【フォトキナ】「フルサイズ一眼レフの開発は進めている」−−ペンタックスの次世代戦略


 先月、ドイツ・ケルンで開催されたフォトキナにおいてインタビューを実現できなかったペンタックスリコーイメージングにインタビューを行なった。答えていただいたのは、開発統括部長の北沢利之氏である。

 事前に新製品を発表していたため完全な新発表こそなかったものの、ペンタックスはK5シリーズの後継モデルとして、K-5 II/K-5 IIsをブースに並べ、645Dではじめたローパスレスのレンズ交換式カメラが持つ可能性を訴求。PENTAX Qにも新製品が発表済みで、堅実に既存製品のアップデートをかけている。

 フォトキナ会場でも噂になったローパスレス/フルサイズセンサー採用の新一眼レフシリーズについての質問から、直球で話を聞いた。


開発統括部長の北沢利之氏


一眼レフユーザーは画質を求める

--- フォトキナ2012のトレンドをみると、高画質指向のアマチュア向け一眼レフカメラに35mm判フルサイズのセンサーを搭載する製品が相次いでいました。3社がフルサイズセンサー採用新機種を発表し、中には20万円以下の製品もあるなど対象ユーザーの幅を拡げようとしています。ペンタックスはこの動きに対してどう対応していくのでしょう?

「ひとつには、カメラ業界全体、メーカーも消費者側も、これからも高画質に向かっていこうとする動き、大きなトレンドがあります。ミラーレス機がレンズ交換式の中でも、より小型化という方向に向いています。ここにフルサイズセンサーを持ち込も可能性もありますが、静止画カメラとしてミラーレスとなれば、一番大きくてもAPS-Cサイズセンサーぐらいと考えてきました」

「他方で高画質に対する、消費者の飽くなき追求は今も続いています。高画質を出すだけでなく、“高画質な商品”というイメージを得るために、ミラーレスよりもサイズが大きな一眼レフカメラがフルサイズセンサーに行きたくなる気持ちはよくわかります」


フォトキナ2012でのペンタックスリコーブース

「ミラーレス機は低価格化も一眼レフカメラよりしやすい面もありますから、普及価格帯の製品として重要です。レンズマウントが新規設計になるため、センサーサイズもメーカーごとの考え方で幅広い選択肢があり、形状自由度も高いのでデザインの自由度が高まります。画質以外にも魅力を引き出すためのアプローチが多数あるんです」

「しかし、一眼レフカメラは実画像を見ながら撮影できるところが特徴で、そのために大きくコスト高になる構造を採用しています。ファインダーに目を付けて、じっくりと撮影に取り組みたい。いい画質でいい写真を撮りたいのだけど、カメラという機械そのものが好きという方の製品ともいえます。そんな製品を求めるユーザー像を考えると、画質は少しでも良いものをと望んでいます。だからこそ、保有しているレンズシステムでサポートできる最大のセンサーサイズへと向かうのだと思います」

「その裏返しとして起きているのが、スマートフォンによるローエンド・コンパクトデジタルカメラ市場の侵食です。ローエンドの裾野をスマートフォンに奪われているため、そこからの玉突き現象で、趣味のカメラは一段上の満足度を得なければならなくなりました。ミドルクラスのコンパクト機が高画質化すれば、その上のコンパクトカメラはセンサーサイズを拡大して高画質化に対応しなければなりません。センサーサイズの大きなコンパクトカメラが出てくれば、レンズ交換式カメラはもっと良い絵を出さなければなりません」

--- 携帯電話やスマートフォンのカメラに不満で、そこで満たせない欲求をカメラに求めているとするなら、センサーサイズを拡大したコンパクトカメラで十分という方が増えるのでは?

「スマートフォンで満たせない要素は、ダイナミックレンジや高性能レンズ、ボケなどでしょうか。これらはある程度大きなセンサーのコンパクトカメラでも代替できなくはありません。もちろん、レンズ交換の楽しみはありますが、画質差が小さくなってしまうと一眼レフカメラが魅力的に見えなくなってしまいます。だからこそ、フルサイズ機の低価格化、多様な製品への採用を進めているのでしょう」


2013年度以降を目処に先行開発

--- ではペンタックスは、趣味のカメラがフルサイズ化している状況に対して、どのような対処を考えていますか?

