インタビュー

キヤノンPowerShot G1 X Mark III(前編)

驚きの小型化も実現 オールインワンのAPS-Cコンパクトカメラができるまで

PowerShot G1 X Mark III

キヤノンが2017年11月に発売したAPS-Cズームコンパクト「PowerShot G1 X Mark III」の開発者インタビューをお届けする。一眼レフカメラやミラーレスカメラと同じAPS-Cサイズのイメージセンサーを搭載しつつ、インパクトのある小型化を実現したポイントなどについて聞いた。(編集部)

話を聞いたキヤノン株式会社イメージコミュニケーション事業本部の面々。後列左からICB製品事業部 課長の加藤収一氏、ICB統括第三開発センター 主幹の飯田誠二氏、ICB統括第三開発センター 室長の山口利朗氏、総合デザインセンター 主任の髙谷慶太氏、前列左からICB光学開発センターの伊藤大介氏、ICB統括第三開発センター 主任研究員の上原匠氏、ICB製品開発センターの道心雄大氏。

商品️コンセプト「1型コンパクトのボディにAPS-Cセンサーを入れる」

——PowerShot G1 X Mark IIIは発表当初から小さくてよく写るということで、我々の間では大変評価が高いカメラなのですが、まだそのことにお気付きでない読者も多いのではないかということで、今回はあらためてこの機種に焦点を当てる意味でインタビューをお願いしました。まずはこのカメラの企画意図からお聞かせください。

加藤:コンパクトなボディに、キヤノンのコンパクトデジタルカメラとしてはじめてAPS-Cサイズの大型イメージセンサーを搭載することで、従来にないコンパクトデジタルカメラのフラッグシップモデルを作るというのがメインのコンセプトです。

前モデルのPowerShot G1 X Mark IIも1.5型のイメージセンサーを採用しており、大型センサーに対するお客様のニーズが感じられましたので、そうしたニーズを次のステップへと導く意味でAPS-Cサイズの大型センサーの搭載を目指しました。

商品企画を担当した加藤収一氏。

——G1 X Mark IIよりもさらに大型のイメージセンサーを望む声が大きかったのでしょうか?

加藤:G1 X Mark IIのお客様からさらなる大型センサーへのご要望が多かったということはありませんが、G1 X Mark IIのボディに1.5型の大型センサーを入れたことに対してお客様から驚きや賞賛のお声を頂きました。

参考:PowerShot G1 X Mark II(2014年3月発売)

そこで、次のステップとしては、1型クラスのコンパクトデジタルカメラのボディにAPS-Cサイズの大型イメージセンサーを搭載すれば、もっと驚いていただけるのではないか、インパクトがあるのではないかと考えました。

G1 X Mark IIのお客様からは、コンパクトデジタルカメラとしてはやや大きくて重いというお声はいただいていましたので、小型軽量化は必須ですが、イメージセンサーのサイズを小さくしてしまってはもったいないと考えました。そこで、イメージセンサーを大型化しつつも、ボディはG1 X Mark IIより小型軽量化する方法を長い間模索していました。そのため、今回の機種の開発期間は若干長めになってしまいました。

——どのようなユーザーがどのように使用するシーンを想定していますか?

加藤:まず最初に、G1 Xシリーズをずっと使い続けていただいているお客様のご期待にそえるかたちの後継機を用意したかったということです。一方で、APS-Cサイズの大型センサーを搭載したことで、一眼レフ機などの上位機種との親和性も重要になってきますので、サブカメラとしても意識しています。

例えばメインでは35mmフルサイズのEOS 5Dシリーズを使いながらも、ちょっとした時に気軽に持っていけるいいカメラがないかという時に、操作性の統一感を持ったG1 X Mark IIIを提案したいなと考えました。そのため、EOSシリーズと操作性や絵作りを合わせることにもこだわって作り込みました。

——EOS上位機種のサブ機というと、EOS Kiss系ではちょっと大きいし、コンパクトだと操作感が変わるということで従来選びにくかったわけですが、今回のG1 X Mark IIIは操作感もEOSに寄せてあって使い勝手が大変いいですね。初心者向けの操作性にしていないところが、ベテランユーザーの心をくすぐります。

加藤:そうおっしゃっていただくとありがたいですね。従来のG1 X Mark IIまでは、“コンパクトデジタルカメラとしてのフラッグシップ機”という考え方にこだわっていましたので、言わば独自路線だったわけですが、サブ機として捉えていただくためにはやはり親和性を重視する必要があるということで、今回はそうした点にこだわって開発しました。

——前モデルのG1 X Mark IIのイメージセンサーは1.5型で18.7×12.5mmと面積でマイクロフォーサーズ規格を上回り、コンパクト機としては十分大きなイメージセンサーでしたが、今回イメージセンサーをさらに大型化した理由をもう少し掘り下げてお話しいただけますか?

