インタビュー

メーカーインタビュー2013:リコーイメージング編

ペンタックスとリコー、それぞれのブランド価値を高める

 今年、ペンタックスブランドのカメラは大きな節目を迎えた。リコーとペンタックスのカメラ事業が統合され、事業戦略の面でも一貫した製品ラインナップを揃え、統一したメッセージのプロモーションを行なえる体制が整ったからだ。社名もペンタックスリコーイメージングからリコーイメージングへと変わった。

 リコーとペンタックス。両ブランドはいずれも“写真好き”、“カメラを知っている人”をターゲットにした伝統的なイメージを構築しているが、とりわけ今年はAPS-Cサイズセンサーを搭載する世界最小機の第5世代GRデジタルをリコーブランドで発売。

 ペンタックスのブランドでも、低価格のエントリー機ながら防塵防滴、視野率約100%ファインダーを搭載したK-50、ローパス効果をユーザーが選択できる画期的な仕組みを搭載したK-3を投入。ユニークな立ち位置を確保している。

 そのリコーイメージングで商品戦略を担当するマーケティング統括部商品戦略部長の遠藤浩平氏に話を聞いた。

マーケティング統括部商品戦略部長の遠藤浩平氏

 ただし、実は遠藤氏。今年7月にリコーイメージングで現職に就いたものの「それ以前は携帯電話業界でマーケティングの経験を積んできました」というように、カメラ業界の経験はなく、また今年投入された製品にも直接関わっていない。

 このように紹介すると質疑応答に不安を感じる読者もいらっしゃるかも知れないが、話を進めていくと、リコーイメージングが遠藤氏をインタビューイとして選んだ理由が見えてきた。昨今の通信サービスやデジタル機器の動向を踏まえ、伝統的な光学機器メーカーであるリコーイメージングの枠組みの中で、どのような手を事業戦略を進められるかを明確に話すことができる人物だったからだ。

「SR」はまだ進化する

−− かつてペンタックスへ取材に来たとき、恐竜(一眼レフ市場の8割を占める大手)の動きまわる場所の外で、独自性を発揮できる製品を……という話がありました。当時、遠藤さんはカメラ業界の外にいらっしゃいましたが、実際にリコーイメージングに参加して、ペンタックス、そしてリコーというブランドや技術、ノウハウをどのような形で活かせると感じましたか?

(一眼レフカメラの市場で)我々が他社と同じことをやり、そこに経営資源、開発資源を集中させる会社ではないことは明らかです。“写真が好き”という明確な意志を持った方々に対して、しっかりと魅力ある製品であるようさまざまな要素をしっかりと抑えていく必要があります。マジメにやればそれでいいというわけではなく、営業戦略上は市場における存在感も出していかねばなりませんが、やはり、写真好きのためのカメラボディ、レンズのラインナップであることを理解してもらえる製品であることを意識してきましたし、これからの商品でもそれは同じです。

−− “写真好きのためのブランド”として、今年の製品を振り返ったとき、どんな成果・価値を顧客に提供できたと自己評価していますか?

 K-5 IIの時にも映像処理技術のイノベーションがあり、ローパスレスのモデルを出す事ができました。実はそれ以前から、磁石とコイルを用いた手ブレ補正メカニズムのSRを用いることで、光学ローパスフィルターと同様の効果を得られる仕組みを開発してきました。今年のK-3でその成果(ローパスセレクター)を出せたことは大きいですね。やっと顧客の期待に応えられる当社らしい製品を出せました。また、Limitedシリーズ初のズームレンズの発売し、“ペンタックスの中級一眼レフカメラ”とはどのような製品なのか。その完成形をお見せできたと思います。

デジタル一眼レフカメラのK-3。光学ローパスフィルターと同様の効果をユーザーが選べる「ローパスセレクター」を搭載した

 ローパスセレクターの開発には時間がかかってしまいましたが、ここで製品を出せたことで、今度はさまざまな製品へと展開していく基礎とすることができました。

 今年はPENTAX Qシリーズも1/1.7型に大型化した裏面照射センサーで高画質化したQ7を発売できましたが、やはりもうひとつの主役として挙げるならば、APS-CサイズセンサーになったGRでしょう。センサーのサイズが大きくなったことで、これまでにないほど需要が喚起されています。“高級コンパクト”と言われるカテゴリーの中でも、その地位は揺るがないものになりました。

−− ペンタックスとリコーのブランドは、それぞれレンズ交換式とコンパクトカメラで使い分けていくのでしょうか?

