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世界最大の業界見本市「フォトキナ」2014総括(前編)

やや盛り上がりに欠けた? 各社の一眼レフとミラーレスを再評価

 2年に一度開催される世界最大のカメラ映像機器見本市「フォトキナ2014」が、9月16日から21日まで、ドイツ・ケルン市のケルンメッセで開催された。

 フォトキナは、日本の「CP+」、アメリカの「PMA(現在はCESの一環として開催)に並ぶ、世界三大カメラショーのなかでも最大規模。また、「CP+」が基本的にコンシューマーショーであるのに対して、このフォトキナは見本市、つまりビジネス中心のトレードショーである点が大きな違いといえる。

 今回の「フォトキナ2014」は、51カ国から1,074もの企業が出展しており、これまでより規模がやや縮小されたものの、それでも、7ホール、11フロアを使っての開催であり、規模はCP+の4~5倍といった感じの巨大イベント。

 今回の来場者は、世界166カ国から、前回の2012年とほぼ同数の18万5,000人が訪れたという。

 もちろん、出展社各社とも、この世界規模の見本市に向けて、新製品を続々と発表。2年に一度のイベントだけに、大手のカメラ・家電メーカーもかなり力の入った新製品を、このフォトキナで発表することが多い。

13回目のフォトキナ取材へ

 筆者は今回で、13回目の取材。はじめて取材に訪れたのは、東西ドイツが統合された日に開催された1990年のフォトキナのときだ。2年に一度の開催なのだが、1990年以降、毎回取材に訪れており、いつの間にか、24年もの歳月が経ってしまった。

 1990年のフォトキナでは、まだデジタルカメラというものが存在せず、ようやくコダックのフォトCDが発表された年。つまり、この24年間のフォトキナ取材で、フィルム時代からデジタル時代への移り変わりをリアルに見てきた感じだ。

今回のフォトキナはどうだったのか?

 今回のフォトキナでは、事前発表を含め、大手各社から実に多くの新製品が登場。とくに、地元の名門ライカはライカ誕生100周年記念とM型ライカ60周年記念が重なったこともあり、実に多くの新製品を投入したのがとても印象的だった。日本の大手各社も、一眼レフやミラーレス機、交換レンズなどを多数発表。まさに新製品ラッシュといった感じだった。

 今回の「フォトキナ2014」の来場者は、前回の2012年と同等の18万5,000人ということだが、現場での肌感覚は結構違う。まず、今回の初日と2日目の会場は、以前ほどの混雑は見られず、やや肩すかしを食った感じ。大手ブースを訪れても、期待の新製品に触れるのに5分程度待つだけという状況だった。

 これは数回のフォトキナ経験をもつプレスやメーカーの知人も、みな同様の感想であり、正直にいって、やや不安になるほど。近年は、新製品を事前発表するメーカーが増え、その情報がインターネットで簡単に手に入るようになり、開幕直後に来場する意味が少なくなっている点もある。

 とはいえ、会期前半は、見本市のメインである、ディーラーとメーカーとの商談がメイン。にも関わらず、以前ほどの活気が会場で感じれなかったのは実に残念だった。

 一方、会期後半、とくに週末は、一般来場者を中心に、数多くの来場者が訪れてはいた。フォトキナは本来ビジネスショーなのだが、近年は一般来場者を配慮し、土日の入場料を下げて、来場者数を増やしている。ちなみに、通常の入場料は1日46ユーロ(約6,400円)で、土日はその半分の23ユーロ(約3,200円)と格安になる。とはいえ、日本の「CP+」に比べるとかなり高額であることに変わりはないのだが。

 もうひとつ、今回会場を取材して、とても印象的だったのは、中国・韓国系の来場者が大幅に減ったこと。前回、前々回は、これらの国々からの来場者がとても多かったのだが、やはり、エントリー機を中心とした急速な販売台数の低迷により、これらをメインにビジネスを展開していた国々からの来場者が大幅に減ったのは、当然といえば当然のことなのだろう。

メーカーごとのトピック(一眼レフ)