加藤:弊社のAPS-Cサイズのイメージセンサーでは、デュアルピクセル構造の採用による高速な像面位相差AFなど、最新技術の多くが投入されています。同様の技術をコンパクトデジタルカメラに搭載すれば大変相性がいいのではないかということを考えました。

ちょうど、コンパクトデジタルカメラのフラッグシップ機にAPS-Cサイズのイメージセンサーを搭載することを検討していた時期でもあり、どうせなら最新技術を全て取り込んでしまおうということになりました。

——他社にもAPS-Cコンパクトの単焦点レンズモデルはありますが、ズームレンズ搭載のモデルは過去にも1機種(ライカXバリオ)のみで、現在はありません。ここはキヤノンだけのアドバンテージですね。

加藤:G1 Xシリーズの共通コンセプトの一つとして「オールインワン」にもこだわりがあります。ですから単焦点レンズに絞った一点突破のカメラというよりは、1台持っていけば撮りたいものを1日中いろいろ撮影できると考えました。サブ機としても単焦点レンズ1本というよりは、複数のレンズを1台でまかなえるものということで、小型軽量化しつつもズームであることは外せない条件でした。他社を見ても、現行製品ではAPS-Cセンサーのズームレンズ搭載機が存在しなかったこともあり、ズーム機として製品化したいという思いがありました。

——そこはいかにもキヤノンらしいこだわりですね。ちなみに、企画段階では単焦点レンズの機種も検討はされましたか?

加藤:案としてはたくさんありました。今回は小型化が大きな課題でしたので、単焦点レンズなら楽に小型化できます。他にもG1 X Mark IIと同様のズームレンズや、ズーム比を5倍にするとか、案としてはいろいろと検討しました。

そんな中で、目指したい小型・軽量化、目指したい大型センサー、目指したい高画質の全てを満足させるバランスを考え、単焦点ではなくズームであることを考慮して、現在の形になりました。

伊藤:レンズ設計の担当者としては、単焦点レンズの方が設計しやすいです。しかし、従来のコンパクトデジタルカメラにおけるズームレンズの使いやすさを犠牲にはできないということで、設計としては大変ですが、やりたいという思いが強くなりました。

レンズ設計を担当した伊藤大介氏。

—— ミラーレスのEOS Mシリーズはじめ、EOSシリーズの普及モデルなどと共通のイメージセンサーとエンジンを採用しているかと思いますが、プラットフォームを共通化することでどんなメリットがありますか?

山口:メリットとしましては、先ほど加藤も申し上げたようにEOSシリーズと同様のデュアルピクセルCMOS AFをはじめとした最新技術を共有できる点が挙げられます。ただし、G1 X Mark IIIのイメージセンサーは、ベースとなる部分は同じですが厳密にはEOS用のものとは異なり、コンパクトデジタルカメラに最適化したものを使用しています。

イメージセンサーを担当した山口利朗氏。

——最適化しているとはいえ多くの機種で使っているAPS-Cセンサーのほうが、製造面でメリットがあったりするのでしょうか?

山口:新たなセンサーを開発するよりは、すでに量産されているセンサーをベースにした方が、有利な面が多くあります。

——具体的に、従来の1.5型のイメージセンサーを新たに作るより、共通化したAPS-Cセンサーの方がコストダウンになりますか?

山口:一般的に共通化した方がコストダウンには有利になります。

——となるとライバルは他社機というよりは、EOS KissやEOS Mシリーズになるかと思いますが、レンズ交換式のAPS-C機の売り上げに影響するとの見方はありますか?

