メーカー直撃インタビュー:伊達淳一の技術のフカボリ!
LUMIX GM5でパナソニックが推し進めた超小型システム
EVFを内蔵しながらGM1のフォルムに収めた技術に迫る
Reported by 伊達淳一(2014/12/19 08:00)
極限まで小型化を追求した意欲作、LUMIX GM1にEVFが付いた上位モデルのLUMIX GM5がラインアップされた。小型化を突き詰めるためにどんな技術的な革新があるのか。GMシリーズに最適な新レンズを含めたシステム全体の思想とは何か。開発者に話を伺った。(聞き手:伊達淳一、本文中敬称略)
パナソニックLUMIX GM5って何?
マイクロフォーサーズ規格の強みを最大限に生かし、大胆な設計手法で徹底的なダウンサイジングを試みたGM1 。そのミニマムなサイズ感を維持しつつ、内蔵ストロボを廃し、要望の多かったEVFを内蔵させたのがGM5だ。EVFを搭載するため、16:9の背面液晶モニターを採用したことで生まれたスペースを生かし、新たにボタンやダイヤルを設置。各種操作性の向上も図られているのが特徴だ。伊達淳一的LUMIX GM5の気になるポイント
- ・EVF搭載のレンズ交換式カメラとして世界最小サイズのボディ
- ・ボタンやダイヤルを追加し、ほかのLUMIXに近い操作性を実現
- ・タッチ操作による快適なAF撮影とカメラ操作
- ・1,920×1,080 60pのフルHD動画やスナップムービーモード搭載
◇ ◇
配色や表面加工にこだわるカラーは超小型のGMだからこそ映える
――LUMIX GM5(以下GM5)の開発コンセプトとターゲットとして想定している層を教えてください。
中島:2013年11月に発売したLUMIX GM1(以下GM1)は、究極の小型ボディに一眼の高いパフォーマンスを凝縮するというコンセプトのもと、プロやハイアマチュアのプライベートカメラとして、そして、ファッションや流行に敏感な層をターゲットに企画しました。
コンセプトはGMシリーズ共通のものとして踏襲し、アルミ削り出しのダイヤルやマグネシウム合金の外装といった質感や品位にこだわり、レンズを含めた高いデザイン性とカメラそのもの高性能化を目指しています。カメラを持つ喜びを感じていただける高感度な方々をメインターゲットに考え、実際、GM1ではそのようなお客さまに購入いただいております。
そうしたGM1をご愛用いただいているお客さまからの要望で多かったのが「EVFを内蔵したGMが欲しい」という声でした。こうした要望にもお応えし、GM1のミニマムなサイズ感をできるだけ維持しつつ、EVFを内蔵させたのがGM5です。
――僕も数年前から老眼の洗礼を受けて背面液晶モニターが見づらくなってきたので、EVFがあると非常にありがたいですね。ということは、従来のGM1よりもGM5の方がターゲットとしている年齢層はちょっと上と考えていますか?
中島:屋外で撮影する際に背面液晶モニターが見づらいケースもありますし、プロやハイアマチュアの方々はファインダー撮影にこだわる方が多いと思われ、年齢層の高い方々以外にもEVFに対するニーズは高いと考えています。
――GM1のカラーバリエーションを見ると、定番のブラックやシルバーだけでなく、オレンジやホワイトといったどちらかというと若い女性向けのカラーが用意されているので、もう少し低めの年齢層をターゲットにしているのかと思っていました。
中島:ブラック、シルバー、ホワイトとモノトーンの中に、GM1のイメージカラーとして高品位なオレンジを投入しましたが、予想以上にオレンジの販売比率が高い状況となっています。今回のGM5もベーシックなブラックは残しつつも、独自のシボの感触を重視した革張りや個性的なカラーにこだわり、GMらしい、トレンドを創っていけるような仕上がりを目指しました。
――グリーンとレッドというこれまた変わったカラーバリエーションですね。どういう意図でこのカラーを選んだのでしょうか?