ニコン

 ニコンはフォトキナ直前に発表された小型軽量なフルサイズ一眼レフ「D750」を出品。小型軽量化のために、カメラの基本パーツを一から新設計したという意欲作だ。実にコンパクトで、魅力的なモデルだが、海外でこの特徴が支持されるのか興味深いところ。

 実際、ブースでの人気は上々。会期当初は1〜2人待ちで手にできたが、後半はかなりの人気になっていた。ただ、ブースでの人気は必ずしも「D750」だけに集中しているわけではなく、既発売の新製品「D810」と人気を二分する感じだった。

 日本にいると、これはちょっと意外な感じもするが、ドイツには、いわゆるカメラ量販店がなく、一眼系は比較的小さなカメラ専門店での対面販売が多い。そのため、日本のように大手販売店で気軽に新製品を手にできるような機会が少なく、一般ユーザーはフォトキナのようなイベントで実機を試すというわけだ。

キヤノン

 キヤノンはフォトキナ前日のプレスデイに「EOS 7D Mark II」を発表。実に5年ぶりのモデルチェンジであり、その注目度は会場でもきわめて高かった。

 実際、現地で話を聞いてみると、欧米市場は、日本ほどフルサイズ指向は強いわけではなく、むしろ、APS機のバランスのよさを評価している人が多く、プロの間でも以前からAPS高級機への要望が高かったという。

 今回の「EOS 7D Mark II」はまさにその期待に応えるAPS-Cモデルであり、「フルサイズ機は画質、APSは高速性や機動性重視」という明確な棲み分けがきちんと理解されているという。

 もちろん、ブースでの人気は高かったが、実は前回の2012年のフォトキナで登場した「EOS 6D」のときほど熱狂的な混み方ではなかった感じがした。同機も、会期前半は比較的待ち時間なく実機に触れることができたので、余計そのような感じがしたのかもしれない。

リコーイメージング

 今回は「PENTAX K-S1」を出品。コンパクトで個性的なAPS-C機であり、本格的な仕様を備えながらも、フレンドリーな感じに仕上がっている点に好感が持てるモデルだ。

 ブースには数台の実機があり、自由に触れることができる状態だったが、私がブースを訪れたタイミングが悪いのか、手にしている人は意外に少なかった。正直なところ、実用性を重視する欧州市場で、本機のアプローチはやや受け入れにくい感じがあるようだ。

展示から見えるトレンド「一眼レフは上級指向へ」

 一眼レフは、いまや日本のお家芸。長い歴史のなかで進化し、成長してきたカメラシステム。それだけに、なかなか新機軸を出すことは難しく、今回も各社とも、従来の価値観の延長上で最善を尽くした感じだ。

 実は、欧州での一眼レフ市場は、前年比では、台数ベースでマイナス成長が続いている。現地で聞いたところ、一眼レフ市場は全世界では、台数で約35%減、金額で24%減。さらに、欧州市場ではより深刻で、金額ベースで38%も落ち込んでいるという。

 これはかなりショッキングな数字ではあるが、展示ブースを見ていると、これまでのフォトキナに比べると、今ひとつ熱気が感じられず、なんとなく、その数字が納得できるような感じがした。

 今回のフォトキナでは、写真趣味層向けの中核機種である「EOS 7D Mark II」と「D750」の、事実上の一騎打ちといった構図になった。

 「D750」は、画質重視のフルサイズ機でありながら、一眼レフの欠点であるコンパクトさを、根本から改善し、その期待に応えた。

 「EOS 7D Mark II」は一眼レフの命であるファインダーを大幅に改善し、AF機能も大幅に進化し、安心して秒10コマもの高速連写ができるモデルに仕上げ、一眼レフの魅力をさらに引き出している。

 一方、フォトキナの来場者自体が、ややマニアックな面があるとはいえ、「PENTAX K-S1」のよう完成度が高く個性的な機種でさえも人気は今ひとつで、エントリー指向の一眼レフの人気がやや低迷気味。この点は日本市場でより顕著だと思うが、欧州市場でも、この層はミラーレス機に急速にシフトしている印象が強い。

メーカーごとのトピック(ミラーレス)

