インタビュー

【CES】EOS 7D後継機は「それほど遠い日の話ではない」

キヤノン眞榮田雅也常務インタビュー

 米ラスベガスで毎年1月に開催されるInternational CES(CES)では、多くの人が集まることから、多様なイベントが併載されている。昨年からはPMA(Photo Manufacturers Association)の展示会が併合され、以前からCESに展示している大手メーカーも、CESで新製品を発表するケースも増え始めた。

 一方、各種業界の表彰関係もいくつか行なわれている。放送に関わるコンテンツや技術などを表彰する権威ある賞として知られるエミー賞のうち、技術賞も電機業界の重鎮が集まるCESで行なわれている(番組制作や制作者、俳優などは、別途、ハリウッドで表彰式がある)。

 さて、少々前振りが長くなったが、このエミー賞にいつもとは違うメーカーの名前が見られた。キヤノンである。キヤノンはEFマウントとPLマウントに対応する、Super35フルフレームのデジタルシネマカメラ「CINEMA EOS」シリーズを発表。2K解像度のC300、4K解像度のC500を揃えた。

PowerShot Nを持つキヤノンの眞榮田雅也常務。2013 International CESの会場で。

 これらCINEMA EOSシリーズと、各カメラに使われたCMOSセンサーの開発に対してエミー賞が与えられ、今回、CESのタイミングでCINEMA EOSの開発を強く推進したキヤノンの眞榮田雅也常務が表彰式に渡米との話を伺い、授賞式後のインタビューを申し込んだ。(聞き手:本田雅一)

CINEMA EOS、エミー賞技術部門を受賞

−−本日はエミー賞の技術部門を受賞と伺いましたが、受賞理由や対象技術について伺えますか?

「Super35フォーマットに対応した高性能CMOSセンサーの開発と、そのデジタルシネマへの応用で受賞しました。特に高い画質と撮影領域拡大を評価していただきました」

−−たしか4年半前だったと思いますが、眞榮田さんが一眼レフカメラを担当するようになり、EOS 5D Mark IIが発表されるというタイミングでドイツ・ケルンのフォトキナのインタビューをさせていただきました。あのときは毎秒30フレームの撮影のみで、“これでは放送や映画の撮影には使えない。Super35よりも大きな135フォーマットで、レンズ描写を活かした動画を撮影できるのにもったいない。なぜ映像制作向けに使ってもらうことに積極的じゃないのでしょう?”と質問しました。

「ええ、憶えています。しかし、5D Mark IIの動画機能は、その開発のきっかけそのものが、映像制作向け、高画質撮影、レンズ描写の活用といった話とは無縁のものだったので、インタビューでなぜ放送や映画で使われるフレームレートを使わないのかと言われて戸惑った記憶があります。それというのも当時、報道関係のプロにもEOS 5Dを使っていただいていたこともあって、取材時に静止画と一緒に動画を押さえられるようにしておけば、報道の現場で役に立つことも多いのではないかと考えたのです」

「もちろん、報道関係で使われることもありましたが、実はこれで映画をはじめとする映像作品製作に使う人がたくさん出てきました。選択肢が豊富なEFレンズを使える上、安価で高画質な点が評価されたようで、我々の想像を遙かに越える反響でした。そこで映画撮影など動画作品を作るためのカメラを、EOSの技術を用いて作れないかというアイディアが生まれてきました」

−−キヤノンはビデオカムコーダは自社開発していますが、業務用映像機器や映像制作現場とのつながりは希薄でしたよね。どのぐらい期間をかけてCINEMA EOSを開発したのでしょう。

「製品そのものの開発は、開始して1年半ぐらいで完成させることができました。しかし、その前の情報収集の方が労力としては大きかった。ニーズがあることはわかっても、実際に現場でどのように使われているかがわかりませんし、ユーザーの顔も見えません。キヤノンUSAのスタッフがハリウッドに何度も出かけ、映画監督、シネマトグラファー(カメラマン)や映像編集のプロなどにヒアリングを行ない、必要な機能を洗い出したのです」

−−とはいえ、従来の静止画用カメラとは全く異なる新たな製品シリーズを作るとなると、簡単にはゴーサインを出せませんよね? CINEMA EOS開発のきっかけは何だったのでしょう?

「ハリウッド映画に自分たちの一眼レフカメラが使われているという新鮮な驚きがひとつ。もうひとつは巨匠と呼ばれているような有名監督からも、強い興味を持っていただいたことがあります。たとえばジョージ・ルーカス監督からは直接会社に連絡いただき、是非ともEOSを活用したい、使いたいという話をもらいました。担当者不在でうまくつながらなかったのですが、実はその前にもスティーブン・スピルバーグ監督から連絡があったそうなんです。そこまで注目されているのなら、これは自分たちの技術を活かしたビジネスを創るチャンスがあるのではないかと考えました」

4K動画に対応したEOS-1D C。35mmフルサイズのCMOSセンサーを搭載する。EFマウントを採用

−−映画業界からはどのような点を評価されているのでしょうか?