 そうしたメカニズムによる分類ではなく、商品企画アプローチの違いでブランドを決めていきます。

−− 遠藤さんがリコーイメージングに加わって感じた“ペンタックスらしさ”とは、商品のどんな部分でしょう?

 やはり“風景を撮るためのカメラ”として、長年蓄積してきたノウハウとブランド力を活かすことだと思います。よりよいフィールドカメラとするために、さまざまな技術・機能の開発が行なわれました。たとえば前述したK-3のローパスセレクターですね。

 ローパスフィルター付きなのか、それとも外すべきなのか。ペンタックスのデジタル一眼レフカメラを選んでいただく人にとって、これは重要なテーマなんです。ローパスフィルターの効果があるカメラとないカメラ。2つのラインナップがある場合、業界全体の平均的な数字としては8割の方がローパスフィルターありを選んでいます。ところがK-5 IIの実績で言いますと、実に半分近い方がローパスフィルターを搭載しないモデルを選びました。

 それだけ細かな画の情報を求める風景重視の撮影をされるお客様が多いということです。ローパスセレクターを用いることで、ローパス効果のオン/オフだけでなく、ローパス効果の強弱も必要に応じて選ぶ事ができます。

 しかも、この機能は(イメージセンサーをボディ内で動かして手ブレ補正を行なう)SRのメカニズムがなければ実現できません。伝統の技とも言えるSRを用いるペンタックスブランドだけの価値と言えます。フィールドカメラに求められる解像度を実現する一方、日常的な利用時においてはモアレ発生を気にせずに使えます。

 そしてもうひとつ。防塵・防滴、100%視野率の光学ファインダーですね。中級機では何年も前から当たり前に対応していることですが、今年はそれをエントリークラスにまで盛り込みました。こちらもSRと同じく“お家芸”で、ペンタックスのカメラとしては当たり前のものだという気持ちで製品が開発されています。

−− ペンタックスのカメラが風景写真に向いているとされてきた過去を振り返ると、近年は絵作りといったデジタル的な要素もありますが、さらに遡ると得意としてきた中級機ボディにおける小型化や、ジックリと時間をかけて撮影する際の操作性や機能性といった面で好まれる要素があったと思います。そうした面を考えると、昨今、増えてきている高級ミラーレスカメラとの競合も増えてくることが予想されます。リコーイメージングはどのようにペンタックスの一眼レフカメラが持つ価値を高めていくのでしょう?

 高級ミラーレスカメラの登場は、(ミラーレスカメラの比率が高い日本や東アジアでは)機会損失にはなっている面は否めません。それに対して、どのように製品を改善していくかは、これからの考えねばならない課題です。しかし、一方で我々は光学機器メーカーですから、そこの部分を活かしていきたいと思います。

 リコーイメージングは採用するレンズマウント規格が、もっとも多いメーカーです。小型のQマウントから645Dまで、これほど多くのレンズ交換式カメラ規格をハンドリングしているメーカーはほかにありません。こうした多くのマウントを活かしていくことを優先することが今のリコーイメージングにとって必要なことです。最優先はその部分で、高級路線のミラーレスカメラがペンタックスに必要かというと、現時点ではそういう状況ではないと考えています。

−− どのような要素がペンタックスブランドのレンズ交換式カメラにおける、一番の価値、差異化要因になるとお考えでしょう?

 ここ数年のペンタックス製カメラを使っているユーザーの動向を調査してみると、ファインダーの見やすさに対するユーザーの意識が上がっています。ミラーレスカメラでも写真は撮影できますが、ファインダーは不可欠という声は多いのです。EVFも猛烈な勢いで進化していますが、ペンタプリズムを通して実像が見える安心感は、他に換えがたい魅力があります。

 ペンタックスはペンタプリズムにこだわりをもった会社です。明るくて広いファインダー像にこだわりながらも、コンパクト性を重視していきたいと思います。

−− K-3で導入したSRを用いたローパスセレクターですが、この技術はエントリークラスにも広げていけるのでしょうか?

 SRはローエンドモデルにも入っていますから、可能性はもちろんあります。我々のエントリークラス製品は100%視野率のファインダー、キットレンズの防滴化などの要素が盛り込まれています。そうした点にも現れているように、エントリークラスにも価値ある機能は惜しみなく広げていこうという文化があります。安かろう、悪かろうになってしまう機能を組み込むことはできませんが、時期が来ればローパスセレクターをより幅広い製品に広げていくことは可能です。

 また、SRにはローパスセレクター以外にも、多くの可能性があり、それによってカメラとしてよりよいものに進化させることができます。

−− 具体的にはどのような応用でしょうか?