ライカ

 ライカは今年、35mmカメラの試作機誕生から100周年。そして、レンジファインダーカメラの名機「M3」誕生から60年という節目の年。今回のフォトキナでは、それを記念した背面ディスプレイを廃した記念モデル「ライカM Edition 60」を発表した。

 まあ、今回の液晶モニターなしのライカM60は特別としても、ベースモデルの「ライカM」をミラーレスと呼ぶのは、おかしいかもしれない。だが、35mmフルサイズセンサー搭載のライブビュー機であり、EVFを装着すれば、マニュアルフォーカス専用のハイエンドミラーレス機ともいえる。

 むしろ、彼らからすると、静音でショックが少なく、ボディーもコンパクト。さらにショートフランジバックで高性能で小型のレンズが作れるといったミラーレス機の特徴は、まさに、ミラーのない、M型ライカが継承してきた世界であり、ようやく時代がライカに追いついた……と思っているかもしれない。

 そのなかで今回発表された「ライカM Edition 60」は、記念モデルであり、フィルム時代のM3へのオマージュとはいえ、背面ディスプレイをあえて廃した点は、いかにもライカらしい、潔さを感じさせる。記録フォーマットもDNG専用であり、DNGのデジタルネガという考え方も同機の思想によく合致している。

 もっとも、そこまでストイックになる必要があるかな? という感じもするが、実売200万円台で、しかも全世界600台の限定モデルなので、実際にはそれを理解する限られたユーザー向けといえるだろう。

パナソニック

 パナソニックは今回、EVF一体型の超小型マイクロフォーサーズ機「LUMIX GM5」を発表。このモデルは、「GM1」からストロボを省き、EVFを搭載したモデルで、EVF一体型ミラーレス機では、おそらく世界最小最軽量のモデルになる。私自身は小さなカメラが好きで、GM1にEVFがあったら……と熱望していたので、まさに期待の一台だ。

LUMIX DMC-GM5

 また、会場内にある同社のポスターでもセンターでアピールしており、メーカーとしての期待度の高さがうかがえた。

 ブースでの人気も高く、このサイズで一体型EVFを搭載した点は高く評価されていた感じだ。

 実は、欧州市場では、このEVFの存在は大きなポイント。というのも、パナソニックはもちろん、ほかのブースを見ても、EVF機と背面ディスプレイ専用機では、その人気は明らかに違う。少々乱暴にいうと、EVFモデルは一眼レフの仲間であり、背面ディスプレイ専用機はレンズ交換ができるコンパクトカメラという意識が強い。

 その意味で今回の「GM5」は、「GM1」の姉妹機とはいえ、現地での意識は大きく異なるわけだ。

 もっともブースでは、今回同時発表された「LX100」と人気を分け合った印象。日常使いで考えると、レンズ交換の有無はあるものの、「GM5」と「LX100」は、かなり近い存在であり、今後、どちらが市場に受け入れられるのか、とても興味深いところだ。

SAMSUNG

 SAMSUNGは今回、ミラーレス機のフラッグシップモデル「NX1」を発表。APS初の裏面照射型の28メガCMOSセンサーを搭載し、秒15コマの高速連写を実現。AF測距エリアもほぼ画面全体をカバーする205点測距で、防塵防滴機能なども備えた、NXシリーズのハイエンドモデルだ。

 同社自らがフラッグシップと呼ぶだけあって、スペック的にも、技術的にも、日本メーカーの最新モデルを凌ぐほどの性能を実現したモデルだ。もちろん、SAMSUNGブースでは大半のスペースを使って、同機を全面的にアピール。

 だが、ブースでの人気はもう一息といった感じがした。ほんとうの実力は、実機を使ってみないと分からないので言及はできないが、少なくとも、ブースで実機を見る限り、フラッグシップ機らしい、質感や品格がやや足りない感じがしたのも事実。とくに、ダイヤル類の質感はエントリー機+α程度といった印象であり、上級機造りの経験の浅さが散見される感じがした。

 とはいえ、SAMSUNGが、さらに本格的にミラーレス機市場に取り組む意思が、十二分に伝わってくるモデルであり、カメラとして、というよりも、モノとしての完成度がさらに向上すれば、日本メーカーの脅威になる可能性も十分にありそうだ。