山本:GM1のオレンジにも共通した話なのですが、このボディサイズになったからこそできる色展開があると思っています。大きなボディに個性的な色を選択すると、カメラとしてアンバランスな印象になりかねませんが、GM1のように非常にコンパクトなボディであれば、派手めのカラーでも浮いた感じにならず持ち歩くことができます。
それでオレンジというこれまでにないカラーを採用でき、お客さまにも受け入れられたと思っています。今回のGM5では、GM1で好評のオレンジを踏襲する案もありましたが、EVF内蔵ということで、GM1よりも若干年齢層が上がることを想定し、GM1とは少し趣を変え、新しいカラーバリエーションに挑戦しました。
一般的には、シルバー/ブラックの定番カラーが最も好まれるということは分かっていますが、限られた色展開数の中で効果的にGMの世界観を見せていくには、無難な色を選ぶのではなく挑戦的な色をうまく使って、我々の思いを伝えたいということで、ブラックに加えグリーンとレッドという個性的なカラーを採用しました。
――このカラーバリエーションはワールドワイドで共通ですか?
山本:ブラックとレッドはワールドワイドで共通です。グリーンは日本とアジアの一部のみの展開です。
――GM5のグリーンとレッドというカラーバリエーションを見て、まず思い浮かべたのが、赤い毛氈の上に抹茶が置かれたシーンで、“和”をテーマに選んだカラーなのかなと思ったのですが……。
山本:まずレッドに関しては、女性ユーザーを意識しています。
それも少し年齢が高めの女性が使ってもカッコ良い色ということで、例えば、イタリアのレザージャケットを着ているようなカッコ良い女性が彼氏のバイクの後ろに乗って、その肩には赤いGMがぶら下がっている、とか、京都の着物の女性がバッグから赤いGMをサッと取り出して撮影するなど、女性が持っていてカッコ良い、決まる色使いということをイメージしました。
一方、グリーンに関しては、これはずばり日本人の手に合うような色を考え、いろいろなグリーンを検討しました。一言でグリーンといってもさまざまなグリーンがありますが、最終的には黄色味がかったグリーンを選びました。黄色味を入れていくことで、日本人の手の色にすごく合うんですよ。
また、グリーンの革にはオーストリッチというダチョウの柄をあしらったシボを入れていますが、通常はハンドバッグとかサイフなどファッション系の小物に使われるもので、カメラのような家電製品にオーストリッチ柄を使うというのはこれまでなかったと思いますが、あえてそういうものを使って、GMの持つモノとしての魅力、自信を表現しようと考えました。
――グリーンはシルバーボディがベースですが、シルバーと組み合わせたのはなぜですか?
山本:ブラックベースにしてしまうとどうしても重く感じられることと、シルバーカラーのレンズを好まれるお客さまもいらっしゃいますので、その意味でもシルバーベースのボディにしたいと考えました。
――GM1の後継機種としてGM1Sが発売されますが、こちらのカラー選定については?
山本:GM1Sについては、ブラウンは定番で安心感があり、市場からの要望も多くありました。ブルーに関しては、カメラ業界では新鮮に見える挑戦的な色ですが、ファッション業界ではよく使われており、腕時計のベルトなどの鮮やかなブルーはすごく品良く見えます。そういうテイストを狙って採用しております。
――小型軽量なボディだから派手なカラーでもうまくマッチするんですね。ちなみに購入層の男女比はどうなっていますか?