「まず、我々もフルサイズセンサー採用の一眼レフカメラ開発を検討しています。実際にセンサーを作るメーカーともコンタクトして、製品化を前提に開発のプロセスを進めています」

「“カメラを開発する”という部分だけをみれば、フルサイズもAPS-Cも同じで、センサーを入手して適切な開発を行なえば作ることができますが、単に”センサーが大きくなった”という以上の価値、画質にしても、撮影領域の拡大にしても、明確な差を出さなければならないと考えています。これまで、APS-Cセンサーに特化してDAレンズばかりを揃えてきたのは、そこに明確な差別化を行なうのは難しいという判断がありました」


10月19日発売のPENTAX K-5 II。店頭予想価格は11万円前後の見込み

--- 今回、フルサイズセンサーの開発プロセスをスタートさせたということは、明確な差を生み出せると考えているということでしょうか?

「今、どのような差異化ができるかを議論しているところです。ペンタックスの場合、多くのフルサイズ用レンズが、すでに生産完了になっており、リミテッドシリーズなど一部のレンズのみが対応するのみです。従ってフルサイズの一眼レフカメラを作るのであれば、新たにレンズラインナップを作っていかなければなりません。その点は、他の35mm判フォーマット向け一眼レフカメラを作ってきたカメラメーカーとは違うところです」

「新たにレンズラインナップを作り直し、キヤノン、ソニー、ニコンといったライバルと差異化はするにはどうすればいいのか? 単に出すだけでなく、ペンタックスならではの付加価値がどうか? という部分を議論していますが、まだ完全に結論は出ていません」

「しかしながら、結論が出たからといってすぐに製品は出てこないので、(マーケティング面でのストーリー構築とは別に)開発は並行して行っているというのが現在のステータスです」

--- 他社の動向を見ると、エントリークラスに強力な製品を並べつつ、フルサイズに高画質機を置いているせいか、ミドルクラスの製品の存在感がやや後退しているか? という印象を持っていますが、ペンタックスはここが主戦場です。今後をどのように見ていますか?

「たしかに、このところ中級機種市場は業界全体、やや弛んでいます。しかし、どのメーカーも中級一眼レフのビジネスをやめるわけではありませんよね。我々も、さらに市場を切り開いてKマウントシステムを充実させていく責任を、既存ユーザーに対して持っています。K5-2の後継機種も開発しなければなりませんし、他にもラインナップは更新する必要があります。長いスパンではフルサイズに向かいますが、短いスパンでの戦略としては、APS-Cセンサーのエリアで今よりもラインナップを増やしていきたいと考えています」

--- フルサイズセンサーに話を戻すと、ペンタックスのカメラに対するイメージとしては、やはり小型軽量でフィールドで動きやすく、風景撮影に向いた画作りやローパスレスの高解像度といったイメージがあります。

「製品化前提で作っているので、出す事は間違いありませんが、他社と同じようなカメラを作って、少しだけ小型軽量というだけで、本当にペンタックスが新たにフルサイズ用レンズを作ってまで出す意味があるのか? という話だと思います。タイムフレームとしては、2013年度以降を目処に先行開発を行っているので期待してください」


ローパスレスは既定路線

--- さらに上には645Dもありますが、価値としてはどのような差異化が可能でしょう?

「645Dは、フルサイズセンサー以上の画質が得られるシステムとして開発をしました。しかし、このところ他社はフルサイズセンサーで中判画質だといっていますよね。それだけ、高画質デジタルカメラのベンチマークとして、645Dをスタンダードな存在と見ているのだと思います」

「しかし、それはあくまでも今の645Dです。現時点でも“目標”として見ていただいているのは光栄なことですが、2010年6月に発売した製品ですから、当然、後継機種の製品開発もスタートしています。交換レンズのロードマップも更新し、90mm F2.8も出しました。今後も645Dのラインはどんどん進化させていきますよ」


K-5 IIからローパスフィルターを省略したK-5 IIs。発売は10月19日。店頭予想価格は12万円台半ば

--- “風景写真のペンタックス製カメラ”を決定付けたのは、ローパスレスの645Dだったと思います。K-5 IIでもローパスレスモデルを用意していますし、フルサイズセンサー機も同じくローパスレスの期待がかかります。ニコンもローパスレス相当のカメラを発売しました。交換レンズ式カメラのローパスレス化で先鞭を付けたペンタックスとして、この点をどう見ていますか?

