Canon EFレンズ 写真家インタビュー

すこぶる高い光学性能 単焦点レンズの楽しさも再認識

動物写真:前川貴行 with EF35mm F1.4L II USM

少しだけ被写体から離れ、周りの環境を入れつつ撮影した。バックがほどよくぼけ、サルを浮き立たせながらも状況を克明に伝えることができた。
EF35mm F1.4L II USM / EOS 5Ds / 絞り優先AE(F1.4、1/2,500秒、-0.7EV) / ISO 100
冬の寒空の下、穏やかにたたずむウマたち。至近距離からウマの目にピントを合わせることで、望遠レンズのような浅い深度の表現ができた。
EF35mm F1.4L II USM / EOS 5Ds / 絞り優先AE(F1.4、1/320秒、-1.3EV) / ISO 100
母ザルの胸元に顔を寄せ、寒さをしのぐ子ザル。バックをシンプルにし、被写体にグッと寄ると、望遠レンズのようなイメージとなる。このレンズは使い方次第でさまざまな表現が可能で、とても面白く、ユニークな存在だ。
EF35mm F1.4L II USM / EOS 5Ds / 絞り優先AE(F1.4、1/320秒、-0.7EV) / ISO 100

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プロがこぞって使うキヤノンEFレンズ。この連載「Canon EFレンズ 写真家インタビュー」では、プロ写真家の作品を交えながら、EFレンズの実力に迫ります。

今回は、数々の著作やテレビ出演などでおなじみの動物写真家・前川貴行さん。被写体にあわせて広角から望遠まで使いこなす前川さんに、話題の「EF35mm F1.4L II USM」について聞いてみました。

作品・キャプション:前川貴行
聞き手:笠井里香
人物写真:加藤丈博

EF35mm F1.4L II USM

「Lレンズ」の画質に信頼

−−動物写真を撮影し始めたきっかけを教えて下さい。

学校を卒業し、エンジニアとして働いていましたが、たまたま家にあったキヤノンAE-1で写真を撮り始めてみると、これが面白かったのです。それで仕事を辞め、プロになろうと思い、EOS-1N HSを購入しました。

動物の写真を撮るようになったのは、動物写真家・田中光常さんの助手になってからで、それまでは風景や友人、花など身近なものを撮影していました。初めて撮った動物はアラスカのクマでしたね。

−−フィルムからデジタルに移行したのはいつごろですか?

2002年に雑誌の企画でEOS-1Dを使ったのがきっかけです。アラスカで白頭鷲を撮りました。当時はデジタルカメラが一般向けになり始めたころで、その後2年くらいはフィルムと並行で撮影していましたが、2004年には完全にデジタルへ移行しました。

1969年東京生まれ。1997年 写真家、田中光常に師事。2000年より写真家としての活動を開始。日本、北米、アフリカ、インドネシア、インドなど、全世界をフィールドに撮影を敢行すると共に、展覧会の開催、書籍出版にも精力的に取り組む。2008年 日本写真協会賞新人賞。2013年 第一回日経ナショナルジオグラフィック写真賞グランプリ。最新刊は『クマと旅をする』(キーステージ21ソーシャルブックス)。

−−現在ご使用の機材について教えて下さい。

カメラボディはEOS-1D X Mark II(4月下旬発売)、EOS 5Ds、EOS 7D Mark IIです。

レンズはEF16-35mm F4L IS USM、EF24-70mm F2.8L II USM、EF24-105mm F4L IS USM、EF70-200mm F2.8L IS II USM、EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM、EF600mm F4L IS II USM。エクステンダーはEF1.4×III、EF2×IIIの両方を使用しています。

キヤノンのLレンズを信頼していますので、画質面にまったく注文はありません。重要なのは、撮影現場それぞれにあった画角をカバーできるかという点です。

例えば近づいて撮影できるゴリラは、EF16-35mm F4L IS USM、EF24-105mm F4L IS USM、EF70-300mm F4-5.6L IS USMをすべて手持ちで撮影します。

クマやワシのように近づけない被写体なら、EF600mm F4L IS II USMに三脚を基本とし、一応全てのレンズを持っていき撮影します。

−−撮影データの保存はRAW+JPEGでしょうか?

RAW+JPEGです。カメラが高画素化し、データも大きくなっているので、撮影後のセレクトの際にはJPEGがあった方が助かります。もちろん、JPEGのまま納品することもあります。

ピクチャースタイルは、スタンダードを基本として、忠実設定、また少し色味が欲しい場合には風景に設定することもあります。DPPで現像時にピクチャースタイルを変えたりもしますね。

ホワイトバランスは太陽光に設定して撮影しています。

−−フォーカスはAFですか? MFですか?

MFで調整することもありますが、基本的にはAFがメインです。AFの精度はボディとレンズのマッチングで決まる部分もありますが、撮影前にマイクロアジャストメントできちんとセッティングしています。

通常時はワンショットAFを使用します。動きの多い被写体はAIサーボAFです。レリーズ特性はピント優先に設定しています。鳥などの場合がそうですね。親指AFではなく、シャッターボタン半押しでピントを合わせています。測距点は、マルチコントローラーで移動できるように設定していますね。

下北半島の尻屋崎にすむ寒立馬。ウマの群れに入り込み、そのうちの1頭に近づいていく。後ろにいる黒いウマの存在を十分考慮し、半逆光を活かして金髪を引き立たせ、強いコントラストで表現してみた。
EF35mm F1.4L II USM / EOS 5Ds / 絞り優先AE(F1.4、1/4,000秒、-0.7EV) / ISO 100

解像力、ボケとも優秀。可能性を秘めたレンズ

−−今回使用していただいたEF35mm F1.4L II USMは、どんな場面の撮影に使用されますか?