中島:GM1は女性ユーザーが多いですね。だいたい半分くらいは女性です。一方GM5は、ファインダー撮影にこだわる写真スキルが高めの層への訴求を考えている機種ですので、GM1よりは男性の比率が高くなると考えています。
――となると、レンズ交換式LUMIXのフラッグシップとしてGH4があり、プロ・ハイアマチュアのプライベートカメラとしてGMシリーズがあり、その中間には写真愛好者向けのGX7がありますが、よりカジュアルでエントリーを狙ったGシリーズ、GFシリーズはここのところ新製品が投入されておらず、寂しく思います。
中島:LUMIX G6もGF6まだまだ現行品で、グローバルで展開しており非常に好評を得ております。G、GFの後継機を待ち望んでいる声も多数聞いておりますので、市場の動向を見極めながら検討を進めてまいりたいと思います。
EVFやアイピースを支持する構造体の薄型化で究極の小型ボディを堅持
――GM5にEVFを内蔵するにあたって、どのような課題があり、それをどのようにクリアしたのかをお伺いしたいのですが、この連載でパナソニックを訪問するのはGX7以来ですので、GM1のボディサイズを実現するためにどのような技術的チャレンジを行ったのか、そのダウンサイジングの手法、工夫をまず教えてください。
玉置:従来のLUMIXはフレームにマウントと撮像センサーを組み込み、外装カバーで包み込むという手法を採っています。これに対し、GM1は外装に高剛性のマグネシウム合金を採用し、外装前カバーにフレーム機能を持たせ直接マウントや撮像センサーを取り付けています。
外装カバーのみで十分な強度を確保することで、フレームを省くことができた、というのがGM1で小型化を実現できたポイントの1つです。あわせてシャッターも大幅に小型化していています。
一般的なシャッターは先幕と後幕で構成されていますが、GM1は電子先幕シャッターを併用することで後幕のみの構成とし、後幕を直接モーターで駆動させる方式にすることで、それまでシャッターの周辺にあったチャージ機構を省き、シャッターの小型化・薄型化を実現しています。
また、メイン基板の形状を“コの字型”にし、撮像センサーが基板のコの字の中にうまく収まるように配置することで、ボディの厚みを減らしています。
さらに、内蔵フラッシュも、パンタグラフ式にポップアップする機構を採用することで、発光部の高さを確保すると同時に、限られたスペース内にフラッシュ機構を収納できるように工夫しています。
――電子先幕シャッター併用を前提に、物理的な先幕を省いて小型・薄型化を図っているんですね。
岡本:はい。かなりの小型化ができています。1/500秒までが電子先幕シャッターで、それ以上高速のシャッタースピードになると電子シャッターのみで露光が制御される併用の仕様となります。
――それは、シャッターの幕速が高速シャッターに対応できるほど速くないということですか?
岡本:小型化優先のためにそうなっているのですが、高速で動く被写体でない限り大きな支障はないものと考えております。フラッシュの同調速度は1/50秒とやや遅めです。
――1/50秒ですか。確かにちょっと遅いですね。でも、考えてみると発売以来ずっとGM1を愛用していますが、これまで内蔵フラッシュを使ったことがなかったような……。
岡本:フィルムカメラに比べると高感度画質が非常に良くなっており、通常の一般的なシーンはほぼカバーできていると考えております。
GM1のフォルムを損なわずにどう小型化したのか?
――ここまで究極の小型化を図ったGM1に対し、そのサイズ感を維持しながらEVFを内蔵するにあたって、どのようなアプローチを試みたのでしょうか?
玉置:EVFを内蔵してもGM1の世界観をキープするのに重視したのが、正面から見たときのフォルムというかサイズ感です。これを損なわないように、どうやってお客さまに満足していただけるEVFを内蔵させるかが大きな課題でした。
EVFを搭載するにあたっていろいろなクリアすべき目標があったのですが、その中に横幅をGM1と同サイズにしたいという要望がありました。となると、GM1から何かを省く必要がありますが、議論を重ね、内蔵フラッシュを省いて外付けフラッシュ対応にし、ホットシューはレンズのセンター位置に配置することに決めました。
結果として、GM1のフラッシュの部分にEVFを配置することになったのですが、GM1のフラッシュ機構が占めていたスペースよりも大きいEVFを収納する必要があり、なおかつ、EVFの凸量(背面にアイピース部分が突出する量)もできるだけ抑えつつ、視度調節の範囲も確保する必要もありました。
そこで、EVFユニットの小型化を図るために行ったのが、EVFモジュールやアイピース光学系を支持する構造体(ケース)の薄型化です。従来よりも厚みを約半分に抑え、従来の常識からするとかなり挑戦したというか、挑戦しないとこのサイズに収められなかったのですが、ケースの肉厚を薄くすることなどで、特に横方向に限られた狭い収納スペースにEVFを格納することができました。
――強度的には問題ありませんか?