加藤:これは少なからず数量面での影響はあると考えていますが、お客様としてはレンズ固定式、レンズ交換式と選択肢が増えることとなり、キヤノンユーザーのお客様をはじめとして、より多くのお客様にお使いいただける機会が増えることにつながりますので、トータルとしてはその影響はそれほどでもないと考えています。

——同じコンパクト機としては、PowerShot G5 Xが1型センサーを搭載していて感度面では不利ですが、望遠端は2段明るいレンズ(24-100mm相当F1.8-2.8)を搭載していてそれを補っていると見ることができ、G1 X Mark IIIと購入を迷うユーザーが多いようです。G1 X Mark IIIが明らかに優位な点がありましたら教えていただけますか?

PowerShot G5 X(2015年10月発売。現行モデル)

山口:1型センサーを搭載する製品の記録画素数が約2,020万画素なのに対し、約2,420万画素になるため、解像度で有利となります。通常、画素数を増やすと感度やダイナミックレンジは悪化するのですが、センサーをAPS-Cサイズとしたことで、感度とダイナミックレンジレンジも1型センサーに対して向上しています。ご指摘のように、望遠側の焦点距離など一部条件で1型センサーが有利な部分がありますが、多くの撮影シーンではG1 X Mark IIIの方が高画質が得られると考えております。

——画質面の違いをもう少し具体的にお願いできますか?

山口:例えばダイナミックレンジに余裕があることで、撮影後にいろいろとレタッチを施した際の“絵の崩れにくさ”とか、ノイズ感の少なさですとか、絵としての余裕感や品位が異なると考えられます。G1 X Mark IIIの絵は、一眼レフカメラと同等の余裕を持つ絵と考えていただければイメージしやすいかと思います。

オールインワンのフラッグシップ機で、小型化も目指した

——APS-C機なのに超小型軽量で、コンパクト機なのに写りは一眼レフと変わりない部分には驚きました。特に、小型軽量かつ高画質を実現している面ではある意味、EOSを超えてきた部分もあると思います。今までどうしてこのようなモデルがなかったのでしょう?逆にこういうパッケージングができた要因としては、何が考えられますか?

加藤:従来ですと、コンパクト機に求められることは小型軽量が第一であり、イメージセンサーは1/2.3型に始まり徐々に大型化して1型になったという経緯があります。その先にようやくAPS-Cサイズのイメージセンサーが見えてきたところで、これまでの一眼レフにミラーレス機が加わり、技術的な境界もあいまいになってきました。そのため、APS-Cセンサーを搭載したコンパクトデジタルカメラに開発のリソースを投入しやすい環境がキヤノン社内で整ってきたということがベースになります。

もう一つは1.5型のイメージセンサーを搭載した初代のG1 XとG1 X Mark IIが非常に好評で、大型センサーに対するニーズが十分あることもわかっていましたので、APS-Cセンサーを採用すればEOSとのプラットフォームの共通化、さらにはEOSとの親和性をさらに高めるステージへと自然と入っておけるのではないかと考えました。

参考:PowerShot G1 X(2012年3月発売)

一方で、Gシリーズの小型化という意味では、小型化を突き詰めたG9 Xのような機種も開発してきたのですが、G1 XやG1 X Mark IIのように一度大きなサイズに振ったものを小型化しようとする動きはまだありませんでした。そこで、これらの思いを重ねたモデルとして、APS-Cサイズのイメージセンサーを搭載し、EOSとの親和性を高めた上で、小型軽量化が達成できればかなりインパクトがあるものができるのではないかということで、開発にゴーサインが出たのだと思います。

PowerShot G9 X Mark II(2017年2月発売。現行モデル)

——フィルムカメラ時代のコンパクト機は35mmフルサイズだったことを考えれば、コンパクト機に大型センサーを搭載すること自体はそれほど難しくないのではと、つい簡単に考えてしまいがちですが……。

飯田:フィルムとデジタルでは求められる性能レベルがだいぶ違いますので、そう簡単にはいきません。中でもコンパクトデジタルカメラに大型センサーを搭載する場合は、まずレンズをどうするかが問題になります。

製品チーフの飯田誠二氏。

伊藤:今回は先に、APS-Cサイズのイメージセンサーの採用と、カメラのサイズが決まっていて、それに合わせてレンズを設計したという点が従来と違いますね。

山口:レンズ一体型のカメラおいて、イメージセンサーの仕様とレンズの仕様をいかに組み合わせて特徴のあるカメラを作るか、については継続的な検討事項になっています。今回のカメラが従来と異なる点は「APS-Cサイズのイメージセンサーを搭載しつつ、とにかく小型化を目指す」というところで、レンズの開放F値にも聖域は設けず、小型軽量化にフォーカスして仕様を決めていったところにあると思います。