「EFレンズの幅広いラインナップ、描写を評価していただいています。ズーム回転角の違いなど、一般的な動画用レンズとは使い勝手が違う面もあるので、動画用レンズを新たに開発したりしていますが、これもシネレンズなどに慣れているシネマトグラファーが多いから、というのがその理由です。使っているうちに慣れるという人もいますし、若い人だと全く問題なく受け入れていますね」

−−従来のシネレンズなどを活用できるPLマウントと、EFマウントの両モデルを用意していますが、どちらが受け入れられているのでしょう?

「事前のヒアリングでは、圧倒的にシネレンズで使いたいとの話だったのですが、実際に販売してみるとEFレンズが8割と圧倒的に多いんです。やはり豊富なEFレンズを活用できる点が受け入れられているのかもしれません」

「また今回の受賞理由でもあるCMOSセンサーの性能も、従来の映画撮影の常識を覆すものでした。ISO数万相当といった超高感度の撮影領域は、映画では未知の領域ですからね」

−−超高感度で作品レベルの画像を得られる点は、静止画カメラの撮影方法も大きく変えましたが、映画ではもっと大きな変革を起こしそうですね。従来はローライトのシーンでも実際には強い光を当てたり、屋外撮影で意図的に被写体を逆光にしてライティングで立体感を出したりしてました。しかし、超高感度が当たり前になれば本当にキャンドルライトだけでも撮影できる

「まさに同じことを何人かの監督からいわれました。自然光を活かしたライティングで撮影したり、本物のキャンドルライトだけでの撮影が可能になることで、作品の風合いが大きく変化するでしょう。また、従来よりも強く絞り込んで被写界深度を深くするなど作画の自由度も上がります。新しい撮影手法が次々に試されていくようになるでしょうね」

「また、“コア・モバイル・デザイン”という設計手法を今回取り入れました。これはコアになるカメラ部を可能な限り小さく作り、それ以外の補機類を自由に組み合わせてカメラシステムを構築するコンセプトです。これにより、カメラアングルの自由度が上がり、高感度撮影と同様に撮影領域拡大をもたらしています」

−−CINEMA EOS開発で得られたノウハウも多いのでは。カメラで言えば映画撮影向けのガンマ設定や、後行程でのカラーコレクションなど、映画作り独特のノウハウと技術がありますよね。これらを一般的なEOSやPowerShotに持ち込めないでしょうか?

「我々は家庭用カムコーダも提供していますから、そこに盛り込んでいきたいですね。また、静止画用のEOSシリーズにも、上位モデルから順に盛り込んでいきたいと思います。プロ向けのガンマ調整機能などは、そのままでは使いこなしが難しいため、どのようにアマチュア向けにアレンジしていくかが鍵になるでしょう。映像制作のプロを目指す学生が、EOSを使って作品をつくるケースが増えているそうなので、彼らに向けて本格的な機能を提供し、そのノウハウをそのままプロ機でも活かせるような、ノウハウの循環を目指したいと思います」

上位モデルを強化した2012年

−−カメラ事業全体の話に移らせていただきたいのですが、キヤノンにおける今年のテーマ、ビジョンはどのようなものになるでしょう?

「昨年は、プロ向けの機材としてEOS-1D X、CINEMA EOS C300、C500を発売し、コンパクト機最高画質を目指したPowerShot G1 Xもリリースしました。昨年は、それぞれの製品カテゴリにおける最上位、プレステージモデルを強化した年でした。今年はその次のステップに入っていきます。具体的には、各ジャンルごとのプレステージモデルで開発した技術、機能の洗練度を高め、下位モデルに落とし込んでいこうと考えています」

−−上位モデルの画質や機能性を、より手軽にということですね

「上位下位というと価格の違いを意識する方が多いでしょうが、利用シーンの違いが大きいと思います。いくら高性能なカメラでも価格が高く、本体は大きくて重い、では利用者を限定してしまいます。最新技術を詰め込んだカメラを、どのようにダウンサイジングし、軽量化し、同時にお買い求めやすくする。この挑戦を今年は行っていきます。また、今までの製品とは、少し異なるコンセプトから企画したレンズ交換式カメラもやっていきたいですね」

−−異なるコンセプトというと、どのようなものでしょう?

