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CESで見かけた「360度カメラ」関連ブースレポート
Reported by 小山安博(2016/1/12 12:33)
米国ラスベガスで開催された家電見本市「International CES 2016」では、360度カメラを紹介するブースが増えてきた。1回の撮影で周囲の状況をすべて撮影できる360度カメラは、CESにおけるVR(仮想現実)の盛り上がりと重なって、1つのトレンドともなっているようだ。
360度カメラの代表格といえばリコーの「THETA」だろう。上位モデルの「THETA S」は、画質も使い勝手も向上しており、そのコンパクト性や単体でも使える利便性、2つのセンサーからの画像を360度に合成するスティッチ技術の優秀さを含めて、代表格と言っても過言ではない。
実は、一口に「360度カメラ」と言ってもいくつか種類があり、通常はパノラマ写真のようにひたすら横に360度撮影できる「全周カメラ」、カメラの上方向に半球型で撮影する「半球カメラ」、そしてカメラの下側も含めて球形で記録する「全天球カメラ」の3種類が「360度カメラ」としてまとめられており、THETAは全天球カメラに分類される。
リコー自身、こうした全天球カメラの「トップランナーとしての自負がある」(説明員)としており、1回のシャッターで全天球が撮影できる利便性と手軽さをアピール。動画のストリーミング機能は「準備中」とのことだったが、ブースではドローンにTHETA Sをぶら下げた展示もされており、ストリーミング機能の搭載は、さらなる使い方の拡大に繋がりそうだ。
ブースにはさらに、半球型のドーム内に4つのプロジェクターを設置して天井に映像を半球型に投影するFulldome.proが、THETA Sの映像を投影しており、来場者に360度の映像をアピールしていた。
そのリコーブースの近くで、同じようにドーム内に360度映像を投影するデモを実施していたのがIC Real Tech。製品は「Allie Home」で、2つのレンズと撮像素子で記録した映像を合成して全天球画像を生成できる。
もともと同社はホームセキュリティ大手であり、このAllie Homeもホームセキュリティカメラではあるが、全天球型の360度カメラとして、ヘルメットマウントを使って装着するといったコンシューマー用途にも利用できる。Bluetoothと無線LANも搭載しており、スマートフォンやタブレットからのリモートコントロール、撮影画像の転送に加え、ストリーミングでリアルタイムの映像を配信することも可能。
さらにVR HMD(ヘッドマウントディスプレイ)も開発しており、スマートフォンを装着して使えば、撮影した映像や画像をVR映像として閲覧することもできる。すでに販売は開始されており、価格は449ドル。
カメラ業界的に話題だったのが、ニコンから発表された「KeyMission 360」だろう。D5やD500と同時発表だが、こちらはまだ開発発表に近い。発売は今春の予定とされているが、詳細な日程は未定。
2つのカメラとセンサーで4Kの360度映像が撮影可能で、タフネス性能を備えたアクションカメラという点も大きな特徴。独自のマウントも採用し、さまざまなアダプターも用意していく予定のようだ。
デモ映像を見ると、スティッチがまだ不完全にも見える印象なので、実際の発売までにどこまで追い込めるか、大手カメラメーカーからの360度カメラということで期待感は高い。
360flyは、球形のボディの上部に1枚のレンズがあり、これだけで360度画像を撮影できるという点が特徴。正確に言うと、レンズの下は当然撮影できないため、半球型よりもやや広い範囲が写る、という感じ。スティッチレスをアピールしており、タフネス性能も備えているので、単体でさまざまなシーンに対応できるのも特徴。ちなみに、新たに360flyは4K動画の撮影にも対応して360fly 4Kになっており、さらに高画質化が図られている。
さらに、ヘルメットメーカーのBRG Sportsとコラボレーションした360fly内蔵ヘルメットのBELLシリーズも展示。移動経路のトラッキングやライブストリーミング機能などが利用でき、ヘルメットに内蔵されているため、装着しても邪魔にならないといったメリットがあるようだ。
