写真展

第21回酒田市土門拳文化賞受賞作品展
坂巻ちず子写真展「ファールボール」

(ニコンサロン)

高校球児と作者との付き合いが10年を超えた。10年を境に、作者の撮影の対象が変わり、野球を主題にしながら、球児たちが追いかける心と物に焦点が移ってきた。彼らの野心や願望が、球場や練習場、それから場外に、様々な形をして転がっていることに気づいたからだ。

昔も今も、作者が通い詰めている高校の球児たちは、卒業後、ほとんどが野球から離れ、別の道を歩んでいる。社会というバッターボックスに立った彼らは、クリーンヒットを目指して一歩を踏み出すのだが、ジャストミートする人もいればファールボールばかりを打っている人もいる。チームのために振りぬいたバットが空を切ることもある。

作者の視界から去った球児ばかりではなく、目の前で声を張り上げる十代の選手にしても、試合や学校生活の中で、何度も何度もファールボールを打つことになる。ファールを打ちながら軌道修正しようとする彼らの姿に感銘を受けないではいられない。ファールボールは何度打ってもアウトの通告を受けるわけではない。

彼らは厳しい練習を通して、あきらめず繰り返し挑戦することの大切さを身につけていく。

野球の世界や世間から飛んでくる速球や変化球はとても手強いものだ。その球を打ち返すための野心や成らなかった願いが、愛おしい光景として作者の写真活動を支えている。カラー30点。

(写真展情報より)

会場・スケジュールなど

  • ・会場:新宿ニコンサロン
  • ・住所:東京都新宿区西新宿1-6-1新宿エルタワー28階
  • ・会期:2015年6月9日火曜日~2015年6月22日月曜日
  • ・時間:10時30分~18時30分(最終日は15時まで)
  • ・休館:会期中無休
  • ・入場:無料

  • ・会場:大阪ニコンサロン(追記)
  • ・住所:大阪市北区梅田2-2-2ヒルトンプラザウエスト・オフィスタワー13階
  • ・会期:2015年10月8日木曜日~2015年10月14日水曜日
  • ・時間:10時30分~18時30分(最終日は15時まで)
  • ・休館:会期中無休
  • ・入場:無料

選考委員講評

組写真は30枚の写真で一点の物語を創らなければならない。確固たる主題の選定で勝負が決まる。野球好きの坂巻さんは10年間高校球児を撮影しているうちに球児たちの人間性まで洞察し、「心と物」を追求して写し続けている。「ファールボール」は何度打ってもアウトにならない。人生はファールボールの連続なのだ。

しっかりした観点に立って写した一枚一枚の写真と構図にはブレがなく、全くスキがない。新しい視点で生まれた写真群から、若い人の作品を想像していたのであるが、76歳であると聞き選考委員一同脱帽である。坂巻さんは第10回奨励賞を受賞し、5回目の応募で、ついに文化賞を射止めた。(藤森武)

作者プロフィール

1989年頃よりアマチュア写真家の父のもとで写真を始める。

2002年から14年までの7年余、熊切圭介(日本写真家協会副会長)ゼミで主に組写真を学ぶ。05年水谷章人(日本スポーツプレス協会会長)主催、JCIIスポーツ写真家プロ育成セミナー「水谷塾4期」卒業。06年8月、写真雑誌「フォトコン」の「一生懸命フォトグラファー列伝」に取り上げられる。11年にNPOで全国の障害者野球チームの活動を取材。

主な写真展に、06年7月「球児たちの高校野球」(旧富士フォトサロン/東京・銀座)、同時開催「女子硬式野球部」(ギャラリー・アートグラフ/東京・銀座)がある。

11年8月「ヨコハマトリエンナーレ2011」にて、飯沢耕太郎ゼミ有志により、開催地の一つである新・港村で「横浜を撮る!捕る!獲る!アペルト」に参加。その他グループ展多数。

受賞歴に、1997年~2009年視点展特選他入選5回、01年~10年JPS展金賞他入選2回、03年、04年国際写真サロン入選、04年第10回酒田市土門拳文化賞奨励賞、千葉県展など入選多数。

(本誌:河野知佳)