被写体に近づける、という前提での撮影になると思いますね。今回はそれをふまえた上で、ウマやサルなど被写体を決めて撮影しました。

絞り開放F1.4では大きなボケを得られますし、絞ればワイドらしい深い被写界深度での撮影ができます。表現の幅がとても広いレンズです。画質も問題もありません。

−−このレンズは最短撮影距離が28cmと短いのも特徴です。動物写真を撮影の際、最短撮影距離が短いのはメリットとなりますか?

広角レンズでも望遠レンズでも、最短撮影距離は短い方が有利です。例えば、600mmでも最短撮影距離が短ければ、動物の顔や目のアップなどを狙いやすくなり、表現の幅が広がりますよね。

35mmでも被写体に寄れれば、背景を大きくボカすことができます。特にこのレンズは開放F1.4と明るく、ボケを生かした望遠レンズ的な表現もできますし、絞ると広角的な写りになり、さまざまな絵作りができます。あらゆる可能性を秘めたレンズだと思いますね。

−−ボケ味についてはいかがでしたか?

望遠レンズとは違う、35mmならではのキャラクターがありますね。とてもナチュラルなボケだと思います。

鼻先から耳までを縦にフレーミングし、顔の長さを表現してみた。目に合わせたピント位置からなだらかに、かつ大胆に鼻先や耳へと大きくボケが広がっている。
EF35mm F1.4L II USM / EOS 5Ds / 絞り優先AE(F1.4、1/800秒、-0.7EV) / ISO 100

−−新開発のBRレンズが採用されています。特に絞り開放時の撮影において、色収差についてはいかがでしたか?

何の問題もないですね。そういう心配をまったく忘れて撮影が続けられました。価格分だけの光学性能があると思います。

−−画面周辺の解像力はいかがでしたか?

中央にメインの被写体を置き、背景をボカしたときにも悪影響はなく、35mmという画角ですから周辺の歪みも出にくい。ナチュラルに撮影でき、解像力に問題は感じることはありませんでした。

−−フッ素コーティングが施されていたり、防塵防滴性能を有しています。メリットは感じられますか?

フッ素コーティングのおかげで拭くだけで汚れがとれます。私はフィルターを使用しませんから、サっと拭くだけでいいのは助かります。防塵防滴性能についても、もちろんあった方が安心です。

伊豆半島の波勝崎に生息するニホンザル。朝になると山から海岸近くまで下りてきて食べ物を物色し、日が暮れる頃に山へと帰っていく。広い範囲を写し込めるので現場の状況がよく分かるが、大きなボケであるから独特な表現となる。
EF35mm F1.4L II USM / EOS 5Ds / 絞り優先AE(F1.4、1/4,000秒、-0.7EV) / ISO 100

単焦点レンズを操る喜びも。多彩な表現が楽しめる1本

−−単焦点レンズの良さやメリットは、どう感じておられますか?

単焦点レンズは、撮影が楽しいですね。原点に帰れるというか、足で動いて被写体との間合いをはかり、撮影する。ズームレンズでは、ズームリングを回してそこを調整するわけですが、イージーな分、難しい面もあります。

ズームレンズの性能も随分素晴らしくなりましたが、単焦点レンズは構成がシンプルな分、ヌケもよくて写りもいいですよね。

車でいえば、マニュアル車が単焦点レンズといったところでしょうか。面白さを取るか、便利さを取るかという部分はありますが、「操る楽しみ」があると思います。

どう撮るかというイメージが先にあり、それにあわせてレンズを選ぶのが単焦点だと思います。このレンズは開放F1.4という明るさ、そして35mmという画角でどう表現できるかという、ある意味では非常に割り切ったレンズですよね。落ち着いて被写体が見られるようになってから使うレンズ、玄人向けというイメージがあります。使い込むほど味が出るという感じがしますね。

筋肉質で力強いウマの顔に惹かれ、キャッチライトの入った瞳にピントを合わせる。顔のアップではあるが、35mmという画角は背景も大きく取り入れることが可能であり、浅い絞りを活かしてバックの群れをぼかして配置した。
EF35mm F1.4L II USM / EOS 5Ds / 絞り優先AE(F1.4、1/640秒、-1.3EV) / ISO 100

−−EF35mm F1.4L II USMはどんな作品に合うレンズでしょう。

ポートレートにもいいと思いますし、私のように世界各地で動物を撮影しなくても、自分のペットを撮ってもいいと思います。

家族や友人、恋人でもいいですし、気軽に撮らせてもらうことのできる人を撮影するのもいいですよね。

絞り開放から十分に使用できる高い画質ですから、被写体に寄って背景をボカし、F1.4という開放値を生かした撮影を楽しんで欲しいですね。

月刊誌「デジタルカメラマガジン」でも連動企画「Canon EF LENS 写真家7人のSEVEN SENSES」が連載中です。今回紹介した前川貴行さんをはじめ、EFレンズを知り尽くした写真家によるレンズテクニックと作品が収録されています。

デジタルカメラマガジン
2016年4月号

笠井里香

出版社の編集者として、メカニカルカメラのムック編集、ライティング、『旅するカメラ(渡部さとる)』、『旅、ときどきライカ(稲垣徳文)』など、多数の書籍編集に携わる。2008年、出産と同時に独立。現在は、カメラ関連の雑誌、書籍、ウェブサイトを中心に編集、ライティング、撮影を務める。渡部さとる氏のworkshop2B/42期、平間至氏のフォトスタンダード/1期に参加。