「未発表の製品については話せませんが、たとえばCESで発表したPowerShot Nは、商品コンセプトを一新して挑んだ製品のひとつです。カメラはデジタル化されたことで、構造面での制約がフィルム時代よりも格段に少なくなりました。そこで、撮影時の持ち方を変えることで、様々なアングルからの写真を撮影しやすくするというアプローチを取ったのです。従来のシャッターボタンの概念を変えたなら、カメラ本体はどう変わるのか。どんな使い方をしてくれるだろう? という部分から利用シナリオを書き起こして開発しています」

CESで発表されたPowerShot N(日本での発売は未定)。独創的な操作をはじめ、Wi-Fiやタッチパネルなど新規性を追求したモデル

「また、“クリエイティブショット”という機能も特徴です。思い通りの撮影が行なえるようにするための次の一歩を、カメラがオファーしてくれます。カメラを使いこなしている方は、自然に様々な撮影手法を使いこなしているものですが、それも経験あって気付きを得て身についてる。そこで、一枚撮影すると色温度を変えたり、フレーミングやりなおしたり、少し回転させてみたり、色々な視点から別の取り方による写真をカメラが提案してくれます。そこで気付きを得ることができれば、よりクリエイティブに写真を楽しんでもらえるようになると思います」

−−PowerShot Nの新規性はわかりましたが、同様にコンセプトから錬り直した新しいEOSの提案があると考えていいのでしょうか?

「もちろん、交換レンズ式カメラの将来像に関しても取り組んでいます。しかし、あまり具体的なことはまだ言えません」

−−たとえばですが、キヤノンのミラーレス機が出るというとき、様々な想像をユーザー側もしたと思うのですが、EOS Mは直球ど真ん中のレンズ交換式カメラですよね。しかし、一方では設計の自由度が上がることで、従来にないスタイルのカメラも提案できるでしょう

「直球ど真ん中と言うのがいいかどうかはわかりませんが、EOSが持つ高画質や高感度性能を維持したまま、どこまで小さくできるかを純粋に追求すること。これが最初の1台目のテーマでした。しかし、今後はミラーレス機でもバリエーション展開はしていきますから、様々なタイプの製品が出てくると思います。一度にはできないので、ひとつひとつステップを踏んでいきます」

−−どのような方向でのステップを踏んでいくのでしょう?

「ミラーレスも一眼レフも、進化の一番大きなきっかけを作るのはセンサーの進化だと思います。センサーの性能が向上したり、新しい機能が加わることで、カメラとしての性能、機能が向上しますし、消費電力低下やその結果としてのダウンサイジングが進むでしょう」

−−CMOSセンサーに事前処理の機能を組み込むなどのアプローチもあるでしょうか?

「CMOSにはあらかじめの“仕込み”を入れておくことはできます。フィルムが進化すると、カメラも大きく進化しました。それと同じようにセンサーが変わればカメラも変わります。また、レンズ側の進化にも投資をしています。超望遠、超広角、それぞれの画角領域でレンズは大きく、重く、高価になってしまう。それをテクノロジの力でダウンサイズするニーズは大きく残っています。この点はEFレンズだけでなく、コンパクトカメラも同じですね。まだまだやり残していることがたくさんあります」

EOS 7D後継機は?

−−デジカメWatchの読者層でいうと、EOS 7Dの後継機に期待している方がとても多い。昨年、大きなファームウェアアップデートをかけて最新機種にも負けないスペックにした、ということは、まだすぐに後継機は出ないのかな? という予感もしていたりしますが……

昨年キヤノンはEOS 7Dに対し、大幅な機能向上ファームウェアを公開した

「その予感は当たりです。ポテンシャルをより引き出すことで、既存モデルの能力を引き出しました。まだまだ魅力ある製品だと思います。後継機ももちろん開発はしていますが、それは“ある種の革新技術を入れた製品”になります。ちょっとスペックアップした製品を後継として出すというのではなく、新たな領域に向けての進化を遂げたものになりますよ。もっとも、それほど遠い日の話ではありません」

−−たとえばライバルのソニーは昨年、ある種のリミッターを外して、どこまでできるのか? を追求したRXシリーズを発売。消費者にも支持されました。一方でキヤノンのカメラは相変わらずの高画質や基本機能、性能の良さを感じますが、どこか“節度“を持って振る舞っている印象があります。そうしたリミッターを外し、感性の部分に訴えたのがEOS 7Dだったと思いますが、眞榮田さん自身はそうした「エクストリーム」な製品に興味はありませんか?

「やはりカメラは、手に取って眺めて嬉しいものにしたいですし、徹底的にダウンサイジングした製品であってほしい。他社製品についてのコメントは控えますが、我々の製品でいえばPowerShot Sシリーズも、小さいとはいえ、まだまだでかいと思っています。もちろん、これはキヤノンとしてなんとかしたい。モノとしての製造クオリティ、品質感を上げながら、さらに高画質を追求していきます」

(本田雅一)