玉置:当然、強度についても十分考慮しています。GM1の小型化でも触れたポイントですが、外装カバーが堅牢性の高いマグネシウム合金でできていますから、外からの力に対しては、ケースそのものの強度ではなく、外装カバーで保護するという設計思想です。
高瀬:ポップアップ式のEVFというのも検討しましたが、ポップアップさせた場合EVFに強度を持たせる必要があり、GM5の小型化の設計思想を適用できませんし、そもそもポップアップさせる機構を入れるスペースすらありませんでした。
――小さいEVFパネルを採用しているんですか?
玉置:小さいですが見やすくしています。FZ200で採用したEVFパネル基板やアイピース光学系と基本的には同じです。画面の縦横比は異なるためドット数は微妙に異なっています。
――実際にファインダーをのぞいてみると、確かに画面サイズは小さいけど、周辺までクッキリした画面ですね。
中島:カタログスペックの数値が低めなので頼りなく感じるお客さまもいらっしゃいますが、手に取っていただくと、思ったよりもクッキリ見えるという感想をいただいています。
高瀬:小さくても歪みやケラレが少ないことにこだわったアイピース光学系です。
――外付けEVFで、もっと高倍率で大きく見やすいEVFを搭載するという選択もあったと思いますが……。
中島:GX1では高品位の外付けEVFを導入しましたが、EVFを付けっぱなしで使われるお客さまが多く、せっかくボディを小型にしてもEVFの出っ張りがあるので、持ち歩きに不便という評価が多くありました。
また、EVFを内蔵してほしいというご要望も非常に多く、それにお応えしたのがGX7でした。同様に、GMシリーズの世界観を考えると、やはり外付けよりもEVF内蔵で、極限のボディサイズを実現することにこだわりました。
――使用頻度の低いフラッシュに変わってEVFを内蔵するという方向は間違っていないと思います。ただ、GM1と比べて背面液晶モニターサイズが小さくなってしまった点は、仕方がないとはいえ、ちょっと惜しいですね。
高瀬:GM5もサイズにこだわりを持っています。外付けフラッシュを装着できるよう、ホットシューを設置したぶん、GM1より少し背が高くなっていますが、その範囲内にボディ高を収めることを重視し、それ以上は絶対に大きくしないという強い意志を持って、その中でできる最善を尽くしました。
背面液晶モニターが小さくなったことは、デメリットだけではなくメリットも生まれました。
16:9の背面液晶モニターは、4:3や3:2の静止画撮影には効率が悪いように見えるかもしれませんが、ライブビューが表示されていない左右の領域に、カメラ設定やFnボタンのタブを表示できるので、Fnボタンを大きくして操作性の向上を図ると同時に、撮影画面の上にかかる情報表示を減らすことで、より構図や被写体をしっかりと確認できます。
さらには、EVFの横にスペースが生まれ、ここにGM1にはなかったボタンやダイヤルを設置することができ、ほかのLUMIXシリーズにより近い操作性の向上を実現できました。
中島:ライブビューや再生表示は確かに小さくなっていますが、背面液晶モニターの輝度は約50%アップしていて、明るい場所での視認性はGM1よりもアップしています。
――EVFパネルの方式は?
高瀬:フィールドシーケンシャル方式です。
――フィールドシーケンシャル方式といえば、GH2の頃はシャドウ部の階調がよく分かる反面、少し黒浮きしてコントラストに欠ける印象がありましたが、メリハリ重視というか黒をグッと締めたチューニングになっていますね。
高瀬:極端に彩度を上げているわけではありませんが、最近は有機ELパネルを採用した機種も増えてきて、そちらの見えを評価されて、EVFの表示が派手に見えた方が撮影していて気持ちが良いというお客さまからの声もあります。
その点も踏まえつつ、GM5のEVFはパネル性能の向上により、従来よりもコントラストを改善し、EVFの画質チューニングで黒を引き締めています。さらに、Adobe RGB比較で約100%の色再現性を実現し、青、緑、赤といった鮮やかな原色の違いをデリケートに再現できるのも特徴です。
また、EVFをより見やすくするための、遮光性を高めた大型のアイカップも別売でご用意しています。
4K機能を見送った理由
――最近、パナソニックは、4K動画、4Kフォトを積極的にアピールしていますが、今回のGM5は4Kには対応していません。なぜ4Kに対応できなかったのでしょうか?