飯田:新しいものを作ろうとするとき、皆少しでも性能を上げよう、良くしようとしますので、どこかに縛りを設けないと議論が発散しすぎてしまうのですが、今回は企画の加藤のほうで明確な目標を決めてくれましたので、それに向かってそれぞれがベストを尽くして取り組むことができました。

——小さなボディなのに電子ダイヤル、露出補正ダイヤル、モードダイヤルと必要なものがちゃんと揃っている。シンプルだけど本格的な操作が可能な点が魅力ですが、こうしたダイヤル類をしっかり搭載してきている理由は?

加藤:Gシリーズのフラッグシップ機として、オールインワンの性能を達成しつつ、EOSとの操作面での親和性を確保する意味で、今搭載しているダイヤル類やボタンなどを減らすことはできないということで搭載しています。

——個人的には使ったことがないのですが、内蔵ストロボはこのクラスには必要なのですか?

飯田:オールインワンで完結するのがコンパクト機のメリットだと考えていますので、やはりストロボは内蔵するべきであるということで搭載しています。

加藤:また、別売の防水ケースを使って水中撮影をする際に、外部ストロボと同調するために使用します。

——EVFも着脱式が良かったという声もあります。

飯田:手軽なスナップの場合は背面液晶モニターでもよいのですが、作品にじっくりと取り組む場合はファインダーのほうが集中しやすく、入れておきたかったです。また、私もそうですが年配の方の場合、背面モニターがだんだん見えにくくなってくるので(笑)、ファインダーのほうが見やすいということもあり、そうした面にも配慮しています。

加藤:先代のG1 X Mark IIでは着脱式にしていたのですが、これも着脱可能な方が良いとするお客様と、一体型が良かったとするお客様の両方のご意見がありました。一体型が良かったとするお客様からは、着脱式の場合はどうしても壊れやすい、カバンに引っかかってしまう、というご意見をいただいていました。そこで今回は一体型にして、またお客様のご意見をお伺いしようということになりました。

——センサーが大型化しているのに、撮影時の重量が前モデルより154gも減っています。小型軽量化実現のポイントを教えてください。

伊藤:レンズ設計の面では、まず全体の大きさを目標に収める必要がありました。それと電源をOFFにした際にレンズを収納時のサイズに収めないといけませんので、画質は保ったままレンズ枚数を可能な限り少ない枚数で構成できるようにしています。レンズの構成枚数は9枚なのですが、このうち4枚を非球面レンズとし、高画質を達成しつつレンズの構成枚数を削減できたことが、レンズの軽量化に大きく貢献しています。

上原:鏡筒メカ設計の立場からは、レンズの構成枚数を削減すると、レンズ1枚ごとの敏感度(レンズが所定の位置や姿勢からずれるほど、画質に与える影響が大きくなる度合い)が高くなりますので、敏感度が高くなったレンズをいかに高精度に保持するかが鏡筒設計の一つのポイントになります。

そのため今回の機種では、部品1点ずつの精度を金型の段階からしっかりと追い込み、従来機種よりもかなり高いレベルの精度が得られるようにしました。また、従来は使用していなかった、反りや変形の少ない新規の材料をレンズ保持部材として採用するなどの工夫もしています。

鏡筒のメカ設計を担当した上原匠氏。

この他にも、例えばイメージセンサーの大型化に合わせてレンズ径がかなり大きくなっています。特にイメージセンサー直前に置くレンズの大きさはイメージセンサーと同じくらいの大きさになるので、その分メカ部分のスペースを取ることができなくなっています。通常1型センサーモデルではその位置にシャッター、NDフィルターを出し入れするアクチュエーター、絞り、フォーカス用モーターなどを配置するのですが、G1 X Mark IIIの場合はイメージセンサー直前のレンズの周辺にスペースが全くありませんので、それ以外の鏡筒部分に置くために従来とは異なる全く新規のメカニズムを考える必要がありました。

