)

 カメラを三脚穴で吊るタイプのストラップとしては、米ブラックラピッド(BLACK RAPID)製の「R-ストラップ」などが有名だが、このセキュリティーストラップも近いタイプの製品だ。主に斜めがけにしてカメラを素早く構えられるというもの。

ストラップにアルカスタイルのクイックシューを装備
クイックシューの背面がシュープレートになっている
L-ブラケットを介してカメラに装着したところ

 R-ストラップと異なり、Newセキュリティーストラップタイプではストラップに付いているクイックシューの下部にシュープレートのくさびが新たに付いた。このため、クイックシューの付いている三脚や一脚に即座に装着することができる。特に手持ちと一脚での撮影を交互に行なうような現場では便利なように思う。

斜めがけでカメラを提げたところ右手がグリップに届きやすい
そのまま構えることができる

 短い間であったが、今回試用した限りではクイックシューの固定ノブをしっかり締めておけば滑り落ちるようなことは無かった。なお、斜めがけにした状態から構えるにはパッドが背中を移動する感じになる。この点ではストラップをリングが移動していくR-ストラップのほうが、より“スッと”構えられる印象。ただNewセキュリティーストラップでも、実用上はさほど問題ないだろう。

ストラップのクイックシューを外さなくとも、そのままクイックシュー付きの一脚などに装着できるL-ブラケットを使っていれば縦位置撮影もやりやすい
上で使用している一脚は、「ハスキー4段一脚」(脚部のみ。HT-1104、1万920円)と「Manfrotto一脚用雲台+KIRKクイックリリースクランプ」(MPA-1、1万2,495円)を組み合わせたものだ。いずれもスタジオJinで扱っている

L-ブラケットとテーブル三脚

 L-ブラケットは、テーブル三脚でも威力を発揮する。テーブル三脚というとコンパクトデジタルカメラ向けが多いが、カーク「テーブルトップ三脚」(TT-1)は耐荷重45kgというスペックを持つ製品。価格は1万5,120円。雲台は別売。

テーブルトップ三脚(TT-1)。脚の先端はゴムで、「車のボンネットにおいても使用できる」(スタジオJin)という折り畳んだところ

 このテーブルトップ三脚は耐荷重があるので、デジタル一眼レフカメラで使用できる。ただ、そのまま使うと縦位置撮影で不安定になるが、そこでL-ブラケットが活きてくる。

L-ブラケット未使用の場合を想定して縦位置にしてみた。非常に不安定で、カメラを少し押すと容易に転倒してしまう

 なにしろ、このテーブルトップ三脚でL型ブラケットを使わずに縦位置にすると「風が吹いただけで倒れるんじゃないか」というほど不安定になり、少なくとも一眼レフカメラでは実用にならないからだ。なお、最も長い足をレンズ方向に向けるのが安定するセッティングだ。

L-ブラケットを使ってカメラを装着したところ。雲台はリアリー・ライト・スタッフのBH-25 Pro。中級デジタル一眼レフカメラでも使用可能だったL-ブラケットにより左右の重心位置をほぼ変えずに縦位置撮影ができる

 脚部は約1cm角というアルミニウムで形成。今回はEOS 5D Mark II+EF 24-70mm F2.8 L USMで試してみたが、スローシャッターでも問題なく撮影できた。3本の脚は回転でき、折り畳むと薄くできるのも特徴。似た構造のミニ三脚はライカやミノルタ製が存在するが、ここまでの耐荷重を持つ製品は珍しいのではないか。

 カークの三脚なのでカーク製の雲台を装着したいところだが、カークには小型三脚用の小さな雲台が無い。なので、リアリー・ライト・スタッフの小型自由雲台「BH-25 Pro」(145ドル)を組み合わせてみた。接続部分の径が数mm違うだけなので、マッチングはよい。BH-25 Proの耐荷重は4kg。なお、現在リアリー・ライト・スタッフの国内代理店は無い。

カークで最も大きな自由雲台「BH-1」(4万7,250円)を装着したところ。この雲台は耐荷重22.5kgと大変ヘビーなタイプだが、もちろんこうした組み合わせでも使用可能




本誌:武石修

2011/9/7 00:00