高瀬:残念ながらGM5は4K動画、4Kフォトには対応していません。まず、4K動画、4Kフォトに対応させるためには、撮像素子や画像処理エンジン、その周辺回路構成がGM5とはまったく異なり、GM5の基板面積にはとても収まり切れません。
シミュレーションをしてみたのですが、幅も高さも大きくなってしまい、もはやGMとは呼べないサイズになってしまいます。もう1つの理由は消費電力です。4K動画撮影を実現しようとすると、消費電力が約1.5倍に増えてしまいます。消費電力が増えるということは、それだけ発熱量も多いということです。
もし、GM5のボディサイズに4K機能を収められたとしても、内部の温度上昇により数分間しか撮影できなくなると思われます。電子回路を保護するだけでなく、撮影時に低温やけどをしないように外装の温度上昇を抑えるため、撮影を強制停止する必要があるからです。
では、回路基板の物理的な大きさと発熱という2つの壁を乗り越えるにはどうすれば良いのか? 一番の解決策は容積を増やすことです。それがGH4でありFZ1000です。
もう1つは発生した熱を効率良くボディ外に拡散させる方法です。そうすると自然空冷で内部の温度上昇を抑えられます。こうした手法で4K動画や4Kフォトを実現しているのがLX100ですが、GM5と比べるとひと回り大きく、GX7並みの大きさがあります。現在の技術ではこれが小サイズ化できるギリギリのところです。
――でも、パナソニックにはウェアラブルの4Kカメラがありますよね?
高瀬:HX-A500の本体部分はGMに近いサイズですが、カメラ部が別になっています。発熱の大きな撮像素子と画像処理エンジンが離れているので、あのサイズで4Kに対応できました。技術者としてはGMサイズで4Kを撮れるように技術開発を続けていきたいと思っています。
――まずはGX7の後継機に期待ですね。
一同:……(笑)。
高瀬:努力します。
――GM5にはGH4から採用され始めた「空間認識AF(DFD)」も搭載していませんが、GM5はEVFが内蔵されたことで、望遠レンズでの撮影もしやすくなり、その意味では、動体に強いコントラストAFを望む声も出てくると思いますが、DFDを搭載できなかった理由とは?
岡本:DFDというのは、フォーカスをずらした2枚の画像から被写体の距離を出すという技術なのですが、非常に複雑な演算が必要で、GH4などは画像処理エンジンの中にそのハードウェアが含まれています。ただ、DFDに対応させるハードウェアを搭載すると基板が大きくなってしまいますので、GM5では残念ながらDFDの搭載を見送りました。
しかしながら、GM5には、240fpsのコントラストAFが搭載されており、一般的な被写体であれば非常に高速なAFが可能です。
――なぜ像面位相差AFを採用しないのでしょう?