Giropticの360度カメラ360Camも3月に登場予定。独特の形状で防水性能も備えた全天球型の360度カメラだ。3つのレンズを備え、得られた画像をスティッチすることで全天球をカバー。THETA Sに比べると本体形状的に「真下」に撮影できない範囲があるが、カバー範囲は広い。無線LANやGPS、3つのマイク、手ブレ補正用のジャイロセンサーと加速度計を備える。動画は最大2Kまで、写真は最大4Kまで対応する。
オプション類も豊富で、Ethernetアダプターを装着すると無線LANに比べて安定した通信が行えるため、監視カメラのような据え置き型の利用に適している、という。ソケットアダプターは、電球ソケットに360Camを装着するためのオプション。つり下げて利用する形になる。本体下部に装着する拡張バッテリも用意されている。
すでに日本でも発売済みだが、KodakブースではPIXPRO SP360 4Kを出展。1台だけだと半球型だが、2台を使うことで全天球型としても使える。HDMI経由のライブビューやWebカメラとして使えるモードも備え、防水ハウジングやヘルメットマウントなどのオプションも多い。
複数台を組み合わせて360度カメラといえば、GoProを組み合わせて全天球型として利用する仕組みもある。「360Heros」は、GoProを6台装着できるフレームで、計算された角度と位置に装着されるため、同時撮影してスティッチすることで、全天球画像が撮影できる。GoProが6台必要になるためコストは高めだが、GoProの画質や機能を生かした全天球画像が撮影できる。
これを応用したのが「360Abyss」で、内部のフレーム自体は360Herosだが、防水ケース内に収めることで、水深300mまでの撮影が可能だという。水中で操作できるように、「マグネットコントローラー」が用意されており、マグネットの入ったスティックで指定の場所にタッチすると電源オンオフなどができるようになっている。
香港系のメーカーKenxenのブースにも全天球カメラ「SDV180」が展示されていた。同社はOEMメーカーでもあるが、これは同社の製品として販売するもので、199ドル程度と比較的安価。360flyと同様にレンズ1つで360度をカバーするというものだが、詳細は教えてもらえなかった。独自アプリでリモートコントロールが行え、無線LANで画像を転送するといった基本的な機能は備えているようだ。
最後に、プロフェッショナル向けという360度カメラを2つ。「Sphericam 360」は6つのカメラと4つのマイクを備えた多面体の形状の全天球カメラ。4K画質で60fpsの滑らかな360度映像が撮影できる。ビットレートは最大1Gbpsとしており、プロの映像現場で使われることを想定しているようだ。価格も2,500ドルと一般向けではない価格帯だ。
同様に映像業界向けに開発されたのがNCTechの「iris360」。GoogleのTrusted Photographersの認証プログラムを通った唯一のプロ向け360度カメラ、としており、Googleのストリートビューの撮影にも使われるカメラだ。構造上、作成されるのは半球型の画像だが、最大8Kまでの画像が作成でき、オートHDR機能も備えている。RAW記録も可能となっている。価格は1,299ポンド。
プロ向けからコンシューマ向けまで、360度カメラが花盛りになっているのは、OculusやGear VRといったVR HMDによってVRが一般的になり、そのコンテンツとして期待されていることに加え、QualcommのSnapdragonの存在が大きい。
スマートフォン向けのSoCとして知られるSnapdragonだが、CPUだけでなくGPU、カメラ用ISPのSpectra、DPU、VPU、そしてHexagon 680 DSPを内蔵しており、優れたカメラ機能を提供できる。それに加え、当然無線LANやBluetoothなどのネットワーク関連の機能も統合されている。スティッチに必要な負荷も、Snapdragonの高速動作で実現できることで、360度カメラの開発に大きく貢献している。
今回紹介した中でも、Allie Home、360fly、360CamがSnapdragonを搭載していることを明らかにしている。もちろん、レンズ、センサー、画像処理エンジン、スティッチ技術といった根本的な機能は開発が必要で、各社の差別化要素となる。
それでも、基本的な画像処理技術やその処理速度、無線通信機能など、360度カメラに必要な機能をカバーできるSoCとしてSnapdragonが存在しているからこそ、ベンチャー系の企業も360度カメラに参入できるようになり、バラエティに富んだ製品が登場するようになったと言えるだろう。