 現時点で詳しくは申し上げられませんが、瞬間的にミクロン単位の高精度な動きを加えることで、もっと多くの可能性を引き出せます。“論理的にできる”のと“実際に写真が良くなる”はイコールではありませんから、いくつものアイディアから開発を行ない、実際の商品に搭載する機能について吟味していきます。

 SRは磁石やコイル、高剛性のフレームなどが必要になり、どうしても大きく重くなりがちです。それに対して生産工程における“職人の技”を駆使して小さくはしていますが、一眼レフカメラのボディ全体が小さく・軽くなるトレンドの中にあっては、SRの大きさや重さが全体の携帯性に対して支配的に作用します。

 そのSRをさらに小さくしていくことで、ペンタックスならではの価値を追求していきますが、一方でSRそのもの価値を高めていく取り組みとして応用の幅を広げていきます。機能の面では低価格機にも順次展開していきますが、上位モデルにはまた別の新しい要素を盛り込んでいきます。

Limitedの立ち位置は崩さない

−− レンズに関しては、今年はLimitedシリーズのレンズが増えました。とりわけズームレンズ(HD PENTAX-DA 20-40mm F2.8-4 ED Limited DC WR)の登場がありましたが、今後の拡充方針に関して教えてください。

Limitedシリーズ初のズームレンズ「HD PENTAX-DA 20-40mm F2.8-4 ED Limited DC WR」

 ご存知の通り、Kマウント用レンズにはDA、スター、Limitedの、3シリーズがあります。しかし、それぞれのブランドごと特徴的なレンズラインナップになっているかというと、顧客にはそれがきちんと伝わってない部分もあります。

 Limitedシリーズに関しては、ズームレンズも投入して、何がLimitedレンズなのか? という定義が曖昧になっていると捉えられるかもしれませんが、Limitedシリーズでフルラインナップを揃える予定はありません。Limitedシリーズのレンズは、一般的な交換レンズのラインナップにはないような、目的意識の強い焦点距離や性能が与えられます。金属鏡筒を採用し、質感、操作感も含めてトータルの体験を演出しています。そうした世界観のあるレンズ群を理解して頂ける方に向けて開発しています。

 この方針は今後も変わりません。高価な、高スペックのレンズではなく、どのように使いこなすのか、そのレンズの価値・意味を考えた上で使いこなすレンズ。“必要か”それとも“必要じゃないか”という価値観で評価すると、必ずしも必要ではない。しかし、“欲しい”と思っていただける。画質はもちろんですが、撮れる写真の風合いも含めたところで今後も勝負していきます。

 もっとも、フルラインは他シリーズで揃えていきますし、その隙間に入る目的意識が強い焦点距離など、商品企画的に可能性があるレンズスペックは無尽蔵に残っているわけではありません。そこはよく考えて企画していきます。また、Limitedシリーズだけではありませんが、新しいコーティング技術の“HDコーティング”を採用したラインナップは増やしていきます。

−− フルサイズセンサーを用いた一眼レフカメラの開発をしてらっしゃいますが、まだ製品としては登場していません。現在も開発は継続しているのでしょうか?

 もちろん、開発は続けていますが、相応の産みの苦しみはあります。我々のデジタル一眼レフカメラの価値はSRにありますから、フルサイズのセンサーを搭載した上で、SRの性能はもちろん、大きさや重さといった面でも実用的なものにして出さなければなりません。ただ“出す”だけでなく、総合的にペンタックスらしいボディを用意できるようになった時にやります。その場合は、レンズもフルサイズ用に新たなものを作らねばなりません。

「高級コンパクト時代」におけるGRの強さ

−− コンパクトデジタルカメラはどのようなラインナップにしていくのでしょう?

 コンパクトデジタルカメラは大幅な出荷台数減に見舞われていますが、“防水機”、“高級機”、“高倍率ズーム搭載機”の3分野に絞り込むと、それらの市場は拡大しています。とりわけ高級コンパクトデジタルカメラは、我々の製品であるGRがよく売れています。他社からも数多く製品が投入され、まさに花盛りといったカテゴリーで、各社さまざまな工夫で製品を演出していますが、その中でGRは独自の地位を確立しています。

 一方、防水や高倍率ズームといった要素を持つカメラ。我々は“一芸カメラ”と呼んでいますが、スマートフォンには決してできない撮影領域をカバーする製品として重要視しています。我々の場合、ラインナップではWシリーズがありますが、単に防水というだけでなく、カメラを携えて海の中に潜ることができます。また、防水カメラは頑丈なこともあって、新興国でも日本でも大きく伸びています。こうした特定カテゴリーに向けた製品には力を入れていきます。