中島:まず、コントラストAFの方が精度が高いと考えていることと、像面位相差画素を補間処理しているとはいえ、画質への影響が皆無とはいえないと考えているからです。また、高解像度、高フレームレートの動画になるほど、像面位相差画素の補間を行っている時間的余裕もなくなってきます。
GM5には残念ながら4KもDFDも搭載できませんでしたが、4K時代を見据えると像面位相差AFよりもDFDのほうが有利であるという判断をしています。
――内蔵フラッシュやEVFの有無以外に、GM1からGM5で進化している機能を教えてください。
岡本:GM1とGM5は、撮像素子や画像処理エンジンは共通のものを使用しておりますので、画質の基本的な部分は同じですが、拡張感度設定時にはISO100から設定できるようにしています。
機能面では、クリエイティブコントロールといういろいろなフィルター効果をかけるモードを進化させています。クリエイティブコントロールは、GM1では露出設定はオートでしか使えなかったのですが、自分で決めた露出でも使いたいという要望が多くありましたので、GM5やGM1SではP/A/S/Mのどのモードでもフィルター効果として使えるようになっています。
さらに、これまではフィルターをかけた画像しか残せませんでしたが、GM5やGM1Sではフィルターをかけた画像とかけない画像の両方を記録できるようにもなっています。
中島:GM5にはパノラマモードも搭載しており、クリエイティブコントロールを併用したパノラマ撮影も楽しめます。
そのほかにも「スナップムービー」という2秒、4秒、6秒、8秒といった短い動画が撮影できるモードを加えました。記録時間をあえて短く制限することで、動画をより身近なものとして楽しんでいただくことを狙っています。
スナップムービーモードでは、短い動画ならではの表現の幅を広げる機能効果、例えば、タッチ操作で動かしたいピント位置をあらかじめ記憶させ、撮影中自動で移動させるピント送りや、カラー~モノクロ、ホワイト~カラー、ブラック~カラーのフェードイン・アウト効果を用意していまして、被写体やシーンに応じて、さらに印象的なものに演出できます。
撮影した動画は「Panasonic Image App」を利用して、複数のスナップムービーを好きな順番で結合し、内蔵されているBGMを付けた短編動画に仕上げてそのままSNSへアップロードできます。
――GM5は1,920×1,080 60pに対応していますが、GM1やGM1Sが60i止まりなのはなぜですか?
高瀬:GM1、GM1S、GM5の撮像素子や画像処理エンジンは3機種とも同じなのですが、GM5はボディサイズが少しだけ大きくなって容積が増えたことで、実装面積的にも放熱的にも有利になっています。そのわずかなスペースを有効活用して周辺回路を追加し、60pに対応させました。
――そういう話を聞くと、本当にGM1は極限まで贅肉を削ぎ落として小型化を実現したというのがよく分かります。ところで、GM5のメニューで、ライブビューの30fpsと60fpsが選択できますが、60fpsよりも30fpsを選択した方が良いケースとはどんな場合でしょう?
高瀬:30fpsで動作させた方がバッテリーの消耗を多少抑えられます。撮影枚数としては数十枚程度増やせます。
――個人的には、GF1が出たときからEVF内蔵よりもバリアングル液晶モニターを搭載した小型のLUMIXが欲しかったのですが、バリアングルは無理でもせめてチルト式のGMを作れませんか?
玉置:実はGM5を開発するに当たって、チルト式液晶モニター搭載も検討したのですが、モニターを動かす機構を構成すると、正面から見たサイズはGMと同じくらいにできるのですが、どうしても4~5mmの厚みが必要になり、バリアングル液晶モニターとなると、横にヒンジを付けることでボディ幅が大きくなってしまいます。
GMの世界観を考えると、可動式液晶モニターの搭載は現時点では厳しいですが、これらの課題は技術で乗り越えられるハードルと考えております。
GMワールドを崩さない新レンズの登場がシリーズの小型システムを完成させる
――GMシリーズにマッチするコンパクトな望遠ズームとして「LUMIX G VARIO 35-100mm / F4.0-5.6 ASPH. / MEGA O.I.S.」がラインアップに加わりましたが、このズームを企画・開発した狙いについてお伺いします。
渡邊:GMシリーズの世界を広げていくことを狙いとし、そのためには撮影の幅が広がるGMにマッチするレンズ群が必須と考えています。