富士フイルム

 富士フイルムのミラーレス機の新製品は「X-T1 グラファイトシルバー エディション」のみ。だが、実際には、このモデルと一緒に、1/32,000秒の超高速な電子シャッターを実現した新ファームウェアが搭載されており、実質的には「X-T1」に、大幅なマイナーチェンジが施されたモデルといえる。

X-T1 グラファイトシルバー エディション

 ファームウェアでの進化ではあるが、その内容をみると、昔でいえば、完全に新製品とうたえるレベルだ。

 実機を見ると、かなり凝った塗装が施されており、通常のブラックタイプよりも上質感のある仕上がり。機能面では従来機もファームアップ可能なので、同等になるわけだが、これから買うなら、こっちかな? と思わせるに十分な魅力を備えている。

 またブースではXシリーズ専用エリアを設け、Xシリーズ各機種のハンズオンデモを展開。その人気は、今回フォトキナで発表されたミラーレス機のなかでもトップクラスの注目度であり、多くのユーザーがその感触を確かめていた。

オリンパス

 オリンパスは、フォトキナよりやや早めに発表した「PEN Lite E-PL7」と、「OM-D E-M1」用のファームウェア2.0と同シルバーボディーを公開。

PEN Lite E-PL7
OM-D-E-M1シルバー

 「E-PL7」はPEN上級機のE-P5系デザインと、OM-D系の撮像系を搭載した最新鋭機。もちろん、180度下方に開く液晶モニターによる“自撮り系”のカメラの思われがちだが、実はかなりの本格派モデルだ。

 ただ、欧州市場はミラーレスが台頭してきたといっても、人気はEVF一体型モデルが主流で、ブースでも手に取っている人が比較的少なかったのが印象的。

 また、今回のE-M1については、基本的にファームアップによる機能拡充のためか、きわめて注目度が高いというほどではなかったが、その人気は十分に高く、実機に触れるまでにけっこう待つケースも多かった。

ソニー

 ソニーは、今回のフォトキナ向けとして、ミラーレス系のボディーはなく、やや寂しい展開。その代わり、フルサイズ対応のEマウントレンズ「FEレンズ」2種を発表。さらに、2014年中発売という新レンズを4種とコンバーター2種を参考出品するなど、レンズ系に力を入れていた。

 ブースでは、既発売の「α7シリーズ」や「α5100」「α6000」を中心に展開。とくに新製品があるわけではないが、ミラーレス系メーカーの、事実上のトップメーカーであり、ソニーブースは終日、結構混み合っていた。

展示から見えるトレンド「ミラーレス機の浸透」

 実は、2年前のフォトキナと比べ、一番大きく変わったのは、現地でのミラーレス機の浸透度だ。

 実際、各社ブースをみても、ミラーレス機を積極的に見ている来場者がとても増えており、その関心の高さは、2年前とは比較にならないほど。

 というのも、これまでミラーレス機は、欧米市場であまり人気がなく、欧州でもレンズ交換式カメラの台数シェアで見ても、最近までわずか3〜5%程度で、一眼レフの圧勝だった。

 だが、今回現地で聞くと、ここに来て欧州でミラーレス機が大幅な伸びを示しており、市場比率は昨年の9%から一気に18%へと倍増。さらに、販売の中心も低価格機ではなく、高価格帯のミラーレス機が中心という。

 そもそも、ミラーレス機の歴史をたどると、その一号機は、2008年のフォトキナで発表された「パナソニックLUMIX G1」から始まる。その後、日本ではあっという間に人気が高まり、いまやレンズ交換機の1/4を占めるまでになっている。

 欧米の場合、日本の動きから数年遅れて市場が開花するというのが、これまでの通例であり、ようやく欧州でも、ミラーレスが開花し始めた感じだ。

 現地で、なぜ、欧州市場で一気にこのカテゴリーが開花したのか、現地法人の知人数人に質問してみたが、あまり明確な回答は得られなかった。ただ、「一眼レフと同等の画質と使い勝手であれば、よりコンパクトなシステムを選ぶ」という人が増えているという話を聞くことはできた。