 高倍率ズーム機に関しては、現在X-5という製品を投入していましたが、主に海外で市場が確実に伸びていますから、ここへのアプローチは強めて行きます。全体を見渡した話をしますと、一般的なカメラカテゴリーではなく、今後、市場が拡大する領域、スマートフォンでは届かない領域に商品開発の軸足を置いていきます。

 それとともに、“GRの良さ”を広げていく取り組みも行ない、Limitedバージョンなどにも積極的に取り組んでいきます。マニア向けのマーケティングという意味ではなく、GRの良さをより幅広い消費者に知ってもらえるよう商品性を広げることに取り組みます。

限定5,000台で販売されたGR Limitedバージョン。

スマートフォンからデジタルカメラへの導線は?

−− 今年はスマートフォンの影響が顕在化し、大きく出荷数を減らすことになりました。遠藤さんは元々、携帯電話業界にいらっしゃったわけですが、現在のデジタルカメラ市場をスマートフォンと絡めて考えた時、どのように全体を見渡していますか?

 スマートフォン、単体のカメラ、といった枠組みを取り外したとき、”カメラ市場”が本当に縮小しているのか? 今後も縮小するのか? と考えると、必ずしもそうならないのではと思っています。スマートフォンでの撮影もカメラ撮影には違いありません。むしろ、出荷台数の大幅な違いを考えれば、市場は拡大しているとも捉えられます。スマートフォンのカメラ画質は、ほんとうにキレイになりました。またSNSへのアップロードなど、従来とは異なる写真撮影のモチベーションも生まれてきています。アプリケーションの幅という意味でも、多彩になっているということですね。その結果、デジタルイメージング市場の裾野は広がっています。

−− スマートフォンでの写真の活用は、これまでのカメラとはかなり違いますよね。体験の質が違う。異なる質の体験によって写真を知った人たちに、単体カメラの良さを知ってもらうアイディアはありますか?

 スマートフォンでの撮影体験とレンズ交換式カメラの撮影体験の間に大きな違い、ユーザー層の(ヒエラルキーの)違いが大きいかというと、そうは考えていません。たとえば、イメージセンサーのサイズが大きいとボケが大きくなるとか、明るいレンズの方がボケやすく暗いところに強いとか、意外にスマートフォンのユーザーも知識としては知っているんですよ。スマートフォンを使って写真撮影に馴染み、撮影方法で撮れる画がどう変化するのかについて興味を持つ人が増えれば、そこは単体カメラへの動線になっていくと思います。

 実はそれには理由があるんです。スマートフォンとSNSでユーザー間のコミュニケーション速度が大幅に上がりました。交換される情報の量も劇的に増えていますから、以前よりもノウハウの伝承や口コミが増えています。写真撮影経験の多い高齢者が、SNSの中で若い世代のカメラファンと触れあい、それまでに得たノウハウを伝えている様子などは、さまざまな掲示板などで見かけるでしょう。

 そして、他人が撮影した写真を見る機会も大幅に増えています。シェアされた写真を見て、“これはどうやれば撮影できるの?”という疑問を通じ、より深い写真の世界へと入っていくケースもあります。

−− スマートフォンで加速する写真コミュニティの情報交換というトレンドに対して、メーカー側から行なえるアプローチはあるでしょうか?

 他社の製品ですが、スマートフォンと無線LANで接続するレンズ型カメラなどもアプローチのひとつだと思います。写真撮影の裾野が広がっているのですから、初めてスマホで知った人に“よりよい写真を撮影する”モチベーションを与えるにはどうすればいいのか。実は東アジアなど、銀塩写真の現像・プリントインフラが充分に整っていなかった地域は、そもそものカメラ原体験がない方が多い。

 PENTAX Qは、そうした方々へのアプローチ方法のひとつです。Qならばレンズが圧倒的に小さく、安くできます。トイ・レンズも含め、レンズ交換によって描写や画が変化する愉しさへと手軽に入って行けます。レンズ交換式カメラですから、レンズを換えていただかないことには本来の楽しさがわかりませんからね。

 我々としては、メーカー先導で押しつけるのではなく、利用者の声に耳を傾けて、それぞれのブランドのファンの方々が、別の新しいひとたちに魅力を伝えていきたくなるようなコミュニティ構築をしたいと思います。みなさん、圧倒されるほどのパワーを持っています。彼らに対する責任をキッチリ果たしていけば、口コミも拡がっていきます。

 そのためにも、“あ、こんな風に使って欲しいんだな”と、ピンと来るような商品を提供していきます。楽しみにしておいてください。

(本田雅一)