今回、沈胴式を採用したコンパクトな望遠ズーム「LUMIX G VARIO 35-100mm / F4.0-5.6 ASPH. / MEGA O.I.S.」と、街撮りに便利な薄型パンケーキレンズ「LUMIX G 14mm / F2.5 II ASPH.」の2本をご用意しました。
標準ズームのLUMIX G VARIO 12-32mm / F3.5-5.6 ASPH. / MEGA O.I.S.と同様、どちらもGMシリーズに装着した際に、ボディにマッチする外装デザイン、ボディ高にほぼ収まるレンズ径、気楽に持ち歩けるサイズ感を重視しています。
GMシリーズにマッチした単焦点、標準ズーム、そして望遠ズーム、この3本で日常におけるほとんどのシーンをカバーできると考えています。
宮崎:LUMIX G VARIO 35-100mm / F4.0-5.6は、小型な望遠ズームといえども描写性能は妥協していません。技術的なポイントとしては、この焦点距離の望遠ズームとしては珍しくEDガラスを2枚採用しており、軸上色収差はもちろん、倍率色収差を極限まで抑え込んでいます。
コンパクトな望遠ズームながら、LUMIX G VARIO 45-150mm / F4.0-5.6 ASPH. / MEGA O.I.S.と同等の画質性能を実現しています。
寺坂:望遠ズームでありながら標準ズームレンズ並みのサイズを実現するために、鏡筒設計から光学設計にお願いしたのは、テレ端での全長を可能な限り抑えてください、ということでした。
また、ズームを伸縮させるためのカム筒という部品があり、それが収納時の全長の制約条件になります。
このカム筒の長さを縮めるために、4群ズームというタイプで光学設計を進めていたのですが、第3群と第4群を1つの群になるよう光学設計を変更し、3つの群を動かす構造にすることができ、カム筒のカム溝(レール)を3本で済ますことで、収納時のレンズ長を52mmまで縮めることができました。
しかし、標準ズーム並みの大きさということで、あともう2~3mm縮めてほしいという要請を受け、そこで採用したのがカム溝を途中で別のレールに乗り換えるような機構です。
LUMIXのコンパクトカメラでは採用実績がありましたが、交換レンズでは初めての試みでした。この機構を採用することで収納時の全長を2mm縮めることができました。
――わずか2mmのためにそこまでがんばるんですね。
宮崎:それがパナソニックの文化で、こうして実現した技術が標準化し、次のモデルには普通に使える技術になっていくのです。
――わずかな違いのために努力することで、新しい技術が生まれ、新しい製品に反映されてくるんですね。本日はどうもありがとうございました。
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―取材を終えて― マイクロフォーサーズだから実現できたGM の確固たる世界観
この連載で大阪・門真のパナソニックを訪れたのは、LUMIX GX7(2013年11月号)以来のこと。それからほどなくして、LUMIX GM1が発表され、マイクロフォーサーズ機とは思えないほどコンパクトなボディに驚愕し、実機に触れてその性能と画質にまたまた驚かされた。35mmフルサイズ一眼レフを過剰に意識しすぎのプロダクツが多い中、GM1はマイクロフォーサーズだから実現できる、一眼レフにはマネのできない世界を切り開いてくれたように思う。
それだけに、GM1についてずっと直撃インタビューをしたいと思い続けていたのだが、なかなかその機会に恵まれず、EVF搭載機のGM5でやっとその願いが叶った。そのため、今回のインタビューでは、GMシリーズの初号機であるGM1についても深く掘り下げて話を聞いてみたが、いかがだっただろうか?
個人的には、EVFよりも背面液晶モニターのチルト化、欲をいえばバリアングル化を望み続けているのだが、GM1の小型化に対するアプローチ、GM5のEVFを搭載するにあたっての工夫を聞くと、GMの世界観を非常に大事にしていることがよく分かった。
可動式液晶モニターを採用して、ボディが大きくなったり厚みが増えてしまったのでは、もはやそれはGMでない、という開発陣のこだわりが感じられる。
それは4Kフォト、4K動画対応も同じで、GMのボディサイズでは、バッテリー持続時間と発熱の問題を現時点ではクリアできないという。それだけGMシリーズが極限まで小型化を図っているということでもある。と同時に、可動式液晶モニターも4K対応もいつかは(GMシリーズで)実現できるように努力したいという、技術者のコトバに、僕も期待して待ち続けたいと思う。