 その意味で大きなポイントになっているのは、昨今増えている、EVF一体型モデルの台頭。これはブースを見ていても、その人気はあくまでもEVF一体型モデルに集中していることからも、容易に想像がつく。

 もともと、欧米ではミラーレスやノンレフレックスという呼び方は一般的ではなく、この分野は「Compact System Camera(CSC)」というカテゴリーに分類される。基本的には、ほぼ同義なのだが、ややシステム性を重視している感もある。

 そのため、ミラーレス機といっても、日本ほどコンパクトさを重視しているわけではなく、むしろ、カメラの基本である、画質と操作性とシステム性がシッカリしている点を重視しているという。

 その意味では、昨今のEVF搭載機の台頭と、交換レンズシステムの充実は大きなプラス材料であり、これまで一眼レフで写真を楽しんでいたユーザーにも、魅力的な選択肢として、最新のミラーレス機に注目が集まり始めたという感じだ。

 一方、背面モニター専用機は以前から「レンズ交換ができるコンパクトカメラ」という認識が強く、欧州ではあまり積極的な展開をしていない部分もある。たとえば、キヤノンなどは欧州の現地法人の判断もあり、国によっては、いまだの初代の「EOS M」のみの販売で、最新の「EOS M2」を投入していないケースもあるという。

 欧州では日本より、合理性と経済性を優先する部分があり、EVFなしのミラーレスよりも、高級コンパクト機のほうが、レンズを含めてコンパクトであり、より理にかなっているという人も多い。

 また、同等の理由で、欧州では高倍率ズーム搭載コンパクト機の人気が、日本よりも遙かに高いこと点も大きな特徴。このあたりの事情については、本レポートの後編で改めて触れたいと思う。

前編のまとめ

 今回のフォトキナは、2年に一度の大イベントとしては、やや盛り上がりに欠けたという印象があった。

 もちろん、大手各社とも、意欲的な新製品をフォトキナで発表しているわけだが、どうも、新機軸を打ち出すといった方向性の製品はごくごく少なく、大半は現行機の後継機や改良版。また、オリンパスや富士のように、中核機種をファームアップで進化させるといった方向性を打ち出したメーカーもある(もちろん、前向きの展開ではあるが)。

 だが、2年に一度の世界的イベントであれば、今後2年間の方向性を示唆するような新製品が欲しかったというのが本音だ。

 やはり現状、全世界的にデジタルカメラ市場が急速に縮小しており、エントリー系コンパクトカメラはすでに壊滅的な状況であり、これまでのように、手放しで市場が拡大してゆくような、バブル的な状況ではない。

 もちろん、大手各社とも、この急速な市場の変化は、ある程度、織り込み済み。そのため、今年のフォトキナは、「量から質へ」の転換が行われており、明らかに一眼レフやミラーレス、高級コンパクトや高倍率コンパクト機など、高付加価値の製品へ急速にシフトしている。

 もともと、エントリー系コンパクト機は、販売台数はきわめて多いものの、単価が安く、利益もきわめて少ない。それに対して、これらの製品は、単価も高く、利益もそれなりにある。さらに、レンズ交換式の場合は、あとから交換レンズを追加購入する可能性が高く、メーカーにとって、長期にわたり利益を生む商材だ。

 そのため、台数ベースで見れば、明らかに市場状況は厳しく、壊滅的に見えるかもしれない。だが、この状況を予想し、時代に合わせたビジネス展開へ早々にシフトしており、楽観視はできないが、さほど困惑した状況ではなく、悲壮感など微塵も感じられない。

 これは私見ではあるが、1995年以降、急速にデジタルカメラへの市場シフトが起きたわけだが、それが一段落。そして、フィルム時代末期に登場した「写ルンです」に代表されるレンズ付きフィルムが、デジタル時代になってスマートフォンに代わっただけだ。

 そしていま、写真が本当に好きで、高機能で高画質な写真が撮りたいユーザーが、自分の意識でそれに見合ったカメラを適価で購入する時代に戻った感じがしている。

 つまり、実はこの20数年でのデジタルへのシフトが収束し、収まるところに収まっただけというのが、私の見方だ。

(山田久美夫)