「645Dで始めた当時は、変な画が出てしまい、顧客からクレームが集まるのでは……と、こわごわ始めました。しかし、実際に色々な写真を撮影し、モアレや偽色が出にくくなってきていることが確認できています。お客様の反応を見ても、ほとんどの方がモアレや偽色が出てしまう危険性よりも、その解像力の高さを評価してくださっています」

「ファインダーから覗くだけでは見えてこない世界を、あとから写真でチェックできる。これまでは気付かなかった世界が見えてくることに、メリットを見いだしてもらっていますね」

「その後、今年になってニコンからローパスレス相当のD800Eが登場し、解像度を上げるためにローパスをなくす、という考え方、使いこなしの違いが広まってきていると思います」

--- 画素ピッチが狭くなってきていることも、その原因のひとつですよね。

「ローパスレスへの理解の進行と、画素ピッチが狭くなる事の両方が同時進行したことで、K-5 IIで2モデルラインナップという提案を行なえるようになりました。販売店などに新モデルへの期待の声をきくと、-3EVまで追従するAFユニットとローパスレスモデルが注目されていることを感じます。ローパスレスモデルの初期注文は、当初想定していたよりも遙かに多くて実は社内でも驚いているんです。もっと、モアレや偽色を警戒するかと思ったのですが」

「APS-Cで1,600万画素というと、画素ピッチは5ミクロン以下ですから、あとはバックエンド(処理LSIや画像データの転送インターフェイスなど)のパフォーマンス次第で、1億画素センサーが見えてくると思います。すでにセンサーのメーカーは、1億画素を見据えた開発を行なっていると聞いています。とはいえ、それ以前の1,200万画素の頃と比べると、偽色発生の度合いは遙かに少なくなっているので、1億画素まで行かなくとも、ローパスレスは既定路線になっていくのではないでしょうか。

--- 風景撮影向けカメラのペンタックスとしては、そうしたトレンドになってきた時、さらに先に進む方向をすでに見つけていますか?

「ローパスレスへの取り組みは、ペンタックスとして既定路線です。これはこの流れとして我々も多様な製品に展開してきたいと思いますが、次のステップとしてローパスフィルターとは別の部分、異なる考え方の方向で、解像感を出す技術開発を行なっています。もっと新しい切り口でオリジナリティを出そうと考えているので期待してください」


独自路線を往くPENTAX Q

--- PENTAX Qが待望のモデルチェンジを受けましたが、Qシリーズの今後については?


PENTAX Q10。レンズキットは10月中旬の発売。店頭予想価格は5万円程度の見込み。ダブルズームキットは7万円程度。

「交換レンズが5本しかなかったので、交換レンズを揃えなければということで、いくつか開発をしています。今年から来年にかけて、交換レンズを増やしていきます。もう辞めちゃうんじゃないの? と言われることがあるのですが、これは我々だけの価値ある製品として辞めるつもりはありません。645Dもそうですが、我々だけがやっている独自領域の製品は必ず続けます」

「Qシリーズはセンサーが小さく画質が悪いんでしょ? と言われるのですが、写真を魅せるとみなさん納得していただけます。小さいなりに一定以上の引き延ばしに耐えられる画質は実現できていますし、交換レンズで遊ぶという世界観を体感してもらうため必要だとも考えています。一般的なミラーレス機のカテゴリだと、バッグの中にシステムが入らないという方はかなりいらっしゃるでしょう」

「しかし、それ以前にQの世界観をきちんとアピールできていないので、もっと世の中に露出して、注目してもらわねばなりません。Q10がそろそろ発売ですが、その次のモデルも当然ながら開発しています。カラーバリエーションで100色揃えたのも、店頭で注目し、興味を持ってもらうという意図があります。こちらも引き続き、他にはない価値として注目していただきたいと思います」




(本田雅一)

2012/10/10 00:00