飯田:イメージとしては、従来の1型モデルの鏡筒部分に、APS-Cサイズのイメージセンサーと鏡筒を入れ込むことを想像していただければわかりやすいかと思います。

上原:これはG5 XとG1 X Mark IIIのイメージセンサーと鏡筒が一体化したパーツ部分の比較ですが、前から見るとサイズ的にはあまり大きさが変わらないことがわかります。ところが、後ろから見ますとイメージセンサーサイズがこんなに違うのです。

レンズユニットの体積比較。APS-CのG1 X Mark III(左)と、1型のG5 X(右)。裏面から見たセンサーサイズが大きく異なるが、レンズユニットはほぼ同サイズと言える。

あとこれは、イメージセンサー直前のレンズです。イメージセンサーの面積とほとんど変わりない大きさであることがお解りいただけると思います。

イメージセンサー直前のレンズ。
APS-Cサイズのイメージセンサー(右)と変わらない大きさ。

道心:本体メカ設計のほうでも、強度や剛性感を損なわない軽量化にチャレンジしました。強度と小型軽量化・薄型化はトレードオフの関係になりがちですが、今回は材料メーカーとともに新規の樹脂材料を採用することで、400gを切る本体重量を達成できました。さらに組み立て性も考慮しつつ、限られたスペース内に部品を収めるために、部品配置を0.1mm単位で調整し、工場とも緻密なやり取りをすることで、小型化に目処をつけることもできました。

——新しい外装素材はプラスチックですか?

道心:はい、強化プラスチックの一種です。一見革張りのようですが、実は2層構造の樹脂でできていまして、内側が高剛性の樹脂素材、外側が柔らかい樹脂材料で、表面にデザイナーが指定した革シボパターンを施しています。これを一体成型で作っています。これによりデザインと操作性を向上させつつ、軽量化も達成できました。

パターン検討の基となる革素材。
革シボパターンの検討用シート。
シボパターンの異なる外装試作。

——はー。ボディの革張りは実は樹脂なんですね。

道心:そうです。2層構造の内側の高硬度樹脂はかなり硬い素材で、一般の樹脂材料でこの薄さではぐにゃぐにゃしてしまうのですが、薄型でもしっかりとした剛性感を確保できています。外側の樹脂はゴムに似た素材で、ラバーゴムのように指にフィットする感触を得ることができます。

革張りではなく、2層構造の樹脂でできているボディ外装。

——てっきり革素材だと思っていました。ところで、小型化の反面か、レンズの明るさは前モデルより1段暗くなっていますね。この辺りの選択の基準を教えてください。

伊藤:これはやはり、先ほどから申し上げているカメラの大きさを最優先したということです。鏡筒部分は空気のスペースがないほど、メカの構造体がぎちぎちに詰まっています。その中でレンズの方も頑張れるだけ口径を大きくしていて、電源OFFの時は沈胴して薄く収まるようにしています。

参考:APS-CのG1 X Mark III(左)と、1.5型のG1 X Mark II(右)のレンズユニット。

——バッテリーをポケットサイズのカメラであるG9 Xと同じタイプにしたのは、軽量化の追求でしょうか。大きめのバッテリーを採用することは検討しませんでしたか?

飯田:ボディサイズとのバランスを考えた上で、このサイズのバッテリーに落ち着きました。もちろん、小型のバッテリーでも使えるように各部の消費電力などを抑える工夫をした上で、採用しました。

——バッテリーが小型だと電池の持ちが若干心配で、USB経由の外部給電機能があれば便利だと思いました。緊急時にスマートフォンなどの予備バッテリーが活用できそうです。

加藤:USB充電規格「BC1.2」の規格内の電力では、内部の消費電力をまかなえない場合があり、現状ではUSB給電での撮影には対応していません。例えば連続撮影を続ける場合など、すべてのシーンでの品質保証ができないため、機能としては入れていません。

飯田:USB外部電源による撮影には対応していないのですが、BC1.2に対応した機器であれば、バッテリーの充電、画像再生、PCとの通信は可能になっています。

(後編に続きます)

杉本利彦

千葉大学工学部画像工学科卒業。初期は写真作家としてモノクロファインプリントに傾倒。現在は写真家としての活動のほか、カメラ雑誌・書籍等でカメラ関連の記事を執筆している。カメラグランプリ2018選考委員。